第17話 第二の事件の真相

◾隆臣


 神田川の近くにある和風の大きな平屋が豊園邸だ。



『お疲れ様ですッ!!』



 俺たちは当惑していた。凛とエースに関しては怯えて俺の後ろに隠れている。ジョーカーは何食わぬ顔をしてもみあげをくるくる弄んでいるが。

 玄関には、黒いサングラスをかけた白スーツの男たちがズラっと並んでいた。



「何これ?」


「部下だ」


「部下?」



 俺は思わず聞き返す。



「言っただろう? 父が暴力団の組長だったって」


「ああ」


「それで今は私が組長をやってるっているんだ」



 尚子は続けて、



山中やまなかはこの白髪しろかみの方を風呂に連れて行け。着替えも用意しろ。原田はらだはこの寝ている黒髪くろかみの方の傷の手当てをしてやれ。そのあとに頭を乾かして、体を拭いてから着替えさせろ。清水上しみずがみはこのスーツの男を手当しろ。武田たけだはこの2人を客間に案内しろ」



 と、手際よく部下に命令を下した。



『了解』



 部下はすぐに命令に従う。



「いいのか? こんなにしてもらって」



 俺は尋ねた。



「ふっ」



 しかし、尚子は謎に笑って立ち去ってしまった。



「なんなんだよあいつ」



 とにもかくにも、凛はお風呂場へ、俺とエースは客間へ、ジョーカーとクリスは別室に運ばれた。



◾隆臣


 凛が高級旅館のような大浴場で極楽している頃、俺とエースはすることがなく退屈していた。

 客間には掛け軸やら高額そうな壺なんかがある。


「ねぇねぇ隆臣ぃ! 指相撲しよっ?」


「指相撲? いいけど」


 エースはソシャゲなどは一切しない。ヒマなときはいつもこうやってしりとりとか指相撲とかそういう古い遊びをしたがる。

 俺とエースは手を握り合った。

 エースの手は相変わらずちっちゃい。だが指相撲は手の大きさで勝敗が決まるようなちゃちなゲームではない。



「いくよー! よーいのこったぁ」



 俺は指を反らしてエースの指が届かないようにする。



「むぅ! 隆臣いっつもそればっかり! ずるいよぉ」



「ズルくない。これも戦法」



 だが防御だけでは勝負には勝てない。仕掛けるか。

 俺はエースの小さな親指を上から押し倒す。



「12345678910! はい勝ちー」


「もっかいもっかい!」



 すぐに2回戦が始まった。



「12345678910! いぇーい2連勝〜」


「もう1回! 次は負けないからっ!」


「へいへい」



 エースの顔を見てみると、指相撲ごときで本気になっちゃってるよ。額には汗が浮き出てる。

 しかしあれだな。これ負けてやらないと一生続くパターンだな。

 第3試合は負けてあげた。


「やったぁ勝ったぁ! へへへ! うれしいっ!」


 エースは笑顔でガッツポーズをしている。本当にうれしそうだなぁ。かわいい。



 その後しばらくしりとりをしていると、ふすまがスっと開いて何人かの部下を連れた尚子とハートが来た。

 続いて尚子の部下から手当を受け、頭や腕、脚に包帯を巻いたり絆創膏を貼ったりしたクリスと傷が完治しているダイヤがやって来た。

 ガイストは使い手の体内由来の魔力粒子を消費することであらゆる外傷を一瞬で治癒することができるからな。

 敵だけど怪我して痛みに苦しむ女の子を見るのは本当に辛い。ダイヤが完治できてよかったとは思っている。



「さて、凛が上がってきたら話をするとしようか。それまではここでゆっくりとくつろいでいてくれ」


 尚子はそう言って畳にドカっとあぐらで座り込み、ハートも同様にする。ハートは尚子のマネをするのが大好きなんだな。

 クリスとダイヤも尚子たちの隣に腰を下ろした。

 尚子は身長が低いわけではないが、比べてもクリスはかなりの高身長で、俺でも少し見上げるほどだ。

 その横ではダイヤがちょこんと座布団の上に姿勢正しく正座している。まるで洋人形だ。南国の海のような透き通った水色の瞳と空のような鮮やかな水色の髪の毛がとても美しい。

 だがなんたる気まずさ。敵2組を前にしてこの静寂は俺とエースにとって非常に居心地が悪い。これじゃあ全然くつろげねーよ!




 そんな沈黙が15分ほど続くと、再び襖が開いて尚子の部下に案内された凛とジョーカーが、よく似合っていてかわいらしい浴衣を着て登場した。普段はハートが着ているのだろう。サイズはピッタリだ。

 そしてどうやらジョーカーも凛の体内由来の魔力粒子を利用して傷を完治することができたようだ。よかった。

 凛は俺の右隣に座った。いつもとは違ういい匂いがする。シャンプー&リンス、ボディーソープ、柔軟剤が変われば匂いも変わるからな。

 凛とジョーカーが座ったのを見て尚子は、



「クリス、詳しい話を聞かせろ」



 と。

 クリスはスーツのポケットからマルボロのメンソールを取り出して1本咥え、ライターで火をつけようとした。

 しかし凛やジョーカー、エースやハートの顔を見てそれを戻し、首にかけていたペンダントを取り出す。それは美しく透き通った虹色に輝く宝石のようなものだった。虹色の魔力石オリハルコンだ。



「ボスは虹色の魔力石オリハルコンを全部で5つ保有していて、5人の幹部にそれぞれ1つずつ預けた。そしてそのうちの1つを俺とダイヤが預かっていた。

 6つ目はイタリアの魔術師ナディア・イェルヴォリーノが所有していることがわかっているし、残りの1つについては詳細は不明だが、東京圏にはあるらしい」



 するとエースが、



「ナディア・イェルヴォリーノって、あのイェルヴォリーノ大学の創設者のエレナ・イェルヴォリーノの直系の?」



 と、尋ねた。

 クリスは首肯し、



「由緒ある魔術師の血統がゆえに、虹色の魔力石の1つを保護している。ボスはイタリアでナディアから魔力石を奪おうとしたがナディアは逃亡して行方をくらませた。そのためボスは何人かの幹部をイタリアに残して東京の虹色の魔力石オリハルコンを回収するために日本にやって来た。

 日本に来た組織の幹部は俺たちを除いて残り5人いる。俺らも尚子たちも会ったことがないから他にどんな能力をもつガイストがいるのかはわからない。だが、いずれにせよ強力な能力を保持しているだろう。

 そしてもう1つ言えるのは、ボスは5人の幹部を刺客として送ってくるだろうということだ。ボスの第一目標はロザリオの入手。そのためならどんな手段もいとわない。確実なる安心感を求めて部外者や目撃者は皆殺しにするだろう」



 そのクリスの説明を聞いて一瞬沈黙が流れたが、俺はすぐにそれを破る。



「ボスがそこまでしてロザリオを手に入れたい理由は何だ?」



「それはわからない。だがそこまでする価値がロザリオにはあるのだろう。とにかく、俺たちは自分たちの身を自分たちで守らなければならない。そしてそれは尚子の仇討ちにつながりボスにロザリオを手に入れさせないことにもつながる」



 クリスは話し終えてコップの緑茶を飲んだ。



「にしても日本の茶は不味いな」


「黙って飲め」



 尚子は素早くツッコミを入れた。



「だから俺たちに何をしろってんだ? 死にたくないなら戦えってか?」



 俺は問う。



「そういうことだ」



 尚子が頷く。



「たしかに、この子たちや他の人に危害が及ぶのは見過ごせないし、というよりすでに凛とジョーカーが敵幹部に襲われた。被害が拡大するのをただただ傍観しているだけなのは気持ちが悪い。だから俺はおせっかいではなくこの子たちのために戦う。この子たちを守る。それが俺の――家政夫としての務めだ」


「うん!」



 俺は言いエースも大きく頷いてくれた。エースはいつでも俺の味方になってくれるからうれしいぜ。さっすが相棒!

 それに続いて凛とジョーカーは、



「隆臣がやるならわたしもですっ!」


「凛がその気なら、わたしももちろん協力するわ」



 と、快く言ってくれた。

 俺たちのその言葉を聞いて、



「そうか。それはよかった」



 尚子はホッと息を吐いた。



「だが、その前に1つだけ聞いておきたいことがある。クリスとか言ったな? お前はどうするつもりなんだ?」



 と、俺はクリスに問う。こいつが信頼するに足る男なのか。まずは言葉からだ。



「俺はお前たちに協力する」


「理由を聞かせてくれ」


「俺も単なるおせっかいではない。これは罪滅ぼしだ」


「罪滅ぼし?」


「知りたいか?」


「いいや、興味ないね」


「そうか」



 そこでまた沈黙が発生した。



 To be continued!⇒

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