第19話 得意を極める

 前回は「あらゆるジャンルに挑戦しよう」だったのですが、今回は真逆とも思える「得意を極める」です。


 この作者、なにを血迷っているのか。


 そう思われることを承知で書きます。




 おそらく今回のサブタイトルを読んで「前回と真逆じゃないか」とおっしゃる方が多いと思います。


 しかし私は「得意なジャンルを極める」とは書いていません。


 極めるのは「ジャンル」ではないからです。




 私は小学2年生の頃からコンピュータが大好きで、そこから数十年コンピュータのあらゆる面を極めてきました。

 だからたいていのトラブルは自力でなんとかなります。


 つまり私は「得意なコンピュータを極めて」いるのです。


 この「得意なこと」は小説を書くとき、無二の武器となります。


 たとえば「現代ファンタジー」でコンピュータを使って悪魔召喚をする西谷史氏『女神転生 デジタル・デビル・ストーリー』なんて、コンピュータについてある程度詳しくなければ思いつかない発想です。


 「コンピュータ」を使ってなにができるか。


 「VRMMORPG」に発想を飛ばしたのが川原礫氏『ソードアート・オンライン』です。これも「VR」と「MMORPG」を知らなければ思いつきません。


 このようにひとつのことを極めていくと、その途中で得られる知識に「物語の種」が秘められていることに気づきます。


「この技術を使えばこんなことができるな」


 それが思いつくかつかないか。

 ひとえに得意を極めたかどうかにかかっています。



 現在ではあまり存在しないのですが、剣術を教えてくれる道場がいくつかあります。

 ここで剣術に詳しくなれたら「異世界ファンタジー」で剣術を書くとき、知っているからこそのリアリティーあふれる描写ができるのです。


 私は一カ月だけ剣道道場に通ったことがあります。足のケガでやめたのですが。

 それでも竹刀や木刀はどう握ればよいのかや、歩の進め方退き方などには詳しいつもりです。


 また書籍を通じてではありますが、中学生時代に中国拳法にハマって基本的な構え方や足の運び方、螳螂拳のようないくつかの形意拳も試しました。

 さらにアクロバット好きだったので、砂場や土の上でバク転やバク宙の練習を毎日コツコツ積み上げていきました。最終的には中学3年生のときに後方2回宙返りまではできました。


 私は始めたらとことん極めないと気が済まない性格で、今でもなにかを極めようと行動しています。

 たとえば小説にデイトレーダーを出したいから株式投資を始めたり、タロット占い師を出したいからタロットを学び始めたり。


 いずれも「小説で書いて嘘にならないだけの知識が得られるまで」極めるつもりでいます。


 人生のうちで、なにかひとつのことを「極めた」経験のある人は強いのです。


 なぜなら、一度「極めて」いるので、他のことも「極める」のに努力を惜しみません。




 プロの小説書きになろうと思ったら「小説を極める」のが筋だと思いますよね。


 ですがそれは最低条件なのです。


 プロになれるのは「小説を極めた」からであって、それは現役プロも皆同じ。


 他に武器がないと競争には勝ち残れません。


 なにかひとつでよいので、他の小説書きとは異なる「差別化」できる武器を持ちましょう。



 私は体を動かすことが好きだった、というより貧家の生まれで他にやれることがなかったからでもあります。

 小説書きで私より体術が得意な方は少なくとも半数を超えないでしょう。


 だから体術を含めたバトルシーンの描写に活かせたら、リアリティーを感じさせられるのではないか。

 今はまだ技術が追いついていませんので、そこまでには到達しておりません。

 ですが、技術が追いつきさえすれば、私にはかなりの武器が揃っています。


 たとえ武器が足りなくとも、勉強を惜しみませんので凡百よりは上に立てるはず。

 とくに体験を通じての学びが得意なので、一度ハマると強い傾向にあります。



 もし体を動かすのが不得意で、だから「異世界ファンタジー」で剣と魔法のバトルを描いているのでしたら、そういう方はすぐに私のような人間に追い抜かれます。


 バトルの駆け引きは体験しないとわからないからです。

 私は学生時代、ケンカが絶えませんでした。だからケンカの駆け引きについては一家言あります。

 ですが、小説書きは穏やかな方が多くて、若い頃も含めてバトルの経験が少ない。


 そんな方が書くバトルシーンより、経験豊富な人が執筆技術を身につけて書いたバトルシーンのほうが面白いに決まっています。


 もちろん想像のほうが荒唐無稽で面白くなるケースもままあります。

 でもすべての書き手が想像だけでリアルより面白くなるとは限らない。




 なにかひとつでよいのです。


 誰にも負けない「得意を極めて」ください。


 歴史の知識なら誰にも負けない。

 そういう方が歴史小説を書くから売れるのです。


 料理の味にうるさい。

 だからグルメ小説がハマるのです。


「でも剣と魔法のファンタジーは極めようがないよね」


 剣の握り方や振り方、足さばきなどは、剣術や剣道に触れれば極められます。

 魔法は知識と思って、あらゆる魔法の種類を憶えるようにしてください。


 西洋の四大精霊は火水風土。中国の五行は木火土金水。


 こういった知識が魔法の礎なのです。

 単にひとつのゲームから魔法を拝借しただけでは、面白い魔法なんて書けません。


 数多くの魔法に触れ、どんな魔法がどのような作用で発生して、どのような効果を生むのか。

 そこまで深く考えるから、他に類を見ない知識にまで昇華するのです。




 「得意を極める」とはジャンルではありません。


 描写するのに不可欠な知識と情報を「極める」のです。


 圧倒的なまでのリアリティーは、読み手を深く小説世界に惹き込みます。


 少しでも「そんな馬鹿な」と思われたら、その場で引き返されてしまうでしょう。


 「誰にも負けない」ほど「得意を極める」。


 その自信が確かな描写を裏付けるのです。



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