第12話 第二の事件! 三鷹和也の話

◾隆臣



 翌朝。ゴールデンウィーク1日目の朝にしては落ち着かない朝だった。

 きのう尚子からあんな脅迫じみた提案を投げかけられたのだから当然だ。

 俺たちの命を狙ってマフィアの幹部が襲撃してくる? 本当か?

 それ以前に尚子の言ったことに対して様々な疑問が浮かんでくる。

 キリがないし、尚子の信憑性のない話で悩まされるのも腹が立つので俺とエースは考えるのやめてきのうははやめに寝た。

 とにもかくにも、いつも通り三鷹家に訪れ虹彩認証で玄関のロックを解除して中に入る。



「おはよう。2人とも起きてる?」



 ――しーん



 どうやら凛とジョーカーはまだ寝ているようだ。

 6時30分だし、もう少しだけ寝かせてあげよう。

 とりあえず俺とエースはキッチンで4人分の朝食を作り始める。

 しばらくしておいしそうな匂いで目を覚ました凛とジョーカーが芸術的な寝癖をつけてリビングにやって来た。

 本当に双子みたいだな、この2人。顔も仕草も身長も体格も何から何まで。かわいいねこちゃんパジャマも色違いだし。

 日本の朝の顔たる水卜麻美アナウンサーは今日も明るく元気だ。魔術学園の裏庭で自然発火による火事が発生したというフェイクニュースに俺は呆れて何も言えなかった。

 ご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き、漬物といったごく一般的な朝ごはんを食べて歯を磨いて顔を洗って諸々して…………9時30分になった。

 俺は凛とジョーカーに、



「2人は今日どうする予定?」



 と、尋ねる。



「わたしは秋葉原に行くわ。今日はイベントの最終日だから、行かなくちゃダメなの」



 ジョーカーは張り切ってそう答え、



「ジョーカーが行くならわたしも行くよ。隆臣とエースは今日はどうするんですか?」



 ジョーカーに便乗した凛は俺とエースに同じ質問を返した。



「俺たちは和也さんのところに行く。きのうのことについてどうするべきか相談してくるよ」


「それならわたしたちも行った方がいいですか?」



 首を傾げる凛。白銀のツインテールがゆらゆら揺れる。かわいいなぁ。



「いや、こっちは俺たちだけで充分だ。せっかくのゴールデンウィークなんだし、2人は楽しんでおいで」


「そうだよ。私たちに任せて!」



 俺とエースはそれぞれそのように答えた。




 かくして俺たち4人は京浜東北線で秋葉原駅まで向かい、俺とエースはそのまま台東区にある上野魔法研究学園都市(上野から浅草まで広がる日本最大級の魔法の研究都市)の東京魔術大学魔術学部応用魔法マテリアル学科の和也さんの研究室へ向かった。

 東京魔術学園は三菱魔法工業の出資で2024年と創設された。それ以前は戦前までは帝国魔法学校として、戦後からは東京魔法学校としてずっと上野に所在している。

 ちなみに最古の魔法学校はイギリスの大英魔法学院で、創立は1162年。当時は魔導具を用いて魔法を行使する魔導魔術(中世魔術)の研究が主流だったが、19世紀以降は物理学や化学生物学などとの複合科学や魔術の一般利用に向けた研究が盛んに行われていた。

 しかし現在は魔力源(魔力粒子や魔力石が生成される場所)のはたらきが弱くなっているため、17世紀に比べて魔法法則が物理法則に支配され気味だという。そのため魔法を一般で広く利用することは簡単ではない状況にある。

 それはそうと、研究室に到着した俺はきのうのできごとをありのまま和也さんに伝えた。

 すると和也さんは伸びた髭を触りながら、



「なるほど、そんなことがあったのか。ずっとここに引きこもっているとろくに情報も入ってこないね。それはさておき、もし豊園尚子の言っていることが本当なら、結構興味深い話だね」


「というと?」


「組織の目的は棺桶の中にあるロザリオ。しかし取り出そうにも十字架には強力な結界が張られていて破壊することも、ましてや凛とジョーカー以外は触れることもできない。

 そして、尚子君の持っていた虹色の魔力石が蓄積していた魔力粒子が全て十字架に吸収された。それにもかかわらず、十字架の結界の様子は変わらない……」


「「……?」」



 俺とエースは話が見えず、そろって首を傾げた。

 和也さんは一息置いて、



「どうして現在の魔力源が昔に比べて衰えたかわかるかい?」


「さぁ、わかりません」


「私もあんまりわからないよ」



 魔術学園では初等部6年生、中等部3年生、選択科目ではあるが高等部2、3年生で魔法史の授業がある。

 しかし俺は高等部から入ったので普通の学校で習う程度にしか魔法史はわからないし、今から約90年前に生きていたというエースも色々なまめ知識や生活の知恵は豊富だが魔法や魔術についてはあまり詳しくない。

 そんな俺らに対して和也さんは、



「魔力源の一部が封印されたからさ」



 と。



「封印?」


「17世紀半ばのヨーロッパにカシミア・マフタンっていう星級さいこういの魔術師がいて、そいつが1658年に勃発したシュヴァルツの大魔術を巡る国際戦争を終わらせるために激戦地だったベルリンの地下の当時世界最大を誇っていた魔力源を封印したのさ。そしてその際にできたのが7つの虹色の魔力石なんだ」


「ってことは……尚子の持っていた虹色の魔力石ってのは……」


「そう。その7つのうちの1つさ」



 和也さんはそう言って立ち上がり、



「虹色の魔力石が蓄積していた魔力は神社の地下のリンカ・フォン・シュヴァルツブルク=ルードシュタットの墓に飲み込まれた。

 現状、カシミアの魔力石とリンカの墓の結界との関係性は、カシミアとリンカが同年代に生きていて、互いに面識があった程度しか僕にはわからない。

 しかし、組織の目的が墓の中のリンカのロザリオであるなら、きっと他の虹色の魔力石を持っている……あるいは探しているんだろう。

 隆臣君が尚子君を倒したことによって組織は君を自分たちの目的を邪魔する敵だとみなす。やはり尚子君の言っていた通り、組織に狙われる理由は十分にある」


「じゃあやっぱりあいつと協力した方がいいんすか?」


「そうなるね」



 その言葉を聞いて俺はぐったりとうなだれ、



「マジかよ……なんで俺がマフィアに狙われなきゃなんねーんだ。それにあいつと協力しろって……こんな酷い話はないぜ」



 はぁー、と深くため息をつく。

 そんな俺の頭をエースはやさしくなでなでしてくれる。エースの手のぬくもりがゆっくりと伝わってくる。ああすげー落ち着く。

 すると和也さんは得意そうに、



「安心したまえたまえ隆臣君。イギリスに僕の知り合いの優秀な魔術師がいてね、その子を日本に呼ぼう。2日か3日で来てくれるだろう。

 その子はガイスト使いじゃないんだが、上級感覚覚醒者で魔術の腕と知識も素晴らしくてね。もしかしたら何かいい解決策があるかもしれない」


「魔術師ですか……学園の先生以外の人には会ったことないんすよね、俺」


「日本は比較的少ないからね。とにかく、その子が日本に来るまで神社には決して近づかないように」


「え」



 顔から一気に血の気が引いた気がした。



「……ちょうど今頃、凛とジョーカーが秋葉原に!」


「なんだって!? もしかしたら組織の人物に遭遇しているかもしれない……! 急いで秋葉原に向かってくれ!」


「わかりました! 行くぞ、エース!」


「うん!」



 俺とエースは研究室を飛び出した。



 To be continued!⇒

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