第38話 ひとつぶのごはんものこさずに

今回シェラザードが魔界に戻ってきていたのは、「スゥイルヴァン女王陛下自分自身」の親衛隊を作るため、その“1人目”として採用されたのが装人蜘蛛アラクネのガラドリエルと言いました。

そして今、旧くからの付き合いのあるダーク・エルフのアウラと共に“2人目”を確保する為、訪れた処が……獣人達の街「」。

種々様々な“獣”、「兎」「狐」「狸」「犬」「猫」と多彩にいるのですが、今回シェラザードが魔王から貰ったリストの中には、ある2つの種の獣人の名が記されていました。


その1人目というのが―――……


「あんただね、「ベルガー」って言うの。」

「あ゛?誰だお前……気安くオレの名を呼ぶんじゃねえよ。」


名前を聞いただけなのにすぐ噛み付いて来た。 しかも言葉遣いも荒く、その荒さについても“誰かさん”を彷彿とさせるのですが……暴言を吐かれた本人としてはさほど気にするまでもなく。


「あーーーはいはい、じゃあんたって事でいいんだね。 持病はなぁい?あと性病とかは?」

「あんだと手前ェ!オレをナメてっと殺すぞ!」


「おほ~元気活きがイイネーーーこいつはアリかなあ~?」


「(あーーーのーーーアウラ様?)」

「(なんだ、どうしたガラドリエル。)」


「(シェラザード様って、至ってフツーの様に接していますけど……)」

「(まあ、あいつ自身『ヤクザモン』と呼ばれているからなあ。)」


王族……なのに、『ヤクザモン』と呼ばれるのって、一体どうなんだろう?


次にシェラザードが、自身の親衛隊にと見定めたのは「人狼族」の「ベルガー」と言う若者でした。 しかもこの彼は気性の方も荒く、その所以ともなるものが言葉にも表れていたものでした。

それにこの人狼の彼の方も、いくら自分が脅しつけたところで怯みもしないこのエルフの女性に対し。



なんっ―――だ?こいつ……このオレの口の悪さにも怯えもせず、なまっちょろいエルフだとばかり思っちまったが、意外と腰が座ったヤツもいるみたいじゃねえの。



これはまだ、人狼の彼もまだよく“彼女”の事を知らなかった頃の出来事。 それに意外と度胸が据わった人物だと思い、「よもや」……と思ってしまったようでして―――少しばかりシェラザードに興味が湧いたベルガーは、シェラザードの足跡を追って行くと……



あ゛?なんだありゃ……ダーク・エルフにアラクネ……って、意外な組み合わせだな?

その2人を引き連れ―――おいおい冗談だろ?wあんたらが行く処、この街じゃ結構ガラ悪い奴らの吹き溜まりだぜ? おまけにそいつらと来たら手癖の方も悪いと来てるからなあ。



丁度お昼時と言う事もあり、しかし不案内なこの街でお食事処を探すのも一苦労……なわけで、目に付いた店に足を運ばせたのですが。 ベルガーも言っていたように、その店は客の質が悪く、そう言った荒くれ者やチンピラの類ばかりが集まる吹き溜まりの様な場所だった。

そんな店に? イメージ通りだったら純情可憐な華の様なエルフの女性が……あ?

{*飽くまで「イメージ」の上での話しです。 世間一般の評判でもある為、誇大表現はしていませんので、悪しからず……}


「あっ、スミマセーン! ここ取り敢えず「生」一杯ずつねー!」

「お前なあ……まだ陽の高い内から―――」


「イイーじゃんよ、そんな難いかったい事言わんでも。」

「あ、あのう~~~そ、それよりここ……ふ、雰囲気悪くありません?」


「はあ?そう??」

「(はあ?そう??』……って)そ、それより~~何だか私達を見る周りの目が、纏わりつくようで~~~」


取り敢えずの処は空きっ腹を充たす為に食事を頼みはするのですが、ガラドリエルが危惧するように彼女達を視る視線が(エロく)纏わりつくかのように感じた……と、思っていたら?!


「ゲヘゲヘゲヘ、よぉーーーネーチャン達、そんなエッロい肉体見せびらかして、モレ達に犯してもらいてぇのかあ?」

「イイネーイイネーーがり狂うまで絶頂イキ地獄味わわせてやるぜ!」

「そそそソーダーソーーダーーーそぉぉんなエロい肉付きしときながら、一度も犯してもらえねえってのは、じじじ人生に於いて損してるぜぇえ?」


口々に卑猥な事を言い立て、3人もの美女に迫って来るまさしくの野獣たち。

{*皮肉ではありませんので、念のため。}


そんな事に元々人付き合いを苦手としているアラクネはえづきそうになり、小さく縮こまってしまうのでしたが。


「ああ君達、自分を猛烈アピールするのは一向に構わんが、もう少し時と場所と言うものを考えてだなあ……」

「ヘッヘッヘヘヘ……なぁにお高く留まってやがんだよ、ダーク・エルフのクセによお! おおおおお前もこのオレの「葬らん王」味わってみろやぁあ! ほほ他のじゃモノ足らなくなってくるだるぉおぜぇええーーーット!」


「おほほ~♪キタキタ―――ほら、食べよ食べよ~♪」

「オレ達を無視すんじゃねぇえ!このエルフがァァ……そんなに胎にモノ詰めたけりゃ、このオレの「葬らん王」を、も前の胎ン中に詰めてやってもいいんだぜぇぇぇ……?」



むぅ、まずいな―――



シェラザードにしてみれば、この街へと寄ったのは自身の親衛隊を作る為、しかもこの街には2人候補がいるのです。 その内の1人目とは面接を終わらせ、残りの1人を……と言う処で、休憩がてら《空いた小腹を充たす為》に立ち寄った大衆食堂で、そこに屯している不埒な連中に絡まれてしまったのです。


「(これはちょっと……どころではないな、非常にまずいコトになって来たぞ。)」

「(アウラ様?どう言う事です。)」


「(説明は後でするから、取り敢えずの処は、ここから逃げよう―――。)」


シェラザードにしてみたら、丁度小腹が空いて来た頃合だったので、空腹を満たす為にと注文した食事を、口にしようとしただけ……が、しかし―――その行為自体が自分達を無視するように映ってしまった不埒者共は……シェラザードが注文した一皿を、その皿ごと……

その光景を見た―――いや、見て しまった アウラは、昔からよく知っているこのエルフの性格上この現場が無事では終わらないタダで収まらない事を知っていました。

知っていた―――知り過ぎていた……からこそ、(不埒者共にも、またエルフの在り様にも)怯えるアラクネに早急にこの場から撤退するよう《さっさと逃げるように》言い渡……し??!


「[おぅアンチャン……ワレェなにさらしてくれとんねん! 折角農家の皆サン《おじちゃんおばちゃん》が、真心と端正込めて作ってくれたモンをぉぉぉ台無しにしくさりおってぇ! おぅワレェ、食いモンちゅうか食材の怨恨ァ末代まで祟る―――っちゅうことをぉぉ……骨の髄まで知らしめたろうかいやぁ、ゴル゛ァ゛ア゛!](エルフ語)」


「(ええーーーット、あのぉ~~~エルフ―――でしたよ……ねえ?シェラザード様……って。)」

「(ああまあ……決してオーガではない―――と言う事だけは確かだがな。)」


「(と、言うかオーガのがまだマシ……と言うより、目がちょっとヤヴァイです。)」

「(いや実を言うとな、シェラは物心つく頃から「食育」は徹底的にその身に教え込まれていてな。)」


「(えっ?「食育」―――と言うと……)」

「(まあ、そう言う事だ……『ひとつぶのごはんものこさずに』と言う―――な。  だからシェラにしてみれば、例え食材の一つを取ってみてもそれは天からの恵み、それをあのように粗末に扱うと言う事は、少なくともあいつの頭の中にはないのだ。)」


「(なるほど……それは判りましたが、あのように暴れ回るのが私にはちょっと……)」

「まあ、あいつ自身エロイ事に全く興味がない…………ワケではない。 いやむしろ大好物だと言うべきだろう……が、しかしだな、あまりにゲスいと―――」


その顔面を、まるでマスクメロンの様に血管を浮き立たせたエルフは、自身が好まない不純な好意をぶつけてくる者達を、ちぎっては投げーーーちぎっては投げーーーと、まさしくその食堂は阿鼻叫喚をていしてきていたのです。


しかも――― 間 の悪い事に、この現場には



うおぉぉ……す、すっげえ!あのエルフ只者じゃなかったな! あの食堂は“あいつ”の息がかかったゴロツキばかりが屯してやがったから、さぞかし“シクシク”泣いてるだろうと思ってたんだが……



彼の食堂で大立ち回りを演じている《大暴れしている》エルフが直前まで会っていた人狼族のベルガーは、(不運にも)エルフの暴れっぷりを見て感銘を受け、憧憬あこがれまで抱いた始末だったのです。



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