エピソード解説①/最初は主人公とヒロインだけでOK

〈莉緒〉

 さて、ある意味本番。

 ここからはこれまでに公開したエピソードを一つずつ振り返りながら解説していくわよ。しっかり付いて来てね。


〈五月雨〉

 ここまで偉そうな進行役は中々見ないですね。


〈莉緒〉

 お黙り。

 それじゃ、早速いくわよ。



【一作目】

 機巧探偵クロガネの事件簿 ~機械の人形と電子の人魚~



〈莉緒〉

 記念すべきデビュー作ね。

 当時は続編やシリーズ化なんて考えずに作者の中にあった設定や演出を詰め込み過ぎた問題作でもあるわ。


〈五月雨〉

 結果的に、文字数が約28万文字以上という大長編になりました。

 一般的に世に出ているライトノベルは10万~15万文字ですから、いかに広げた風呂敷を畳むのが下手くそか解りますね。むしろ、広げた風呂敷がデカ過ぎました。

 これにはかなり反省と後悔をしましたね。二作目であるVRゲーム編を投稿した後、コンテスト用に15万文字以内を目標とした【改訂版】として再編集しています(15万文字以内に収めたとは言ってない)。


〈莉緒〉

 サブタイトルは、~機械の人形と電子の人魚~。

 これはそのまんま、ヒロインである安藤美優を指しているわ。

 読めば解るけど、彼女はガイノイド(機械人形)で、電脳空間内でのアバターはまさしく電子の人魚だからね。


〈五月雨〉

 ちなみに、「人形」と「人魚」を引っ掛けた、五月雨皐月渾身のダジャレでもあります(ドヤァ)。


〈莉緒〉

 やかましいよ。


〈五月雨〉

 ひどい。


〈莉緒〉

 一作目は、探偵である主人公の前に依頼人として現れたヒロインとの交流を描いているわ。

 ヒロインと共同生活を送る内に、主人公も徐々に彼女へ情が移っていく。そして敵に攫われたヒロインを救い出す。

 最終的に、ヒロインは唯一無二の相棒として主人公と行動を共にするようになる。

 ざっくりと大雑把に言ってしまえば、そんなストーリー。

 実に解りやすい王道よね。そんな骨太なプロットに色々な設定やキャラクターを肉付けしていった結果、大変ボリューミーな物語に仕上がったと。


〈五月雨〉

 あれもこれもと、余計なものを足していったからですね。

 極端ですが、最初の話は物語の世界観と主人公を説明できれば良かったという事に、しばらくしてから気付きました。


 ガイノイドである美優は舞台である鋼和市を象徴する存在でもあるため、ヒロインの存在そのものが世界観の説明とリンクしていることに気付き、『一作目は主人公とヒロインだけ書けばOK。その他は要らん』という結論に至りました。

 とはいえ、海堂真奈や清水刑事などのサブキャラも付け合わせ程度には最低限必要でしたがw


〈莉緒〉

 その『主人公とヒロインだけでOK』が芯となって、一作目をリメイクした結果、約28万文字から約15万文字にまで絞れたと。

 でも結局、コンテストの規定文字数を微妙に越えちゃってるんだけど?


〈五月雨〉

 ……頑張ったんですが、そこが限界でした。


〈莉緒〉

 まぁ、旧一作目(以下オリジナル版)よりは改訂版一作目(以下リメイク版)の方がテンポ良くなって読みやすくはなっているかなとは思う。

 何より、主人公とヒロインが中心軸で話が展開しているからだいぶスッキリしているかな。


〈五月雨〉

 ちなみにリメイク版が『機巧探偵シリーズ』の正史扱いとなっています。

 最初に一作目を読む際は、【改訂版】と冠された方を読んで下さい。


〈莉緒〉

 オリジナル版は削除しないの?


〈五月雨〉

 私の記念すべきデビュー作ですし、初心を忘れないためにも残すことにしました。リメイク版と読み比べてみると、それはそれで面白いかもしれませんし。


〈莉緒〉

 なるほど。

 それで一作目を振り返って順番に各章を解説して欲しいんだけど、正史扱いのリメイク版の方で良いかな?


〈五月雨〉

 はい。要所要所でオリジナル版のカットした部分とか簡単に紹介していきます。


〈莉緒〉

 それじゃ、よろしく。



【プロローグ】


〈五月雨〉

 リメイク版で大幅な変更を行い、オリジナル版とは全く違う内容になっています。


 オリジナル版では、序盤からハードなアクションを見せています。

 これは初見で『機工探偵』がアクションものであると提示したかったと同時に、インパクトのある内容で読者の心を掴みたかった狙いがあります。実際に掴まえられたかどうかは未知数ですがw

 時系列は【第一章】の3年前で冬の時期。

 非合法組織によって誘拐された当時の獅子堂莉緒が、〈アルファゼロ/アサシン〉と呼ばれていた頃のクロガネに救出される話です。

 ちなみに、本編ではあえて「アルファゼロと呼ばれた若い男」としか表現していません。この時の〈アルファゼロ〉はクロガネなのか、後で登場する『佐藤』なのかは解らないようにしています。

 これは読者に、「冒頭のアルファゼロ=佐藤」と勘違いさせるために仕掛けたミスリードです。


 読み進めてみると、二人には共通点があります。


・左腕を失っている(佐藤は両手足)。

・〈アルファゼロ/アサシン〉のコードネームを持つゼロナンバー(クロガネは先代、佐藤は当代)。


 ちなみに、オリジナル版の中盤にあったドッペルゲンガー戦で、「プロローグの〈アルファゼロ〉はクロガネかもしれない」と匂わせる描写があります。ヒントというか、違和感を覚える演出に気付けた方は居ましたでしょうか?


 オリジナル版の【プロローグ】で読者に伝えたかったことは、


・ハードなアクションものである。

・〈サイクロプス〉型のようなBOW(生物兵器)が登場する世界観。

・主人公と思しき人物が左腕を失う=後の伏線。


 流石に振り返ってみると、「初見のインパクトはあったとは思うけれど、SF要素は足りなかったかも」という反省点がありますね。

 次の【第1章】で鋼和市の紹介というか、SFな世界観を説明する描写がありましたからそちらに譲ったのでしょう。


 ちなみに、この時のクロガネは18歳で、完全に生身の人間です。

 義手はしていませんし、『生存の引き金サバイブトリガー』も当時はまだ完全に覚醒していません。極限状態に追い込まれて初めてその兆候が見られた感じですね。


 リメイク版の【プロローグ】では、主人公がクロガネこと黒沢鉄哉という名前を授けられるシーンに変更されています。

 これには二つほど理由がありまして、


①オリジナル版序盤の〈アルファゼロ〉=クロガネだったという伏線回収までの間が長過ぎる。


②作品タイトル通り、主人公は探偵であることを最初に伝えよう。


 特に②は重要ですね。

 アクションに関しては後から出ますし、最初に主人公の人となり、そして名前と職業をはっきりさせるべきだと判断しました。

 自分の事務所を構える程の大人なのに名前がないという時点で、主人公が只者ではないことも察せられますし、何よりも次の【第1章】で探偵事務所内でのやりとりに繋げやすいというメリットがありました。


 リメイク版は序盤がスムーズにテンポよくサクサク進みますね。

 では次。


【第1章】探偵と機械少女


〈五月雨〉

 冒頭のプロローグから数年が経過。

(オリジナル版では3年後、リメイク版では2年後)

 物語の舞台となる鋼和市の紹介から始まります。


 この章はオリジナル版から大きな変更はされていません。

 強いて言うならば、市長の山崎がリストラされたくらいですw

 クロガネに美優の護衛をさせるという依頼の仲介人として登場させたのですが、市長という重要ポジションとは裏腹に影が薄く、省かせて貰いましたw


 ちなみに鋼和市の面積と人口は、執筆当時の宮城県仙台市のデータ(2019年)をモデルにしています。

 なぜ仙台市? かというと、私が尊敬する漫画家『ジョジョの奇妙な冒険』の原作者、荒木飛呂彦先生の出身地であるからです。

 現にジョジョ第四部では仙台市をモデルにした『杜王町』が舞台となっています。そのオマージュというかリスペクトですね、鋼和市は。


 主人公であるクロガネ(21)が登場。三月末でもうすぐ新年度であるのにロクな仕事がなくて憂鬱。割と頑張って依頼をこなしているのに家計がピンチ。

 そこに段ボール箱に梱包されたメインヒロイン、安藤美優が到着。

 なぜ段ボール? 箱入り娘(物理)をやらせたかっただけ。

 同時に、美優はゲーム好きという設定があったため、その伏線として『メタルギア』の段ボールネタをやらせたかったのです(※4)。


 ※4『メタルギア・ソリッド』シリーズ

 もはや語るまでもない、スパイゲームの金字塔にして代表作。

 『伝説の傭兵』と謳われる主人公ソリッド・スネークは、核搭載二足歩行戦車、通称メタルギアと呼ばれるロボット兵器から核戦争の危機に晒された世界を救うため、敵地にたった一人で潜入していく。

 敵に見付からないよう物陰や段ボール箱に隠れたりするのだが、公式でスネークは段ボールに並々ならぬ愛着を持っているため、ファンからはよくネタにされる。


〈莉緒〉

 ちなみに美優がゲーム好きなのは、開発者である私の影響よ。血は争えない、血の繋がりはないけど母娘です。


〈五月雨〉

 美優が段ボールを内側から開封した際に使用したナイフは、クロガネの出自を証明するものです。同時にかつての雇用主である獅子堂家と美優に繋がりがある伏線になっています。


 ダーツの旅ネタ。この時のダーツネタは実は嘘で、クロガネの元に美優が訊ねるのは予定調和です。

 先に真実を明かしたら、クロガネは護衛を引き受けなかった可能性もあったため、黒幕である〈デルタゼロ/ドールメーカー〉のシナリオ通りに美優は行動します。

 嘘とはいえ、国家権力による脅しと報酬金額で無事に依頼を取り付けることに成功。読み進めると解りますが、クロガネは獅子堂家の面倒事に巻き込まれた形になりますね。


 機械人形であるためコーヒーが飲めない美優に思うところがあるクロガネ。お人好しのため、早くも彼女に情が移っています。


 一癖も二癖もある依頼人に振り回される探偵の図。

 どうやら今回も楽に稼げる仕事ではない……といった感じで【第1章】は終了です。


【幕間1】


〈莉緒〉

 初期の美優が天然でボケボケ。徐々に人間らしく成長していくとはいえ、「身体の洗い方が解らないから手伝って欲しい」とか大胆だな、おい。


〈五月雨〉

 造ったのは貴女でしょうに。


 この時の美優はPIDを持っていないため、クロガネから間に合わせの連絡手段としてガラケーを持たされます。身分証も兼ねたPIDは、鋼和市民ならほぼ全員持っていますが、美優はガイノイドで人間ではなく、『日用品の一つ』という位置づけなので最初から持っていません。


 お金に目が眩んだ感はありますが、基本的にクロガネは責任感の強い真面目な性格なので、引き受けた依頼は必ず遂行しようとします。

 そして探偵としての評判は悪くとも、その能力はそれなりに優秀で勘も鋭い方です。


〈莉緒〉

 実際、依頼を受けたその日の夜に、私が書いた手紙と先のナイフのことも併せて、美優の素性にある程度気付いたからね。

 炙り出しとか、今ではもう見ないネタよね。


〈五月雨〉

 そして浮かび上がる、『獅子堂莉緒』の名前。

 美優の開発者で、クロガネと何かしら関係がある女性だと匂わせて次に進みます。



【第2章】カレーと担当医


〈五月雨〉

 ここもオリジナル版から大きな変更はありません。

 美優の視点も交えて、探偵事務所の内装とクロガネの私生活を描写しました。独立した社会人かつ一人暮らしで家計もカツカツなので、節制を心掛けた家事をこなしています。探偵と言うより完全に主夫ですね。


 さっそく美優の学習に協力しているクロガネ。

【第1章】の最初の方で、自身が関わった物騒な事件ファイルの整理とか、ナイフの構え方が素人ではないとか、明らかに善良な一般人ではないと想像できるだけに、意外と面倒見が良い男です。


 鋼和市限定の個人用情報端末、略してPIDの登場。

 先程も語りましたが、個人的にSF作品において最大の鬼門は、『通信端末』であると考えています。現実にはないけど、いずれ実現しそうなデバイスですね。


 PIDのイメージは『機動戦士ガンダム00』で主人公たちが使用している端末を参考にしています。

 個人的に歴代ガンダムシリーズの中でも『00』はかなりのお気に入りです。

 その理由は、「宇宙世紀」や「コズミック・イラ」などの架空の世界ではなく、「未来の西暦」を舞台にしているからです。

 『ガンダム00』は24世紀の地球を舞台にしており、エネルギー問題や宗教、貧富の格差などによって世界中で紛争や覇権争いが繰り広げられています。

 そういったリアルな世界感に魅了され、『機巧探偵』シリーズにおいてAIやオートマタを取り巻く社会基盤や情勢などのネタにも、多大な影響を受けています。


 さて、解説に戻ります。

 ショッピングモールで美優の衣服を買いに行きます。

 もう完全にデートですね。

 美優が料理に初挑戦するにあたり、無難にカレーを選んでいます。

 ここでクロガネの友人について匂わせて帰宅したら、その友人――第二ヒロインである海堂真奈が登場です。

 クロガネよりも五歳年上の担当医で、主にクロガネの健康管理と義手のメンテナンスや修理を担当します。そしてやたら人懐っこく、かなりのゲーマーです。


〈莉緒〉

 『3.5』の真奈編を読めば解るけど、真奈が26歳の若さで医者なのは、研修医時代に書いた論文がたまたま私の目に留まって引き抜かれたからよ。

 獅子堂重工という強力な後ろ盾を得て最先端の医療設備と技術に触れるようになり、何より私が直々にスカウトしたこともあって獅子堂家の専属医の一人として名を連ねたわ。

「幸運すぎる出世コースに乗れた」と本人は言っているけど、まさにその通り。


〈五月雨〉

 そんな彼女と遭遇した美優は警戒しますね。初対面ということもありますが、「クロガネと親しい女性」が良くも悪くも気になっているようです。


〈莉緒〉

 その辺の心情は続く【幕間2】で亡き私に宛てた報告書というか日記に描かれているわ。



【幕間2】


〈五月雨〉

 頼りにしているクロガネと距離が近く親しい真奈に美優が戸惑うシーンですね。

 一作目の幕間では美優の日記で、徐々に彼女が人間らしく成長している描写を意識しています。


〈莉緒〉

 それも前半だけで、後半からは日記シーンがなくなって本編を補足するものにシフトしていくけどね。


〈五月雨〉

 ……まぁ、そうですね。でも幕間ってそういうものだと開き直ります。

 では次。



【第3章】間違った正義と必要な悪


〈五月雨〉

 ここもオリジナル版からの大きな変更点はありませんが、無駄な描写は極力カットしてテンポよくまとめていますね。


〈莉緒〉

 この章では真奈の家に訪れて彼女から依頼を受けて、悪質な地上げ屋からとある診療所を救うという話よね。


〈五月雨〉

 ここでついにクロガネの(軽めな)戦闘シーンに美優のハッキング能力の初披露となります。それと清水刑事の登場回でもありますね。

 クロガネに至っては『トラブルメーカー』の由来が解るシーンです。最終的な彼の解決手段は暴力ですから。


〈莉緒〉

 相手が暴力団だったとはいえ、解決手段が暴力だなんて原始的で野蛮よね。そら鋼和市のみならず現代では決して受け入れられないし、『トラブルメーカー』も納得だわ。


〈五月雨〉

 それは当然本人も理解しています。

 有事の際は可能な限り「正当防衛ゆえの自衛手段」を貫き、自身の正当性を証明するため録画機能が付いた特殊な眼鏡も仕事中は必ず着用しています。

 抜け目ないというか冷静というか、元暗殺者であるクロガネは穏便に依頼を遂行できないと自覚しているからですね。


〈莉緒〉

 探偵向いてないんじゃないの?


〈五月雨〉

 だからこそ、ハッキングによる美優のずば抜けた情報収集能力を目の当たりにしたクロガネは彼女を探偵助手として雇おうかな、とこの時点で既に考えていました。

 嘘の依頼期間を真に受けてすぐに考え直しましたが、後ろ髪を引かれる思いだったことでしょう。


〈莉緒〉

 後で美優が集めた情報だけで診療所を救えたかもしれないといった内容が書かれているから、勘の鋭い読者の方はこの辺りで美優が助手になると予測できたんじゃないかな?


〈五月雨〉

 まぁ、作者も全力で隠している訳でもないですしねw

 とはいえ、いくら情報収集能力が優れていようが美優を一週間保護する依頼なので、この時点で彼女に探偵の仕事を全部丸投げにするわけにはいきません。

 ここでクロガネの実力を見せたのは、美優にも読者様にも彼の強さの一部と『トラブルメーカー』の由来となるこれまでの解決手段を伝えたかった意図があります。


〈莉緒〉

 『2』以降は助手となった美優の手を借りて、(描写的に)スムーズに数々の事件を解決させてトラブルは減少傾向になるからね。理想のパートナーとなるわけだ。


〈五月雨〉

 この時点ではコンビを組むのはまだまだ先の話ですがね。



【幕間3】


〈五月雨〉

 清水によってクロガネが連行された後、色々な意味で取り乱した美優が描かれています。


〈莉緒〉

 本編を読めば解る通り、取り乱していくつもの犯罪をやらかそうとしたあの子を真奈が止めてくれます。グッジョブ真奈。


〈五月雨〉

 同時に美優はクロガネを手助けした過程で暴力団関係者……それこそ罪のない一般人の人生にまで大きな影響を及ぼした事実に直面し、動揺します。


〈莉緒〉

 同時に、母親が推していたクロガネが傍に居ない不安や恐怖などをいっぺんに体験するわけね。ガイノイドとはいえ、生まれて二年程度のお子様は流石に混乱するわよね。


〈五月雨〉

 ここの美優がクロガネを強く求めるシーンは「親にすがる幼い子供」をイメージしています。

 序盤の美優はクロガネに対して『父性』を求めている節がありますね。クロガネの他に男性を目にしなかったわけではないのですが、親身に接してくれる頼れる人はクロガネしか居なかった上に、ネットの恩恵である程度の知識や常識があっても美優は人間換算でまだ2歳ですし。


〈莉緒〉

 と言っても、エピローグでは15、16歳くらいの精神年齢まで一気に成長するけどね。


〈五月雨〉

 ちなみにクロガネは美優のことを「大事な人から託された姪っ子のような存在」として見ています。これは現時点で最新作である『4』でも変化はありません。『3』で「信頼できる相棒」として見るようになりましたが、基本的に保護者的立場を貫いています。


〈莉緒〉

 娘の恋が成就する日は遠いな……。


〈五月雨〉

 人間ではなくガイノイドであることを抜きにしても、他にヒロインが二人居ますしね。

 では次です。



【第4章】完全と矛盾


〈五月雨〉

 この章は一作目全体から見ても地味ですが、美優の成長に繋がる重要な話です。

 といっても、オリジナル版ではだるく感じるほど長かったため、作者的に伝えたかったことを残して大幅にカットしました。


〈莉緒〉

 ここでのポイントは人間とAI(機械)の違い、主に考え方や在り方についてね。


〈五月雨〉

 思い悩む美優にクロガネが持論で導くシーンですね。この辺は序盤の方にあった『美味しい』の意味を教える回の続きとなります。


〈莉緒〉

 第二回クロガネ先生による道徳の授業、は~じま~るよ~。


〈五月雨〉

 そんな感じですw

 亡き莉緒からの依頼には美優の教育も含まれていますから、クロガネなりに真剣に美優と向き合っています。


〈莉緒〉

 このイベントでクロガネに対する好感度が右肩上がりね。そりゃ懐きますわ。


〈五月雨〉

 クロガネは基本的に「AIと人間が共存している作中の社会」を肯定しています。

 とはいえ、世間の大半のようにAIに依存しているわけでもなく、反サイバーマーメイド団体【パラベラム】のようにAIを敵視しているわけでもありません。今の世界の在り方を自然に受け止めた上で中立的なスタンスを貫いています。

 AIが暴走でもして敵対するようであれば躊躇も容赦も慈悲もなく破壊しますし、逆に味方であれば折り合いを付けて接していく感じですね。


〈莉緒〉

 それって、今後の物語の展開によっては、【パラベラム】の味方にも敵にもなりえるって意味よね?


〈五月雨〉

 そうなります。

 最終的にクロガネが信頼しているのは自分自身です。

 自身の信念やルールに従って決して後悔しない生き方を選ぶようにしていますね。

 私が理想とする生き方でもあります。


〈莉緒〉

 まぁ、作者って優柔不断で豆腐メンタルだもんね。


〈五月雨〉

 失礼な。

 優柔不断はともかく、メンタルは揚げ出しくらいの強度はありますよ。


〈莉緒〉

 結局豆腐じゃないのっ。



【幕間4】


〈莉緒〉

 真奈の勤め先の病院にて社会科見学編、以上。


〈五月雨〉

 まぁ、その通りですw

 ここは元のオリジナル版から多少改変したエピソードですね。

 確かに作中でも現実的な意味でも良い話だとは思いますが、元々の話が長かったのでさっくりとまとめてみました。

 美優視点の日記というのは本当に便利です。一人称文体のため美優に感情移入しやすく、表現もフランクに簡略化できて文字数削減においては大いに助かったのを憶えています。


〈莉緒〉

 美優の成長も伝わりやすくなったしね。

 社会科見学の感想文を読んだ先生って、こんな感じで教え子たちを見ていたのかな?


〈五月雨〉

 きっとそうでしょうね。

 ちなみに幕間の場における美優の日記はここで最後となります。


〈莉緒〉

 まぁ、次は日記を書けるような状況じゃなかったからね。


〈五月雨〉

 次章から物語は急展開を迎えます。



【第5章】急転と暗転


〈五月雨〉

 【第4章】のラストで登場した一作目の敵役にして『クズ兄貴』こと獅子堂玲雄と、その側近にして護衛役の〈アルファゼロ/アサシン〉が美優を回収しようと病院に現れます。

 オリジナル版では、玲雄が女漁りのために病院へ視察に来たという流れでしたが、リメイク版では大幅に変更されています。

 ちなみに、玲雄のクズっぷりはオリジナル版の方がより鮮明に描かれています。リメイク版ではかなりマイルドな表現になっていますね。


〈莉緒〉

 確かオリジナル版のこの場面では、真奈と美優が玲雄の目に着けられそうになったところをクロガネの機転で助かる、って感じだったよね?


〈五月雨〉

 その通りです。この五章以降は大幅に改稿しました。

 オリジナル版では、真奈と莉緒を助けた代償としてクロガネは玲雄の恨みを買ってしまいます。玲雄が放った刺客によって清水は重傷を負い、真奈も攫われてしまいます。

 クロガネはかつての暗殺者スキルを駆使してアルファゼロ(佐藤)やドッペルゲンガー(暗殺用に調整されたオートマタ)を退け、真奈の救出に成功するも、アルファゼロ(佐藤)の不意討ちを受けて倒れてしまいます。

 そしてクロガネ達を見逃すことを条件に美優が玲雄の元に下る……というのがオリジナル版の流れだったのですが、戦闘に次ぐ戦闘、合間に挟んだドラマシーンもまぁ長いこと長いこと。

 結局、大筋だけは残しつつ大幅にカットしました。


〈莉緒〉

 美優を手放さなかったクロガネに玲雄の怒りを買ってしまい、アルファゼロに不意討ちを喰らって倒れたクロガネを守るため美優が自ら玲雄の元に下るっていう流れがリメイク版に活かされたわけね。


〈五月雨〉

 自分でも思い切った改変だと思っています。

 結局のところ、『一作目は主人公とメインヒロインだけでOK』と振り切ったので、『第二ヒロインである真奈が攫われるシーンとか無くても良い』と気付いたら驚くほどシンプルにまとまりました。


〈莉緒〉

 一作目が主人公とメインヒロインの出会いと交流がテーマだからね。


〈五月雨〉

 最初に掲げた王道テーマを思い出して初志貫徹!

 世の中の作品作りの真髄というか、真理を垣間見た瞬間でした。


〈莉緒〉

 大袈裟だなぁw



【幕間5】


〈五月雨〉

 さて、ある意味今作で最も問題になったシーンです。


〈莉緒〉

 玲雄が美優を裸に剥いて嬲るシーンね。

 玲雄が一作目の『憎い敵』であることを強調し、この後のクロガネの行動に正当性と感情移入がしやすくなる重要なシーンでもあるわ。

 確かに、描写自体は乱暴だったと思うけど。


〈五月雨〉

 実はこのシーン、『小説家になろう』では不適切な性的描写があるとして削除か全年齢向けに描写の変更をするよう運営側から通達が来ました。

 改善が見られない場合は、運営側の判断でリメイク版一作目を丸ごと削除すると。


〈莉緒〉

 うっわ、R18指定のレギュレーションに抵触してしまったんだ?

 でも美優はガイノイド設定だし、この時の義体は人間の女性のものとは掛け離れていたんでしょう? なのに通告が来たんだ?


〈五月雨〉

 ……はい。確かに乱暴な描写ではありましたが個人的にそこまで露骨な性描写をしたつもりはなく、美優の設定上問題ないと判断していたのですが、間違いだったようです。


 この【幕間5】は『小説家になろう』では全面カットされて投稿しています。

 

『小説家になろう』では幻になってしまった【幕間5】を読みたい方は、お手数ですが『カクヨム』か『ノベルアップ+』の方までお越しください。



〈莉緒〉

 【改訂版】って冠しておきながら一部エピソード削除って……小説サイトだけでなく、何事もレギュレーションや注意事項はちゃんと目を通しておきましょう。


〈五月雨〉

 ですね。本当にそれに尽きます。



【第6章】真実と決意


〈五月雨〉

 オリジナル版では本当に長いこの章は、リメイク版では思い切りバッサリとカットしています。


・アルファゼロの不意討ちで致命傷を受けた筈のクロガネ、疑似心臓で命拾い。


・出嶋仁志=〈デルタゼロ/ドールメーカー〉から美優の正体を知り、彼女の救出に向かう。


 この二点だけ描かれていれば良いやって感じでしたね。


〈莉緒〉

 美優が私の子宮を受け継いだ妊娠可能な個体であるという衝撃的な真実。


〈五月雨〉

 人間の子を産めるガイノイド。

 人間と機械の境界線はどこにあり、誰が定めるのか。


 この作品の舞台は『いずれ私達の世界で現実になる問題』が現実化した未来の世界です。


 サイボーグ然り、アンドロイド然り、近未来のSF作品に触れる度に「SFは実現してしまえばSFではなくなる」という考えを抱きました。


〈莉緒〉

 リアルで考えるといつか訪れるその未来は期待でもあり、恐怖でもあるわね。


〈五月雨〉

 そして一介のSF作家を目指す者としては「ネタ切れになりかねない」という焦りがありますw


〈莉緒〉

 まぁ、確かにwww


〈五月雨〉

 それはさておき。

 リメイク版のこの章で〈デルタゼロ/ドールメーカー〉のメイン端末となる『出嶋仁志』が初登場します。

 リメイクするにあたってオリジナル版の内容が大幅にカット、描写の変更がされる中、新たに追加した設定の一つがこの『出嶋仁志』です。

 オリジナル版のデルタゼロは登場する度にアンドロイドだったりガイノイドだったりオートマタだったりとかなり節操がないキャラクターだったので、今後クロガネ達と絡む際に『仮の姿の代表格』として出嶋を作りました。


〈莉緒〉

 まぁ、リメイク版では省かれていたけど『デルタゼロの本体』ってアレだし、毎回アレを出すのもなー……という理由もあったとか無かったとか。


 兎にも角にも、美優の正体を知ったクロガネは彼女を救いに動き出します。

 ここから物語は一気に加速するわね。



【幕間6】


〈五月雨〉

 ここでは回想として過去のクロガネが描かれています。

 任務中に左腕を失い、真奈と初めて出会い、危篤状態になった莉緒を救うため自身の心臓を捧げ、一命を取り留めた莉緒から疑似心臓を移植されて蘇生したクロガネが莉緒と再会するシーンですね。


〈莉緒〉

 結構詰め込んだじゃない? 情報量が多い多い。


〈五月雨〉

 ここで真奈と莉緒が主人公の命の恩人であり、返し切れない恩と借りが作られる重要なシーンでもあります。

 のちの「主人公の行動指針の始まり」とも言えるでしょう。


〈莉緒〉

 真奈に対しては借金(治療費)返済として金額分の家事代行、私に対しては美優を守ることに尽くすわけね。


〈五月雨〉

 その通りです。

 厳密には二人の前に第三ヒロインのナディアが多少なりとも絡んでいるのですが、それはまた後で語りましょうか。


〈莉緒〉

 ちなみにここが私の初登場回なんだけど、強気だったりしおらしかったりと、なんかキャラがブレてない?


〈五月雨〉

 天才科学者とはいえ、まだ14歳の女の子が病気で余命幾ばくも無い上に非合法組織に誘拐されてクロガネ達が必死に救助してなんやかんやあれば落ち着きがなくブレッブレなのは致し方ないかと。


〈莉緒〉

 それもそうか。


〈五月雨〉

 それと素の感情を表に出してぶつけることが出来るくらい、莉緒はクロガネと親密であるとも取れるシーンに仕上げたつもりです。


〈莉緒〉

 ……なんか照れるわね。


〈五月雨〉

 というのは後付けで、当時は莉緒のキャラクターを全く考えていなかったのでブレッブレなのも仕方ないんですがね。


〈莉緒〉

 台無しだよッ!



【第7章】探偵と暗殺者


〈五月雨〉

 さぁ皆さんお待ちかね、派手なアクションシーンに突入です。


〈莉緒〉

 オリジナル版からの変更はさほど無いわね。強いて言うなら装備するシーンが移動中の車内で行われて、対アルファゼロ戦の内容が多少変更したくらいかしら?


〈五月雨〉

 大体そうですね。

 この章にてクロガネの素性と強さの秘密が明らかにされ、新旧〈アルファゼロ/アサシン〉対決となります。暗殺者だけに不意討ちのバリエーションが豊富ですね。

 クロガネの使用する武器や戦闘スタイルについては、後程紹介します。


〈莉緒〉

 モブ相手ならセキュリティが人間だろうがオートマタだろうが無双する主人公。

 一種の爽快感があるわね。


〈五月雨〉

 しつこいようですが、クロガネの強さはチートではなく訓練や実戦で培った技術と経験、そして装備によって裏打ちされたものです。

 特殊能力である『生存の引き金』や戦闘に特化した義手はありますが、終始それらに頼り切った戦い方はしていません。あくまで元暗殺者としてのスキルや経験を駆使して戦う等身大の人間をイメージしています。


〈莉緒〉

 『生存の引き金』は人間なら誰しもが備え持つ生存本能を任意で発動できるだけの能力で、特に目新しくも特別なものでも無い上にデメリットの方が多いくらいよね。

 義手に至っては対オートマタ用の電磁パルスが仕込んであるけど、基本的に失った左腕の代用にして延長という扱いだし。


〈五月雨〉

 逆にアルファゼロは最先端な義肢とそれらに仕込んだ武器に頼った戦い方をします。元々暗殺用に改造された専用の義肢なので使わない理由はありませんが、装備は二の次で自身の経験と技術に基づくクロガネとの対比になっています。


〈莉緒〉

 同じコードネームで同業者でも、考え方や強さの質が異なるわけね。

 その差異が明暗を分けたと。


〈五月雨〉

 そうなります。とはいえ、お互いに一流のプロなので紙一重の勝負でした。基本的にクロガネは奇襲による不意討ちかカウンターを狙うギリギリの戦い方をします。

 圧倒的なチートは持っていないので、勝てる瞬間を見極めて切り札を切る玄人戦法です。なので無傷に見えても精神的な消耗は計り知れません。


〈莉緒〉

 続編の『2』以降も毎回限界ギリギリで生還しているものね。


〈五月雨〉

 そのしぶとさも主人公の一要素だと私は考えています。



【幕間7】


〈五月雨〉

 アルファゼロ戦後の僅かな一時。

 オリジナル版では無かった箸休め回です。


〈莉緒〉

 オリジナル版だと、美優の元までノンストップで戦い続けているものね。


〈五月雨〉

 アクション映画にも言えることですが、アクションシーンがずっと続くと観ている側も疲れるんですよね。そこで箸休めというか合間に一息入れるシーンが必須となるわけですが、この【幕間7】も同じ理由で作りました。


〈莉緒〉

 だけど一息つけたと思ったら、またすぐにピンチですよ。


〈五月雨〉

 ここの出嶋(デルタゼロ)の胡散臭さが個人的に好きです。

 誤った情報に悪びれもせず心無い応援だけして通信カット。同行していた真奈が言う通りヒドイ奴ですが、裏を返せばクロガネのことを信頼しているとも取れます。


〈莉緒〉

 それでも胡散臭くてヒドイ奴には変わりないでしょうが。


〈五月雨〉

 まったくです。それでは次。



【第8章】雷光の機械戦士と電子の人魚


〈五月雨〉

 サブタイトルはまんま本作ラスボスである戦闘用オートマタ〈アステリオス〉と、メインヒロインである安藤美優のアバターを指しています。


〈莉緒〉

 ヒロインの力を借りてラスボスを倒すというお約束にして王道の展開ね。


〈五月雨〉

 ストーリー自体はオリジナル版から大きな変更点はありませんが、リメイク版では対〈サイクロプス〉戦で新たに『幻肢痛』設定をクロガネに付与させました。

 左腕を喰い千切られたトラウマとして、〈サイクロプス〉をより強力な敵として仕立て上げる狙いがありました。

 それと対オートマタ戦で頼りになるショットガンはここで弾切れとなり退場です。

 これは続くラスボス戦でクロガネが不利になることを強調させるためです。


〈莉緒〉

 先の【幕間7】で大量の〈ヒトガタ〉が出てきたのは、ショットガンの残弾数を削る演出でもあったわけだ。


〈五月雨〉

 その通りです。

 個人的に銃器を使うアクションシーンで最も気になるのは残弾数だと考えています。残弾数が少ない時こそ「どう動くか、どこを狙うか」といった緊張感のある立ち回りと臨場感が生まれますから。

 また、今回はクロガネの拳銃スキルや義手の存在を際立たせたかったこともあり、強力な徹甲弾が撃てるショットガンはラスボス部屋手前で退場させました。


〈莉緒〉

 さて、ノック(オリジナル版ではショットガン、リメイク版では義手パンチ)で扉を破壊した後は。


〈五月雨〉

 ボロボロにされた美優と再会して主人公がブチギレ。

 玲雄が小者化。

 トレンチコートの闖入者と、壁をぶち破って〈アステリオス〉がダイナミック入室。


〈莉緒〉

 しかも反サイバーマーメイド団体【パラベラム】にも触れるのなんのって、情報量が多い多いw


〈五月雨〉

 ここでクロガネの不屈な精神を再確認したところで〈アステリオス〉戦が始まります。

 一方で、玲雄を連れ出したトレンチコートの男の方でも動きがありましたね。


〈莉緒〉

 トレンチコートの男を瞬殺した新たなゼロナンバー二人と共に海外出張から帰ってきた獅子堂光彦、私の父親の登場ね。この急展開で先が予想できなくなったわね。


〈五月雨〉

 そしてクロガネは咄嗟の機転と美優のサポートで〈アステリオス〉を死闘の末に撃破します。

 リメイク版では義手の電磁パルスはここで初披露ですね。

 伏線として、【第3章】でチンピラを低出力のスタンガンモードで無力化していました。ちなみにオリジナル版のこの場面では、懐から取り出した普通のスタンガンを使用しています。


〈莉緒〉

 運よく致命傷こそないものの満身創痍の主人公。

 本当にギリギリの勝負だったわね。


〈五月雨〉

 美優を目指して正面突破で向かってくる敵を全て薙ぎ倒していましたからね。疲れもします。


〈莉緒〉

 元とはいえ凄腕の暗殺者だった筈なのに、暗殺者らしい動きは殆どしていなかったような……。


〈五月雨〉

 そこは気にしたら負けです。では次。



【幕間8】


〈五月雨〉

 リメイク版で新たに追加した、生前の莉緒と開発された直後の美優による母娘の会話シーンですね。また、クロガネに移植された疑似心臓の開発経緯が語られています。

 ここでの莉緒はとても十代前半だとは思えないくらい大人びた言動をしています。


〈莉緒〉

 相手は本当に娘同然の存在だからね。とにかく凛然と毅然とした態度を見せているわ。それが私の死後、義体を得た美優の立ち振る舞いにも反映されているわね。


〈五月雨〉

 当時の美優はクロガネに対して聞き齧った程度の情報しかないため、「暗殺者=殺し屋=人殺し=悪い人間」といった感じでクロガネに対しては「好意」の「こ」の字も抱いていません。


〈莉緒〉

 だけど、私が心底頼りにして慕っていたからこそ美優は彼に対して興味を抱き、私の死後は自分の意志で「クロガネに会ってみたい」とデルタゼロに要求します。ここから本編【第1章】に繋がるわけね。


〈五月雨〉

 短い期間だったとはいえ莉緒と美優の母娘の絆、『原初のヒロイン』である莉緒の心情と、クロガネに出会う以前の美優が描かれて今の彼女の成長や変化が際立つ演出などが散りばめられたエピソードですね。


〈莉緒〉

 そして胡散臭いデルタゼロの黒幕ムーブが最後に持っていくとw


〈五月雨〉

 まぁ、一作目はデルタゼロが黒幕ですしw



【第9章】決着と居場所


〈五月雨〉

 クロガネがかつての雇い主である獅子堂光彦と再会するシーンです。

 この回はオリジナル版からの変更はさほど無かったですね。文章表現など細かい部分で多少の修正を施していますが、大筋の変更そのものはありません。


〈莉緒〉

 ここで美優との依頼が終わり、クロガネが美優を探偵助手としてスカウトするのよね。

 そして玲雄は今回の件で重い罰が待っていると。


〈五月雨〉

 これまでにやらかした罪を考えれば当然の処罰ですね。

 それに関しては次の【幕間9】に取っておきましょう。


〈莉緒〉

 そうね。

 ここでは美優が自由を得て、クロガネのスカウトを受けるのよね。

 本編では美優からの返答はあえてぼかした演出になっているけど、ここまで読めば答えなんて決まっているわ。語るまでもないもの。


〈五月雨〉

 その後、クロガネは疲労のあまり珍しく弱音を吐いてますね。ですが、傍に居る発言をした美優から背中を押されて決意を新たに……というより、元々あった決意を奮い立たせます。

 この章はサブタイトル通り、依頼で繋がっていた主人公とヒロインの関係と各々にひとまずの決着がつき、それぞれの居場所に戻る話ですね。


〈莉緒〉

 それだけだとお別れに見えてしまうけど、近い内に再会して新たな関係を築くことになるわけね。


〈五月雨〉

 まさに探偵コンビの結成、『機巧探偵』誕生の兆しですね。

 このホテル『バベル』での戦いは、作中でデルタゼロが『創世記』になぞって語っていますが、メタ的にはダンジョン攻略の末に魔王を打ち倒した勇者のイメージがあります。


〈莉緒〉

 ダンジョンがホテル『バベル』、魔王が玲雄で勇者がクロガネってこと?

 それなら、美優はさしずめ囚われのお姫様かしら。


〈五月雨〉

 その通りです。

 勇者は魔王を倒し、暗闇から姫を救い出す。

 夜明けは勇者と姫の心情を表した爽やかなハッピーエンドですね。


〈莉緒〉

 本当に王道ものが好きな作者だなぁw



【幕間9】


〈五月雨〉

 クズ兄貴こと獅子堂玲雄の被害者の会によるゴミ処理回、以上。


〈莉緒〉

 うん、他に語ることもないね。オリジナル版からの変更もほぼ無かったし。


〈五月雨〉

 強いて言うならリメイク版では僅かに文字数を削った程度ですし、わざわざ解説するものでもありません。自業自得で因果応報そのまんまです。次に行きましょう。



【第10章】結末と答え合わせ


〈五月雨〉

 ご当主と共にいた二人のゼロナンバー、〈ブラボーゼロ/ブレイド〉こと新倉永八と〈シエラゼロ/スナイパー〉ことナディアの紹介です。


 そして死闘から生還して療養中のクロガネが、黒幕ムーブをしていたデルタゼロを探偵らしく推理(という名の想像)で問い詰める(事実確認)回です。


〈莉緒〉

 おい()w まぁその通りだけどさ。

 他にも解説することはあるだろうけど、まずは二人のゼロナンバーからお願い。


〈五月雨〉

 新倉とナディアはかつてのクロガネの同僚で、チームを組んでいました。

 コードネームの通りそれぞれ剣と狙撃の達人であり、新倉が最前線で切り込み、ナディアが遠距離から援護し、クロガネが標的を確実に仕留めるといった理想的な編成から『ゼロナンバー最強チーム』と称されていました。


 剣の達人である新倉はゼロナンバーとしては古株でクロガネの先輩であり、近接戦の師匠でもあります。以降の続編でクロガネはナイフや刀で戦う機会がありますが、その時の武術めいた動きは新倉直伝のものです。


 第三ヒロインでもある最年少ゼロナンバーのナディアは、紛争が絶えない中東の小国出身のスナイパー少女です。褐色肌で日本語も片言な13歳。小柄な体格のため年齢よりも幼く見えることがありますが、情け容赦なく引き金を引く冷酷な狙撃手です。かつてクロガネに救われた過去があって彼を慕っています。


 とりあえずここまで。

 各キャラクターの設定や詳しい解説については専用コーナーを設けてあるので、割愛させて下さい。


 ちなみに、二人とも生前の莉緒とは面識がありますよ。


〈莉緒〉

 ゼロナンバーとはプライベートでもお付き合いしていたからね。


〈五月雨〉

 奇人変人達人超人魔人狂人の集団と仲良しだったからこそ芯が強く図太く、それは美優にも継承されているわけですね。


〈莉緒〉

 まぁ、そうねw それじゃあ、デルタゼロを問い詰めるシーンについて。


〈五月雨〉

 クロガネが戦っていた裏側を暴くシーンですね。

 美優が探偵事務所に訪れた経緯については【第6章】で語られていましたが、ここでは今後美優を安心して預けるに値するのか、既に現役を退いたクロガネの戦闘力を推し量る意味で美優と玲雄を利用していたことが明らかになります。


〈莉緒〉

 改めて聞くと本当にヒドイ奴ねw


〈五月雨〉

 そのため反サイバーマーメイド団体【パラベラム】は悪役として都合が良いため名前だけ拝借し、独自のルートで調達してきた〈サイクロプス〉を玲雄に貸し与え、これまた独自開発した〈アステリオス〉をクロガネにけしかけます。


〈莉緒〉

 まっことクズじゃないの。ある意味で玲雄よりヒドイわ。


〈五月雨〉

 デルタゼロは美優の義体開発担当です。本人は否定しましたが美優の父親みたいなものですね。果たしてクロガネに大事な娘を守り通す実力があるかを判断するために暗躍していました。


〈莉緒〉

 親馬鹿にも限度があるでしょ、限度がっ。

 世のお父さんもここまでしないわよ、多分。


〈五月雨〉

 そんな感じで〈デルタゼロ/ドールメーカー〉は「目的のためには徹底的に周囲を利用して使い潰す」として身内からひどく嫌われていますね。胡散臭い言動をしたら、他のゼロナンバーは一斉に警戒します。


〈莉緒〉

 そらそうでしょうよ。


〈五月雨〉

 そしてデルタゼロの狙い通り、クロガネは自分の意志で美優を守ることを選択します。

 『機巧探偵』のコンビ結成は、同時に二人の受難の始まりともいえるでしょう。

 現役時代に愛用していた拳銃とナイフの存在感がその未来を暗示しています。


〈莉緒〉

 改めて見ると、結構不穏な内容だったのね。



【幕間10】


〈五月雨〉

(リメイク版に)ありません。オリジナル版にも該当する内容はありません。


〈莉緒〉

 まぁ、これはリメイク版に改稿する際に生じた作者のミスよね。

 リメイク版【第10章】の次は【エピローグ】だもの。


〈五月雨〉

 確かに私としても違和感はありますが、今のところ欠番となってしまった【幕間10】を埋める話が思い浮かばないんですよね。

 流れ的に【第10章】から【エピローグ】に行くのは自然だと思いますし、変に蛇足を加えて流れを止めたりするのもどうかと。

 とりあえず考えてはみますが、過度な期待はしないで下さい。


〈莉緒〉

 はい了解。それじゃ、次が一作目最後の解説ね。



【エピローグ】


〈五月雨〉

「怪我が完治したクロガネの元に美優が合流し、コンビとして探偵業を再開する」


 ……当初のプロットではその一行だけ書かれていました。

 ここに今回二人に関わっていた真奈と清水、そして出嶋ことデルタゼロが絡んできますね。


〈莉緒〉

 その時点では「クロガネが美優の新型義体の請求書を受け取る」ってネタは無かったんだ?


〈五月雨〉

 はい。

 ただ、このまま何事もなく爽やかに終わるのはやはり少し物足りないと感じ、美優の新型義体の請求に義手の修理代を上乗せして、今回の依頼で得た報酬(正確にはキャンセル料)がゼロどころかマイナスになるネタを思い付きました。


〈莉緒〉

 ひでぇw オチとしてはアリだけども。


〈五月雨〉

 そして、胡散臭いデルタゼロが獅子堂家からの依頼を斡旋するという形を取ることでクロガネをゼロナンバーのしがらみから逃さず、今後の導入に繋げやすくする狙いもあります。


〈莉緒〉

 本当に便利だな、デルタゼロ。


〈五月雨〉

 そして新たな依頼人が来て、急いで仕事の準備をドタバタやりつつ、クロガネと美優がお互いに「これからもよろしく」で締めました。


 最後に、「二人が世界の命運を左右する大事件に挑むことになるのは、もう少しだけ未来の話だ」と思わせぶりなモノローグを入れてます。


〈莉緒〉

 単発で終わるかもしれないし、続編に繋がるかもしれない。

 どちらにも通じる意味深なフレーズよね。


〈五月雨〉

 個人的に「未来の話だ」で締めるのをやってみたかったんですよね。

 主人公とヒロインの探偵コンビが紡ぐ物語はこれからも続いていく……みたいな。


〈莉緒〉

 それだと打ち切りみたく聞こえるけど?

「俺達の戦いはこれからだ!」みたいな。


〈五月雨〉

 元々続編の予定がなかったとはいえ打ち切りなどと可能性ある白紙な未来をぶつ切りにするような不吉なことを軽々しく言わないでくれません?

-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-


〈莉緒〉

(淡々と一息で語る作者の目は一切笑っておらず、途轍もなく冷ややかだった。既に死んでいる私ですら、死を感じさせる程の……『作者特権で今この場で生き返らせてもう一度殺してやろうか?』と言わんばかりの、残酷な目だ……)


 と、とりあえず、【エピローグ】の解説はここまでかな?


〈五月雨〉

 そうですね。

 長々とここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。お疲れ様です。


〈莉緒@ほっ……〉

 お疲れさまでした。




〈五月雨@あとで屋上〉


〈莉緒@こいつ、直接脳内に……⁉〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る