目を覚ますと精神世界に戻っていた。

上体を起こし頭を抱える。先ほど目にした出来事がフラッシュバックする。




お、俺の、お母さんと…お父さんは…




声が震える。怯えて出るような震えた声ではなく、哀しみに満ちた声だった。




頭に抱えていた両手を目の前に持ってくる。その手は小刻みに震えていて、ひどくやせ細って見えた。




それに、俺は、この手で、人を…




自分が人を殺めたことを再認識すると、大量の思考が頭の中を駆け巡る。




俺は人を殺してしまった

俺は本当に生きてていいのか?

自分が犯した罪を死ぬまで背負っていけるのか?

人を殺めたこの手で他の人と接していいのか?

俺は自分のことを許せるのか?

人を殺しておきながら平然と生きていくのか?

そんなこと…おれには…




俺は、自分の罪を許せない…




俯きながら弱々しく呟いた。




顔を上げて




頭上から声が聞こえ顔を上げる。




パンッ




左頬に強い衝撃が走る。その反動で後ろに仰け反った。




何が起きたかわからないまま前を見ると、大粒の涙を流しながら固く拳を握った潜在意識がいた。





呼吸が乱れ肩を大きく上下させている。




君は!僕に言った!




信じてくれって!待っててくれって!




ワナワナと身体を震わせながら叫ぶ。




僕もマリも一緒に見てた!

君が、君一人だけが背負ってると思わないでくれよ!!




流れた涙が止まることはなく、握られた拳も弛むことはなかった。

潜在意識の叫びを聞いて言葉を失っていると、後ろからマリに抱きしめられた。




忘れたの?弥くんは1人じゃないんだよ




その言葉を耳にして自然と涙が溢れた。




弥くんには、潜在意識くんとわたし、それに凛ちゃんや薫くんだっているでしょ





でも、俺は、人を殺してしまった…

どうやって生きていけばいいのかわからない…




俺は無気力に言い放った。それを聞いたマリは抱きしめる力を強めた。




贖罪していけばいいよ。それにわたし達を裏切って生きるのを辞めるだなんて、それこそ罪じゃない?




贖罪か…できるかな俺に




君ならできるよ。正義感の強い君なら




弥くんが困ったら時はわたしがサポートするよ




涙を拭い立ち上がり2人の顔を見る。




ありがとう…2人とも…




2人の手を握る。2人の手はとても暖かく感じた。




俺、生きてくよ。自分がやったことは消せないけど償う選択をする。

この信念がブレることもあるかもしれないし、また自分を殺してしまうかもしれない




そのときは、また俺のこと助けてくれよ




2人は優しく微笑んで頷いた。




忘れないで僕はずっと君と一緒だ




またね弥くん。わたしとは意外とすぐ会えるかもよ?




現実に戻ったら、まず命を取り留めてね。

せっかく生きる決心したのに戻ってすぐ死んだら殴るだけじゃ済まさないからね




そっか。俺、危ない状態なんだっけ色々あって忘れてたよ




まぁ君ならなんとかなるよ




それじゃぁまたね




俺の意識はゆっくりと溶けるように沈んだ。




潜在意識とマリは最後まで俺の手を握っていた。




薄れゆく意識の中で見たトラウマの箱は淡い紅色だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る