第13話 野球小僧-13

 放課後、公園のグラウンドに集まった愛球会のメンバーは口々に昨日の活躍を振り返っていた。サンディに対する賞賛は当然だったが、山本の活躍は驚くべきものだった。初回の3塁打はもちろん、あとホームランが出ていればサイクル安打というほどまで打ちまくった。しかも、強肩の返球で威圧するだけでなく、不慣れな亮のカバーも迅速に対処し、元野球部の面子を凌ぐ活躍だった。

「ほんとに、たいしたもんだよ。ブランクがあるとは思えないね」池田

「いっやぁ、それほどでも。って言っても、正直なところ、今日は筋肉痛で、あっちこっちがギシギシ言ってるんだ」山本

「まぁ、そのくらい、しかたないさ」木村

「サンディもすごいね」池田

「アリガトウ」サンディ

「俺たち、負けるのかな?このまま不敗神話ができたりして」中沢

「バカ言ってるんじゃないよ。まだ、女子校と一回やったじゃないか」小林

「そう、次はどこか名門とやりたいね」池田

「だからぁ、うちの野球部とやりゃあいいんだよ」山本

「山本ぉ、そればっかだな」高松

「いいじゃないか。俺はそれが目的なんだから」山本

「まぁ、慌てるな。どこか強い学校とやって勝ったら、監督だって無視できないよ」高松

「なるほど」山本

「どこか、当てはある?」木村

「どこでもいいんなら、あるかもしれないけど、強豪となると」高松

「ないな」小林

「だましたらどうだ。野球部の名前で申し込んじゃうの」山本

「サギだよ」高松

「バレルとマズイよ、やっぱり」小林

「とにかく、実績を作ろう。どこでもいいじゃないか。勝って勝ち続ければ、野球部も試合してくれるさ」高松

「手っとり早く、挑戦状でも送りゃあいいんだ」山本

「山本ぉ、いいかげんにしろ」小林

「いいじゃない。ほら、新聞部に出しゃあ、大々的に取り上げてくれるよ」山本

「放送部って手もあるよ」中沢

「おい、中沢まで、何言いだすんだ。いいから、とにかく地道にやっていこう。ただし、やっぱり試合中心にしよう。面白いから」高松

「キャプテン、ナイス!」中沢

「面白くなければ、愛球会ではない。We love baseball!」高松

「Let’s begin!てか」木村

「古いんだよ、お前は!」高松

「なんで、古いって知ってるの?」木村

 談笑する連中の後ろで亮は静かに作り笑いするしかなかった。なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ。そういう想いが亮に笑顔を作らせようとはしていなかった。それでも、自分の望んだ野球を精一杯やりたいという意思は消えていなかった、まだ。


 「今日の練習はどうする?」高松

高松の問い掛けに、山本は応えた。

「今日は、なし。自主的に調整して、明日に備える。てトコで、どう?」山本

「いいんじゃない」小林

「今日は解散」高松

「解散、解散」山本

「みやこや寄って、アイスでも買ってこ」小林

「コロッケってのは、どう?」池田

「なんだ、それ」小林

「上手いんだよ、あそこの商店街の肉屋のコロッケ。安いし」池田

「おい、中沢らも、どう」小林

「行く行く」中沢

「サンディはどう」小林

「イイデス、行きましょう」サンディ

「亮は?」高松

「ボク、いい。遠慮する」

「そう。じゃあ、さいなら」高松

「さよなら」

「リョウ。一緒に行きませんか?」サンディ

「うん、僕、用があるから…」

「そうですか」サンディ

「行くよ、サンディ」池田

 亮を残してみんな立ち去っていった。亮は寂しさを感じながらも、仕方ないんだと自分に言い聞かせて、歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る