現状を確認していく

 

「そう言えばここは何処なんだ? 確か俺は湖に落ちたはず」


 改めて周囲を見渡してみる。目の前に居るウンディーネがきた方向以外は、やはり岩肌で覆われた空間だ。おそらくと言うかほぼ確実に洞窟の最奥だと思われるが、上を見ても穴が開いている訳ではなく何故この空間が明るいのかがわからない。


「ここ…は、わ…たしのね…どこ」

「寝床か。と言うことは君が俺をここまで運んだのか?」

「そ…ぅ」


 なるほど。まあ、他に運ぶようなところが無かったのだろう。ただ、少なくとも湖からそこそこ距離がありそうなのだけど、この子が俺をここまで運んだんだよな? 俺は太っている訳ではないが男だからそこそこ重いはずなのだが、どうやってここまで運んで来たんだ?


 見る限り引き摺って来たような跡はないし、俺の体には引き摺られたような傷もない。

 と言うことは……担いでここまで運んだのか? まさか、この子結構な力持ち? いやいや、まさかあの細腕で俺を持ち上げるなんて出来るようには見えない。

 もしかしたらここに運ばれてから時間が立っているのかもしれない。それなら引き摺られた跡がないのはわからなくはない……


 いやでも、俺はウンディーネについて詳しく知っている訳でもないからな。もしかしたら人よりも力が強いのかもしれないし、ウンディーネは精霊だから魔法で運んだのかもしれない。と言うか、魔法を使ったのだろうな。さすがに力があったとしても、この子の身長からして俺を引き摺らずに運ぶのは無理なはずだ。


 一応、人でも魔法は使えるが、人を1人運ぶだけでも相当な才能が要る。普通に魔法が使える者でも水が入ったバケツを浮かせるのが精々なのだ。しかし、精霊なら人を運ぶ程度簡単に出来るだろう。


「そう言えば俺はどのくらい寝ていたんだろう」


 俺はそう言ってウンディーネの方を見るが返事はない。


「俺が何日寝ていたかわかるか?」


 言葉を変えてもう一度聞いてみると、ウンディーネは俺が聞きたいことを理解したようだ。ただ、言葉ではなく何故かピースサインを出してきた。


「えっと、……ああ、2日ってことか」


 合っていたのか嬉しそうにウンディーネが頷いている。うん、かわいい。若干子供っぽいとは思うけどな。


 しかし、言葉を交わしている感じやっぱり話すのに慣れていないな。ああ、いや、ウンディーネって精霊らしいから人と言葉を交わす機会なんてそうある訳ではないよな。それなら、話すのに慣れていないのも理解できる。


 ただ、今まで碌に人と話したことがなかったとすると、逆に何で俺の言葉を理解して拙いながらも話すことが出来るかが気になるな。もしかして昔に人と会ったり話したりしたことがあるのか?


「なあ、ここに俺以外の人間が来た事ってあるか?」

「ない。なん…で?」


 俺がこの子の家に初めて来た男か、と一瞬喜びの気持ちが沸き上がったがここはどう見ても寝床としてしか使っていない場所なのは見ればわかる。装飾品は無いし、ベッドとして使っているだろう藁っぽい草が敷き詰められている場所があるだけだ。


 正直、ここは女の子が生活しているような場所には見えないし、そもそもウンディーネに人間と同じような価値観があるようには見えないからな。


「君は俺の言葉を理解しているようだし、多少言葉を話せているだろう? だから、過去に人と接していたのかもしれないと思ったんだ」

「わたし…は、ひと…にあったの…は、あなた…がはじ…めて」

「そうか。いや、わたしは、ってことは他のウンディーネは人に会ったことがあるのか?」

「おか…さんが、あった、こと…ある」

「あぁ、そういうことか」


 この子の母親が人に会ったことがあるのだな。だから、その話なり知識なりをこの子に伝えた結果が今の状態なのか。

 と言うか、ウンディーネって人と同じように親が子をなして種を存続させているのか? このお母さん、と言うのがこの子の血縁上にあるのか、単に育ての親的な存在なのか、今は判断できないな。

 いや、別にそれはどうでもいいことだな。血の繋がりが親子ではないし。


 と言うかこの子、初めて会った人間を自分の住処に運んだのか? 警戒心が薄いと言うか、危なくないか?


 ……まあ、その辺りは俺が注意してやればいいか。助けてもらった恩もあるからな。それ以外に何が出来ることがあればそれをしてもいいんだし。

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