第23話 第四の事件! 事件は連鎖する

◾クリス


 少女はつるの動きを止めた。



「まさか勝利を確信しているわけじゃないよなぁ?」

 


 少女はようやく自分の足元に異変が発生していることに気がついたようだ。

 少女の足はロードスターの座面からまったく離れない。そう、足と座面が氷でくっついているからだ。

 俺は人差し指を立てて左右に振り、


「ダイヤが戦闘不能になったと思っているのか? その考えは甘い。チョコレートよりもな。そもそも血が出てないことくらい見りゃわかるだろ。ダイヤの第六感はAランクだ。銃弾が発射されたときにはすでに強化氷塊は完成してるんだよ。だからダイヤには当たらなかった。迫真の演技だっただろ? これでも元演劇部なんでねぇ、俺たち」


「そ、そんな!?」



 少女は俺の説明中に何食わぬ顔で起き上がったダイヤを見て目を丸くした。

 ダイヤは次々と空中につららを形成する。



「俺たちの作戦勝ちだ!」


「……ん!」



 ダイヤは至近距離で敵ガイストにつららを放つ。少女は対応しきれずそれらを全身に浴び、



「ぐはッ!」



 後方に吹き飛ばされ地面にぶっ倒れた。

 俺は狙撃手からの射線を切りながらガイストの少女の様子をうかがう。



「かなりダメージを与えたが、まだ油断はするな。ダイヤ、トドメをさせ」


「……ん、わかった」



 再び空気中の水分からつららを形成していると、



「いたぞ! こっちだッ!」



 ちッ! さっきのザコどもが追って来やがった。

 このままここにいたらザコどもにやられちまう。



「ダイヤ、乗れッ!」


「ん!」



 俺とダイヤは再びロードスターに乗り込んだ。



 ――バンッ!



 その際狙撃により俺は左肩を貫かれてしまう。ちくしょう痛てェ! だが胴体を撃たれなかったのは幸運だ。

 俺はアクセルを思い切り踏み痛みをこらえてハンドルを操作する。



「防御は任せたぞダイヤ!」


「ん! わかった!」



 背後からザコどもが小銃をフルオートでぶっぱなしてくる。→



「このままじゃジリ貧だ。ここから屋上の野郎は狙えるか!?」


「……無理。もっと近くに寄らないと」


「わかった! 飛ばすぞ」



 俺はさらにアクセルを強く踏み、加速していく。前方の車両を逆車線にはみ出して追い越し赤信号も盛大に無視する。周辺はパニックになるが俺は気にせずにアクセルを踏み続ける。



 ――ドーンッ!



 再び前方から狙撃された。

 蛇行運転をしていたので今度は運良くサイドミラーに直撃してくれた。危ねェな。

 そしてザコどもが乱射した弾がタイヤに命中してパンクしちまった。

 運転が乱れ、ロードスターは電柱に激突。



「あぐァッ!」


「……っ!」



 シートベルトをしていなかった俺たちは空中に投げ出される。

 ダイヤは瞬時に空中でつららを形成し歩道脇に設置されている消火栓目掛けてそれを放った。

 消火栓は破壊され大量の水が噴き出す。

 ダイヤはその水を集結させて大きな塊を形成し俺とダイヤはその中を通過。地面との衝突の勢いが弱まり体を強く打ち付けただけで大きな怪我をせずにすんだ。



「まじで助かった。ありがとうダイヤ」


「……ん」



 ダイヤは小さく返事して頷いた。



「だが車はやられちまった。この状況は挟み撃ちクロスファイヤーだ。考えてる時間はない。走るぞ!」


「うん!」



 俺たちは走り出した。



 ――バンッ!



 銃声が響くのとほぼ同時、後ろから追ってきたガイストの腹から血が吹き出した。

 ダイヤが氷塊でビルの屋上から放たれた銃弾の軌道を微妙に変え敵ガイストまで誘導したのだ。



「……少し、参考にさせて……もらったよ」



 ダイヤは振り返って小さな声で言った。

 ガイストの少女は地面で小さくうずくまりお腹を押さえている。

 本当はこんなの見たくないさ。ガイストだって痛みを感じるしただの幼い女の子なんだから。

 でもしょうがないだろ! 戦うことでこの子を――ダイヤを守るって誓ったんだから! 今度こそ幸せにしてやるって誓ったんだから!

 するとガイストの少女は白い光に包まれ、やがて光そのものとなって屋上の狙撃手に向かって飛んでいった。

 そのとき、突然辺り一帯の明かりが全て消えた。



「停電か?」



 そう思った矢先、ビルの屋上で強い光が瞬いた。

 予備電源が稼働するよりも早く再び電気が復帰する。



「とにかく屋上へ急ごう!」



 俺たちはビルの中に入りエレベーターで屋上へ向かう。屋上の扉を開けた瞬間、驚愕した。



「こ、これは……」


「ッ!」



 黒いロングコートの女がうつ伏せで倒れていた。近くには狙撃銃がある。



「死んで……いるのか?」



 外傷はないが、死んでいる――殺されている、ということがすぐにわかった。



 To be continued!⇒

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