申請の破棄を

 

 この話し合いでこちら側が達成しなければならないことがいくつかある。

 それは婚約の際に決めた契約に関して、ヘキスト家が無断で進めていることを止め、申請を破棄させること。それと、俺とカイラの婚約を白紙にし、こちらが契約の実行を進めることだ。他にも、今後の関りを絶つなどが在るが、それは婚約を破棄し契約を進めれば結果的にそうなるだろうから優先度は低めだ。


 この内、最低でもヘキスト家が申請した契約は止めなければならない。まあ、俺が生きていたことで申請は強制的に停止させられるだろうが、ヘキスト家がどのような反応を示すかがわからない以上、最優先で止めなければならない。



「そもそもそいつは本当にお前の息子か? まさか、契約を実行させないために別人を偽って用意したのではないか?」

「まあ、そう思われるのも無理はありませんね。かく言う私も最初は疑いましたから。とは言え、さすがにそんなことはしませんよ。しっかり本人だと証明できています」

「本当なら証明した証を出せ」

「ええ、こちらですね」


 父さんが、俺がルークであると証明する書類をカイラの父親に見せる。


「ふん。確かに本人のようだな」


 それは言われるだろうとは思っていたけど、大して何も思っていない相手からでも、本人かどうかをこの場で疑われるのは少し傷つくな。しかも、本人だと証明されたら悪態をつくとか本当に嫌になる。


「……本人が生きている以上、申請は一時的に止めよう」

「一時的に止める? 何故破棄されないのでしょう」

「何故、破棄しなければならない? 止めてやるのだ。何か問題があるのか?」

「それは、いずれ私の息子が死ぬと言うことでしょうか。ああ、言い間違えました。私の息子を殺すと言うことですかね?」

「……何故、そんなことをしなければならない」

「申請を破棄しないと言うことは、そう言うことでしょう? 既に一度、そうしようとしていますし、何か違いますかね」


 本人が同じ場に居るのに死ぬとか殺すとか言うのは止めて欲しいが、カイラの父親の沈黙が長すぎだろう。しかも舌打ちするとかさぁ。おいおい、もしかして今後闇討ちとかに気を付けないといけない生活になったりするのか? やめて欲しいんだけど。


「…………そんな訳ないだろう。ちっ、ああ、そうだな。確かにそう疑われても仕方がない。申請の方は破棄しよう」

「それは良かった。では申請の破棄は貴族院の方で進めていただきたく思います」

「了解しました。こちらで破棄の手続きを進めます」

「ふん」


 父さんが同席していた貴族院の人にお願いをする。あっちに任せておくと手続きをしないのが目に見えているからな。正しい判断だと思う。まあ、元からこのために呼んだようなものだけどさ。


「話は終わりだな」

「いえ、まだあります」

「む? この場は我が家が進めていた申請を止めるのが目的だったのだろう。なら、話し合いは終わりだ」

「ははは、それで終わる訳がないでしょう。そもそも私は初めに、婚約に関する話と言ったでしょう? 申請についてはその内の1つでしかありませんよ」

「何を言っている? 息子が生きていたのなら、婚約の話は維持されるだけのはずだ。話し合いが必要だとは思えん」


 これでカイラ側に非が無ければ終わりなのだけど、そもそもカイラが俺を殺そうとしたからな。はいそうですね、で終わる訳がない。


「いえ、それが必要なのですよ。子爵様がご存じかどうかは分かりませんが、カイラ様の方に問題がありましてね。それについて話し合いが必要なのです」

「……ふむ、そうか」


 カイラの父親は、父さんの言葉に対して余裕そうな態度を示した。

 おそらく俺を殺そうとしたことの話だと判断しての態度だろう。しかし、これから話す内容はそれだけではないのだ。


 俺はこの後の話を上手く進めるために用意していた書類などを、部屋にある棚から取り出して目の前にある机の上に置いた。

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