強くなるためには
「ふう、何とか暗くなる前に帰って来れたな」
森を急いで駆け抜け、ギリギリ夕日が沈む前に村へと戻る事ができた。
「おーい、カズトー!」
帰路に着こうとすると、俺に向かってケネディが走り寄って来た。
「はぁはぁ……やっぱりここから出て来たか。急いで来てよかった」
「そんなに息を切らしてどうしたんだ?俺に何か用か?」
「村長にお前が戻って来たら、集会場まで連れて来いって言われてな。んで、森に行ったって聞いたから、多分ここから出て来ると思ってな」
「何で俺がここから帰って来るってわかったんだ?」
「森に入る連中はここから出入りする奴が多いからな。それに、カズトは森に馴れてないし、もうすぐ暗くなる。だから、ここに来ればカズトが出て来るって思ってな。そしたら大当たりってわけさ」
へえ、直情型の単なる脳筋かと思ったけど、なかなかどうして頭が働くタイプだったのか。
「予想が当たってよかったよ。間違ってたら、村長にドヤされるところだった」
「アーロンってそんなに怖いか?」
「カズトは付き合いが短いから知らないのさ。村長が怒るとヤバいってのは、村の人間なら常識だぞ」
「そうなのか。あんまりイメージできないな」
「今度、俺達の稽古を見に来ればいい。村長のヤバい姿が見られるからさ」
「そう言われると興味あるな。そのうち見学しに行くよ」
「ああ、待ってるよ。って、こんな所でのんびり立ち話ししてたら、せっかく間に合ったのに、雷が落ちる!さ、行くぞ!」
そう言って、ケネディが俺の手を握り、引っ張って歩き出した。
「お、おい、自分で歩くから引っ張るなよ!それにまだ暗くなってないんだから、普通に歩けばいいだろう!」
「あ、悪い悪い。怒られるのが怖くて、ちょっと気が急いてたわ。じゃあ、雑談でもしながら行くか」
ケネディは握っていた俺の手を離した。
何が悲しくて男と手を繋がなくちゃいけないんだよ。手を繋ぐなら可愛い女の子がいいに決まってる。
「ああ、そうしよう」
「そういえば、村長に聞いたんだけど、お前、記憶喪失なんだってな」
「ああ」
「それなのに、戦い方は忘れてないんだな。村長に聞いた時は冗談だと思ったよ。なんせ、普通に戦ってたからな」
「当たり前だ。何千何万と繰り返し鍛練した技は忘れないさ」
「カズトは凄いな。俺も毎日修行してるけど、記憶喪失になったら忘れそうな気がする」
「そういえば、ケネディ達の中じゃ誰が一番強いんだ?」
「ん?そうだな……総合力なら俺が一番だが……ヨセフもレーガンも特化型だからな。模擬戦の成績もどっこいどっこいだから、一概に誰が一番かって決めるのは難しいな。やっぱりもっと修行しないと駄目だ。でないと、村長の一番弟子を名乗れねえよ」
へえ、割と冷静に分析してるんだな。てっきり、自分が一番だと断言すると思ってたんだけど。
「なあ、どうしたらカズトみたいに強くなれるんだ?」
「そうだな……それなら、一つアドバイスをしよう。闇雲に修行するんじゃなくて、なりたい自分をイメージすれば効率がいいぞ」
「なりたい自分?」
「そうだな、例えば、ケネディがレーガンみたいな筋肉が欲しいと思ったとする。しかし、普通に修行してもああはならない。そこで、レーガンみたいな自分をイメージして修行すれば、ケネディも筋骨隆々になれるって寸法よ」
「へー、そんなに変わるもんなのか?」
「俺を見れば、実際に効果がある証明になるだろ?」
「なるほどな、確かに信頼できる方法だ。早速明日からやってみるよ。ありがとな、カズト」
「ちなみに、どんな自分をイメージするんだ?」
「うーん、やっぱり目標は村長かな。カズトを目標にしようかと思ったけど、イメージだけでどうにかなる強さじゃないからな。だから、手が届きそうな村長にするよ」
「ははは、俺が無理だからアーロンにするって、さすがにそれはアーロンが可哀想だろ」
「それはそうだが……でもよ、村長を超えたら、村一番の剣士になれるんだぜ?俺のガキの頃からの夢なんだ。だから、村長が目標でいいんだよ」
「そっか、ならその夢、俺も応援するよ」
「ありがとよ。精一杯頑張るからな」
そんな会話をしながら、俺とケネディは集会場に向かって歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます