最終話
まず最初に申し伝える。
諸君らが呼ぶ、「マーズランナー01」に所属する全将兵人員は、我が月への政治亡命を希望し、我々はこれを歓迎した。
現在、その全員が、我々の保護下にある。
彼らが使用せし機材については、このまま地球帰還軌道にある、受理されたし。
観得ているか地球の諸君。
私は月首班、現職月市長、ジャワハルラール・ネルーである。
私達、月の同志を代表して私から、諸君らに細やかなる提案を行いたい、暫し、御傾聴願う。
まず、現状を、受け入れて頂きたい。
諸君らは、敗北した。
この厳正なる事実を、まず受け入れ願う、切に願う。
地球の背信、この恥辱を、厳粛に受け止めて欲しい。
しかしだ、私は今、諸君らを心から祝福する。
諸君らの英断を、祝福する。
理解出来るだろうか、諸君らは、全人類が渇望して止まない機会を、掌中に有している現実を。
安心しろ大丈夫だ問題ない、多分。
幸いにして君たちには最終回二死満塁一発逆転サヨナラホームランのチャンスがある。
未だ、ある。
実に、簡単だ。
YESと、ジーザスと、唯一言。
では諸君、準備はいいか。
今、各局が一斉に報じている臨時放送は、もちろん、私たちが準備したものだ。
私たちの要求を今から申し上げる。
現刻を以て、我々はここに、月の主権の自由、諸君らの干渉を受けない、完全なる自治権の獲得、その承認を要請する。
その公的な承認は、これを求めない。
諸君ら地球陣営が誇る威信の失墜は、同時に全人類的損失に他ならず、従って我々は其れを望んでいない。
その代替として、直ちに緊急声明を以て、火星との和解を表明して頂きたい。
その履行を以て、我々は我々の要求が認証された事を。
我々はこの事実を人類の安寧を目的とし、永遠に秘匿する事をここに宣誓する。
君達は事実により小心な卑怯者となる恥辱と、最終的に全人類的な英断を下した英雄として歴史に刻まれ、未来永劫の栄誉を得る事になるだろう。
人類の盟主たるに相応しい、
諸君らの賢明なる選択を切に期待している。
やあどうもどうも、突撃レポート、火星からこんにちは、特番だよ。
月のお友達からのビッグサプライズはもうお手元に届いた頃かな。
因みにそう、見てのとおり、僕はルナリアンだ。
ここ、大事なんで抑えておいて。
さて、同時に僕は今、火星臨時政府、裏番内閣の副首班でもある。
そしていいかい、僕は、月航宙保安局情報本部退役少佐、一人三役なのさ。
よければ今直ぐ月に確認して欲しい。
僕たちからの要求は変わらない、
即時和平、ただそれだけさ。
さて、せんせい方、来期の票読みはもう済んでるかい。
賢明なる君たちのこと、有権者が何を期待し喜んでくれるかなんて、僕如きが言う事じゃないよね? 。
人類の安寧を願う一人として、君たちに少しばかりの良心と、かんたんな計算高さ、或いは両方備わっている事を期待するよ。
じゃ、よろしく。
All the results are as history tells us now.
月、地球間チャットログ
元帥: やあ久しぶり
文書係:久しぶり
元帥: まさか、存命中に再会出来るとはね、テクノロジーに乾杯!
文書係:もう飲んでるのか
元帥: 飲みっぱなしさ!
文書係:そりゃ、どうも
元帥: 年刊「地球光通信」愉しんでくれたかい?
文書係:ああ。でも2年連続新刊落とすのどうよ?
元帥: 古人曰く、便りが無いのは良い便りさ
……以後、復号不能。
テルオは英雄のカバン持ちで喜々として使い倒され日々これ以上にない充実した人生を愉快痛快謳歌している。
シビル・ウィンスレイはささやかな祝宴を上げた。
外宇宙艦隊所属、栄光の1号艦がせっかくの広報機会、一般公募も無く。
「ヘルメッセンジャー2世」なる艦名は、あらゆる命名規約に不適合な、つまり異様な選定であった。
ネームシップに2世を冠するに至っては奇怪ですらある。
命名理由に関する質疑への回答は頑なに、ノーコメント。
読ませて貰った、堪能したと言っていい。
実はすこし前、ひ孫から勧められしかし積んであったものを、つい先日、偶然話した幼馴染からも猛然とプッシュされた。
騙されたと思って、とまであっては、手元にあった書を開く以外にない。
今の時代に産まれ、なるほど、よく調べ、考え、纏めてあった。
まさか当事者の手に自分の作が届くとは筆者も、思いも願いもしていなかろうが。
地球連合航宙保安局情報室資料編纂室室長代理。
航宙情報の生き字引、と持ち上げられたときもあったか。
なつかしい。
朋を月に見送り地球に残った自分にも、それは色々あったさ。
一番は間違いなく、孫が情報本部長まで一大出世を遂げたことだろうかな。
地球光が前倒しで開始されたときには、それは慌てたものだ。
だって、こっちの準備は何も無かったからね。
それから孫を一晩掛けて説き伏せたり、こっちはこっちでばたばた動き廻った。
なんとかやり切った。
多くの助けもあった、天の助けだ。
太陽から駆け付けた援軍には、ああ、感動したね。
正に天の加護を得た思いだった。
天意に即していたのだろう。
歴史に必要とされたのだろう。
我々は、幸運にも。
この若造も自分の配役を佳く心得ているようだ。
今の時代。
総てが成し遂げられ、不可能とも思われなくなったこの時代。
極めたからこそ閉塞し、衰亡を予感させる今。
ああ、こうした希望は、有難いものだ。
次の時代を切り開くのは常に。
若い希望、それなのだ。
Fin
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