第18話 過ぎ去りし日

「もう着陸だよ。背もたれを戻して!!」

 リナに起こされ私は背もたれを元通りに戻した。

「仮眠は取れたかな。これでよし」

 飛行機は海の上を飛んでいて、島が近い事を物語っていた。

 フラフラしながらも確実に滑走路を捉えた様子の機体は、ゴン!! と大きめの衝撃共に滑走路に下りると着陸滑走に入り、そのまま誘導路に入って駐機場に入っていた。

「さて、着いたか」

 前扉が開いて、ブザー音と共にタラップが下りた。

 アタッシュケースを持って駐機場の熱されたコンクリートの上に下りると、それだけであっという間に汗をかいた。

 脇にはバスが待機していて、それに乗り込むと、エアコンが効いた車内は快適だった。

 最後に駐機場にアイリーンとパステルが下りた。

 すぐに地上の整備班が機体を取り囲み、足回りをレントゲンで調べはじめた。

「あっ、私がハードランディングしたから……」

 パステルが小さく息を吐いた。

「あんなの序の口だって。不安があったから念のためでしょ。整備員はそのくらい神経質でいい」

 アイリーンが笑った。

「あっ、飛行機が増えてる!!」

 駐機場に駐められた小型機二機をみて、スコーンが叫んだ。

「うん、それについては私の家で話そう。このバスはターミナルビルまでしか行かないから、そこから歩きだよ」

 私は苦笑した。

「この空港からすぐそこじゃん。気にしないよ!!」

 スコーンが笑った。

 バスはターミナルビルに到着し、コンクリートの上よりは涼しい土の上を歩き、私の家に入った。

 前回来たとき切り忘れたようで、私たちが中に入ると魔道ジェネーたが作動し、エアコンが全開で掛かった。

「いけね……。ま、まあ、すぐに涼しくなるよ」

 私は近くのテーブルにアタッシュケースを乗せ、クリアファイルで纏められた書類をテーブルに四つ並べた。

「それなに?」

 スコーンが聞いてきた。

「うん、ここは群島でね。所有者不明が残り四島あるんだよ。これは王令なんだけど、それぞれの島を無料で譲渡するから決めてくれっていわれてね。一島はフィン王国海兵隊が演習場として使いたいって申し出があって、これは決まったんだけど……」

 私はファイルを一つアタッシュケースにしまった。

「これが困った事があってね。四島のうち一つが滑走路もなにもない、海上からの上陸も難しい島があるんだよ。なんか遺跡だか迷宮だかがボコボコあるみたいでね。誰か欲しい人いる?」

「はい、そういう島は私の担当です。ラパトとの連携を練習するためにも、もっと実戦が必要です」

「はい、私もそうだと思います。所有権はパステルがいいです」

 ラパトが笑った。

「分かった。それじゃ、この島はパステルね。ここにサインして」

 私は何枚も書類を取り出し、パステルが真顔でサインしていった。

「これはお願いなんだけど、まずは滑走路を作って欲しいんだよ。これは、フィン王国海兵隊と建設部た手助けしてくれるから、任せてもらってね」

「はい、分かりました。私の冒険心を満たせると、嬉しくて仕方ありません!!」

 パステルが満面の笑みを浮かべた。

「亜熱帯の森だから気をつけて。変なのがいるかもしれないし、救助のためにも滑走路が必要なんだよ」

「分かりました。島の名前はカトレアです。思いつきで決めました」

 パステルが笑った。

「今ならメンツが揃ってるし、島をどうしたいか考えてね」

 私は笑みを浮かべた。

「あの、なんで滑走路なんですか?」

 パラトが聞いてきた。

「よく聞いてくれたよ。飛行機を降りて気が付いたと思うけど、二機のアイランダーで各島を乗合馬車みたいに回ろうかと思ったんだよ。ここが中心だから、ご飯の時とか疲れた時はここに戻ってくればいいってね」

 私は笑った。

「私もみんなの島がみたいな。スケッチする」

 スコーンが笑った。

「それでは私は、集落の長に報告してきますね。ドラゴンに慣れる限界は一時間ですが、それだけあれば十分です。ここから近いということは、ニオイで分かります」

 玄関口でシャドウラの体が光り、巨大なレッドドラゴンの姿になると、そのまま空に消えていった。

「へぇ、変身は初めてみたけど、すごいな」

 スコーンが漏らした。

「私もだよ。あーあ、別に問題はないんだけど、書類にサインしてから行って欲しかったな」

 私は苦笑した。

「それじゃ、私の島の分を済ませておこう」

 アイリーンが椅子に座り、私は契約書を差し出した。

「なんだ、サインだけか。もっと面倒だと思った」

「はい、そういうように書類の準備をして、最終審査も通っています。認めのサインが欲しかっただけなんですけどね」

 私はアイリーンのフォルダをアタッシュケースに収めた。

「海兵隊のカロウジカ島はすでに終わっているから、あとはシャドウラだけだね」

 私はシャドウラの帰りを待った。

 小一時間ほど経つと、空に黒い雲のような者が見えて、残らず私の家の前に着地した。「お待たせしました。集落全員を連れてきました」

「こら、話が早すぎるよ。まずは、これにサインして。島をもらったっていう正式な書類だから。これがないと、不法占拠になっちゃうからね」

「これは私のサインでよろしいのでしょうか。本来は長がサインするべきなのですが」

「誰でも大丈夫。夕方の便で王都に送るから、それまでに整えておかないと」

 私は笑みを浮かべた。

「では長にしましょう。族長、お願いします」

 シャドウラが道を空け、かなり歳を取った感のあるドラゴニアの男性が、書類にサインした。

「ありがとうございます。これで、問題ありません」

 私はファイルをしまい、アタッシュケースを閉じて鍵を掛けた。

「話はきいたのだが、まずどんな島かみたい。案内をお願いできるかな?」

 当然の反応で、集落の長が笑みを浮かべた。

「飛行機は最大でも九人しか乗れません。代表者を選んで下さい」

 私は長に返事した。

「なに、飛べばすぐの事だ。その空を飛ぶ機会で先導してもらえればいい」

 長が笑みを浮かべた

「分かりました。アイリーン、ボロい機体だけど操縦できる?」

「私を誰だと思ってるの。飛べなかったら飛ばすのみ!!」

 アイリーンが笑った。

「ならいいや。私はお客さん扱いで副操縦士席に座るから、さっそく行こう」

 私は地図などを持って、アイリーンと共に外にでた。


 ここまできたYS-11と予備機の脇に、固定脚の小さな飛行機が駐まっていた。

 アイリーンが準備を始めると、駐機場に集まったドラゴニアの人たちが一斉にドラゴンの姿に姿を変えた。

「待ってね……」

 私は分からないので、その姿をみていると、スコーンとビスコッティもやってきた。

「一度、上空からこの辺りを見ておきたかったのです。みんな行きたがったのですが、八人乗りと聞いて、私たちが代表してカメラで撮影しようかと」

 ビスコッティが、一眼レフデジカメを取り出した、

「操縦席に乗りたい。たまに、お客さんを乗せる場合もあるって聞いたよ!!」

 スコーンが笑った。

「スコーン、余計なボタンとか押さないでよ」

 アイリーンが笑った。

「分かった、大人しくしてる!!」

「まあ、一周しても二十分掛からないけどね。いこうか」

 機内据え付けのタラップを登り、犬姉がコックピットの左に座った。

 スコーンがコックピットの右に座り、やや咳き込みながらエンジンが掛かった。

 魔道エンジンの回転が上がり、飛行機はゆっくり駐機場でクルッと回り、誘導路を横断して滑走路の中程で進行方向を変え、そのまま離陸滑走して空に舞い上がった。

「おっ、団体さんがついて来たぞ」

 アイリーンが笑った。

「あれがパステルの島ですね。その先すぐが海兵隊の演習場しかない島です」

 ビスコッティが地図を相手に紹介してくれた。

「うーん、原生林だね。みんな開拓出来るかな」

 飛行機が大きく旋回し、そこそこ大きな島が見えてきた。

 あれがシャドウラの島だよ。降りてみようか。

 アイリーンは飛行機を操り、荒れたコンクリートの滑走路に降りた。

「ここが私の島……大きい」

 想像していたより大きかったのか、シャドウラが絶句した。

「うむ、ありがたい話だ。これだけの広さがあれば、十分な大きさの集落が出来るだろう」

 集落の長が、満足そうに笑みを浮かべた。

「しかも、狩りの獲物に困る事がないそうです。桜イノシシという煮ても焼いても美味しいイノシシが生息しているようで。海産物も豊富との事です」

 シャドウラは長に私から聞いた情報を報告した。

「ますますいいな。以前は岩山で獲物に苦労したが、ここなら困る事はないだろう。ここを我らの集落にしてよいのか?」

 長が私に聞いた。

「もちろん。すでに細かい手続きは完了しているので、開拓はよろしく」

 私は笑みを浮かべた。

「うむ、心得た。さっそくだが、作業に入っていいか?」

「もちろん、構わないよ。ただ、本当に手付かずだから無理はしないようにしてね」

 私は笑った。

「なに、これくらい……。ここはもういいので、シャドウラを連れて、他の島に案内して欲しい。半日あれば、集落の外郭くらいは出来るだろう」

 てっきり、ブレスで森を焼き払うのかと思っていたが、意外と地味にみんなで余計な木々を切り倒しはじめた。

 位置を確認しているようで、時々数人がドラゴンの姿になって空から合図を送りながら、チェーンソーで木々を切り倒し、倒した木は枝葉を丁寧に切り落として、丸太小屋も作るのか、綺麗に成形されていった。

「ここは台風の巣です。頑丈な家でないと、飛ばされてしまいますよ」

 私は思わず口に出してしまった。

「それは、ワシにも分かった。耐候性に優れた家を作るのは慣れている。心配は無用だ」

 長は笑った。

「なら大丈夫だね」

 私は笑った。

「ここの嵐は半端じゃないよ。木組みの家じゃぶっ壊れれるかもしれないよ」

 飛行機の様子をみていたアイリーンが、苦笑交じりにいった。

「壊れたら直せばいい。我々はそういう考えなのだ。それで、問題はあるか?」

 長が少し考える素振りを見せた。

「ぶっ壊れるどころか、暴風で家ごと飛ばされちゃうよ。せめて、集落の周囲を壁で囲まないとダメかも」

 アイリーンの言葉に長は頷いた。

「ならば……といいたいのだが、材料が木材しかない。これで柵を作っても風に負けないものを作れるかどうか」

 長が考え込んだ。

 そのうち、森の中でブレスが炸裂する爆音が一度だけ聞こえ、恐らくは下地処理が終わったのだろうと思った。

「うむ、壁以外は出来た。最後に土地を拡げる作業が終わったようだな。ブレスまで使って急ぎおって」

 長が苦笑した。

「壁は無線で手配したよ。もうすぐ建設部が飛んでくると思う」

 飛行機の無線で建設部を呼んだようで、アイリーンが笑みを浮かべた。

 しばらく待つと、十二名の建設部の魔法使いが飛んできた。

「話は聞いている。要するに、暴風壁を作ればいいのだな。森の中に不自然に穴が開いた場所があった。そこが現場だな。先にいくぞ」

 一人だけオレンジ色の繋ぎを着た監督が、部下を連れて飛行の魔法で飛んでいった。

「急ごう、きっと立派な壁が出来てるはず!!」

 スコーンが笑った。

「よし、いこうか」

 私たちは森に切り込む際に作られた細道を通って、森の中を進んでいった。

 急に開けた場所にでて、予想通り建設部が壁を作り初めていた。

「伐採した木を使いたいというので、壁の内側に運んでいる。あとは任せよう」

  監督がいうように、壁工事の傍らで大きな家の建設がはじまっていた。

「……違うな。あれでは壁を作っても、吹き込んだ風で飛んでしまうぞ。ちょっと改設計してこよう」

 監督は早くも完成した壁の中を歩き、私たちもついていった。

 これが普通かどうか分からないが、少し大きめの家で急ピッチで作業が進んでいた。

「あれが長の家です。少し大きめに作るのがポイントなのです。あのオレンジの方が、なにか指揮していますね。気になったのでしょう」

 シャドウラが笑った。

「家の事は任せて大丈夫だよ。私の家も作ってもらったから」

 スコーンが笑った。

 その傍らで壁作りは終わったようで、整列して監督の指示待ちになった。

 しばらくして。オレンジ色の服をきた監督が駆け寄ってきた。

「よし、もう終わったな。十名は滑走路までの道を整備しろ。残り十名で家を作るぞ。長よ。一般の家づくりもやっておく。内装はクロスを貼る程度に留めておくので、あとは個人でに任せる。これでいいか?」

「うむ、ありがたい話しだ。よろしく頼む」

「分かった、任せてくれ。もうすぐ、この里で使う大型魔力ジェネレータが届くと思う。電気がないと動かないものが多いからな」

 監督が笑みを浮かべた時、バタバタと大きな機械をぶら下げたチヌーク飛んできて。まだなにもない空き地に、そっと下ろし建設部の人がフックを外しに行った。

「予定より早かったな。あれは静音型だがそれでも作動音がうるさい。長に聞くが、あれの置き場はどこがいい。電気を作る機械なのだが」

「そこまでやってくれるのか。ワシの家の後ろがいいだろう。大事なものだ」

「分かった。聞いたな、長の家の後ろだ」

 監督が指示を飛ばすと、浮遊の魔法で魔力ジェネレータを浮かべ、移動と設置作業を始めた。

 ジェネレータは二機あり、やがてテスト動作確認特有のアラーム音と共に無事に作動したようだった。

 その間、魔法で家づくりをしていたチームが戻って来て、監督の前に整列した。

「全部で二百戸立てた。どれも同じような作りだが、細かい所は自分たちでやって欲しい。大丈夫か?」

「どれ、見てみよう」

 長は近くにあった家に入り、しばらくすると満足げにでてきた。

「これで十分だ。むしろ、やり過ぎなほどだよ。問題ない」

「分かった、これから各戸に電線を引く。なに、一瞬だ」

 監督がフィンガースナップをすると。そこここに点在する家に明かりが点いた。

「これで集落の基礎工事は終わった。なにかあったら呼んでくれ。無線塔を建てておいた離れた所と会話出来る便利なものだ。私は次の現場がある。部下を二名おいておくので、分からなかったら聞いてくれ。では、失礼する」

 オレンジ色の繋ぎを着た監督は、部下と共に空に舞い上がって飛んでいった。

「相変わらず、仕事が早いね」

 私は笑った。

「ビスコッティ、ビシバシ部屋を作って貰おう!!

「なんですか、それ。寝室なら分かりますが」

 ビスコッティが笑った。

「あの、長にお話しがあります。ちょっと待っててください。無線の使い方など知らないでしょうから」

 シャドウラが広場に立っていた長と話しはじめた。

 その間、私たちは集落の中を歩いたが、どれも同じ構造で伐採された木を使っているようだったが、風対策なのか家の背は低く、部屋に明かりが点されていたが、何人かまだ使わない家の明かりを消して回っていた。

 そして、風除けを兼ねた壁は高く、いかにも頑丈そうで、所々ににある門からしか出入り出来ない構造になっていた。

「これなら魔が付く動物は入ってこられないね。そういう意味でも安心だ」

 私は笑みを浮かべた。

 写真を撮りまくってるビスコッティが、もう完成ですねと呟き、写真を撮るのをやめた。

 集落を一周して元の広場に戻ると、真ん中に一本だけ木が植えられていた。

「集落移転の記念です。あなたがは、よき友人です」

 気を植えていた人たちが、笑顔で家の方に向かっていった。

「友人か……岩山よりマシだろうってだけで、誘ったんだけどね」

 私は苦笑した。

 スコーンとビスコッティで雑談をしていると、シャドウラが戻ってきた。

「長がこの島全てを使っていいのかと気を揉んでいたので、大丈夫だと伝えて起きました。ここなら狩りの獲物もたくさんいると鼻で分かるので、大喜びしていましたよ」

 シャドウラが笑った。

「事前調査報告書だと、この島は特にイノシシが多いらしいよ」

 私は笑った。

「それは、いいことを聞きました。さっそくみんなで狩りに出かけたようですが、無駄足にはならないようですね」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「よし、ここは大丈夫だだね。飛行機で待ってるアイリーンの所に戻ろう」

 私たちは、しっかり整備され石畳で舗装までされた道を通って、滑走路まで戻った。


 飛行機に戻ると、アイリーンが暇そうに新聞を読んでいた。

「なに、終わったの?」

「うん、終わった。次はアイリーンの島だよ」

 私は笑った。

「よし、気合い入れていこう!!」

 コパイロット席にスコーンを座らせ、アイリーンは滑走路に飛行機を進め、滑走路を逆に走って転回場でUターンした。

「まあ、そのまま飛べたんだけど、念のためね」

 アイリーンは笑い、離陸滑走をはじめた。

 滑走路を半分も使わず離陸した飛行機は、一番大陸に近いパンジー島を目指した。

 未開発ではあるが、島名だけは付けられていて、全て花の名前だった。

 飛び立って間もなく、小ぶりな島が見えてきた。

「アイリーン、あれがパンジー島だよ」

「そっか、ちょっと大きいな。まあ、悪くない」

 アイランダーを操縦する、アイリーンの笑い声が聞こえてきた。

「滑走路がボロボロだから着陸は待って。今は建設部が滑走路を修繕していると思うから、上空で旋回待機して」

「分かった、無線でもちょっと待ってっていってる」

 アイリーンは低空飛行しながら、小ぶりな島の上空を延々旋回させ続けた。

「よし、終わったって。降りるよ」

 アイリーンが操るアイランダーは、真新しい滑走路に着陸して、そのまま駐機場に入った。

「よし、降りよう」

 アイリーンが飛行機から降り、私たちも続いた。

「こりゃすごい自然だね。この滑走路しか、手が入ったあとがない。気に入ったよ」

 アイリーンが笑った。

「気配で分かるだろうけど、この島は魔が付く動物がたくさんいるからね。家を建てるのも大変だと思うよ。なんなら、駆除部隊を呼ぶけど」

「そんなのいらん。自分でやる。あとは、家を建てる時に、男手が欲しいな。私一人じゃ、いくらなんでも無理だから」

 アイリーンが笑った。

「今はフィン王国海兵隊は訓練場の引っ越しで余裕がないから、建設部が頑張ってる。滑走路を直しにきた人たちがいるから、家の場所さえ決めれば、やってくれるよ。

「そっか、滑走路から遠いとなにかあったら困るし、そこにビーチもあるから、家の敷地は小さくていいし、その方がいいや。ちょっと行ってくる」

 滑走路の整備にきて、島に留まっていた建設部の制服を着た人たちと話しはじめた。

 そのうち呪文を唱える声が聞こえ、滑走路脇が開墾されて木々がなくなり、小さな小屋が建った。

「ありがと。私の小屋が出来たよ。ここが拠点だね。これからどうしようかって考えてるけど、まだ浮かばないな!!」

 アイリーンが笑った。

「ここ、真面目に魔が付く生き物が多いよ。それを駆除してからじゃないと、特に夜は危険だよ」

 私はパラパラと資料を見てから、必要な物を抜いてクリアファイルに挟んでアタッシュケースにいれ、所有者が持っているべき書類や資料をアイリーンに渡した。

「あっ、忘れてた。シャドウラが持つべき書類はこれね」

 私は書類や資料を分けて、新しいクリアファイルに挟んだものを渡した。

「はい、ありがとうございます」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「……確かに色々いるみたいだね。面白い、ぶん殴ってやる!!」

 アイリーンが満面の笑みを浮かべた。

「まあ、いうだろうと思った……」

 私は苦笑した。

「これでよし。スコーンの島に戻ろうか」

 アイリーンが飛行機に戻り、私たちを乗せた飛行機は離陸した。

「パイロットは雇ってある。このアイランダーが一時間起きに各島に立ち寄るから、スコーンの島に行く時とか非常時に使うといいよ。そうなると、問題はパステルの島なんだよね。滑走路がないから、降りるに降りられない。まあ、建設部に頼めば滑走路くらいは作れるけど、これは承諾を得ないとね」

 私は苦笑した。

「無線入ってるよ。パステルが滑走路の敷設をお願いしたらしくて、建設部が動いたって」

 アイリーンが笑った。

「これでいけるね。実はあそこは誰も入れなくて、半ば捨てられていたんだけど、迷宮とか遺跡の宝庫だって古文書がでてきて、王令で調査依頼がきたんだけど、手に負えなかったんだよね」

 私は苦笑した。

「その手柄はパステルの物だね。もう、所有者が変わってるから」

 アイリーンが笑った。

「そうだね。早く戻らないと、第一歩はパステルが踏みたいでしょ」

 私は笑った。

 程なくスコーンの島が見えてきて、私たちを乗せたアイランダーは無事に着陸した。

 そのまま誘導路に入ると、駐機場で駐まった。

「はい、お疲れさん。スコーン、固まってどうしたの?」

「……しゅごい。この飛行機って、しゅごい!!」

 スコーンが副操縦士席から下りてきて、そのまま飛行機から降りていった。

 私たちが全員下りると、ちょうど旧サロメテ王国の国章を尾翼描いたままのボンバルディア機が着陸してきた。

「ぎゃあ、逃げる!!」

 私は逃げようとしたアイリーンを、羽交い締めにして押さえた。

 ボンバルディア機が駐機場に入ると、飛行機からタラップが下りて、旧サロメテ王国の女王だったフェメールが降りてきた。

 アイリーンが諦めたかのように大人しくなったので、私が羽交い締めを解くと、仕方なくという感じで、熱いコンクリの上に片膝をつき最敬礼をした。

「あら、今さら敬礼は不要です。私はもう地方の一貴族に過ぎません。今日は国王様に表敬訪問した帰りに、皆さんがここにいると伺ったので、寄り道しただけです。私のバカ娘もちゃんとやっているようで、安心しました」

 敬礼を解いたアイリーンを蹴飛ばしてから、フェメールは笑みを浮かべた。

「はい、頼りにしています。ここは暑いので、家に行きましょう」

「はい、分かりました。お邪魔します」

 私の言葉にフェメールは笑みを返し、みんなで家に入った。


 エアコンが効いた屋内は快適で、中でパステルとパラトが地図と睨めっこしていた。

「当たり前ですが、この地図ではダメです。私の島だけ黒く描いてあるだけです!!」

 パステルが小さく息を吐いた。

「私たちはマッパーです。地図がなければ作るだけです」

 パラトが笑った。

「無茶しないでね。なにがいるか分からないから」

「はい、滑走路を作って頂いた上に、海兵隊の皆さんが魔物を撃退して下さっているので、一安心です」

 ラパトが笑った。

「それはよかった。お客さんだよ!!」

「失礼します」

 フェメールは笑みを浮かべた、

「アイリーン、そういえばあなたのあだ名は犬姉でしたね。それなりのプレゼントを持ってきました」

 フェメールは笑みを浮かべ、素早く金属製の首輪を付けると、鍵を掛けて笑った。

「よく暴走するので、『やめろ!!』と叫ぶと電撃が走るので、バカでも安心です」

 フェメールは笑った。

「……お許しください」

 アイリーンが泣きそうになって、フェメールが笑った。

「あなたの嘘泣きには慣れています。むしろ、このババア。ぶっ殺してやるって思っているはずです」

 フェメールは笑った。

「……読まれた。勝てない」

 アイリーンがため息を吐いた。

「ソーダ水です。よろしかったらどうぞ」

 リナとナーガがキッチンでソーダ水マシンを操作して、テーブルに並べはじめた。

「そんな機械があったんだ」

 スコーンが笑った

「うん、さっき発見して飲んでる」

 リナが笑った。

 私たちは椅子に座り、ソーダ水にお酒をお酒少々加えて飲んだ。

「うん、美味しい!!」

 スコーンが笑った。

「ここの水は、深井戸から地下水をポンプで汲み上げて使っているんだよ。そのままでも美味しいんだけど、こうやってソーダ水にしても美味しいね」

 私は上機嫌でお酒を追加しようとして、手が滑ってドバッっと注がれてしまった。

「……飲む?」

「はい、お酒といえば私です!!」

 ビスコッティが私のグラスを取って、一気に飲み干した。

「甘いお酒ですね。なんですか?」

「うん、ここで漬けた梅酒なんだけど、美味しいかな……」

 ご機嫌のビスコッティに私は苦笑した。

「えっ、梅酒漬けていたんですか。どこに?」

「教えちゃダメだよ。全部飲んじゃうから!!」

 慌てて止めたスコーンをビシバシと引っぱたき倒し、指をバキバキ鳴らしながら私に迫ってきた。

「床下の収納庫だけど、それ以上は教えない!!」

 私は笑った。

「床下ですね。探します!!」

 ビスコッティが、まずキッチンの床下収納庫を開けて、簡単に見つけた。

「師匠、お酒です!!」

「……あっそ、飲み干さないように」

 梅酒を見つけて大喜びのビスコッティに、スコーンが苦笑した。

「あっ、でもまだ漬かっていませんね……」

 そりゃ、この前来たときに、こっそり漬けたんだもん。まだ、飲み頃には早いよ」

 私は笑った。

「そうなんですか。あれ、こっちは十分飲み頃ですが……」

「そりゃ、くる度にやってるからね。それは、氷砂糖をちょっと入れすぎたかもしれないけど、甘めでかえって美味しいかもね」

 私は笑った。

「さっそく飲みましょう。フェメールさんも!!」

 ……結局、私の梅酒は一樽飲み干された。

「ビスコッティ、満足?」

「はい、飲みやすかったです!!」

 隣のスコーンがビスコッティをぶん殴った。

「……ありがとうございましたは?」

「……ありがとうございました」

 スコーンが満面の笑みを浮かべた。

「まさか、全部飲んじゃうとは思わなかったよ。新しく漬けないと」

 私は苦笑してキッチンに移動して、床下収納庫に保存してある梅を樽に満たし、氷砂糖を少々乗せお酒を注いで固く蓋を締めた。

「これでよし。さて、みんなどうする。小型機のパイロットなら、もうすぐ到着するチャーター便で到着予定だけど、パステルだけまだ自分の島を見ていなかったね。みんなお酒入っちゃったし、飛行機はパイロットが到着したらだね」

 私は笑みを浮かべた。

「ねぇ、この首輪のお陰でやる気ゼロなんだけどさぁ。とってくれないかなぁ」

 少し酔っ払ったらしいアイリーンが、メフェールに絡んだ。

「アイリーン、少し話があります。外に出てなさい『出ろ!!』」

 バチッと音が聞こえ、アイリーンの体が跳ねた。

「……はい、お母様」

 アイリーンは額に汗をかきながら、フェメールと共に家を出ていった。

 扉が閉まると同時に激しい殴打音が聞こえはじめ、私は苦笑した。

「な、なんか激しい音がするよ。見にいかないと!!」

 スコーンが慌てて動こうとしたところを、ビスコッティが苦笑して止めた。

 しばらくすると、ボロボロになったアイリーンをフェメールが引きずって家に入ってきた。

「ただのお説教です。気にしないで下さい。フェメールがソファに座り、私は強めの回復魔法で、気絶しているアイリーンの傷を癒やした。

「……あれ、また気絶させられた?」

 すぐに回復したアイリーンが、慌てて首を左右に振った。

「あなたは弱すぎます。鍛錬を怠りましたね」

 フェメールがソーダ水を飲みながら笑った。

「そっか、また負けたか。この母ちゃん強すぎるんだよ」

 アイリーンもソファに座り、ソーダ水を飲みはじめた。

「しれにしても、静かでいいところですね。リゾート開発はしないのですか?」

 フェメールが笑みを浮かべた。

「うん、今のところは……観光客でうるさくなるのが嫌だし、森がなくなっちゃうのは嫌だから」

 スコーンが笑った。

「ここには立ち入り禁止と書いた柵と門を作って自分のエリアを確保して、ホテルも森の中に点在するコテージ式にすればいいのです。一日十組限定ぐらいにすれば、そううるさくはないと思いますよ。勝手ながら、資料を作成してみました。あまりにもったいないので」

 フェメールは大きな鞄から、資料を挟んだクリアホルダを私の前に差し出した。

「これは、旧サロメテ王国。現サロメテ領主からの願いだと思って下さい。我が国とあえていいますが。国には海がなく一度はビーチで遊びたいという者が、多数いるのです。この部屋数だと、主に富裕層だけになってしまいますが、招待券を発行すればいいのです。運営はサロメテ領主の私が仕切りますので、ご迷惑はお掛けしません」

 スコーンはサラサラと資料のページを捲り、小さく笑みを浮かべた。

「いいよ、観光地は湖かビーチしかないけど」

「それで十分です。サインを頂ければ、業者はもう向かっているので、さっそく取りかかりたいと思います」

 フェメールは書類をテーブルにのせ、スコーンがサインをした。

「あの、シャドウラと申します。頂いたばかりでなにも分かっていないのですが、私の島も是非開発をお願いしたいのです。今のところ、どう使うか全く考え付かないので」

 シャドウラは小さくお辞儀しいた。

「あら、そうなんですか。どんな島か、現地を見たいです」

 フェメールが笑みを浮かべた。

「では、パイロットの皆さんが向かっているようなので、到着し次第ご案内します」

 シャドウラは笑みを浮かべた。

「一応、ホテルを建てようと思って、十二階建ての大きなものを建設部の方にお願いしてありますが、それだけしかありません。あとは、深い森があるだけです。

 シャドウラが苦笑した。

「あたしも島半分もらったから、同じくホテルを建ててるよ。それでもしっかり森が残るから、結構大きな島だね。

 リナが笑った。

「それは楽しみです。森といえばエルフです。歩いていると。気分がよくなります」

 フェメールが笑った。

 しばらくすると、大きな音が聞こえ、窓から見るとC-17輸送機が着陸して誘導路に向かっていた。

「あれに頼んでおいた食材とかパイロットも同乗してるはずなんだよ。挨拶してくる」

 私が席を立つと、全員立ち上がった。

 みんなで家の外に出て駐機場に向かうと、パイロットの制服を着た人四名が、脱帽して一礼した。

「お世話になります。家はこちらになります」

 私はパイロットたちを先導して、大急ぎで建設部に作ってもらった家の裏に建った四棟を見せた。

「どれも同じ作りで鍵はこれです。エアコンも完備していますし、お風呂は温泉です。食事は毎日食材が届くので、自炊をお願いします」

 私は笑みを浮かべ、パイロットたちに鍵を渡していった。

「一休みしたら一機飛ばして下さい。シャドウラの島が気になります」

 パイロットたちが頷き、まずはという感じで大きな荷物を家に運び込みはじめた。

 しばらくすると二名のパイロットが私たちの前に立って一礼すると、アイランダーの準備を始めた。

「よし、乗ろう。定員オーバーだから、シャドウラと私、フェメールだけでいいか。あとは家で待機してて!!」

 私が笑うと、みんなは家に入っていった。

 残ったシャドウラとシャドウラを連れ、私たちはアイランダーに乗り込んだ。

 コックピットでは離陸前のチェックをしていて、機長席にいるパイロットがいつでもいけますと声を掛けてきた。

「これが地図で今はここ。北東方向にあるこの島まで」

 私が地図で場所を示すと、パイロットは頷き、エンジンの回転数を上げて小型機の優位差でクルッとUターンすると、滑走路に向かって移動を開始した。

 滑走路に入ると、大して離陸滑走もせず空に浮かび、左に急旋回した。

 ここからシャドウラの島まで、一直線で飛べば二十分足らず。

「私一人では大きすぎるので、リナさん、アメリアさん、シルフィさんと島を半分にしたんです。マンドラさんは、スコーンさんの島でノンビリがいいと、断られてしまいました」

 シャドウラが笑った。

「それはいいアイディアだね。島の数が足りなくてどうしようかと思っていたんだよ」

 私は笑みを浮かべた。

「どんな島か楽しみです。場合によっては、私が責任をもってホテルの内装を計画します」

 飛んですぐという感じで、アイランダーはシャドウラの島に到着した。

 駐機場に入ると、オレンジの服をきた監督が立っていて、様々な書類を挟んだクリップボードを持って待機していた。

「ここですか。いい島ですね。緑が豊富です。ここに大きなホテルを建てるのですか?」

 フェメールが笑みを浮かべた。

「はい、スコーンさんの島では、お客さんを泊めるスペースが不足すると思って……」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「その話は聞いてここにきたのだが、まず場所が分からん。ビーチに面した場所がいいということだったが、この滑走路もビーチの近くだ。いっそ、滑走路に面した森を切り拓いて、そこに建てたらどうだ」

 監督は頷いた。

「フェメール、どう?」

「はい、ここはスコールや嵐が多いと聞いています。悪天候に備えて、滑走路に面したこの場所にホテルを建てることは、利便性も含めていいアイディアだと思います。まずは建物ですが、どうすれば伝わるか……」

 フェメールは悩みはじめた。

「ちょっと頭に触れていいか。イメージを読み取る事が出来るんだ」

 監督が小さく頷いた。

「はい、構いません」

「では、失礼する」

 監督がフェメールの頭に手を乗せ、反対側の空いている手で、クリップボードにイメージ図面を描きはじめた。

「なるほどな。シャドウラに聞くが、このイメージ通りでいいか?」

 シャドウラは監督が書いたイメージ図をみて、笑みを浮かべた。

「はい、問題ありません」

「よし、ではさっそく作業に入ろうか。建物自体は簡単だが内装イメージが思いつかない。どうしたものか……」

 監督は腕を組んで悩んだ。

「部屋は全室ツインベッドでいいと思います。イメージはこんな感じで……」

「失礼」

 監督はフェメールの頭に手を乗せて、イメージをスケッチしてシャドウラに見せた。

「はい、いいと思います。素敵なホテルになると思います」

「よし分かった。しばらく待ってくれ」

 どうやら島中に散っていたらしく、監督が無線で召集をかけると、あちこちから魔法使いが飛行の魔法で集まってきた。

「仕事だ。ホテルを建てるぞ。各自、送ったイメージ通りに作業しろ」

 集まった十二名が呪文を唱え、各自鉄筋コンクリート製の壁を作りはじめて、あっという間に二十階建てのホテルが出来上がった。

 建設部の仕事の速さは有名だったが、想像を超える速さに私は思わずポカンとしてしまった。

「実は島の反対側でも宿泊施設の建設依頼がきていて、あまり高級じゃないホテルの要望があって、ちょうどその建設が終わったところなのだ。森が深くて、ここからでは見えないが、道路の敷設依頼がきている。こことあちらを結ぶようで、滑走路までバスでいけるようにするようだ。今現在C-17がスコーンの島に向かって飛んでいて、ここに設置する大型魔力ジェネレータを運んでくるはずだ。各ホテルに置くより、島の中心に置いて街灯など設備にも使おうと思っている。問題はないか。魔力ジェネレータがないと、電気が使えないからな」

「はい、お願いします。贅沢はいいませんが、なるべく自然を残したいです」

「それは私も同感だ。だから、影響はなるべく少なくしている」

 監督が笑みを浮かべた時、低空飛行するC-17輸送機が通り過ぎていった。

「あれだな。スコーンの島に着陸して、あとはヘリコプターで運んでくる。これで作業完了だ。あとは、完成した時に呼びにいく。スコーンの島で待っていてくれ」

 監督は頷いた。

「よし、戻ろうか。凄いのができたね」

 私は笑った。

「はい、予想外でした」

 シャドウラが笑った。

「宣伝は私に任せて下さい。フィン王国だけでも、相当な人数がいますからね」

 フェメールが笑った。

「うん、頼んだよ。じゃあ、帰ろうか」

 私たちはアイランダーに乗り込み、スコーンの島を目指して海上を飛んでいった。

 空港に接近すると、島の上を旋回しながら上空待機に入り、荷下ろしが済んだ様子のC-17輸送機が離陸していった。

 程なく着陸許可が出たようで、私たちを乗せたアイランダーは無事に滑走路に着陸した。

 駐機場に入ってしばらくして、またC-17輸送機が着陸して、見たことないような巨大な魔力ジェネレータを下ろしはじめた。

「あれが、噂の魔力ジェネレータだね。ここからヘリコプターっていってたけど、どうやって運ぶのやら……」

 ヘリコプター一機で運ぶのは無理だったようで、駐機場にいた三機のチヌークヘリコプターが充てられ、その天才的なワイヤワークに見惚れていると、やがて三機のチヌークヘリコプターは空に舞い上がって、巨大な魔力ジェネレータを懸吊して飛んでいった。

「よかったね。これでシャドウラの島にも電気が通るよ」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、助かります。なんとお礼をしていいか……。大人のオモチャでいいですか?」

 シャドウラが笑った。

「バカタレ!! まあ、あって損はないけど、今はいらん!!」

 私は笑った。

 家からビスコッティが出てきて、笑みを浮かべた。

「どうでした?」

「うん、あっという間にホテルが完成して、さっきヘリコプターが運んでいった魔力ジェネレータを設置して、電線を通せば完了かな。なんか、リナたちと島を半分こにしたみたいで、そっちもホテルがあるらしいよ」

「そうですか。こちらもホテルが完成して、森のコテージというかんじで素敵でしたよ。今は師匠があちこち見ています」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「あれ、別行動なんて珍しいね」

「はい、誰か留守番していないと。中でマンドラが一人でゲームをやっています」

 ビスコッティが笑った。

「そっか、留守番お疲れ様。そういえば、アイリーンは?」

「はい、泳いで逃げました。自分の島にいくそうです。小屋なんて面倒臭いといってテントを張るといっていましたよ」

 ビスコッティが笑った。

「あら、逃げましたか。私は追いかけて、さらに焼きを入れておきますので、申し訳ありませんが、島までまたひとっ飛びして頂けませんか」

 フェメールは飛行機から降りてきたパイロットに声をかけ、また飛行機に乗った。

 駐機場で器用にUターンした飛行機は、滑走を走って飛んでいった。

「さて、私たちは家に入ろうか」

 私を先頭に家に入ると、マンドラが一人でテトリスをやっていた。

「あっ、おかえりなさい。ソーダ水を作りますね」

 マンドラはテトリスを放棄してキッチンに立ち、機械を操作してソーダ水を作りはじめた。

「さて、マンドラは口が固いから大丈夫。コードネーム『マンモス』。ビスコッティ、これに心当たりは?」

「はい、一時裏業界を騒然とさせた、凄腕の殺し屋ですね。それがどうかしましたか?」

「顔も不明なら当然本名も不明。派手に暗躍したわりには、誰も正体を暴く事が出来ず。ある日忽然と姿を消した。これが、まだ周辺五国時代に、うちの情報部が掴んだ情報だよ」

 私はアタッシュケースの鍵を開け、中からクリアファイルに挟んだファイルをビスコッティに渡した。

「はい、機密資料なのは当然ですが、気になりますね。私も追っていた立場なので、見てもいいんですか?」

「よくなかったら、最初から出さないって。きっと、ビックリするよ」

 私が苦笑すると、ビスコッティがファイルの中に挟まれた調査報告書を読み始めた。

「……ん、どっかで見た事がありますね。どこでこの写真を?」

「たまたま防犯カメラに写った、貴重な一枚だよ。それしかないから。それじゃ顔が分からないから、拡大して解像度を限界まで引き上げた画像が次のページにあるよ」

 私が促すと、ビスコッティがページを繰った。

「し、師匠!?」

 ビスコッティが叫んで固まった。

「そう、マンモスの正体はスコーンだったんだよ。そして、『スカーレット』のコードネームに心当たりは?」

「は、はい、凄腕の暗殺屋ですね。コレも謎ですが、まさか……」

 ビスコッティが次のページを繰って、そのまま沈黙した。

「そう、これもスコーンだよ。まあ、人には白黒あるもんだよ。本人がいないから、明かせる情報だね」

「そうですか、師匠が……」

 ビスコッティが資料を私に返し、小さく息を吐いた。

「私が知っているのは、可愛い生意気な師匠です。今見た情報は、そっと心にしまっておきますが、なんとかしてやめさせないと。ロクな事になりません」

「これが快楽殺人者だったら目も当てられないけど、あくまでもお金をもらって実行する仕事だからね。ホントはやりたくないんだと思うよ。その辺は、ビスコッティも分かるでしょ?」

「はい、私も裏社会で散々暴れた口ですから。もう引退しましたが、それでもたまに依頼がくるんです。断ってもしつこい場合は、やむを得ず実行する事もありますが、基本的にはクリーンです」

 ビスコッティが苦笑した。

「今はいないけど、アイリーンはまだ現役だしね。私には分からない世界だから、スコーンはよろしく頼むよ」

「はい、もとよりそのつもりです。さすがに、メガトン級に驚きましたが、人には見えない部分があります。ずっと側にいて、全然気が付かなかったとは……弟子失格です」

 ビスコッティが苦笑した。

「はい、ソーダ水ですよ。少しだけお酒を入れておきました。込み入った話のようなので、私はゲームをやっています」

 マンドラがソーダ水を持ってきて、小さく笑みを浮かべると、テレビの前に戻った。

「バーボンのソーダ割りですね。今はお酒が欲しいです」

 ビスコッティがグラスを傾けた。

「私も特大級の秘密を明かしてスッキリした。本来は国家最高機密級のファイルだったんだけど、もう国がなくなっちゃったから、こうやって簡単に手に入ったんだよ。ビスコッティの資料もあるよ。何人ぶっ殺したのやら」

「私はいいです。ヘマばかりで評判はよくなかったので」

 ビスコッティが苦笑した。

「まあ、確かにヘマばっかりだったみたいだけど、それでも任務達成率98%だよ。どこが評判悪かったのやら」

 私は小さく笑った。

「スカーレットは今のところ正体不明だけど、手口がマンモスと一緒で戻ってきたって、裏では大騒ぎみたいだよ。早く足抜けさせた方がいい。それが出来るのは、一番信用しているビスコッティ以外はいないから」

「はい、心得ています。よりによって、伝説の仕事人が師匠だったとは」

 ビスコッティが苦笑した。

 家の扉が開き、マルシルとスコーンが帰ってきた。

「いいホテルだったよ」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「師匠、ちょっと話があります。家の裏へ」

 ビスコッティが、スコーンの手を引っ張って外に出ていった。

「いったか……。マルシルはどうしたの。留守番?」

「はい、パステルに誘われたのですが、トイレに入っている間に出発してしまったようで。きっと、それだけ楽しみなのでしょう」

 マルシルが苦笑した。

「それは酷いな。あとでパステルは説教だな」

 私は笑った。

「いえ、私が悪いんです。ところで、皆さんどちらへ?」

「多分、自分の島で色々やってると思うよ。夕食前には帰ってくるように連絡する。

 私は部屋の片隅に置かれた無線機を目で確認した。

「目下気になるのは、パステルだな。ヘタな迷宮に入って帰ってこられないか。森の中にいるか……」

 私はソファから立ち上がり、無線のマイクを手に取った。

「アサガオよりシャクナゲ。現状を知らせ」

『はい、シャクナゲです。下草が凄くて、滑走路から全然進めません。諦めて、今日は帰ります』

 パステルが疲れた声で返してきた。

「了解。定期巡回しているアイランダーが行くから待ってて」

 私は苦笑して、無線のマイクを機械に戻した。

「心配してたけど、無事みたいだね。この亜熱帯じゃ、草刈りが大変だろうね」

 私は苦笑した。

「そういえば、水族館の準備が出来たようで、先ほどからマグロの大群を大水槽に入れていましたよ。あとはカニとか地味なものから作業しているようです。それと、動物園が完成したようで、麻酔銃で捕らえた魔獣とか桜イノシシも展示しているようですし、猿山にも猿が入ったようです。動物園と水族館の管理は、専門チームを作って海兵隊の皆さんがやってくれてるようです」

 マルシルが笑った。

「それはよかった。この島を留守の間、誰が水族館や動物園の管理をしてくれるか気になっていたんだよ」

「はい、大丈夫です」

「よかった。ところで、マルシルって一人で気持ちいいことする? さっき、シャドウラからもらったオモチャがあるんだけど……」

「え、えっと、それはしますが……ありがとうございます」

 マルシルが赤面して、私が差し出したオモチャを受け取った。

「ちょっと森にはいってきます。モヤモヤしてきたので……」

 マルシルが家から出ていった。

「こりゃ大変だね。マンドラなんて、誰もいなかったらベッドでやるんでしょ?」

「もちろん。暇だったので、片付けておきました」

 マンドラが笑った。

 やがて夕焼けが迫ると。自分の島に散っていたみんながパラパラ帰ってきた。

「そういえば、私の趣味でプラネタリウムを作って欲しかったんだけど、スコーンはまだビスコッティのお説教を受けてる最中かな。ちょっと覗いてみるか」

 私が家裏に行くと、スコーンは泣きながらビスコッティにしがみついていた。

「全部完了です。私がやった事にして、裏情報を流せますか?」

「出来るよ、待ってね」

 私は衛星電話を取り出し、いつもとは違う相手に繋いだ。

 文字情報でビスコッティのリクエストに応じると、私は衛星電話の電源を切った。

「それなりに信用している情報屋に任せた。これで、半時間もすれば驚きの新事実が流れるよ」

「それでいいです。危ない橋は、私だけ渡ればいいんです」

 ビスコッティが笑った。

「師匠思いだねぇ。私はなにもいわないけど、大丈夫だよね」

「はい、ちょっと鈍っていますが、三下程度が相手なら問題ありません」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「おお、怖いねぇ。怖いといえば、アイリーンとフェメールが帰ってこないね。そろそろ暗くなるし、滑走路だけしかないから夜間はアイランダーが飛べないんだよ。今度のが恐らく最終便だから、乗ってなかったら無線で連絡してみよう」

 しばらくしてアイランダーが帰ってくると、アイリーンとフェメールがズタボロで返ってきた。

「うわっ、やっぱり!!」

 私は二人に回復魔法をかけた。

「私はかすり傷程度ですが、アイリーンはしばらく動けないでしょう」

 フェメールが小さく笑った。

「とにかく、アイリーンを下ろして……」

 私はぐったりしているアイリーンを飛行機から無理やり下ろした。

「勝てたのに、勝てなかった……」

 肩で息をしながら、アイリーンが呟いた。

「いいから、ちゃんと回復してもらいなさい。アメリアならもう戻ってるから」

 家に入ると、ズタボロのアイリーンを見て、アメリアがすっ飛んできて。一緒に、適当なベッドに寝かせた。

「アメリア、あとは頼んだよ」

「はい、お任せ下さい」

 アメリアが笑みを浮かべた。

「全員揃ったね。ここが基地みたいなものだから、可能なら帰ってきて欲しいし、それが出来ないようなら無線で連絡して」

 私は笑みを浮かべた。

「さて、今日はマンドラが腕を振るって夕食を作ってくれるって。楽しみにしよう」

 私は笑った。


 輸送機が運んできた食材は、どれも要冷蔵のものだったので、使わなかった素材は冷蔵庫にしまった。

「そういえば、この島に作ったホテルをみてないな」

 夕飯を食べて一休みといったところで、私ははたと思い出して呟いた。

「道路も整備してもらって、ホテルのコテージもちゃんと出来ていたよ。いち早く、明日開業だって。従業員のトレーニングもしなきゃって、フェメールが張り切っちゃって」

 スコーンが笑った。

「その従業員はいつくるの?」

「明日、飛行機でくるって。フェメールが楽しみにしてるよ」

 スコーンが笑った。

「明日か……そういや、シャドウラのホテルはどうなったかな」

「はい、マスター。島の中央付近に大きな魔力ジェネレータを四機設置して、電線は全て地下に埋設したそうです。設備は全て正常に作動しました」

 シャドウラが笑った。

「そっか、それはよかった。電気がないと、不便だもんね」

「ちなみに、一番安い部屋は二人使用で一万五千クローネで、最上階のロイヤルは八十万クローネに設定しました。リナのホテルと競合しない価格です」

「あたしたちの宿は、一番高い部屋でも一万五千クローネ。最低は五千クローネだからね」

 リナが笑った。

「それは格安だね。私が泊まっていい?」

 私は笑った。

「マリー、ここのホテルって一律五万クローネなんだけど、高いかな?」

 スコーンが心配そうに聞いた。

「そのくらい取らないとやっていけないよ。コテージは何棟あるの?」

「うん、二十棟あるよ。食堂も作ったし、困る事はないと思うんだけどな。あと、この家の周りはフェンスで囲んで、関係者以外立ち入り禁止にしたよ」

 スコーンが笑みを浮かべた時、ベッドで寝ていたアイリーンが起きだして苦笑した。

「また負けた。母ちゃん強すぎ!!」

「手加減しようと思ったのですが、あなたが拳銃なんて抜くから、こっちも本気にならないわけにはいかなかっただけです。全く、この子は……」

 フェメールが苦笑した。

「拳銃なんか抜いちゃダメだよ。そりゃ本気になるよ」

 スコーンが苦笑した。

「癖でどうしてもね。投げ飛ばされると抜いちゃう」

 アイリーンが笑った。

「……FRIES!!」

 フェメールが叫んだ瞬間、アイリーンがモゾッと動き、すぐさまフェメールが拳銃でアイリーンの右肩を撃った。

「いってぇ!!」

 アイリーンはゴロゴロ床を転がって、私の足下にぶつかって止まった。

「うわっ、手当しないと!!」

 私は慌てて回復魔法を使い、アイリーンの肩で止まっていた弾頭部がコロッと飛びでたところで、回復をビスコッティと変わった。

「これも悪癖です。フリーズといわれたら、絶対動いてはダメです。その時点で負けですから。なまじ傭兵期間が長かったせいで、なんとかしようとしてしまうのです。これでは命がいくつあっても足りません」

 フェメールが苦笑した。

「な、なにも、撃たなくても……」

 スコーンの声にフェメールが笑った。

「バカはこうしないと直りません。撃たれて思い知るのです」

 フェメールは、小型拳銃を鞄にしまった。

「こ、この……」

 復活したアイリーンは、いつの間にか部屋に設置されていたジュークボックスを蹴飛ばし、中のレコードが動いた。

 勇壮な曲が流れはじめ、アイリーンが腰のショートソードを抜き、優雅にお茶を飲んでいフェメールに襲いかかった。

 フェメールは片手短剣で簡単にアイリーンの剣を受け流し、お茶を飲みながら茶菓子を食べた。

「……しゅ、しゅごい」

 スコーンがスケッチブックを取り出し、アイリーンを描きはじめた。

「これだよこれ、躍動する筋肉。これなんだよ!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「師匠、筋肉好きですしね。いつでしたか、私の体をみて筋肉ないねってため息付いたのは」

 ビスコッティがコーヒーを飲み、私は笑った。

「二人とも、なんかぶっ壊す前に外でやりなよ。ここは私の家だぞ!!」

 私は笑い、拳銃を手にして天井に向かって一発撃って、母子のじゃれ合いを止めた。

「そんなに勝負したかったら、射撃場にでも行く? 海兵隊が作ったものじゃなくて、渡し専用のものをこの近くに作ったんだ」

 私は笑みを浮かべた。

「そんな施設があるとは……案内頂けますか?」

 フェメールが笑みを浮かべ、このホルスターに挿してあった大型拳銃を抜いた。

「母ちゃんの腕は確かだぞ。大会の拳銃部門で優勝が当たり前だからね」

 アイリーンが笑った。

「では、みんなで行きますか……。あれ、シャドウラの姿が見えないな。どこいったのか ……」

 私が玄関の扉を開けると、強い焚き火でイノシシを姿焼きしているシャドウラの姿があった。

「あれ、それどうしたの?」

「はい、ちょうど夜行性動物の活動開始時間なので、森で狩ってきました。噂の桜イノシシです」

 シャドウラは笑った。

「わ、ワイルドだね。みんなで射撃場にいくけど、ついてくる?」

「はい、場所は分かっています。あんな大きくて真新しい施設は、他にないので。あと四十分くらい掛かりますが、大丈夫ですか?」

「うん、それなら大丈夫。シャドウラは一際練習が必要なデザートイーグルだからね。絶対きてよ!!」

 私は笑った。

 その瞬間、脇腹に焼けるような痛みが走り、私は思わず片膝を付きながらも、拳銃で応射した。

「撃たれた。大した距離じゃない」

 私の声にアイリーンが反応し、家を取り巻く森に突っ込んでいった。

 散発的な発砲音が何度か聞こえ、たまたま弾道にいたシャドウラの肌に弾かれて、その弾丸が私のお腹に食い込んで、ついに倒れてしまった。

 すぐにアメリアとシルフィが上位回復魔法であるヒールで治療してくれて、私は立ち上がった。

「……この野郎」

 しかし、夜の森は私の目では視界が効かず、夜目が利くエルフのビスコッティもアイリーンに続いて森の中に飛び込んでいった。

「全く、どこを狙っている」

 いつの間にか混じっていた芋ジャージオジサンが、ライフルを構えて二発撃った。

 二つの悲鳴が聞こえ、芋ジャージオジサンはどこかに去っていった。

「えっと……」

 暗視モードにしたビノクラで辺りを探ったが、特に怪しい所はなかった。

 アイリーンとビスコッティが動くのが見え、ギリースーツで完全に姿を隠していた狙撃手を見つけだし、もれなく拳銃で頭を吹き飛ばした。

「これは減点ですね。もし先ほどの御仁がいなければ、まだ森の中を彷徨っていたはずなので」

 フェメールが笑って、クリップボードに挟んだ紙にサラサラとなにか書き、『戦闘評価:D-』となっているのがみえた。

「あーあ、最低評価以下だよ」

 私は苦笑した。

「それはそうです。こんな仕事しか出来ないようでは話になりません。もっと鍛える必要がありますね」

 フェメールが笑った。

「そういえば、シャドウラは大丈夫だったの?」

「はい、姿が人間の時でも。ドラゴニアの皮膚は竜鱗並に固いのです。弾丸くらい弾いてしまいます」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「それは便利だね。それじゃ、射撃場にいってくるから。死体の始末はアイリーンとビスコッティの方が慣れてるから……」

 森の中で「穴ぼこ大」というビスコッティの声が響き、しばらくして「逆穴ぼこ大」と聞こえ、アイリーンとビスコッティが戻ってきた。

「お疲れ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、埋めてきたよ。なに、『穴ぼこ』って。便利すぎて笑える!!」

 アイリーンがご機嫌でいった瞬間、フェメールのゲンコツがその頭にめり込んだ。

「失格ですね。ちゃんと訓練をしていない証拠です」

 フェメールが先ほどの紙を、アイリーンに押しつけた。

「やっぱり厳しい評価だったか。どこから弾丸が飛んできたのかと思ったら、芋ジャージオジサンだったか。あれがなかったら、発見に手間取ったよ。確かに失格だね」

 アイリーンが苦笑した。

「全く……射撃場で腕をみます。急ぎましょう」

 こうして私たちは、しばらく歩いて真新しい射撃場へと入った。


 新設した射撃場は海に面していて、ターゲットは機械の力で最大三千メートルの距離まで伸ばせるようになっていた。

「では、腕を見せてもらいましょうか。皆さんはご自由に」

 アイリーンとフェメールが同じブースに入り、まずは十メートルからスタートの様子だった。

「私たちは気楽にやろう。まずは、拳銃からやるか……」

 私は空いてるブースに入り、ターゲットを十メートルに設定した。

 頭上の機械が動き、人型のマークが描かれたターゲットの板が設定通りの距離で止まった。

「どれ……」

 私は拳銃を構え、立て続けに撃った。

「全部で十七発。どれだけ腕が落ちてるやら」

 私はターゲットを目の前に戻すと、思わず苦笑した。

 ど真ん中に一発命中していたが、残りは微妙に外れ、一発だけ顔面の真ん中に命中していた。

「これじゃ話にならないね。元々、拳銃は得意じゃないけど……」

 私は苦笑して、ターゲットを一気に二千五百メートルに設定した。

「これが海辺に作った理由。対物ライフルでも撃てる」

 対物ライフルでは滅多にやらないが、私は立射で空間ポケットから取りだしたへカートⅡを構えてマガジンをセットすると、レバーを引いてスコープを覗き一発撃った。

 ターゲットの板が激しく揺れて穴が空き、私は笑みを浮かべた。

 ターゲットの板を戻してみると、見事に心臓の部分を撃ち抜いていた。

「こっちは大丈夫だね。あとは拳銃か……」

 ターゲットの板を交換し、私は拳銃を抜いた。

 数ある銃器の中で、拳銃が最も扱いが難しいとされる。

 しかし、使う機会が多いのは断然拳銃だった。

 私が二十メートル先のターゲット相手に苦戦していると、桜イノシシの丸焼きが完成したのか、シャドウラがやってきた。

「マスター、終わりました」

 私の元にきたシャドウラは、小さく笑みを浮かべた。

「ちょうどいいや。そのデカいの撃ってみよう。体格や筋肉の付き方からして、問題ないと思うんだけどな」

 私はターゲットの板を交換し、三十メートルに設定した。

「その銃ならこの距離でいいや。まずは拳銃を構えてみて」

「はい、分かりました」

 巨大な拳銃を構えたシャドウラのフォームを直した。

「これが正しいフォームだよ。反動が凄まじい銃だから。変な撃ち方をすると、怪我しちゃうから」

「はい、次は……」

 私は基本的な拳銃の使い方を教え、激しい発射音を放つ度に真顔になっていくシャドウラの肩を時々揉んで、あまり固くならないようにみていた。

「よし、撃ってて。他の人を見てくる」

 私は隣のスコーンのブースを覗くと、五十メートルでワンホールショット連発という芸当を成し遂げていた。

「……さすがだ」

 私は小さく笑い、さらに隣のビスコッティのブースを覗くと、百メートルでビシバシターゲットに弾丸を撃ち込んでいた。

 さすがに手慣れている手さばきでマガジン交換をすると、ターゲットがボロボロになるまで撃ち込み、これまた綺麗なワンホールショットを決めていた。

「やるね。私じゃ勝てないよ」

 私は苦笑した。

 衛星電話が振動したので文字情報を確認し、ようやく整ったばかりの空軍にとある場所の空爆を依頼した。

「やれやれ、私も甘いね」

 思わず苦笑して、私は無線電話を胸ポケットに戻した。

 旅に同道している間は楽しく、別れたらもう知らないが旅人の基本ではあったが、縁がある上に友人が困っていれば、出来る範囲で手助けくらいはする事にしていた。

「さて、ここが一番怖いんだけど……」

 私はアイリーンのブースを覗こうとしてやめた。

 そのくらい怖い殺気が漂っていたのだ。

 私は自分のブースに戻ってシャドウラと変わり、持ち込んだ予備弾がなくなるまで撃ち尽くすと大分勘が戻っていて、満足いくスコアが出てきた。

「やっぱり撃たないとダメだね。最近は滅多に黒い封筒がこないけど、やりたくはないな」

 私は苦笑した。

「凄いです。私は的に当てるのが精一杯で」

 シャドウラが頭を掻いた。

「そんなもんだよ。撃てるだけ大したもんだ」

 私は笑った。

「はい、マスター……あっ、桜イノシシの丸焼きを忘れていました。冷めてしまったと思うので、もう一度火に掛けます。皆さんよろしければ、ぜひ召し上がって頂きたいと……」

 シャドウラが小さく息を吐いた。

「はい、みんな。忙しいだろうけど、今日は終了だよ。切りがいいところで片付けて!!」

 私が声を張り上げると、みんなは撃つのをやめて、片付けをはじめた。

「シャドウラの桜イノシシの丸焼きが出来たらしいから急ごう!!」

 こうして私たちは射撃場を後にして、家に向かった。


 玄関前に着くと、シャドウラが桜イノシシを焼いていた焚き火を再点火し、お尻から頭まで太い串で貫いた豪快な料理を温めはじめた。

「オーブンを使えば早いのに……」

 私は苦笑した。

「いえ、ここはドラゴニア式で、くるくる回しながらやってみようかと。こういう料理は得意なんですよ。全身の皮を剥いたら内臓を全部抜いて、香草を詰めて臭みを取りながら焼くんです。オーブンの方が早くて簡単なのは確かですけれどね」

 シャドウラが笑った。

「せっかく石窯オーブンもあるんだけどね。まあ、こういう料理もいいね」

 私が笑った時、オレンジ色の繋ぎを着た監督が空から舞い降りてきた。

「この家は平気だが、スコーンの家が強度不足でな。エルフの真似は難しいと分かった。すでに修繕工事は終わっている。ここにサインを」

 私は監督がクリップボードに挟んだ書類を差し出してきた。

 私がサラサラとサインを書くと、監督は一礼して自分たちの宿舎に向かっていった。

「よし、みんな食べよう。シャドウラ、どのくらい時間が掛かる?」

「はい、温め直すだけなので、あと十分もあれば完了です」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「じゃあ、よろしく頼むよ」

 私は笑みを浮かべ、家に入った。

 中では総出でお皿を並べたり、フォクとナイフを並べる作業をしていた。

 その真ん中に大皿が置かれ、ビスコッティがお酒お酒~♪と鼻歌を歌いながら、先にボトルを三本も空けていた。

「馬鹿野郎!!」

 スコーンがゲンコツを振りかざし、さっと私の陰に隠れたビスコッティに命中するところが、私の頭にスコーンの拳がめり込み、私は思わずその場に倒れた。

「ぎゃあ、逃げるなバカ!!」

 スコーンが慌てて回復魔法を掛けてくれたが、それでも意識が数秒飛んだ。

「イテテ……。なに、こんなハードなやり取りしてるの?」

「うん、ビスコッティの事をボコボコ殴っていたら頑丈になっちゃって、このくらいのパワーじゃないと効かないんだよ……」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「さて、お酒お酒~♪」

 なんか楽しそうなビスコッティにムカつき、私は書類をスコーンに差し出した。

「ビスコッティをぶん殴る同意書。サインもらったらやる」

「サインするよ。空きボトルでぶん殴っても効かないから!!」

 スコーンがサラサラとまだ白紙にサインしてくれて、私は背後からビスコッティに近寄り、ナイフを抜いてビスコッティの首にそっと刃を当てた。

 瞬間振り向いたビスコッティが私を巴投げで投げ飛ばし、そのまま床を転がった私はアイリーンをなぎ倒して壁にぶち当たり、ようやく止まった。

「背後から迫ってナイフなんて抜かれたら、手加減してもこのくらいは当たり前ですよ。さて、お酒!!」

 私は思い出した。

 ビスコッティは、お酒が入るとキレキレの別人になることを。

「なんだよ、痛いな。お前か!!」

 アイリーンが起き上がると、やっと起き上がった私を一本背負いで投げ、さらに中途半端な巴投げで私を投げ飛ばし、対面キッチンの隙間を抜けて使ってない石窯オーブンにジャストインしてしまった。

「あれ、器用に飛んだな……」

 アイリーンの声が聞こえた。

 私は石畳オーブンから這い出て、そのままキッチンの床に転がった。

「……絶対、どっか骨折したな。なんか痛い」

 私が床に大の字に転がると、ちょうどサラダの大皿を持ったマンドラが、止まれるタイミングを失ったか、私を踏みつけて歩いていった。

「はぁ、痛いなぁ。冒険者保険入っていたかな。大怪我した時とか、医者に診てもらってもタダになるんだけど」

 もちろん、そんな保険に加入していないことは知っていた。

「マリー!!」

 スコーンがビスコッティを連れてきて、さっそく診察が始まった。

「うわ、骨折だらけだよ。しかも、さっき撃たれたお腹の銃弾が抜けてない。ちょっと、ヒーラーと医師は全員集まって!!」

 スコーンの声で、アメリア、シルフィが集まり、私の治療がはじまった。

「……はぁ、もうこのまま死ぬかも」

「馬鹿野郎!!」

 必死の形相を浮かべたスコーンが、私の顔面に拳をめり込ませた。

「ぎゃあ、しまった。大丈夫だ、死ぬな!!」

 スコーンがまた必死の形相で服を切って全裸にして、みんなで一斉に回復魔法を掛け、スコーンだけお腹の弾丸取りの作業を始めた。

「……痛い、せめて麻酔とかない?」

「ない、気合いで絶えろ!!」

 スコーンがメスで傷口を開き、ピンセットを突っ込んで弾丸を取り去り、素早く縫合した。

「よし、取れた。骨折は魔法で治すよ!!」

 いきなりはじまった騒ぎは、最終的に骨折箇所もなく、無事治療が終了した。

「ありがと……もう、気力が限界だけど、シャドウラの料理は食べないと悪い」

 私はふらふらとダイニングの椅子に座ると、滋養強壮効果がある魔法薬を飲んだ。

「うげ、苦い……。はぁ、これは私が悪いんだよね。ご迷惑お掛けしました」

 私はそのままパタッとテーブルに突っ伏した。

「お待たせしました。重いのでどなたか手伝って頂ければ……」

「分かりました」

 マンドラが手伝いに向かい、テーブルの中央に置いた桜イノシシをドンと置いた。

「こりゃまたデカいねぇ」

 私は起き上がり、小さく笑みを浮かべた。

「はい、これを丸かじりするのがドラゴニア流なのですが、それは慣れていないと思いますので、ちゃんと取り分けましょう。中に詰めた香草と野菜も食べられます」

 シャドウラは初めて見せる、満面の笑みを浮かべた。

「うん、取り分けは誰かに任せるよ」

 私が促すと、アイリーンが自慢のナイフ捌きで、綺麗に切って取り分け、豪華な夕食がはじまった。

「……肉料理にはこれだ」

 私は空間ポケットから、とっておきの一本を取りだし、コルク抜きでコルクを開けた。

 テーブルの上に並んだ空のグラスに、少しずつ注いでいった。

「さて、皆さん頂きましょう」

 シャドウラが笑みを浮かべて音頭をとり、夕食がはじまった。

「へぇ、癖がなくて美味しいね」

 桜イノシシの丸焼きを囓り、私は唸った。

「これは食材がいいからです。少しも獣臭くなくて、変な癖がないイノシシなんて初めてです。私も驚きました。

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「そっか、でもコイツは害獣指定されててね。どこからこの群島に泳ぎ着いたのか、繁殖しすぎちゃって、島の生態系を守るために狩る事が推奨されているんだよ。美味しいからいいけど」

 私は苦笑した。

「そうなんですね。私たちドラゴニアもある意味害獣指定されているんです。ドラゴンに変わる事が出来る種族なんて、他から見たら怖いですからね。そこで、誰にも見つからない岩山に集落を作っていたのですが、島を頂いたのでみんな張り切って開拓していますよ。私たちドラゴニアは寒さにちょっとだけ弱いのですが、ここなら温かくていいと長が上機嫌でした」

 シャドウラが笑った。

「そっか、苦労があるんだね。私は驚いたけど、滅多に会わないからってだけの理由だから気にしないで」

 私は笑みを浮かべた。

 夕食は進み、丸焼きは骨だけ残して全て平らげられた。

「この骨もいいスープが取れるって聞いたよ。寸胴で四時間くらい煮込めばいいって。それ以上やっちゃうと、今度は臭みがでて美味しくないとか。ラーメンのスープにするといいらしいけど、ラーメンなんて見たことすらないんだよね。麺類らしいけど」

 私が小さく笑うと、マンドラが手を挙げた。

「私に任せて下さい。ラーメン作りは得意なんです」

 マンドラが笑みを浮かべた。

「うん、なら頼むよ。よし、食器を洗おう」

 桜イノシシの骨だけ残し、私たちは食器を片付けはじめた。

 その間、マンドラが寸胴を用意してバキバキと骨を折りながらスープ作りをはじめ、寸胴をコンロに置いて加熱しはじめた。

「四時間ですね。分かりました」

 マンドラはキッチンタイマーをセットして、丁寧に寸胴の灰汁を取りながら、いい香りがするスープ作りに入った。

「よし、任せたよ。こればかりは手が出ない」

 私は笑った。


 夕食が済んでちょうどいい時間だったので、私は一人お風呂に向かった。

 脱衣所で服を脱いで体を見ると、そこら中痕だらけで思わず苦笑した。

「やれやれ……派手にやられたな。敵じゃないところが、私らしいか」

 思わず苦笑して、私は露天になっている浴室に入った。

 体を洗って流し、やや熱めのお湯に浸かると、私は大きく息を吐いた。

「スコーンはビスコッティのお説教で忙しいし、アイリーンは母上の相手で忙しいし、リナ、アメリア、ナーガは散歩にいったし、パステルとラパト、シルフィとナーガにシャドウラは朝食の準備でコカトリスの卵を採りにいったし、一人風呂もいいけど寂しいねぇ」

 コカトリスとは、体はニワトリ尾は蛇という魔物で、その卵は滋味に溢れて美味しいと評判ではあるが、そのかぎ爪は即死に当たる石化の能力を持っているので、迂闊に近寄ると危険と隣り合わせの作業だった。

「はぁ、いい湯だねぇ……」

 思わずほっこりした時、銃声が聞こえて柵に穴が開き、私のこめかみを熱いものが掠めていった。こめかみに触れると血が出ていて、私は風呂に持ち込んだ無線を取った。

「芋ジャージオジサン、敵だよ。分かる?」

『目標を捕捉した。始末する』

 すぐ近くで銃声が聞こえ、私は自分の傷は治せないことを忘れて回復魔法の呪文を唱えたが、生臭い生ガス噴射で終わってしまった。

「はぁ、風呂ぐらいゆっくり入らせろ。ったく、最近の工作員は」

 私はぼやき、引き続き湯船に深く浸かった。

 分からない時はヘタに動くな。冒険も旅も一緒の事だった。

 しばらく派手な銃撃戦が続き、柵に穴を空けた弾丸が私の肩に突き刺さって痛みが走り、こめかみを擦り、結局数発の弾丸を受けただけで戦闘は終了したようだった。

「この柵を直さなきゃな」

 自分の傷は治せないのでどうにもならなかったが、穴が開いた柵に回復魔法を掛けて塞ぎ、今さら思い出して結界魔法を張ったが手遅れだった。

「お湯が真っ赤になっちゃった。出ないと迷惑だけど、怖いんだよね。まあ、洗い場なら頑丈な壁だから……」

 私が洗い場に行くと、スコーンとビスコッティが飛び込んできた。

「ああ、やっぱり怪我してる。ビスコッティ、急いで治療しないと!!」

 ビスコッティがこめかみの傷を癒やしてくれて、肩の傷はスコーンが直してくれた。

「お湯を血まみれにしちゃったよ。ゴメンね」

「お湯なんていいよ。源泉掛け流しだから、勝手に流れて入れ替わるから。せっかくの温泉が台無しになっちゃった……」

 スコーンが小さな息を吐いた。

「またあとでノンビリ入るよ。ここは私の家だし、気にすることじゃない」

 私は笑って、タオルで体を拭いた。

「ちょうどいいメンツだな。私が王女でありながら、気楽に旅をして時々王令で裏仕事もするのは知ってるよね。コードネーム、つまり暗号名って勝手に付くから困るんだけど、ブラッディマリーだって。本名が混ざっちゃったのは、最初の頃は実名で仕事をしていたからだと思うけど、私は国王専属の裏仕事屋って事。ビックリした?」

「び、ビスコッティ。ブラッディマリーっていったら!?」

「は、はい、一切痕跡を残さず、暗殺一筋の仕事師ですよ。ここで出会うとは!?」

 スコーンとビスコッティがポカンとした。

「だって、暗殺命令しかこないんだもん。たまに、下水掃除とか、道路工事の警備までやらされるよ。ほんと、何でも屋的に使うんだから」

 私は苦笑した。

「揃っちゃったね。私はもうやめたよ。手口が特殊だったせいか。もうバレちゃって!!」

 スコーンが苦笑した。

「それがいいよ。まずいいことないから。私もやめたいんだけど、そうしたら城に缶詰だって脅されてるから、しょうがないんだよね」

 私は苦笑して、服のポケットから白い樹脂製のカードを取り出した。

「みんなには内緒だよ」

 それは、通称『殺人許可証』と呼ばれるもので、このフィン王国にはあるという都市伝説がある中、実際に存在し持っているのは私だけだった。

「ま、マリー。それ!?」

「あ、あったんですね。本当に……」

 スコーンとビスコッティが目を丸くした。

「こんなもん捨てたいよ。でも、そうもいかなくてさ。宿に黒い封筒が届いたら、絶対に開けないでね」

 私は苦笑した。


 私たちがお風呂から出ると、部屋でテレビを見ていたシャドウラが、椅子から立ち上がって笑みを浮かべた。

「スコーンさん、動物園にキリンが欲しいとおっしゃっていましたね。先ほど食後の散歩で、久しぶりにドラゴンになって島の上空を飛んでいたのですが、ついに発見したんです。正確な数まで分からなかったのですが、動物園で保護するべき頭数しかいませんでした。差し支えなければ動物園に集めますが、まだ発見されていない新種かもしれません」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「えっ、キリンいたの!? うん、集めて保護しよう。新種かも知れないならなおさらだよ」

「分かりました。さっそく捕獲して連れてきます。私は夜目がとても利くので、キリンの活動が鈍い夜がチャンスです」

 そう言い残し、シャドウラが家から出ていった。

「キリンがいるなら、私は満足だよ。どんなのだろう?」

 スコーンが笑顔を浮かべた。

「写真を専門家に送りましょう。もし新種なら、師匠が種の名付け親になれますよ」

 ビスコッティが笑った。

「そうなんだ。思いつかないな……」

「でしたら、島の名前を付けましょう。トレニアキリン。悪くないと思います」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そいれいいね。そうしよう!!」

 スコーンは笑った。

 玄関の扉が開き、アイリーンとフェメールが入ってきた。

「外回りは綺麗にしておいたよ。小物ばかりで、張り合いがなかったけど」

 アイリーンが笑った。

「お疲れ。風呂にでも入りたいところだろうけど、私の血で真っ赤になっちゃってさ。気持ち悪いだろうから、掃除しなきゃって思ったところだよ」

 私は苦笑した。

 すると、まるで申し合わせたように、風呂からデッキブラシを持った芋ジャージオジサンが出てきて黙って外に出ていった。

「あれ、いつきたんだろ?」

 私は笑った。

「いつもながら、神出鬼没だよね」

 スコーンが笑った。

「まあ、これでお風呂掃除が終わったと思うよ。入ってきなよ」

「分かった、行ってくる」

 アイリーンが自分の鞄から着替えとタオルを持って、女風呂に入っていった。母ちゃん、ちょっと待ってて!!」

 アイリーンだけお風呂に入り、フェメールは島の地図を取りだして、なにかブツブツいっていた。

 私はジュークボックスを蹴飛ばし、いい感じでエアウルフのテーマソングが流れてきた。

「フェメール、どうしたの?」

「はい、ちょうど時間があるので、バカ娘を連れて夜の空散歩をしに行こうと思ったのですが、この灯台はぶっ壊していいですか?」

 地図をみると、まだ壊れたまま直していなかった、この島の岬の突端にある灯台を指さした。

「灯台はダメ。せっかくあるんだし。海兵隊の演習場がある島にいってきたら。確か、こっちの宿舎エリアにも何機かあったはずだけど……」

 私は無線を取りだし、海兵隊が使用いている周波数帯に会わせた。

「マリーだけど、コマンダーいる?

『親愛なるマリー、ちょっと待ってくれ。チャンネルはこのままでいい』

 しばらくして、聞き覚えのある声が聞こえた。

『今度はなんだ。敵か?』

「違うよ。夜の散歩にお宅のコブラを一機借りたいだけ。空いてる?」

『そりゃ空いてるが、あんなもんどうするんだ?』

「知らないけど、武装はしておいて。絶対なんかぶっ壊すはずだから」

『分かった、ロケット弾を満載しておく』

 私は笑って、フェメールをみた。

「コブラがフル武装で待機してるって。海兵隊基地までは、アイリーンが道を知ってるよ」

「そうですか、ありがとうございます。バカ娘を鍛えてきます」

 そこに、下着姿のアイリーンがお風呂から出てきた。

「服に穴が開いてた。別の着替えは……」

 アイリーンが自分の鞄をゴソゴソやって着替えると、フェメールと共に家から出ていった。

「今日はまだら模様の繋ぎだったね。アイリーンっていつも繋ぎだけど、他に服もってないのかな……」

 スコーンが気になったようだが、私はいつもの事なので特に気にしなかった。

「恐らく、作業着も兼ねているのでしょう。自分の役割を把握している証拠です」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「さて、どうしようか。寝るにはまだちょっと早いよね」

 私は空間ポケットから、何本目かのとっておきのボトルを取り出した。

「あっ、それ限定百本の!?」

 ビスコッティが声を上げた。

「暇な時は飲むに限るよ。グラス並べてくれる?」

 私はボトルの栓を抜きはじめ、ビスコッティがグラスを三つテーブルに置いた。

「またお酒なの。前より飲めるようにはなったけど、ついていくのが大変だよ」

 スコーンが笑った。

「あっ、その前にいい物持ってきた」

 私はベッドに置いていた鞄をガサゴソして、一枚のCDを取り出した。

「勝手にこの島のテーマソングを決めてきたんだ。国営航空のボーディングBGMを拝借しただけなんだけど、島全体にある緊急防災無線で流そう」

 私は無線機の脇にあらかじめ設置しておいた機械を操作して、音楽を防災無線で流した。

「夜の間は、私がアレンジして弾いたピアノバージョンね。音量も絞ったし、迷惑にはならないでしょ」

 優しいピアノのしらべが聞こえ、家の中が爽やかな空気に変わった。

「いいね、これが私の島のテーマか」

 スコーンが笑顔になった。

「楽器は苦手なんだけど、かろうじてピアノは弾けるからね。気に入らないようなら、別の音源を探してくるけど……」

「いや、これがいい。なんか、いい気分になれる!!」

 スコーンが笑った。

「はい、いい感じでお酒にも合います。飲みましょう。限定百本ですよ」

 ビスコッティが笑った。

「よしよし、さっそく味見しよう」

 私は各グラスに葡萄酒を注いだ。

 私は葡萄酒の芳醇な香りを楽しみ、そっとグラスを傾けた。

「ん、美味しいよ。苦手なのに……」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「師匠はことさら葡萄酒が苦手ですからね。そのボトル、記念にもらいます」

 ビスコッティが笑った。

「いいけど、邪魔にならないの?」

「はい、診察鞄に余裕があるので、持ち帰りは問題ないです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた時、背後の窓ガラスがビシッと音を立ててひび割れ、私は反射的にグラスを持ったまま、テーブルの下に隠れた。

「お酒くらいゆっくり飲ませろっての。この家の窓は防弾だからね」

 私は笑った。

 ビスコッティとスコーンもテーブルの下に隠れ、なんとも間抜けなスタイルで酒盛りは続いた。

 銃声が響き、無線からクリアという芋ジャージオジサンの声が聞こえ、私は笑みを浮かべた。

「さて、飲んじゃおう。また、なにかったら困る」

 私は笑みを浮かべた。

 お酒を飲み、私たちは椅子に戻ったが、許容量以上を飲んでしまったらしく、スコーンがトイレに走っていった。

「あーあ、吐いちゃったね。苦手というより飲めないのか。体質的なもので」

「はい、恐らくそうだと思っています。私が止める役目なのに忘れていました」

 ビスコッティが苦笑して、私は冷蔵庫から冷えた水をグラスに注いで、テーブルに置いた。

 しばらくして戻って来たスコーンに水を飲ませ、ビスコッティがポケットから薬瓶を取りだし、やはりスコーンに飲ませた。

「これで大丈夫です。師匠をベッドに寝かせてきます」

 ビスコッティがスコーンを寝かせに、ベッドコーナーにいった。

 しばらくして、ビスコッティがテーブルに戻ると、コカトリスの卵を取りにいっていたパステルたちが、全員無事に帰ってきた。

「ただいま戻りました!!」

 パステルが笑った。

 ラパトやマルシルが卵を冷蔵庫にしまいはじめ、私は笑みを浮かべた。

「疲れたでしょ。お風呂に入ってきたら?」

「はい、みんな行きましょう」

 パステルの声でコカトリスチームがお風呂に向かっていった。

「あの、コカトリスは食べても美味しいです。岩山にいたときは、貴重なタンパク源だったので、狩りの仕方は分かっています。夜は動かないので、ちょっといってみます」

 シャドウラが笑みを浮かべ、農作業用の大きな背負いカゴを身につけ、外に出ていった。

「コカトリスですか。そんな魔物がいる島とは思わなかったです」

 ビスコッティが苦笑した。

「まあ、元々自然が豊かな島だからね。さて、まだ寝るには早いし、ちょっと外の空気でも吸ってくるか」

「はい、私も行きます」

 ビスコッティが椅子から立ち上がり、私も立った。


 玄関の扉を開けて外に出ると、さっき流した島のテーマソングが流れているのが聞こえた。

「蒸し暑いね。酔い覚ましには、ちょうどいいか」

「私は飲み足りません。お酒飲みます」

 ビスコッティが空間ポケットを開けて、中から自分のお酒を取りだして、飲みはじめた。

 街灯のほの暗い光りを頼りに、そのまましばらく森の小道を目指して歩いていくと、不意にビスコッティが足を止め、そっと拳銃を抜いた。

「ん、まだなんかいたの?」

「はい、少し鈍っていますがエルフの勘は健在です。狙われています」

 ビスコッティがいきなり発砲すると、ほぼ同時に森の向こうから発砲音が聞こえ、ビスコッティが足を打たれて、うずくまった。

「……痛いな。誰よ」

 ビスコッティが殺気を混ぜながら立ち上がり、闇の森に向かって発砲した。

 私は身を低くして、ビノクラを暗視モードにして周辺を見たが、森の木立しか見えず、これはビスコッティを頼るしかないと、拳銃を抜いて待機した。

 そのうち拳銃の弾が切れると、ビスコッティはナイフを抜いて、素早く森に入っていった。

「こりゃついていけないな。行ったら迷惑になる」

 私は家に戻ろうと立ち上がったが、その瞬間左肩に強烈な痛みというか熱さを感じ、さらに右肩も同様だった。

 絶えきれずに道に仰向けに倒れると、どうも対物ライフルだったらしく、右腕も左腕も……自主規制。

「……これ、さすがに死ぬかも」

 思わず呟いたややあと、私は意識を失った。


 意識を取り戻すと、私はぼんやり家の天井を見上げた。

 アメリアとシルフィが必死で魔法を掛けてくれていて、しょぼくれた顔をしたビスコッティが、こっそり私を見つめていた。

「……あれ」

「待って下さい。両腕の再生をやっています。ここまでの大怪我はシャレになりません!!」

 アメリアが叫んだ。

「ビスコッティ、なにが起きた?」

「は、はい……森に潜んでいた敵は排除したのですが、その間に大事になってしまって、対物ライフルの銃声にビックリしたマンドラが、無線で非常事態を通報したお陰でお風呂に入って出てきたパステルたちが、慌ててマリーを運んでなんとかここまでの状況になったのです。最大級の回復魔法で治療していますが、腕の再生までは……」

 ビスコッティが涙を流しはじめた。

「そっか……自分が悪い。そういうこと」

 私は苦笑しか出なかった。

 しばらく経って玄関の扉が開く音が聞こえ、誰かが入ってくる音が聞こえた。

「マスター、どうしたんですか!?」

 大慌てでやってきたのは、シャドウラだった。

「これは大変です。ですが、私の血を飲めば治ります!!」

 シャドウラがナイフを取りだし、自分の手の平に走らせると、滴ってきた血液を私の口の中に落とした。

「魔法はもう大丈夫です。今度はみなさんが倒れてしまいます」

 シャドウラにいわれる間もなく、アメリアとシルフィが倒れた。

「マスターは軽く目を閉じていて下さい。しばらく掛かりますが元通りに治ると保証します。今度は魔力切れの皆さんを治療しないと。スコーンさん、起き抜けで申し訳ありませんが、お二人の治療を!!」

「何事かと思って動けなかったんだけど、こりゃ大変だ……」

 スコーンがベッドから転がり落ちるようにして起き上がり、魔力切れで意識がない二人の診察を始めた。

「この魔法薬で大丈夫だね。寝ればすぐに治るよ。まだ軽症だから」

 手が空いたみんなで二人をベッドに寝かせ、スコーンが呪文を唱えると、猛烈な睡魔が襲ってきて、抗う間もなく意識が飛んだ。


 ふと目を覚ますと、シャドウラが笑みを浮かべ、アイリーンとフェメールが心配そうに私を見ていた。

「無事に腕の再生は終わりました。色々動かしてみて下さい。違和感があったら教えて下さい」

 シャドウラが私の額に手を置いて、簡単に熱を測っているようだった。

「まだ微熱ですね。これだけの再生を行うと、どうしても熱が出てしまうので、しばらくはベッドから下りないで下さい」

 私は両腕や指を動かして、特に違和感がないことを確認した。

「大丈夫だよ、ありがとう」

 私は笑みを浮かべた。

「今は海兵隊の野郎どもを使って、森の大掃除をやってるよ。終わるまで、マリーは外出しない方がいいね」

 アイリーンが笑みを浮かべた。

「なんとか無事でよかったです。気ぜわしいですが、城で緊急の案件があると、衛星電話で呼び出されました。私はもう帰らないといけません。コカトリスの親子丼は、先に頂きましたよ。濃厚で美味しかったとお伝えしておきます。無事に完治したら、ぜひ召し上がって下さい。私はこのバカ娘の護衛で、飛行機までいきます。近くて便利ですね」

 フェメールが笑った。

「そっか、こんな状態でお見送りなんてゴメンね。飛行機は窓から見えるから」

「気にしないで下さい。では、またお会いしましょう」

 フェメールとアイリーンはベッドから離れ、玄関の扉の音が聞こえた。

「さて、シャドウラに借りが出来ちゃったな。なにかで返さないと……」

「とんでもないです。マスターの一大事ですから、力を振るうのは当然です」

 シャドウラが笑った。

「そういえば、今は何時?」

「はい、朝の五時です。皆さん寝てしまっていますよ」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「そっか、コカトリスは獲れた?」

「はい、必要なだけ狩ってきました。もう捌いて冷蔵庫にしまってありますので、いつでも使えますよ」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「そっか、お疲れさま。寝なくていいの?」

「はい、ドラゴニアは短時間睡眠なので、二時間も眠ればスッキリです。……あの、先ほど空間ポケットを開いたら、見覚えのないものが出てきたのですが、これはなんですか?」

 シャドウラが空間ポケットを開き、私に見せたものは……いわゆるおとなのオモチャだった。

「だ、誰だ、こんなの入れたの。そもそも、他人の空間ポケットになにか入れるって、不可能に近いほど難しいんだけど……」

 私はどうしていいか分からなくなった。

「はい、捨てようかとも思ったのですが、なにか意味があるのかとそのままにしました。せめて、なにに使うのか教えて下さい」

「あ、あのね……ドクター!!」

 私が声を上げると、スコーンが目を擦りながらやってきた。

「なに、どっか痛い?」

「ある意味、頭が痛い。なんかシャドウラのポッケに勝手にこれをぶち込んだヤツがいるらしくて、なにに使うか聞かれてるんだけど……」

 シャドウラの手にあったそれを見て、スコーンは目を丸くした。

「それちょうだい、ビスコッティに貸したらぶっ壊れちゃって……じゃなかった。それって、気持ちよくなるためのオモチャだよ。具体的には……そうだな。マリー、穴ぼこ貸して!!」

 スコーンが笑った。

「こら、私でやるな!!」

「いいじゃん、みんな寝てるし。えっと、布団を剥いで……」

 私がまだボケてるのをいいことに、スコーンは私のズボンと下着をひと思いに下げた。

「こら、やめろって……言っても無駄か」

 私は脱力して、無駄な抵抗を諦めた。

「あ、あの、マスターになにをするんですか!?」

「使い方を見せるよ。自分一人で出来るから!!」

 スコーンは笑みを浮かべた。

「じゃあ、いくよ!!」

「お好きに。借りは返したからね」

(中略)

「ほら、マリーが動かなくなっちゃった。人によるけど、これはいいね」

「あ、あの。マスターを治療しないといけません。もうなんだかヘロヘロになっていますが……」

 シャドウラが困ったような声を出した。

「やり方は分かったでしょ。放っておけば戻るから、治療はいらないよ」

 スコーンは笑って、自分のベッドに戻って、二度寝した様子だった。

「ちゃ……ちゃんと洗ってね。私はもうダメ……」

 自分で下着とズボンを戻し、大きく息を吐いた。

「は、はい、凄いです。あとで私もやってみます」

「ヘタにやらない方が……いいよ。それだけ……言っておく」

 私は限界を迎え、そのまま目を閉じた。

「あっ、お休みですか。私は朝食の準備を始めます」

 オモチャを空間ポケットにしまい、シャドウラが私のベッドから離れた。

 しばらく経って、玄関の扉が開く音が聞こえ、アイリーンが私のベッドを覗き込んだ。「おーい、調子はどうだ?」

「オモチャで散々遊ばれて、もう限界……そのくらい元気」

 私は苦笑した。

「なんだ、もうよくなってるじゃん。オモチャって、アホ。誰にやられたの?」

「依頼人の秘密は守るもんでしょ」

 私は小さく笑った。


 しばらく布団に包まってボンヤリしてると、なんとかエネルギーが回復し、私は動けるようになった。

「みなさん、朝食が出来ましたよ」

 部屋の時計をみると、もう八時半を過ぎていた。

 私以外はみんなスッキリと目を覚まし、私もそっとベッドから下りた。

 シャドウラがテーブルに親子丼を置き始め、桜イノシシの骨から取った出汁を使ったという、肉がたくさん入ったスープを添えた。

「はぁ、やっと母ちゃんが帰ったぞ。これで、本調子に戻れる!!」

 アイリーンが元気に声を上げた。

「そりゃよかった。私も怖いんだぞ。旧エルフ王国のトップだもん。これでも、王位継承権を持ってるからね」

 私は笑った。

「その辺どうなってるのかな。私だって、サロメテの第三王女で王位継承権を持ってたんだけど……」

 アイリーンが困ったような顔をした。

「地方領主になったんでしょ。自動的に消滅したはずだけど、オヤジは教えてくれないからなぁ」

 私は笑った。

「そっか、なら気楽だ。女王なんて柄じゃない!!」

 アイリーンが笑った。

「さて、冷める前に頂いちゃいますか。頂きます」

 私はスープを一口飲んでから、コカトリスの親子丼を食べた。

 ニワトリと違って独特の風味があり、なかなか美味しかった。

「ご馳走さま。アイリーン、大掃除はいつ終わるの?」

 私は丼の中のご飯をかき込んでいた、アイリーンに聞いた。

「待った。確認してみる」

 アイリーンが無線でどこかと交信をはじめた。

「まだだね。あと二時間は掛かるって!!」

「そりゃまた大変だ。でも、徹底的にやってもらわないと困る。次撃たれたら、今度こそ運が尽きるかも……」

 私は笑った。

「私がいたのに、私がいたのに……」

 ビスコッティが俯いて、小さく息を吐いた。

「誰がいたって、撃たれるときは撃たれるって。単に私の運がなかっただけ!!」

 私は笑った。

「そうですか。師匠、ビシバシして下さい」

 ビスコッティが目を閉じた。

「なんだよ、もう……」

 スコーンがビスコッティを思い切り往復ビンタして、ビスコッティの口にあめ玉を放り込んだ。

「いいから直れ!!」

「はい、直りました!!」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「……まるで、ぶっ壊れかけの機械みたいだね。面白いけど」

 私は笑った。

「面白くないです。まだ気分が……」

 ビスコッティが苦笑した。

「私はプロに護衛されるプロじゃないぞ。みんなに迷惑掛けただけ。護衛依頼を出したつもりはない!!」

 私は苦笑した。

「そうですか……。スッキリはしませんが、もう大丈夫です」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「よし、外が落ち着くまでは私は出られないから、みんなやりたい事やりなよ」

 私は笑みを浮かべた。


 朝も早くから、パステル、パラト、マルシル、マンドラのパーティ編成で、冒険するためにアイランダーの第一便で飛び立ち、外ではまだ戦闘が行われているようで、時折銃声が響いていた。

 暇で特にやる事もないので、私はコーヒーを飲みながら、拳銃のクリーニングをやっていた。

「そういえば、スコーンの家を建て直すらしいよ。やっとエルフ様式に慣れたとかで、もうすぐはじめるはずだよ」

 窓の外には、オレンジ色の繋ぎを着た監督が、集まった部下たちに指示を与え、元からあった家を解体する音が連絡通路を隠してある通路から漏れ聞こえ、ビスコッティが時々不思議そうな顔をしたが、あまりに気にしなかったようで、部屋の掃除をはじめた。

「あっ、テーマソングを朝バージョンに変えよう」

 私は無線機の脇に設置したデッキを操作して、ピアノバージョンからオリジナルの国営航空のボディーイングテーマにディスクを変えて、爽やかでどこか冒険心をくすぐる音楽に変えた。

「これ、私たちがいない時どうするの?」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「ホテルの管理人に頼んであるよ。ディスクを変えるだけだから」

 私は笑った。

「そっか、これいいな」

 外の戦闘そっちのけで、スコーンが笑った。

「いいでしょ。せっかく防災無線があるんだから、使わないともったいないでしょ」

 私は笑った。

「マスター、暇です。オモチャで遊んでいいですか?」

 いきなりシャドウラがぶっ込んできて笑った。

「外がどうなるか分からないから、今はやめた方がいいよ」

 私は苦笑した。

「はい、分かっています。ほんの冗談です」

 シャドウラが笑みを浮かべた時、アイリーンが傷だらけで家に飛び込んできた。

 ビスコッティが素早く回復魔法で傷の治療をすると、アイリーンは素早く外に飛び出していった。

「……タッチアンドゴーしましたね。タフです」

 ビスコッティが笑った。

「常時スタンディングモードのガンヘッド野郎って、変な呼び名があるみたいだよ」

 私は笑った。

「なんですか、それは……。それはともかく、戦いも佳境のようですね」

 ビスコッティが笑った。

「早く動物園と水族館みたいな」

 スコーンが笑った。


「みんな元気そうでいいですね。私たちはまだですか? もう出るよ。分かりました、キリンを確保した甲斐があります」

 シャドウラが笑った。

 流れ弾か、時々窓ガラスにヒビが入るが、基本的に家の中は平和だった。

 私は時々無線をチェックしていたが、スコーンの家の建て直しが終わったと建設部から連絡があった。

「スコーン、終わったって。悪いけど、一人でみにいってくれるかな。なんなら、ビスコッティとシャドウラも連れて」

 私は笑み浮かべた。

「うん、いってくる。ここに秘密のトンネルがあるんだよ!!」

 スコーンが壁の鍵を開けて中に入り、ビスコッティとシャドウラが続いた。

「……もう着いたよね」

 私は小さく息を吐き、家に設置してあるパラボラアンテナのジャックに、無線電話を繋いだ。

 その途端に文字情報が流れはじめ、私は黙ってそれを見つめた。

 部族を越えて畏れられるフェメールは、この大陸全ての監視・監督係でもあった。

 長いのか経緯は省略されていたが、アイシャ族長パトラはエルフ殺し並びに毒薬密造の嫌疑で身柄を拘束されていたが、城に帰ったフェメールの処断が下りて極刑になり、直ちに執行された旨が記されていた。

「はぁ、こりゃお酒が必要だな。なにやったんだか……」

 私は空間ポケットを開き、中から安物のテーブルワインのボトルを取り出し、栓を開けて一口飲んだ。

「はぁ、了解っと」

 私が短く返信すると、衛星電話を切って小さく息を吐いた。

「さて、切り替えよう」

 私は大きく息を吐いて、ワインのボトルをしまった。

 ちょうど点検が終わったようで、スコーンたちが戻ってきた。

 スコーンは扉を閉めて鍵を掛け、満面の笑顔を浮かべた。

「ちゃんと元通りだったよ!!」

「それはよかった。それにしても、まだ外出禁止かな……」

 私は苦笑した。

 玄関の扉が開き、縦縞の繋ぎのところどころを血で染めたアイリーンが帰ってきた。

「私とした事が、うっかりバトルジャケットを忘れちゃってさ。そこら中痛い」

 アイリーンが笑った。

 ビスコッティがアイリーンに回復魔法を使い、全身の傷が癒えると、替えの繋ぎを持ってお風呂に向っていった。

「終わったみたいだね。もう少ししたら、水族館と動物園に行こうか」

 私は笑みを浮かべた。


 しばらくしてアイリーンがお風呂から出てくると、穴だらけだった繋ぎが新しくなっていた。

「ったく、何人いたんだか……。全部とはいわないけど、大体ぶちのめしておいたから、少しは風当たりが爽やかになったと思うよ」

 アイリーンが笑った。

「ありがと。さすが犬、よくやった。その首輪似合ってるよ」

 私は笑った。

「ああ、忘れてた。あのババア、外さないで帰りやがった!!」

 アイリーンが床に崩れた。

「……私もう自信ない。帰る」

 アイリーンがポツリと漏らした。

「大暴れしておいて、それはないでしょ。立ち直りも早いけど、落ち込むのも早いからね」

 私は笑った。

「……うん、自信ないよ。どうしよう」

 アイリーンが呟き、私はひっそり呪文を唱えた。

 アイリーンの首輪が消え、私の首に輪っかがついた。

「ほら、早く立ち直りなさいよ!!」

「ダメだって、そこまでするな!」

 アイリーンが私に飛びついた。

「じゃあ、もう落ち込まない?」

 私は笑った。

「落ち込まないよ。全部自分で背負うな!!」

 アイリーンの言葉に、私は笑みを浮かべた。

「じゃあ、返す!!」

 私は笑って呪文を唱えた。

 首輪が消えて、アイリーンがポカンとした。

「転送の魔法。今頃、あんたのお母さんがビックリしてるんじゃない」

 私は笑った。

「えっ、まさか送り返したの?」

「うん、今頃フェメールの首についているはずだよ。鍵開けが大変だ」

 私は笑い、アイリーンが私から離れて笑みを浮かべた。

「だから、コイツはいいヤツなんだよ。母ちゃんも苦労しろ!!」

 アイリーンが、上機嫌で家から出ていった。

「さて、これで良し。外も収まったみたいだし、まずは近くの水族館にいこうか」

 私は笑った。

「いく!!」

 スコーンが笑った。

「では、準備してきます」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、玄関から出ていった。

「なんか、聞いた話だとマグロしかいないらしいけど、それでもいいの?」

 私は苦笑した。

「マグロだけでもいいよ。早くいこう!!

 スコーンが笑みを浮かべた。


 玄関から外に出ると、どこにしまってあったのか、ビスコッティが四台の自転車を並べて待っていた。

「この水玉ピンクが師匠用です。黄色が私で群青色がマリーです。赤い自転車はシャドウラですよ。サドルの高さは各自調整して下さい。

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 私はサドルの高さを調整し、なぜか荷台にセットしてあるスティンガー対空ミサイルを確認した。

「おーい、出来たよ!!」

 荷台に二十三ミリ四連装機関砲を装備した、赤いシャドウラの自転車を弄っていたビスコッティが、私に笑みを

「はい、分かりました」

 ついでにという感じで、荷台に七十五ミリ砲を二連装で装備してある、水玉ピンクの自転車を弄っていたビスコッティが、自分の自転車に乗せてある重機関銃チェックしてサドルに跨がった。

「では、行きますよ」

 重たそうな自転車をこぎ出したビスコッティの後に続き、私たちもやたらと重い自転車を漕いで出た。

 歩けない距離にあった水族館には数分で到着し、オーナー待遇で無料のスコーンを除き、三名分の料金を支払って中に入った。

 入ってすぐに、カラフルな照明に彩られたクラゲの水槽があった。

「へぇ、いいところじゃん」

 私は小さく笑った。

「これが……私の水族館」

 クラゲカーテン前に立ち、スコーンは関心仕切りだった。

 奥に進んで行くと、まだ空き水槽が多かったが、マグロの回遊水槽は見事で、建物中央部にある大水槽では、ジンベエザメが優雅に泳ぎ、マンタがガラスにへばりついて、不思議な口を丸見えにしていた。

 私はしばらくをそこでジンベエザメの回遊を眺め、程よく海底気分を味わったあと、先に進むと深海に住む生物たちが展示してあった。

「カニ!!」

 ビスコッティが声を上げた。

「なに、食べたいの?」

 私は笑った。

「はい、その大きさならお酒をグッとやる時に最高です!!」

 ビスコッティがビシッと親指を立てた。

「分かった。今日の定期便でカニを持ってくるように伝えるよ。シャドウラはカニは初めて?」

「はい、これ食べられるんですね。固そうです」

「殻は固いけど中は柔らかで美味しいよ」

 私が笑みを浮かべると、シャドウラがカニと睨めっこをはじめた。

「……これを食べる。美味しそう」

「美味しいですよ。お酒とも合います」

 涎を垂らしたシャドウラにビスコッティが笑みを浮かべた。

「まあ、カニはいいから先に進むよ!!」

 私は苦笑した。


 水族館の館内を進んでいくと、突然ガラス張りの温室のような場所に出て、小川のようなものが流れる心落ち着く場所に出た。

「メダカ、メダカがいっぱい!!」

 小川を泳ぐメダカを見つけ、採取をはじめた。

「こら、展示物だぞ」

「一杯いるから平気!!」

 なにが平気なのか、スコーンはメダカを五匹採取して、捕まえたらしいアマガエルをビスコッティの口に放り込んだ。

「あれ、美味しい。なんです、これ?」

「知らない!!」

 スコーンが笑った。

「……うげ」

 私は思わず顔を顰め、なぜかシャドウラだけが指を咥えて、涎を垂らしていた。

「……欲しいの?」

「はい、カエルは大好物です。でも、アマガエルだと物足りないですね」

 シャドウラが笑った。

 とまあ、色々あったが水族館を出ると、私たちは重武装自転車で動物園に向かった。

 まだ『準備中』と看板に書かれていたが、スコーンの特権を使って中に入った。

 空いた展示場ばかりだったが、スコーンが真っ先向かったのはキリンの展示施設だった。「ん、これは……」

 姿形はまさにキリンだったが、島の環境に合わせてか緑色の肌色に編み目のような模様が入っていた。

「私が知る限りだけど、恐らく新種だよ。スコーン、スケッチ」

 私は笑みを浮かべた

「もうやってるよ。なんで肌色が緑なの。キモいけど可愛い!!」

 スコーンがスケッチに色まで塗って、ビスコッティが煙草に火を付けた。

 同時に酒瓶を取り出し、一口飲んで笑みを浮かべた。

「さてと、あとはなにがいるのかな。桜イノシシと普通のイノシシはいるみたいだけど」

 地場で確保した動物がほとんどだったが、猿山にはすでに猿が放たれ、どこで捕まえたのか、ブレスを吐かないように工夫したようで、レッドドラゴンが大きな展示場で昼寝していた。

「これ、もう十分じゃないの。開園しちゃえばいいのに」

 私は笑った。

「まだ動物が足りないよ!!」

 私は笑った。

 そのまま進んで行くと、なぜかアイリーンが檻の中にいた。

 ちなみに、展示名は『ハウンドドッグ』となっていた。

「……なにしてるの?」

 私は苦笑した。

「バイト代を稼いでいるんだよ。でも、なんかムカつくから、この檻をぶっ壊そうと思って色々やったけど、ぶっ壊れねぇ!!」

 アイリーンが笑った。

「程々にしておきなよ。まだ準備中なのに」

「居心地をよくしようと、今から整備してるんだよ。ほっとけ!!」

 アイリーンは笑った。

「はいはい、次行こう。面白くない」

 私は全員の先頭に立って、訳の分からないバイト中のアイリーンはどうでもいいので、その先に進んだ。

 特に驚くような動物はいなかったが、まだなにもいない像の展示場は係員が慌ただしく行していた。

「ん、なんだろ?」

「えっと……私は知りません」

 ビスコッティが小首を傾げた。

「私も知らない。ビスコッティも知らないってなんだろ?」

 スコーンが不思議そうな声を上げた。

「こんな時は……」

 私は衛星電話を取り出し、いつの間にか受信していた文字情報を読んだ。

「そっか、やっとスコーンのリクエストに応えられたか。もう直ぐ港に着く船で、二頭の象が到着するって」

 私は笑みを浮かべた。

「えっ、象くるの!?」

 スコーンが驚きの声を出した。

「うん、船で向かってる最中だから昼頃には到着するって」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、いよいよ象がくるんだ。これなら、開園してもいいね」

 スコーンは笑った。

「なら、園長にいってこないと。管理事務所って、確かこっちだったような……」

 園内マップを参考に管理事務所に着くと、スコーン飛び込んでいって、中にいた園長らしき人物と短い会話を交わし、笑顔で出てきた。

「象がきたら正式オープンにした。楽しみ!!」

 スコーンが笑顔を浮かべた。

「そっか、いいんじゃない。いつまでも準備中じゃ困るしね」

 私は笑った。

「あっ、そうだ。報告があるんだけど、王立航空がコンファラ空港からこの島まで就航したよ。さすがに小型ジェット機を使うみたいだけど、一日二往復だけね」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、いよいよそういう段階になったんだね。十組しか泊まれないけど、ホテルもあるし、賑やかになるのかな」

「宣伝はしていないから、しばらくは目ざとい物好きしかこないと思うけどね。いよいよ観光地になるよ」

 私は笑った。

「観光地か……賑やかになるのはいいけど、ノンビリした雰囲気が消えちゃうかも……」

 スコーンが複雑な顔をした。

「大丈夫だって。家の周りは市有地の柵で囲ってあるし、観光地は島の三分の一もないよ。水族館だって動物園だって、大勢に見てもらいたいでしょ?」

 私は笑みを浮かべた。

「そうだね。変な人とかいないといいけど」

「まぁ、ここを起点にして、アイランダーで遊覧飛行して、なにするんだかって感じでいいかもね。ここは、貴重な観光スポットだから、人気が出るんじゃない?」

「うん、緑色のキリンとか、他にいないもん」

 スコーンが笑った。

 その時無線ががなり、私はトークボタンを押した。

「……分かった。受け入れは大丈夫だよ」

 私は笑った。

「スコーン、象がきたよ。港で下ろしてる最中だって」

「ホント、ビスコッティ。引っぱたいて!!」

 私が笑みを浮かべると、ビスコッティはスコーンを思い切り引っぱたき倒し、踏みつけた。

「これでいいですか?」

 ビスコッティが勝ち気な笑みを浮かべた。

「うん、いいよ。嬉しいな!!」

 スコーンが立ち上がり、服をパタパタした。

「展示状態になるまで、三日は掛かるって。まだ、島にいたいでしょ。待ってから、ゆっくりみよう」

「分かった、そんなに掛かるんだ」

 スコーンが笑った。

「うん、環境に慣らしたり色々ね。しかも、遠国で見つかったばかりの赤い象!!」

 私は笑った。

「……しゅごい、赤い象。見る!!」

 スコーンが私にしがみついた。

「あとで気持ちいい事でもなんでもやってあげるから、見てから帰る!!」

 大興奮状態のスコーンに、私は苦笑した。

「それこそ、象の方も興奮しちゃって危ないから。写真あげるから、今はこれで我慢して」

 私が象の写真を取り出すと、スコーンはそれを引ったくってマジマジと見つめた。

「角まで赤茶色……しゅごい」

「名前考えてね。男のと女の子だよ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「じゃあ、『スコーン』と『ビスコッティ』!!

 ビスコッティのゲンコツが、スコーンに落ちた。

「師匠、真面目にやってください!!」

「……わりと真面目」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「分かった、さっそく連絡しておく」

 私は無線で、象の名前を園長に伝えた。

「園長のフィーリングで男の子は『ビスコッティ』、女の子は『スコーン』だって。決めたっていってるよ!!」

 私は大笑いした。

「な、なんで私が男の子なんですか!!」

「さぁ?」

 私は小首を傾げた。

 こうして、水族館と動物園を周り、私たちは重武装自転車で家まで帰った。


 家に帰ってくると、ビスコッティが不機嫌そうにスコーンをぶん殴った。

「なんで私が男の子なんですか!!」

「知らないよぉ。園長のセンスだもん」

 スコーンが笑った。

「どんなセンスですか!!」

「うん、知らない」

 スコーンが笑った。

「ムカつきました、ビシバシします!!」

「うん、すればぁ」

 スコーンが笑った。

「……すっげぇムカつく。この!!」

 ビスコッティが、鼻血が吹き出るまでスコーンをビシバシ引っぱたいた。

「なに、もう終わり?」

 ティッシュを鼻に詰めながら、スコーンが笑った。

「……な、なんか師匠がおかしい。これ以上は、手が痛いからやめよう」

 ビスコッティがブツブツ呟き始めた。

「こらぁ!!」

 続けて、玄関の扉を蹴破るようにして、アイリーンが帰ってきた。

「なに?」

 私は笑った。

「バイト時間二時間って聞いたのに、四時間も檻の中だったぞ。くるのが遅い!!」

「自分でいったんじゃん。私たちのウケ狙うから入るって。いまいちウケなかったけど」

 私は笑った。

「おっかしいな。ウケると思ったのに。茶でも飲もう……」

 アイリーンは頭をガリガリ掻きながら、ティーパックをカップに入れて、お湯を注いだ。

「あの、この島には小川がありますか?」

 シャドウラが、ポツリと問いかけてきた。

「そうだね、森の中ならあるかもね」

 私は笑みを浮かべた。

「では、いきましょう。カエルが欲しいのです」

「カエルねぇ、いるといいけど。アイリーン、護衛!!」

「ヤダ、勝手にいってこい!!」

 アイリーンが笑った。

「なんだ、ケチ臭いな。まあ、いいや。行こうか」

「はい、いきましょう」

 私はシャドウラと家から出た。


 小道を歩いていると、シャドウラが時々森の匂いを嗅ぐような仕草をしながら、程なく森の中に入っていった。

 私はあんまり使わない魔法で形作った鉈を手に、その光る刀身で邪魔な枝葉を斬り飛ばしながら、少し後をいくシャドウラを連れて小川を探した。

「あっ、ありました」

 私の目には小さな水たまりにしか見えなかったが、湧水が溜まっているだけのようで、 そこから流れ出た水が地面を削り、小さな川のようになっていた。

「オタマジャクシがいますね。ということは、カエルもいるはずなのですが……」

 いうが早く、シャドウラが茂みの中にいたカエルを捕まえ、そのまま食べてしまった。

「私たちドラゴニアは、肉であればなんでも食べます。カエルは良質のタンパク質が採れる貴重な生物なのです。鼻で分かりますよ。ここにはたくさんいますね。たまにいる毒を持ったカエルもいますが私たちは平気です」

 シャドウラが満足そうに笑みを浮かべた。

「わ、私はいいよ。はぐれると面倒だから、ついて歩くけど」

 こうして、いきなり始まったシャドウラのおやつタイムの時間が過ぎていった。

 森を歩くことしばし。シャドウラの食欲も満たされたようで、家に帰ろうとした段で気がついた。

「……ここどこ?」

 ……自慢ではないが、私は方向音痴だった。

 森の中で立ち尽くし、私はポツリと呟いた。

「私にも分かりません。鼻は敏感なので、家から漂ってくる匂いは分かるのですが、それすら感じなくなっています。困りました」

 シャドウラが小さく息を吐いた。

「……しょうがない」

 私は無線の非常用ビーコンのボタンを押し、下草を切り飛ばして地面に座った。

 その隣にちょこんと座り、シャドウラは小さく息を吐いた。

「そんなに家から離れていないはずなんだけどな……」

「はい、でもよく分からない植物ばかりで、なにも見えませんね」

 まあ、こういう時は焦っても悪い事しか起きないのは、経験則で分かっていた。

『おーい、緊急ビーコン受信したけど、なんかあったか?』

 無線でアイリーンが呼びかけてきた。

「森で迷子。シャドウラもいるけど、どっちも怪我はないよ」

『ったく、方向音痴の癖にマッパーも付けずに入るな。しょうがないな、助けにいってやる。ビーコン受信機によれば、そう家から遠くないはずだぞ』

「よろしく!!」

 私は苦笑した。

 しばらくシャドウラと並んで座っていると、私は笑みを浮かべて彼女の頭を撫でた。

「シャドウラって、あだ名か被せ名でしょ。だって、親が『影の人』なんて名前を付けるとは思わないから」

 私は笑みを浮かべた。

「……はい、本当の名はツユクサです。でも、皆さんには内緒にして下さい。私はシャドウラがいいんです」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「ツユクサの方がいいと思うけどね。嫌なら、無理に変える事はないよ」

「はい、シャドウラはシャドウラです。それ以外はありません」

 シャドウラが笑った。

「まあ、いいか。あとは、アイリーンが助けにくるのを待とう」

 頭上に広がる木立の枝葉の隙間から、青く塗られたアイランダーが飛んでいくのが見えた。

「私のビーコンに気が付いたかな。えっと……」

 私は腰にぶら下げているグレネードランチャーに信号弾を装填し、頭上に向けて放った。

『おーい、島巡りのアイランダーから緊急通信がきて、信号弾が上がった座標を伝えてきたぞ。家から南に三キロだ。っていっても、どうせ地図も持ってないだろ。今出るからちょっと待ってろ』

「よろしく」

 アイリーンから無線が入り、私は苦笑した。


 数時間後、鉈を振りながらアイリーンがやってきた。

「このボケ、地図と方位磁針くらい持って歩け。帰るぞ」

 アイリーンが私の頭にゲンコツを落とし、ゆっくり森を進み始めた。

 シャドウラと黙って付いていくと、アイリーンが地図を片手に止まった。

「あれ……えっと。ああ、あった、犬印のマーカー」

 アイリーンは、地面に刺した小さな杭を抜き、大きく進路を変えた。

「ところでさ、なんでこんな森の中にきたんだ?」

 アイリーンが不思議そうに聞いた。

「はい、私がカエルを食べたいと……好物なんです」

 シャドウラが小さく息を吐いた。

「そっか、好物なら我慢出来ないか。それは分かったけど、相棒は選びなよ。よりによって、プロでありながら方向音痴で脱出経路に迷って、何回も捕まったバカなんか選ぶな。毎回、私が救助してたんだぞ。まあ、大体拷問されて動けなくなってたけど」

 アイリーンが笑った。

「それはいわないでよ。お陰で、拷問慣れすしぎて大体効かないから」

「慣れるな、バカ。ああ、シャドウラ。コイツ、頑丈なだけだから、今度はちゃんとしたマッパーを連れていきなよ。まあ、今は自分たちの島で遊んでるか」

 アイリーンが笑った。

「拷問はダメです。例えそれが好きでも……」

 シャドウラが私の服を掴み、アイリーンが爆笑した。

「いくらそれでも、それはないでしょ!!」

 アイリーンがさらに笑った。

「そうだね。私もさすがに嫌かな。痛いし」

 私は笑った。

「さて、帰ったらメシか。もう夕焼けだぞ。夜になってたら、いくらなんでも一人じゃいけなかったな」

 アイリーンが笑った。

 そのまま、歩くことどれくらいか。

 夜闇が迫ったその頃、家が見えてくるとアイランダーが滑走路に向かって降下していった。

「管制がいってる。今日最終便だって」

 無線を弄っていたアイリーンが笑った。

「気が付けば、もう夜だね。スローなペースでいいよ」

 私は笑った。

「よく言うよ。緊急ビーコンまで使って」

 アイリーンが苦笑した。


 家に帰ると、シャドウラがキッチンに立ち、持っていた袋から大量のカエルを取りだし、素早くボウルに入れると、逃げないように素早く捕まえては戻し、料理酒を掛けてカエルを大人しくさせたようだった。

「私は生食が好きなのですが、それでは皆さん抵抗があるでしょうから……」

 シャドウラは笑顔で、楽しそうに料理を始めた。

「おっ、いいナイフ使いしてるじゃん」

 アイリーンが小さく笑い、シャドウラの横に立ってニマニマした。

「師匠、口を開けて下さい」

 ビスコッティがニマニマ笑みを浮かべ、スコーンの口いっぱいにアマガエルを詰め込んで、テープで口を塞いだ。

「これでスッキリしました。全部食べて下さいね」

 ビスコッティが笑うと、スコーンはテープをバリッと剥がし、口からアマガエルを取り出し、回収にきたシャドウラに返した。

「なにすんの!!」

 スコーンがビスコッティに凄まじい勢いの右ストレートを放ったが、ビスコッティはあっさり避け、涼しい顔をして麦茶を冷蔵庫から取りだし、グラスに注いで一気に飲みはじめた。

「スコーン。今だ、ボディ!!」

 アイリーンが叫び、私は反射的にビスコッティのボディにパンチを叩き込んだ。

「……痛い」

 ビスコッティはうずくまった。

「あれ、まともに入っちゃった?」

 スコーンが固まった。

「……師匠、やりましたね」

 ビスコッティが起き上がり、ニコニコしながら逃げようとしたスコーンを捕まえた。

「やってない、やってない!?」

 ジタバタするスコーンを小脇に抱え、ビスコッティは玄関から家の外に出ていった。

 しばらく経つと、ギャーとスコーンの悲鳴が聞こえ、ビスコッティだけかえってきた。

「なに、ヤキ入れてきたの?」

 ファッション雑誌を読んでいたアイリーンが、無線電話でなにか注文していた。

「この青い繋ぎがいいんだよね。縦縞は飽きた」

 アイリーンは雑誌を暖炉におき、大きく伸びをした。

「いけね、ディスコネクトしてなかった」

 アイリーンは無線電話を弄り始めた。

 その時、窓が揺れて轟音が響き、滑走路になにか降りてきた事が分かった。

 私はスコーンとそっと手を繋ぎ、家の外に出た。

 キーンと甲高い音を立てて、誘導路を走っている中型ジェット機の尾翼には、旧サロメテ王国の国章が描かれ、駐機場に止まるとキューンと音がしてエンジンが停止した。

「……しゅごい」

「737-500か。ちっこいけど、これでもジェット機だからね。足が早いよ」

 私は笑った。

「……YS-11は可愛いけど遅い。だから、滅多にこれない。どうしよう」

 スコーンが小さく息を吐いた。

 風が吹き、YS-11の機体が少し揺れた。

 私は衛星電話を取りだし、文字情報を確認した。

「明日はハリケーン発生の予報が出てるよ。こりゃ、今日中に出た方がいいよ」

 私が笑った時、アイランダーがスクラムを組んで三機着陸した。

 中から出てきたみんなが転がり落ちるように降りてきた。

「カエルのスープと聞いて、迷宮どころじゃないと……」

 パステルが青い顔をして倒れた。

「おい、毒食らってるぞ!!」

 犬姉が慌ててハサミを取り出した。

「どんな毒かな……」

 スコーンが冷静に、足に刺さっていた矢を抜き、ちょっと触れて舐めた。

「うん、ピリピリこない。神経毒ではないね。それじゃ……」

 スコーンはポケットの中に入っていた注射器とアンプルを取りだし、パキッと先を折って開けて、注射器で吸い取った。

「はーい、チクッとしますよ」

 スコーンがパステルのむき出しの尻に注射針を刺した。

「五分もあれば治るよ。遅効性の毒だから!!」

 スコーンが笑った。

「無事ならいいや……」

 アイリーンがポシェットにハサミをしまった。

「……あの、大丈夫ですか?」

 騒ぎというほどでもなかったが、外の音が聞こえたのか、小さなナイフを持って家から出てきた。

「うん、薬が効いてるから平気。中に運び込もう」

 私たちは、パステルを家に担ぎ込んだ。


「はい、治りました。ありがとうございます!!」

 ベッドに寝かせて、ものの五分でパステルが復活した。

「だから、聞いてます?!」

 ビスコッティがヒゲのおじさんと口論しながら家に入ってきて、優しい感じの女性がニコニコしながら入ってきた。

「あれ、ビスコッティのお父さんとお母さんじゃん。どうしたの?」

 私は声を掛けた。

「うむ、久しいな。なにやら娘が楽しんでいるようなので、様子を見にきた。しかも、この香りはカエル料理だな。ご馳走に預かってよいか?」

 ビスコッティのお父さんは、優しい笑みを浮かべた。

「もちろんいいよ……っていいたいけどシャドウラ、量は大丈夫?」

「はい、問題ありません。大丈夫ですよ」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「問題ありません。ご一緒にどうぞ」

 私はビスコッティのお父さんとお母さんをテーブルに導いた。

「うむ、ありがとう。それにしても、広い家だな。ランニングマシンなど置けそうだな」

 お父さんが笑った。

「それはオーダー済みです。ウェイト一式も手配してあります」

 私は笑った。

「そうか、そつがないな。ぜひ、このバカを鍛えてやってくれ」

 お父さんは笑った。

「あなた、料理が冷めてしまいます」

 ビスコッティのお父さんとお母さんは、ゆっくり食事を進めはじめた。

 やがて、パンできれいに皿を拭い、小切手を切って。お父さんとお母さんが笑って出ていった……と思ったら帰ってきた。

「いかん、レストランのつもりで帰るところだった。美味かったぞ、ありがとう」

 キッチンのシャドウラに笑みを送り、ビスコッティのお父さんとお母さんが家から出ていった。

 扉が閉まって一呼吸おいて、再び扉が開いた。

「ああ、最後に一つ聞くのを忘れていた。あの件は片付いたのか?」

 ビスコッティが一瞬べーっと舌を出して、ベッドに潜り込んでしまった。

「だろうな。まあ、よい。邪魔したな」

 ビスコッティのお父さんは家の外に出ていった。

「ったく、変なときにきやがって……」

 ビスコッティが壁をぶん殴った。

「ダメだよ、マリーの家だよ」

 スコーンの声にビスコッティは一息吐き。笑みを浮かべた。

「あれも欲しい、これも欲しい、女の子は欲張りです!!」

 ビスコッティは、懐中時計の鎖をチリチリいわせながら笑った。

「みなさんも、食事はよろしいですか。ちょっと多めに作ってしまったので」

 シャドウラは笑みを浮かべた。

「うん、食べよう」

 みんながテーブルにつき、シャドウラがトマトスープを持ってきた。

「色々なカエルのスープです。トマトや野菜で臭みを消してあります」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「へぇ、美味しそうだね」

 スコーンがさっそくスープを飲みはじめた。

 ついでみんなが飲みはじめ、トマトの酸味と時々入っているカエルの肉が美味しかった。

「あの、お代わりありますか」

 ビスコッティが笑った。

「はい、ありますよ」

 こうして、物珍しいカエル料理の夕食は終わった。


 お腹がいっぱいになって、スコーンとビスコッティがマ○オカートで激戦を繰り返していると、おおきなジェット音が聞こえたので、私は玄関から外にでた。

 見ると、滑走路に泊まったC-17輸送機が、大量の水槽を下ろしていた。「ちわーす、マリーさんはあなたですか?」

 駐機場に出た私に、飛行服をきた軽薄そうな男が声を掛けてきた。

「なに、やっときたの。遅い!!」

 私は書類にサインして、軽薄な男を追い払った。

 芋ジャージオジサンたちが、輸送機から降ろされた水槽をフォークリフトで次々に運び出し、空港の柵にある開け放った門から次々に水槽を家の前に並べはじめた。

「どうしました……うわ、カエルがたくさん!?」

 家から出てきたビスコッティが、慌てて家の中に引っ込み、シャドウラを連れて

 出てきた。

「あ、あれ、こんなにどうしましたか?」

「これだけあれば、カエルに困らないでしょ?」

 私は笑った。

「わざわざ取り寄せて頂いたのですか。こんなにたくさん……」

「明日は天候が荒れそうだし、このままじゃ邪魔になっちゃうから、カエルを養殖池に放とうか。すぐそこにある」

 私は笑みを浮かべ、家から少し離れた場所にある沼地を指さした。

「はい、分かりました。ちょっと待って下さい」

 シャドウラの体が光り、レッドドラゴンの姿になった。

 その巨大な手で運び込まれた水槽を掴み、池にカエルを放ちはじめた。

 全ての水槽が綺麗に片付くと、沼からカエルの鳴き声が聞こえてきた。

 シャドウラが人の姿に戻り、笑みを浮かべた。

 カエルの種類によって細かく分けられた沼に金網で蓋をして、ワイヤーでタイダウンした。

「これでいいか。後は建設部に任せよう」

 私が無線で呼ぶと、オレンジ色の繋ぎををきた監督が飛んできて、沼を全て覆うような建物を建て、そのまま去っていった。

「これで嵐でも平気だよ。なにこの『カエル小屋』って!!」

 建物の入り口にはめ込まれている表札を見て、私は笑みを浮かべた。

「はい、これでいつでも美味しいカエル料理が出来ます」

 シャドウラが笑った。

「さて、ご飯も食べたし、準備して帰ろうか」

 私は笑った。


 家に入ると、みんなが荷物を片付けていた。

「おっと、私も片付けないと」

 みんなで家の中も片付け、ビスコティは酒瓶を片手に小さく笑みを浮かべた。

「よし、いこうか」

 みんなで家を出て、駐機場に出るとステップを下ろした。YS-11が待ち構えていた。

 ステップを使って機内に入ると、どこか旅情と冒険心を感じさせる爽やかな曲が流れていた。

「あれ、音楽がなってる……」

 スコーンが呟いた。

「まぁね、色々あるから」

 私は小さく笑った。

『機長より。今は風が強いので、多少揺れるよ。ちゃんとベルトを締めておいてね。グッドラック』

 みんなが座席に座ると、ステップが格納され、扉が閉められた。

 飛行機がプッシュバックされ、聞き覚えた感のあるダート10のエンジン音が機内に響き渡った。

 ゆっくりと動き出し、駐機場から誘導路に出ると、地上のクルーが手を振って見送ってくれた。

 飛行機が滑走路に入ると、そこでしばらく停止した。

 しばらくして、YS-11はエンジン音も高らかに、夜空に舞い上がり高度を上げていった。

 機窓に747の姿が見え、私は小さく敬礼して笑った。

「なに、お見送りなの?」

 私は小さく呟いた。

「ビスコッティ、飛行機がたくさん取り囲んでるけど、なんかぶっ壊れたの?」

 スコーンがビスコッティに声を掛けたが、ビスコッティは笑みを浮かべて答えただけっだった。

「さて、八時間か。楽しみますか」

 私はリクライニングを倒した。


 長躯八時間を掛けて辺りが昼の景色になる頃には、併走する大量の航空機が旅に色を付けてくれた。

『機長より。この便をもって、YS-11による当航路の運航を終了します。光景には737-800が充てられていますので……まあ、お疲れさま』

「えっ、ビスコッティ。このボッコイの終わりなの!?」

「はい、師匠。今は余韻を楽しみましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 飛行機は降下をはじめ、クリーンな空の下をコンファラ空港を目指して着陸態勢に入った。

 やがて、コンという軽い衝撃と共に無事に着陸し、いつもより長く滑走をして止まった。 それから、ゆっくりと誘導路を走り、いつも通り駐機場に向かって走り、消防車二台による放水トンネルを潜り、ゆっくりと停止した。

「師匠、降りますよ」

「分かった、これが最後か……」

 スコーンは少し涙ぐみながら飛行機を降りた。

 みんなが降りて、最後に私が降りると、どこからきたのか、無数の飛行機が上空を飛び去っていき、戦闘機群が一斉フレアを発射してまるで花火だった。

「さて、ご老体がもう一機くるよ。大型機だから、ド迫力かもね。普通は駐機場なんて入れてもらえないほどなんだけど、あれもファンが多いからなぁ」

 私は小さく笑った。

 滑走路を見る747-400が降りてきて、滑走路から誘導路に入ると、ジェットエンジンの甲高い音を立てなら、国営航空のカラーに塗られた747-400が放水トンネルを通って、YS-11の隣に並んだ。

「これも、このフライトで引退だったんだよ。一応、王家専用機になる予定だけど、大きすぎて着陸できる空港が少なくてね」

 私は小さく笑みを浮かべた。

 スコーンがステップが引き込まれて扉が閉まっているYS-11の主輪に触れ、しばらくそうしてから笑みを浮かべて帰ってきた。

「よし、町に戻るよ。久々に馬だぞ!!」

 私は笑みを浮かべたのだった。

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