第9話 第一の事件! 俺たちはクレイジー?

◾隆臣



「一発ぶちかすのがやっとってところか。やつらに近づくのは危険すぎる」



 俺とエースは木の上で尚子とハートが小屋の方に走って行くのを見ていた。

 さっきの謎の爆発でやられたのもハートの火炎弾をくらったのも、すべて囲まれた炎から脱出した瞬間にエースによりつくられた分身で、俺とエースはずっと木の上で様子をうかがっていたのだ。



「俺たちも移動しよう」



 そう言って俺は木の上から飛び降り、エースは浮遊能力でゆっくりと地面に降り立って尚子とハートの後を追いかけた。



「さて、これからどうやってあいつらを倒す」


「向こうにも2体の分身を配置しているから、挟み撃ちにしよう」


「それでいこう。じゃあこっちにも何体か分身を頼む」


「了解」



 俺の体から光の粒子が発生し、それが集合して2体の分身を作り出した。

 分身は俺の体内由来の魔力粒子を元にして作られるので数に限度はあるが、エースはその分身の体能力を強化することもできるし複数の分身を遠隔から操作することもできる。



◾尚子



 私とハートは小屋の2階の窓からこちらに近づいてくる隆臣を見ていた。あれはおそらく分身体だろう。本体はエースのすぐそばにいるはず。

 ハートには階段のところに爆薬を敷いてもらった。

 この小屋の階段に侵入してきたら爆発させて行動不能にするのが狙いだ。



「いいか? 確実に仕留めるためにギリギリまで引きつけるんだ。最低でもエースだけは無力化しろ」


「わかってるってば!」


「ならいい」



 すると、



 ーーバリン!



 何かを投擲され窓ガラスが破壊された。

 その破片がハートの頬を切る。



「いたっ! 石ころ投げてきたぁ! うわ血が!」



 ハートは目をうるうるさせて頬から垂れる血を手で拭う。



「大丈夫か?」



 私はハンカチを取り出して、ハートの頬の血を拭いてあげる。



「あたしは大丈夫だよ。でも尚子のその手……」


「ああ、これくらい心配いらない」



 ハートの目にガラス片が入らないように咄嗟に手を伸ばしたため、ガラス片が私の手の甲に突き刺さってしまったのだ。

 心配させないためにそれを抜き取り小さくほほえんでやった。この程度の傷はなんてことない。

 そしたらハートは申しわけなさそうに小さく頷いた。



 ――ガタンッ!



 物音がした。



「来たか。構えろ」


「うん!」



 ゆっくりと部屋の扉が開かれる。

 私たちは唾を飲み込んだ。しかしそこに人の影はない。



「誰も……いない?」



 ハートは首を傾げた。



「いや……猫だ」



 真っ黒い毛に覆われたただの子猫だった。



「チッ……脅かしやがって」



 黒猫はてくてく私の方に近づいてくる。



「近づくんじゃねぇ! 邪魔くせーんだよ!」



 もちろん猫に人間の言葉が通じるはずもなく、黒猫は私の足に顔をすりすりとこすりつけてきた。



「ちくしょう。ハート、こいつをどうにかしてくれ」


「うーん……あっ!」



 ハートはしばらく考えた後、髪の毛を結んでいたボンボンを外して、それをポイッと投げた。それで猫の注意を引こうという考えである。

 しかしながら黒猫はそれに対して一片の興味も示さなかった。

 私たちが猫に気を取られていたそのとき、2階の入口のところに2体の分身が入りかかっていた。



「まずい! 撃てッ!」



 ハートが火炎弾を放つのを躊躇ったその一瞬を、分身の1体がハートに肉薄し拳で頬を殴った。

 ハートは後方へぶっ倒れそのまま尻もちを着く。

 ハートが怯んだことにより火炎弾が消えてしまう。

 もう1人の分身もありえないスピードで接近してきて私の腕を掴んで床に押さえつけた。



「くそっ! 放しやがれ!」



 暴れ回るが拘束からは逃れられない。すごい力だ。



「ちくしょ〜」



 ハートは目に涙を浮かべて叫んでいる。



「観念しろ。お前らの負けだ」


「ぐぬぬぅ〜! まだ負けてないっ! あたしたちが負けるはずぅ〜いたたたた!」



 分身はハートの肘を背中の方にぐぐぐと上げた。



「ううぅ……!」


「チッ!」



 大きく舌打ちをして私は力を抜き、



「……私の負けだ。離せよ変態」



 と。



「変態じゃねーよ! それにまだお前らを信じられないからな。しばらくはこのままにさせてもらうぜ」


「クソが。ハート、戻ってこい」


「……うん」



 ハートは白い光の粒子――霊魂状態になり私の中に戻ってきた。



「これでいいだろう? もう戦う気はない」



 するとちょうどやつの本体とエースが小屋の2階に上がってきた。



「話を聞かせてくれれば解放してやる」


「そんなに私の体が触りたいのか? この変態」


「分身と感覚は共有されていない。俺の知ったこっちゃない」


「死ね」


「お前、普段からそんな口悪いのか? 生徒会長なのに?」


「貴様にだけだ。私は普段は優等生だからな」


「それ自分で言う?」


「どうだっていいだろ!」



 私はあからさまにうざったそうに言い燃える林に目を向けた。

 すると、



「こちら消防です! 誰かいますか?」



 足音とともに消防士の声が聞こえてきた。



「話はまたあとからだ。見つかったら面倒なことになるからな。見つからないように移動しよう」


「どうやって?」


「簡単だ」



 そう言って野郎は私をお姫様だっこし、割れた大窓から飛び降りる。



「き、貴様ッ! 何をッ!」


「こうすれば手っ取り早いだろ?」



 さらには平然と着地してみせる。



「まったく……クレイジー過ぎるぜ、お前たち」



 私はそうつぶやいていた。



 To be continued!⇒

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