第36話 女王陛下の親衛隊

シェラザード立案の計略のもと、今回被害に遭ったアラクネの里の住人を囮とし、釣り出されてきたラプラス共を一網打尽に滅しました。

その―――あとの事で。


「ありがとうございます―――お二方の協力の下、被害に遭った者達の霊は慰められた事でしょう。」

「お礼を言われるほどの事じゃないよ。 この郷が襲われた事は偶々私が知っただけだし。」


「それと、知らぬとは言え先程からの無礼の数々―――」

「それよりさ、これからあんたはどうすんの。 この里滅茶苦茶になっちゃった事だし、これから雨露凌げる処なんてないんじゃない?」


「はあ……いえ、それには及びません。 早急に簡易性のモノを作り、どうにかさせ――――ッッ……こ、これは?!」

をやるよ―――やるからマナカクリムを訪れなさい。 そしてそこで、一等……金にモノを言わせて建てたバカみたいに大きな城があるから、その城の中に入る時にを見せるといいよ。 多分顔パスで入れるから。」


「は?は……あ?」


いきなりでなんだか判らなかった。 自分としてはこの生まれ育った土地で、また“一”からやり直していく―――そのつもりだったのに、そのエルフの女性からは「あるモノ」を……10カラットはあろうかと言う緑柱石エメラルドの―――「例のモノ」を投げて寄越し、しかもこの度新たに興された国の首都を訪れるよう促された《招待された》……しかしガラドリエルにとっては、このエメラルド製の装飾具は、所詮「装飾具」にしか映ってはおらず、ただその装飾具がは、判っていたこちらの人物にしてみれば……


「ちょ、ちょっ……お前―――いいのか?そんなモノをホイホイと……」

「(『そんなモノ』??)」

「はあ~~?ケチ臭ぇ事言ってんじゃねえわよ。 第一あんたのモンじゃないだろうに。」


「(こいつわ゛っ!)ま……まあ言われてみればそうだけれどもな、少しは考えて行動に及ばんと、グレヴィールのヤツが……」

「あの~~ちょっとお伺いしてよろしいでしょう―――か?」

「(ち)おいアウラ、ちょいこっちゃあ来い《耳貸せや》。」


アウラは、長年の付き合いと言う事もあり、その「エメラルド製の装飾具」がなんなのか―――と、その装飾具が直接シェラザードから手渡された事の意味をよく理解していました。

それにガラドリエルも、この二人のやり取りを見ていて、何やら事の重大さに少しずつながら気付いてきてしまった……そんな時にシェラザードは、なぜ現在自分が魔界に還って来ているかを、最低限知っておいてもらうべき人物に、 ようやく 話す気になったものと見え。


「[まあこの際だからあんたにだけは話しとくとするわ……だから絶対口外すんなよ《オフレコだぞ》?](エルフ語)」

「[ようやく本心から話してくれる気になったか……淋しいものだなあ?](エルフ語)」


「[そう言うなよ、そう言ったら全く関係ない人間まで巻き込む事になり兼ねんだろ? まあ……今はその事はいいわ、まああんたの事だから薄々と勘付いているんだろうけど。  私が向うの世界で失態して《ヤラカシて》魔界へ送還……てのは、飽くまで建前な。 本音は―――](エルフ語)」


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それは―――接収した拠点でシェラザードが収監されていた時、那咤を使用しての敵の兵站線の破壊工作をされていた方が、自分達が幻界へと訪れた―――と、ほぼ入れ替わりに幻界から魔界へと渡った者達がいる事を、那咤を通じて知ってしまったのです。

そこから一計を案じた魔王が、そうした者達の追討をシェラザードに任せようとしていた……そしてその意向を受けたササラより。


「シェラさん、今ここから出してあげます。 そして魔王様からのご命令を……『至急魔界へと渡ったラプラス共を追討せよ』―――。」

「私達と入れ替わりに……って、随分とまた小狡い真似をしてくれたもんだなあ。」


「ですがシェラさん、恐らくヤツラのこの行動は当初からあったモノで、タイミング的に見て私達が此方へ来るより若干早い―――とするならば、そこは批難するべき処ではないと思います。

それに魔王様はヤツラの追討をあなたに任せようとした理由があると私は思っています。」

「『理由』……って、なんだってそんなのが―――」


「恐らくあの方は、あなた様の「親衛隊」を、この機会に作ろうとされているのかもしれません。」

「『親衛隊』…………」


「こんな事を、殊更あなたに言うつもりはありませんが、あなたは一度ヤツラに不覚を取った……挙句の果てには奴隷にされるなど―――。」

「嫌な事……思い出させんなよ……。」


「だからこそ、あなた様の身辺の護衛を兼ねる役目として、「親衛隊」を創設する必要性を感じた……は、その候補のリストとなっております。  そして“幸い”と言っていいのか、ヤツラの出現地点の近くに、“候補”の一人である「この者」の里があります。 後の事はまあ……「よしなに」と言う事で。」


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「[成る程な―――魔王様やササラ殿にしてみれば、まさに『重畳の至り』だったと言う訳か。](エルフ語)」

「[そーゆー事、まあ利用しちゃったようで気は引けるんだけどねぇ、だけど……](エルフ語)」


「[まあお前がそう感じるのだったらそれでいいだろう。  だがなあ……](エルフ語)」

「[しゃーないでしょうに……それより話す機会あったのかよ。  ―――とまあ、これで一人確保……と。](エルフ語)」


「[それで?目途はついているのか。](エルフ語)」

「[ああうん……このリストに目を通した時点で、“一人”は既に魔王様の「近衛」からの滑り込みにしているんさ。](エルフ語)」


「魔王様の「近衛」から?? お前正気か―――」

「(こ・ん・のぉ……)バカか?!おまいはバカなぬか?? 「オフレコ」ちゅったろーが!しかも今まで「エルフ語」で通用させてたっちゅーのに、なんでそこで公用語になるんさ!」



私から遠く離れた処で、お二人してなにやらこそこそと話しておられたよう《「エルフ語」で会話をされていたよう》だが……今聞き捨てにならない単語が聞こえてきたようなあ?

「魔王様」?「魔王様の近衛」がどうかしたと言うのだ?? な、何だかわからないが……やけに“ザワザワ”としてきたぞ??



魔王の深慮遠謀の下、スゥイルヴァン女王シェラザードの親衛隊を作る必要性に迫られた……そして「魔界送還」と言ったお為ごかしの名の下、早急なる人員の選抜と審査を女王ご本人が自ら為された。

その一人目として、装人蜘蛛アラクネのガラドリエルに白羽の矢が立てられたわけなのですが、しかし聞くのには彼女は実質の2人目―――1人目はもうすでに、魔王直属の「近衛」からと言う事で、滅多と驚かないアウラも、つい声を上げてしまったと言う事なのです。




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