第3話

 ここで少しだけ背景説明読み飛ばすと後から効くよご用心。

 

 月入植。

 月面常設居住施設の建築竣工、運用開始。

 これを期して人類は宇宙時代開幕を宣言。

 月入植、星暦元年。

 時の政府、地球連合評議会は改元を施行、新暦の発行を以って此れを世に示した。

 百年紀、Centuryを捩って星歴、Star・Century、或いは単にSenturyとも呼ぶ。

 大規模事業の多くは時を越え人を替え、連綿と継承されていくがその最たる例こそ宇宙開発事業に見出す事が可能だ。

 その以前、さらなる宇宙初動の時期、当時の宇宙軍、航宙保安局の前身であるNASA、北米航空宇宙局は一つのプロジェクトを遂行していた。

 「Mariner program」

 無人の惑星探査機を用いた火星、金星および水星探査計画である。

 プロジェクトは後の人類航宙史を切り開くべく雄大に、戦略的に、数多の実証実験を含み遂行された、現代に至る航宙基礎技術、惑星のフライバイ、周回、およびスイングバイという、人類史上初の試みを成功させた確立させる。

 マリナーは10号までが打ち上げられ、11号はボイジャー、そう、あのユーミンも歌っている有名なボイジャー計画に引き継がれた。

 故にして、水星に常設施設、人員常駐の太陽観測測候所、初の人工衛星が就役するに辺り、当然のように欠番であったマリナー11号の名が蘇ってきた。


 林麗婭(リン・リーヤー)はそうして、何度目かの目覚めを迎えた。

 業務停止指示から以後何もすることもできることもなく、不規則に食べて、微睡み、結果昼夜も、時間の感覚すら希薄になってしまっていた。

 だらしない、ふしだらだ、わかっている、もちろん。

 ハブ構造を持つ基地の、各モジュール結節点である中央回廊部に、最近にして僅かながらようやく人柄もつかめ距離感も薄れてきたその、この職場で唯一もう一人の同僚、2交代直につきその切り替え時に短く挨拶を交わす間柄ながらセクシャリティとは縁遠い両者パーソナリティのささやかな交歓がなされるつつあった同僚、モッラー・サドラーは変わらず、事件発生時に得た初速を維持した回転運動体としてある。

 突然の同僚の怪死をそのような客観的事実確認で認識する事でしか表現できない、ああ、そうとうに、疲弊しているな、私は、まあ当然か。

 当初ムダに活発に立論し棄却し解決手段新材料を求めしかし得られず、思考の袋小路を延々徘徊している状況を最初期から自覚していたにも関わらず敢えて継続し、結果みごと無意識化目標完遂、精魂尽き果て現実逃避とは異なる諦観と無力、これ以上この場で自分に出来る事は何も、実は最初期から当事者にして当事者能力剥奪、ようやくにして唯一の正解である、ふて寝、喰っちゃ寝モードにたどり着くことができた、ということにした。

 時計を見る気もしない。

 枕元にあった食べ残しのピザを齧り不味さに放り棄てた。

 ここまで不規則無目的無計画な時間を過ごすのは久しぶり。

 記憶を振り返り、思い直した。 

 いや、間違いなく、人生で初の体験だ。

 人生初の同僚怪死に人生初の自滅型生活破綻。

 長い人生、それも良かろう、む。

 決然と二度寝に倒れ込まんとする上半身とは別の生物である勤勉過ぎる右手指先がなにを勝手にコム、パーソナルコミュニケータを手繰りフリック、メールチェックなぞしおる。

 そしてとうぜんのようにいやな結果がが。

 着信1未読1。

 すかさずタップしながら予感がある、うん、コレやばいパターンだ。

 件名:航宙保安局外宇宙艦隊通達に関する通達について

 ぶ。

 あぶねえ、なんも飲んでなくて助かった。

 本文:現在、外宇宙艦隊所属外宇宙航宙実験艦が近隣宙域にて月・地球帰還軌道途上にあり……。

 あ? 。

 聞いてない情報の羅列であった。

 外宇宙艦隊、そんなん出来てたんだ、で、実験ってそういう出来立て、で、え、あ? なんでや?! 。

 そこの士官が立ち寄るという通知。

 確かに偶然居合わせたその艦が近隣宙域最寄りの第三者機関なのだろうが、それにしても宙保が何しに乗り付けると、何かの臨時代行か? どんな調整が? 。

 不承不承首を捻りながら読み終えいやちがう、何か見落としてる。

 二度見し、三度見した。

 今日初めて時間を確認する、本文時刻と比較する、間違いない。

 到着予定予想時刻。

 今くるもうくる直ぐ来る!? 。

 こんな重大要件メールですますんじゃねよおおおお!! 。

 

 


 

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