第9話 日本語文法(9):やる・くれる・もらう動詞

 「やる」は丁寧な言い方だと「あげる」ですね。

 日本語には「やる(あげる)」「くれる」「もらう」の関係があります。




やりもらい動詞(本動詞)

(1)母が子どもに小遣いをやった。(あげた。)

(2)母が私に小遣いをくれた。

(3)子どもが母に(から)小遣いをもらった。


 まず(1)「やる(あげる)」ですが、これは簡単ですよね。主役は「母」で、小遣いの流れは「母⇒子ども」です。つまり主役が相手に送ったことになります。

 (2)「くれる」ですが、主役は「母」で、小遣いの流れは「母⇒私」です。つまり主役が話者である「私」に対して送ったことになります。

 主役が「母」で、送られる相手が話者である「私」やその関係者の場合は「くれる」を使います。

 (3)「もらう」ですが、主役は「子ども」で、小遣いの流れは「母⇒子ども」です。つまり主役が相手から受け取ったことになります。

(1)母が子どもに小遣いをやった。(あげた。)

(3)子どもが母に(から)小遣いをもらった。

 と受動文の関係になっています。これは「くれる」も同様です。

(2)母が私に小遣いをくれた。

(3’)’私が母に(から)小遣いをもらった。





やりもらい動詞(補助動詞)

 やりもらい動詞の「やる(あげる)」「くれる」「もらう」は、もちろんそのまま使う場合もあるのですが、実際には「補助動詞」として使うことが多いですね。

(4)母が子どもに英語を教えてやる。(教えてあげる。)

(5)母が私に英語を教えてくれる。

(6)子どもが母に(から)英語を教えてもらう。

 とこのように「〜てやる(てあげる)」「〜てくれる」「〜てもらう」のように動詞の語尾に付いて授受の関係を表すのが「補助動詞」としての使い方です。


 この「補助動詞」、事実だけを説明するならなくてもかまわないのです。

(4’)母が子どもに英語を教える。

(5’)母が私に英語を教える。

(6’)子どもが母に(から)英語を教わる。(教えられる。)


 確かに事実だけならきちんと説明が付きますが、今ひとつフィーリングが合わない方もいらっしゃるでしょう。

 それは授受の「やる(あげる)」「くれる」「もらう」には、「心遣い」が含まれているからです。「やる」はややぞんざいな言葉ですが、それでも幾ばくかの「心遣い」を感じます。


 これは敬語にするとさらにわかりやすくなります。

(4’’)母が子どもに英語を教えて差しあげる。(尊敬)

(5’’)母が私に英語を教えてくださる。(謙譲)

(6’’)子どもが母に(から)英語を教えていただく。(尊敬)


 どうでしょうか。(4’’)(5'’)(6’’)は母の心遣いがありがたい、というニュアンスが感じられるはずです。


 これがやりもらい動詞が持つ心遣いの感情を端的に表しています。

 もし心遣いの感情を排したければ、やりもらい動詞を省けばよいのです。

 その行為に心遣いを感じるからこそ、やりもらい動詞は必要とされます。





日本語学習で憶えたいポイント

(1)「やる(あげる)」「くれる」「もらう」の三つを総称して「やりもらい動詞」という

(2)「やる(あげる)」はAからBへ、「くれる」はAから私へ、「もらう」はBからAへ

(3)いずれも心遣いを付与する補助動詞としても使える

(4)敬語にするとさらに心遣いが強調できる




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