第10話 再び魔女の家で
馬車から降りて戸を叩く。するといつかの魔女アルファ様の弟子のアデリナさんがやっぱり焦がした鍋を持ち扉を開いた。
「はぁーい?…どなた??」
いつかと同じように彼女は聞いた。
「………あのアルファ様と至急お話しがしたいのです…」
「アデリナーーー!!!」
と奥から怒り声と共にアルファ様が現れた。
「アルファ様お助けください!!」
と私は頭を下げた。ヨニーは天球儀のアクセサリーを見せた。
するとアルファ様がジッとそれを見て
「おや…客か…それを持ってるってことは…代金の支払いかい?」
「いいえ、それはまだ…ですが…大変なことが起きてしまいました!」
順を追って私は説明し出した。今までのことを。
アルファ様は静かに聞いて
「成る程ねぇ。死人がでたか」
とため息をつく。
「犯人の目星もついてなく…無駄に皆さんを…私のせいです!!私が…卒業パーティーで断罪をずっと受けていればこんなことにならなかったかも!今だって私が休んだから皆殺されて…ううっ!」
「お嬢様…しっかり…きっと何か方法があるはず」
とヨニーが慰める。
「断罪ねぇ。殺しより見続けたいものかねぇ?巻き戻ってまで延々と…」
とアルファ様も悩む。
「お嬢様の困っている顔、悲しんだ顔、苦しんでいる顔を見て喜びたいんでしょう!」
「だが…犯人の目星は付いていない…。魔獣を召喚できるほどなら下級生は外して上級生だろう。卒業生の中にいるのかねぇ」
「卒業生の中…成績優秀者…」
「お嬢様を除くと学年で2番目に成績がいいのは宰相の息子アルフ・トシュテン・ゴットフリッド・リンドマン様では?」
とヨニーが言う。彼とは学園時代にテストで競った。筆記では勝てない彼は私を恨んでいた。好きではないと思うけど。
「男にとって女に負けるなんてと思う方は案外いるのかも。王子だっていい例です。いつもお嬢様のこと恨んでましたし、それに彼は王子の友人です」
とヨニーも考える。しかしリンドマン様が魔獣を召喚し生徒や先生、王子たちまで殺すはずもない。
「逆だと思います…。成績が悪い者…。本当の実力を隠している者かもしれないわ」
と言うとアルファ様が
「そうだね、目立たないように実力を隠している奴はいるだろうね。そう言う奴は闇と繋がりやすいんだよ」
「アルファ様…もう僕達には打つ手はないのでしょうか?何としても犯人に一矢報いたいです!」
ヨニーがそう言うとアルファ様は
「そりゃあたしもさっさとそれの代金を払ってもらいたいからねぇ…。大体その「時の呪い」をかけた者にもリスクはあると思うんだよ」
「リスク?」
「そりゃこんな大掛かりな呪いをたった一人の娘にかけ続けるんだ。普通に考えて何か代償をもらっているだろうね。寿命とか」
「……ならばその者の命を代償にお嬢様に時の呪いをかけ楽しんでいると?」
「巻き戻り続けてもう62回目です…。寿命はどのくらいあるの…」
「じゃあ2カ月と少し経った頃だね。半年か一年は見ていいだろう」
「そんなに同じ毎日を過ごすの!?待ってられないわ!」
一年も毎日生徒や先生達にあの恐ろしい魔獣の姿を見ているなんて精神がおかしくなるわ!
「それともう一つ。術者が時の魔法をかけた代償として身体が消えるだろう」
「えっ!?身体が消えるのが代償??」
と驚いた。
「時間を操作したからね。本来なら存在してはならない禁忌術なのさ。だからかけたやつがこの世から消えて無くなるだろう。身体の何処かに時計の刻印か数字が刻まれていたらそれが証拠となる。まぁ…そいつが消えたらその時お嬢様は晴れて自由の身だね」
「でも待っているなんてやはり耐えられません!」
と私が言うとヨニーもうなづいて
「一刻も早く状況を改善しないと…」
「ふむ…じゃあこれをやろう。代金は犯人が捕まってからだね。これも高いよ」
と魔女アルファ様が取り出してきたのは懐中時計のようだ。
「この上にボタンがついてるだろ?一回押すと世界が10分程止まる。ああ、これに関しては魔道具だから代償は受けないよ。あんたのその天球儀もね」
と聞いたからホッとした。でも術者である犯人は生身で時の魔法を使ったから代償は半端なく自身に返ってくるのだとか。自らの命をかけてまで私を巻き戻して楽しむなんて…いかれているわ。
しかもそれがあの学園にいる誰かなのだ。
「でも望みは出てきましたね!お嬢様!今度はパーティーに出席して何が起こるのか見ましょう!王子とカルロッタ様にも先にまた伝えておきましょう…危なくなったら時間を止め魔獣がどこから出てくるか見極めるのです!」
「……ええヨニー。今度こそチャンスだわ。時間を止められるなら皆を助けることだってできるかもしれないもの!」
やっと少し希望が出てきた。
犯人を今度こそ見つける!
身体のどこかに時計か数字の刻印のある者…。私は負けない!必ずこの巻き戻りの呪いを解いてみせるわ!
それからヨニーと私は今晩はアルファ様の家に泊まらせてもらうことにした。アデリナさんの部屋を無理矢理使わせてもらう事にしてアデリナさんは嘆いたが私達は今日街に戻ることも危険だった。何故なら王子殺しの疑いが私に向いている為だ。
街中に憲兵がいるかもしれない。
アデリナさんの部屋は狭くベッドも女性用が一つあるだけ。ヨニーは離れて床に横になった。
「ヨニー…床で寝るなんて…」
「お嬢様…いいんです。僕はお嬢様に不埒な真似なんてとてもできません…」
さっき馬車で額にキスしたのはどうなのかしら?と思ったが私も一緒に寝ましょうなんてとても言えないわ。
ヨニーは
「お嬢様が眠ったら…僕は星の光を集めます」
「え?何で?今集めればいいじゃない?」
と言うとヨニーは赤くなり
「そんなの…お嬢様の眠りを見届けてからじゃないと僕が覚えていられないし…」
と言うので私も恥ずかしくなる。それって私の寝顔を見てから眠るってことじゃない!
「ヨニーったら!そんなのずるいわ!私の寝顔を見てから眠るなんて!私だって星の光を見たいもの!」
「何度か見たからいいじゃないですか」
と言うヨニー。私が眠るまで待つつもりだわ。ずるい。
「何度見ても綺麗なんだもの。見る機会があるなら見るわよ!」
と言うのでヨニーは折れて仕方なく天球儀をかざし星の光を集めた。
天球儀はしばらく光り消える。今日一日分を記憶してしまった。
「あーあ、残念…この先は僕覚えることができませんよ…折角お嬢様の寝顔を見るチャンスでしたのに…」
「ふん、残念だったわねヨニー。今のこの会話も明日覚えてないわ。天球儀に光を集めるまでが貴方の覚えていられる1日ですものね」
ヨニーはちょっと納得いかないようだけど私に早く眠るようにと言い、自分はゴロリと床へ毛布を被りふて寝した。
私もその様子を見て安心して眠ることにした。
すると机に無造作に置かれていた本に肘が当たりバサリと本が落ちた。
「ああ。ごめんなさいヨニー」
拾おうとしてヨニーも同時に手を伸ばしたからヨニーの手が私に触れてしまった。
「あっ…」
と思わず手を離そうとしたがそのまま握られてしまった。
「ああ…本当に…もう少し後で光を集めればよかった…」
とヨニーは言うと赤くなり私を見つめ…
「好きです…アンネット様…」
と言うから私も赤くなる。段々とヨニーが近づき月明かりに浮かんだ二人の影が重なった。
軽いキスだったけど少し離れてヨニーは耳元で囁いた。
「僕は忘れるだろうけどアンネット様は忘れないで…」
と言うと今度こそヨニーは床の毛布に潜り込んで寝てしまった!ずるいわ!!
ヨニーだけ明日今のこと忘れてるなんて!と思いつつも私はこれ以上何も言えないまま眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます