第18話 スノウのもう一つの姿

 ウィドウの街は賑わっていた。

 通りでは露店が開かれており、人でごった返している。

 広場にできた噴水で、休憩をしている者。

 人混みをかき分けながら、生活用品を集める者。

 鎧と武器を手に、通りを往く者。

 みな、生き方は違えど、同じ街で生活している。

 俺は、そう言った街が好きだった。

 だからこそ、この街に戻ってこられたことが、とてもうれしかった。


 馬車用の道は整備されており、人も少ない。

 俺達は、行商協会を目指し、スノウに馬車を引かせていた。

 行商協会は、門からのアクセスを考え、門との距離は遠くない。

 故に少し進めば、すぐに行商協会の建物が目に入った。


 小さな城と見紛うほどの、巨大な建物。

 その門は、開け放たれていた。

 俺はスノウに指示をし、その門をくぐってもらう。


 行商協会も、外と同じく、人であふれている。

 商品を入れているであろう木箱が大量に並んでいた。


 行商協会は、いわば質屋と同じ機能も持つ。

 品物を預ければ、買い手がつくまで置いておいてくれる。

 とはいっても、商品価値のあるものに限るが。


 もちろん、行商協会にも金を払わなければならないため、自分で売りさばくよりも売り上げは下がる。

 だが今回俺達は、売上額を気にしているわけではない。

 竜の素材は行商協会に預けるのが一番だと考えた。


「はい、ここで止まって下さい」


 すると、木箱を整理していたおばさんが、俺達の馬車に近付いてきた。

 俺は馬車から降りて、ライセンスを見せた。


「お品物は何でしょう?」

「竜の素材です。

 凍っているため、解体せずに持ってきました。

 頭部は落とされていますが、爪、血液等、そのままです」


 おばさんは、紙に俺の言ったことをメモしていく。

 その間にも、シェリーが動いてくれたらしく、竜の素材の運搬が始まっていた。


「それでは、お品物は預からせていただきます。

 またお立ち寄りください」


 品物を預けてしまえば、俺達は邪魔者だ。

 応対していたおばさんも「次の方どうぞー」と、待っていた行商を案内している。


「よかったですね、竜の素材を預かってもらえて」

「後は買い手が付けばいいんだがな」


 竜の素材は食用にはできないし、幼い竜なので素材としても少々心許ない。

 需要があるのは竜の血くらいか。

 まあ、それは買い手が付かなかったときに考えよう。


「よし、ここでの仕事は終わりだ。

 スノウ、近くに馬車庫があるから、そこに馬車を入れてくれ」


 行商協会では便利なことに、馬車を預かってくれる。

 これもすべて、シカグランの行商協会で聞いた話だ。

 ライセンスさえあれば、ここまで手厚いサービスを受けることができる。

 アメリさん様様だ。


「あ、フェル!

 どうやら馬の面倒も見てくれるみたいですよ!」


 車庫の横に並ぶ馬を見て、シェリーは言った。

 おそらく、餌を上げている人が目に入ったからだろう。


「ってことは、スノウもここで面倒を見てもらうことになるな」

「えぇ!?」


 馬車を引いていたスノウは、俺の言葉を聞いてぐるっと後ろを振り返る。

 まるでフクロウだ。


「だってお前、こんなに大きくなっちまって……。

 宿には連れていけないだろ?」


 この大きさでは、一般的な宿のドアをギリギリ通れるか通れないかくらいだ。

 無用な混乱を生むくらいなら、ここで面倒を見てもらった方がいいだろう。


「私も一緒に行きたい!

 お父さんと一緒に行きたいぃ!」

「一緒にったって……いいじゃねえか、ほら、餌ももらえるらしいぞ」


 俺は、呑気に餌を咀嚼する馬を指さした。


「やだやだやだ!

 一緒に行きたい~!」

「駄々をこねるな!」

「ふ、二人とも落ち着いて!」


 シェリーが止めに入ってくるが、俺は落ち着いている。

 落ち着いてないのはスノウの方だ。

 まあ、生後一週間で落ち着けという方が無理な話とは分かっているんだが。


 スノウが大声を出すせいで、周囲の注目を集めてしまっている。

 ここは一度、宥めた方がいいか……?


 なんてことを考えた、矢先だった。


「一緒に行きたい~!」


 その言葉と共に、スノウの体が輝きだして、周囲一帯を光で包む――。

――その光が収まったころには、スノウのいた場所に、一人の少女が服も着ずに立っていた。


 腰ほどにまで伸ばした白銀の髪、見る者を引き付ける端正な顔つき、年齢は十歳程度に見える。

 だが、問題なのはそこではない。

 背中に、小さな翼が生えているのだ。


 先程の光、そして、翼の生えた少女。

 まさか……。


「まさか……スノウ……?」

「え? スノウだよ?」


 その少女は間違いなく、スノウと名乗った。


「え、ええええええええええ!?」


 俺達がスノウに絶叫するのは、これで二回目だった。

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