第5話 卒業パーティーに欠席した

「……3年間この学園で学べたことは…私達卒業生にとって1日1日が最高の思い出です。これから旅立っていく私達を親鳥のように見守っていただけますと嬉しいですわ!」

 台本なしでスラスラとすっかり覚えたセリフを捲し立て51回目の祝辞は終わり、礼を取り拍手が流れて私は壇上から降りる。その際に生徒会長である婚約者のアロルド王子と目が合う。


 一番最初の時はそれでも浮かれていたが今は判る。

(後で覚えてろよお前)

 みたいな目だ。

 彼の頭には皆の前での断罪しかない。


 最後の校歌が終わり泣き出す者やすすり泣く者が多くなり退場し、担任の言葉で私達はこの後の卒業パーティーに向け一旦ドレスに着替えてまた学園の大きなホールに集まることになっている。


 私はそそくさと裏口近くの誰もいない空き教室へ向かった。するとヨニーが待っていたのでほっとして鍵を受け取り中へと入り、机に用意されていた服を手にした。


 ドレスではもちろんないけどいつもと違う服を着た。まぁ、昨日も宿に入る時来たけどね。今日の服は目立たない色をした緑と茶の服だ。農民の奥さんのようね。


 人がいないのを確認して外に出るとヨニーも着替えており本当どこにでもいそうな農民みたい。


「お嬢様はやはり何を着ても目立ちますね」

 とヨニーが少し赤くなる。

 ええ?私やっぱり隠し切れてない?


「ヨニーは空気に溶け込んでいていいわね」


「ううっ…。とにかく街へ向かいましょう!」

 とヨニーは裏口から出て少し離れた先の幌馬車乗合停留所に向かった。

 庶民が乗る馬車だ。

 貴族の乗る馬車よりも乗り心地は当然に悪く私は酔った。


 ガタガタと揺れる馬車が気持ち悪く思わずヨニーの肩にもたれかかる。


「お嬢様頑張って!大丈夫です!気持ち悪くなったらお吐きになってください!」

 と言う。この馬車は私たちの他には老夫婦や冒険者風の男などもいた。


 ていうかこんな車内でしかも人がいるのに吐くわけにいかずなんとか街に着いた。

 ヨニーと急いで裏路地に入り吐いた。ヨニーは背中をさする。仮にもヨニーにとって私は慕う相手だからこれで幻滅されたかもと思って見ると


「お嬢様…大丈夫ですか?少し休んで隠れ家に向かいましょう。…慣れない庶民用の馬車で疲れたですよね」

 とヨニーはまだ私にひっつき背中をさする。木箱みたいなとこに腰掛けて回復を待つ。


 少し陽が落ち長い影が地面に落ちてようやく私達はヨニーの友人の家に行きヨニーが


「ごめんなさい!」

 とグイっとドアノブを曲げていく。

 ヨニーは先に私を入れ、壊れた箇所を何とか修復し鍵をかける。


 家の中は薄暗く、ヨニーが蝋燭に火を入れる。

 それから台所を漁りスープを作った。

 少し硬いパンに浸して食べると柔らかくなると言う。


「ごめんなさい。卒業パーティーでは豪華な夕食が取り分けられましたが…お嬢様…卒業おめでとうございます!」

 とヨニーは胸に手を当て言う。


「ありがとうヨニー。卒業パーティーに出なかったのは初めて。今頃どうしてるかしら?」


「断罪自体が無くなったので消えた令嬢としてやはり捜索されているんでしょうかね?」

 とヨニーが少し笑う。


「消えた令嬢なんてミステリーね。アロルド王子も私が見当たらないから苛々してるか、それともカルロッタ様と踊っているかだわ。私がいなくても婚約破棄していることでしょうね。婚約者以外と最初に踊るんだから」

 と想像する。きっと楽しそうに踊っていることだろう。


「お嬢様…お嬢様は…ま、まだ王子のことを…?」


「やだわ、ヨニー…それはないわよ。もう嫌ってほど振られて婚約破棄されたもの。未練などないわよ。この呪いも解けないし」


「…でも巻き戻る前のお嬢様は完成したドレスを見て嬉しそうでした。王子との関係はその頃には冷え切っておりましたが…あのドレスを着て見せたら王子もこちらを振り向いてくれるはずと…」

 とヨニーは悔しそうに言う。


「いいの。もう。それにドレスなんか見せても王子の反応は薄かったの覚えてる?私よりもカルロッタ様が会場に現れた時、駆け寄って声をかけたの…放置された私は惨めだったわ…その後断罪が始まるけど」

 するとヨニーはもじもじしながら言う。


「あの日のお嬢様はとてもお綺麗でした!男の方も女の方も見惚れていました!間違いなく!カタロッタ様よりも僕はお嬢様のことしか見ておませんでした!」

 と赤くなるヨニー。

 気恥ずかしくなるわ。


「ありがとうヨニー。…でも…あの中にもし犯人がいたとしたらゾッとする。それにいつ呪いをかけられたのかも判らない…」


「あの会場の中に犯人が…人が多過ぎて判りにくいですね。紛れていても知らない人なら全く判りません」

 会場には正装した男女が多くいる。


「………料理に仕込まれていたとかはないかしら?」


「でもそんなに口にしなかったですよ。お嬢様。断罪はカルロッタ様が入ってきたところで直ぐに始まっていて…」

 とヨニーは考える。そして…


「お嬢様…僕は考えていました。この巻き戻り…恨みとかじゃ無かったら?もしお嬢様を好いている方の犯行で…あの断罪を楽しんで見ていて…考えたくもないですが…犯人も一緒に巻き戻っていたとしたら?」


「えええ!?」


「卒業式のお嬢様はお美しかった!普段着ない1番のドレスです!それを永遠に見ていたいとか…」


「流石にそんな!」


「お嬢様はいつも強気でおられますが、あの日ばかりは弱り切った表情をされたりしていました。僕は他の巻き戻りの日は知りませんが…50回の中いろいろと変わるお嬢様だけの表情を楽しんでいたとしたら…」


「そんな…それじゃあきっと変態だわ!」

 そんなことの為に巻き戻りを繰り返したと言うの?


「ただの推理ですからね!違うかもしれませんけど、僕からしてみたらそう思うこともあるのです。普段から接点がなくお嬢様に憧れている者も多かったでしょうね」

 とヨニーは言う。


 確かに在学中は何度か告白された事があったけど。一人一人詳しく覚えてなかった。覚える必要はないと思っていたから。


 それからまたヨニーは夕食が終わると星の光を天球儀に集めた。

 何度見ても綺麗な光が吸い込まれていく。


「絶対に犯人を見つけてやる!」

 とヨニーは意気込む。

 しかし収穫の無い日々の巻き戻りがこれからしばらく続くことになるのだった。

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