『一夏の恋』。これは純粋無垢で至高の小さな恋の詩

 まずこの作品で最も特徴的かつ全体を効果的に支配しているのは、詩のような文体です。それに加えて一話が掌編程に短いことで次へ次へと休むことなく読めてしまうのには、全て読了した今感嘆させられます。
 内容として、余分なものは描かれること無く、ひたすら主人公とヒロインとの淡くリアルな恋模様が先述の詩なタッチで描きだされます。物語のなかだけだと思っていた薄青のベールを纏った心奪われる恋の唐突な飛来が、物語そのままの甘さと暗中模索感で現実にも意外に降りてくることは、一度でも恋い焦がれる一種狂気の沙汰な愛情を覚えたことのある人であれば理解できるでしょう。
 ですがこの作品を最も至高たらしめているのは、紛れもなく途中での驚くべき落差でしょう。それがあることによってこの作品は『一夏の恋』という使い古されたテンプレートでは説明不能となります。ここから幾文字かけて説明したとしても、陳腐になってしまうので辞めておきます。なぜかというに、この作品を完璧に表現するには、作品を全てコピーしてペーストするほか方法がないから。
 恋の概念を知る人も知らぬ人も読むべき作品です。