第15話 傾向と対策より首席合格を目指す

 「小説賞・新人賞」を狙ううえで「傾向と対策」にどれだけ重きをおくべきか。


 この問題は、書き手の数だけ正解が存在します。


 私は「傾向と対策」を行なっていては、仮に受賞してもそのあとおおいに苦しめられると思っています。


 多くの人が感じているように、「傾向と対策」をしてウケのよい作品の模倣をする書き手は掃いて捨てるほど存在します。


 少なくとも応募策の半数以上が「傾向と対策」済みでしょう。


 過去の受賞作のポイントやコツを見つけて、自作に入れ込む。

 そうすれば選考さんのウケがよくなるはずだ。


 実は、この発想が危険なのです。




 過去受賞作で「傾向と対策」をすれば自分も大賞が獲れる。


 そう考えているのがあなたひとりであれば、確かに「傾向と対策」には意味があります。


 ですが「小説賞・新人賞」へ応募する作品の半数以上が「傾向と対策」がバッチリできている小説だったら。


 選考さんはきっとこう思うでしょう。


「なんか読んだことのある作品ばかり大量に送られてきて嫌になるよ」


「もっと独創性のある作品が書けないものかね」


 という具合に。


 選考さんだって人間です。

 同じようなものを何度も何度も繰り返し読まされたら、たとえその中に受賞にふさわしい作品があっても見抜けなくなってしまいます。

 誰にだって「飽き」は来るのです。


 もし高校や大学の入学試験の解答だったら。

 分量も少ないですから、たとえひとり500件割り振られても、気持ちを切り替えつつ最後までマルバツをつけられるでしょう。


 ですが「小説賞・新人賞」へ送られてくるのは、全員まったく異なる回答が書かれた10万字を超える文字の羅列です。

 これだけで挫けそうになるのに、内容がほぼ同じ「傾向と対策」に則っていたら。


 私ならノイローゼになってしまうでしょうね。


 しかも選評を必ずつけなければならないとしたら、般若心経を百万遍唱えるようなものです。


 いえ、般若心経はご利益があるぶんまだましです。

 「小説賞・新人賞」の応募作を読んだところで、ご利益なんてありません。

 それなのに読んでも読んでも同じ「傾向と対策」をしている作品ばかり。


 これであなたの作品が目立てるとお思いですか。



 本気で「小説賞・新人賞」を狙いたいなら「傾向と対策」は捨ててください。


 仮に「傾向と対策」で受賞できたとして、その後の大幅な改稿や二作目、三作目も面白い作品が書けるか、にえられるでしょうか。


 東京大学に満点で首席入学するのは「傾向と対策」をした人ではありません。

 どんな問題が来ても答えがわかる人です。


 「傾向と対策」とはその程度のものなのです。


 あなたは、たまさか「傾向と対策」が当たって入試を突破した人になりたいのでしょうか。

 それとも、全問正解して満点で首席入学する人になりたいのでしょうか。


 これは野心の問題かもしれません。


 確かに言えるのは、「傾向と対策」で通過できた人は、裏付けがなく薄っぺらいということです。

 すべての教科で余すところなく知識を吸収している人は、どんな問題が来ようといっさい動じません。瞬時に正答できるからです。


 「小説賞・新人賞」を「傾向と対策」で通過してしまうと、編集さんとの改稿のやりとりで薄っぺらさを痛感するでしょう。




 手っ取り早く「自動車運転免許試験」について述べます。


 「傾向と対策」をしっかり練って、80点でギリギリ合格した人もいますよね。

 あなたはこの人の運転する自動車に乗りたいでしょうか。


 確かに「自動車運転免許」は所有しています。

 でもこの人は二割誤答した人なのです。

 つまり運転ミスをする確率も二割あります。


 それでもこの人の運転する自動車に乗りたいでしょうか。



 「小説賞・新人賞」を「傾向と対策」で獲ってしまうと、この「二割運転ミスするドライバー」と同じなのです。

 いつか必ずミスを犯します。


 百点満点で合格した運転手なら安心して運転を任せられますよね。

 交通ルールである「道路交通法」を完璧に憶えているのですから、運転ミスの発生率自体を下げられます。



 私が運転免許で不思議に思うのは、「道路交通法」を八割しか憶えていない人にも交付されることです。

 交通事故を起こす確率が二割の人に、公道の通行許可を与えています。

 これで「交通事故ゼロ」を叫ぶのは背反しています。


 もう運転免許証は返上しているのですが、私は九十八点で免許を交付されました。

 それでも二%の運転ミスを犯す可能性があるのです。

 だから私は、どこを間違ったのか教えてくれるとのことで、運転免許証交付窓口の脇にある事務所で不正解の問題を聞きました。


 一問ミスしただけの私でも全問正解しないと落ち着かない。

 それなのに八十点以上を取って運転免許証を交付された人は、なにごともなかったかのように交付手続きをして帰っていきます。


 これは「傾向と対策」をしていた人と、全問正解して首席入学したい人との意識の差でしょうか。


 私は手術の関係上、格下の定時制高校に入学し、全日制高校でも進学校を選ぶ生徒ほどの点数で入試を突破しました。

 当然首席入学なので入学式の新入生代表に選ばれました。


 このとき「傾向と対策」はまったくしていませんでした。

 英語が大の苦手ですが、他の教科は少なくとも八割の正答率を誇っていましたし、格下の高校なのでゆとりもあったのでしょう。


 だからいつもどおり八割以上正解して合格したのです。




 「傾向と対策」をして挑むのは、一見効率的です。


 しかしそれが「実力」かと問われれば否でしょう。


 「傾向と対策」でヤマを張り、たまさか当たっただけです。

 実力ではなく運がよかった。



 「小説賞・新人賞」の選考も同様です。


 「傾向と対策」で武装しても、ヤマが外れれば選考を通過できません。

 しかも関門はひとつではありません。


 一次選考、二次選考、最終選考までする「小説賞・新人賞」も存在します。


 いずれも十分の一ほどしか残さない、逆に言えば十作に九作は落とされるのです。


 「傾向と対策」をバッチリして一次選考を通過しても、二次選考、最終選考まで残れるものでしょうか。

 判定するのはすべて別の選考さんです。


 「傾向と対策」で一次選考の選考さんに認めてもらえても、二次選考、最終選考の選考さんのお眼鏡に適うかどうか。


 首席合格を目指して勉強している人は、「傾向と対策」でヤマなんて張りません。


 習ったものはすべて記憶し、いつでも発揮できるように研いでいる。

 どんな問題が来てもスキがない。


 しかも首席合格しようと「志が高い」ので、いっさいの妥協をしません。


 自分にできる最高を叩きつける。


 あとはこの作品をどこからでも評価してくれ。


 そういう心境でいられます。


 そして大賞を獲るのは「傾向と対策」を施した作品ではなく、「志が高い」作品です。


 どのレベルの選考にあっても微動だにしない。

 確固たる物語がそこにあります。


 物語が薄っぺらくないのです。



 小説投稿サイトで人気を得る作品と、「小説賞・新人賞」を獲る作品はまったくの別物です。


 その証拠に、小説投稿サイトで一番人気でも紙の書籍化せず、三番手でも紙の書籍化する作品が存在します。


「小説投稿サイトで人気を博して、紙の書籍化だ!!」


  捕らぬ狸の皮算用。


 これで「小説賞・新人賞」が獲れるなら、小説投稿サイトは純粋に利用者ウケする作品を書けばよいのです。

 実際には獲れないのですから、「傾向と対策」として利用者ウケだけを狙っても意味がありません。


 選考さんウケだけを狙っても同様です。


 どうせ「傾向と対策」を立てるなら、利用者にも選考さんにもすべての人にウケなくては意味がない。


 なにせ、あなたの競争相手は首席合格を狙っているのですから。

 「志」が違います。


 「傾向と対策」では合格点ギリギリだったものが、首席合格を目指せば限りなく満点に近づくのです。



 「傾向と対策」をする暇があるのなら、首席合格するつもりでご自身を磨き続けてください。


 「小説賞・新人賞」の首席合格は大賞です。

 必ず大賞が獲れる作品を書きましょう。


 そのくらいの意気込みがあれば、あなたも首席合格できるはずです。


 「いつか小説賞・新人賞を獲って紙の書籍化したいなぁ」

 と思っているうちは絶対に首席合格できません。


 最初から「大賞を獲る」つもりでいてください。

 「志」の違いは文章に表れます。


 自信を持って書いているのか、「傾向と対策」から逸脱しないよう手探りで書いているのか。

 選考さんは必ず見抜きます。



 「志」のある文章はいっさいブレません。


 それが自分の文章であり、物語なのだ。

 批評したければすればよい。

 必ず首席合格できる。

 と、自信に満ちているのです。



 よく「場馴れ」と言いますが、応募を繰り返していると貫禄がついてきます。

 「場馴れ」して文章に落ち着きが生まれるのですね。

 そして受賞するのは、文章に落ち着きのある作品です。

 「場馴れ」した文章には自信が感じられて「志」も高いように見えます。


 どうしても首席合格するほど「志」を高く保てないのでしたら、「場馴れ」してください。

 「場馴れ」すれば、そのうち首席合格できるまで実力を高められます。


 まぁ四浪しても入学できない人も世にはいるんですけどね。



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