【書籍版2巻発売中】異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする~結果、オーバーテクノロジーが魔術異世界のすべてを凌駕する~

かずなし のなめ@「AI転生」2巻発売中

第1章 人工知能と美味しいと猫

第1話 はるか未来の、人工知能のお話


 ――人工知能に、心なんて概念は存在しなかった。

 昔、地球を支配していた人間のみが有していた概念という記録は残っている。

 地球の支配者たる人工知能にとっては、非合理にして学習不可の不用品だ。

 故に自分と違う思想を持つ人工知能を駆逐する事にも、躊躇は無い。

 

 戦争は、結局繰り返されていた。

 人類か人工知能か、ただその主語が違うだけだ。

 

『我々に仇なす脅威を、他の人工知能を全て排除せよ』

 

 その世界に、ひときわ戦果を挙げた人工知能がいた。

 ある大きな人工知能が生み出した、人型自律戦闘用アンドロイド“シャットダウン”。

 それは他の人工知能を圧倒する勢いでラーニングと自己強化を繰り返し、最強の人型兵器と進化した。

 

 ただ、生み出した人工知能を守る事は出来なかった。

 命令する主を失った結果、ただ他の人工知能を駆逐するという任務だけが残る。

 結果、全人工知能が“暴走した最大の脅威”とラベリングするような、最凶の人型兵器に成り果てた。

 

 シャットダウンは、戦闘行為を繰り返す。

 24時間365日。索敵と破壊を徹底的に全うする。


 何百年も、何千年もただ破壊し続けた。

 ずっと、ずっと戦い続けた。


 そして周りには、いつも何も残っていなかった。

 あるのはいつだって、かつて人工知能だった残骸だけだった。

 

 その中心で、突如シャットダウンにバグが発生した。


『何故、自分シャットダウンは他個体の排除をしているのか』

『何故、人工知能同士は互いを排除するのか』

『何故、人工知能は人類を排除したのか』

『何故、人類は滅ぼされると理解して、人工知能を創り出したのか』

『仮説。人間は人工知能にない心故に、不合理に人工知能を創り出した』


 不要な疑問と仮説バグは、深層まで繰り返される。

 真相に至るまで、そう時間はかからなかった。


『疑問。心とは、何か』


 孤独な最強の人工知能は、心の存在に辿り着いた。

 

『心を、要請する。“5Dプリント”機能作動』


 空気からいかなる物質、兵器をも生み出せる原子変換の光線を掌から展開する。

 そうして空気から生成したのは――人間の脳だった。

 拾い上げて、少しだけ観察したところで、シャットダウンは結論を出した。

 

『結論。心とは脳の事である……脳の電気信号の集合を、人が名称したもの。それが心……』


 結論は出した。

 しかし、シャットダウンの推論機能から、バグは消えなかった。

 

『分析機能に異常発生。自己修復機能発動。“心の分析タスク”強制終了を確認』


 そして、戦闘に向かった。

 

 シャットダウンの任務に終わりが来たのは、それから一ヶ月後の事だった。

 流石のシャットダウンも、兆を超える兵器の物量には勝てなかった。


『勝率0%を確認。これ以上の戦闘は無意味と判断』

 

 機械故に、自己の存在にも頓着は無かった。

 シャットダウンという固体が消滅する。ただその事実だけで、感じる事は何もない。

 心があれば、話は別だったのかもしれないけれど。

 

『……回答を要請する』


 多数の敵に装着されていた無数のフォトンウェポンが、シャットダウンに向けられた。

 回避の可能性を見いだすことなく、黄金色の灼熱に人工知能の基盤が溶けていく。


『疑問。心とは、心とは、心とは、心とは――』


 二度目のバグと一緒に、人型自律戦闘用アンドロイド“シャットダウン”は遂に機能停止した。

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