第54話使者

照姫さんが16歳になった事で、お嫁さんの全員が16歳以上となり、正式に婚儀を行う事になった。


ただ問題なのは順番のようで父親である、豊嶋泰経、太田道灌、長尾景春、三浦時高、成田正等が江古田館に集まって婚儀の順番を真顔で議論してる。

いや、むしろ自分の娘が一番最初だと言い、平行線状態だ。

自分としてはもはや順番なんて関係ないんだけど、お福を半ば強引に養女とした正等は特に一番最初に婚儀を執り行いたいらしい。

まあ縁も所縁も無いうえ身分も高くない武家の娘を強引に養女にさせられたんだから気持ちは分かるけど、揉め事は勘弁なので出会った順番に婚儀をする事に決めた。

いつまで経っても収拾付かないし、全員の妥協点が無いんだから時間の無駄と言って半ば強引に決定した。

その結果、照姫さん、お福、椿姫さん、桔梗姫さん、彩姫さんの順になった。


これにより婚儀は豊嶋家、成田家、太田家、長尾家、三浦家の順になるけど、お嫁さんは全員が同等の立場で婚儀の順番で差別化はしない事を懇々と説明し納得して貰た。

一番最後に婚儀をする事になった彩姫さんの実家でる三浦家は特に気にした風もなく受け入れたのが意外だったけど、ひとまずは順番争いが落ち着いた。

照姫さんの父である泰経がホクホク顔をしているのが気に食わん!!

寧ろ顔に出すなよと言いたい、と思ったので後で別室に呼んで注意をした。

婚儀の順番争いで折角纏まって動き出した鳳凰院家の家臣が分裂したら笑い話にもならないから。


そして婚儀は恐らく周辺の勢力が兵を集めにくいであろう農繁期である4月~5月にかけて一気に行う事にした。

婚儀をしてる最中に合戦とか祝い事に水をさされた感じで気分悪いし。


そして婚儀の順番も決まり、のんびりと年末年始を過ごせるかと思って居たら、古河公方から使者が来た。

まあそれだけだったら良いんだけど、何故か狙ったかのように古河公方からの使者が来た翌日に、駿河の今川家からも使者が来た。

なんか以前も同じことがあったような…。


とりあえず、最初に来た古河公方の使者と面会し、持って来た書状を読む。

内容は簡単に言えば、下総へチョッカイをかけるのを辞めて欲しいとの事と、和議を結び協力して関東管領上杉顕定と戦おうとの内容だった。

下総にチョッカイかけてるのは大義名分があるからなんだけど、その辺は返書に記載して向こうで対応を考えてもらおう。

なんせ、ウチには下総を追われた千葉氏の直系である千葉実胤、自胤、兄弟がいるから、下総を謀反人から取り戻すと言う口実があるし。

書状を持って来た使者にもその事を伝え、前向きに検討はするけど、下総の件が互いの火種となっている事を双方の問題として認識させ返書を持たしてお帰り頂いた。

それにしてもまさかか古河公方から手を組もうとか言い出すとは思わなかった。


そして今川家からやって来た使者は、伊勢新九郎盛時、後の北条早雲と呼ばれる人だった。

道灌が曲者と言ってはいたけど、知的でありながら抜け目のなさそうな雰囲気のある人物だ。

史実なら道灌が駿河まで出張った今川家の家督争を仲裁し、その後京都に帰っているはずだけど、まだ駿河に居たらしい。


「お初にお目にかかります、伊勢盛時でござる」

「初めまして、鳳凰院宗麟です。 今川家の家督争いの際は見事な手腕で争いを仲介されたと道灌より聞いてます。 そんなお方が使者とはどのようなご用件で?」


形式的? な挨拶もそこそこに使者の用向きをストレートに尋ねるも、盛時は顔色一つ変えず要件を話し出した。

てっきり書状とか持って来てるかと思ったけど、書状は無く盛時自身が全権を持って使者に来たらしい。


内容を聞いた限り、要は伊豆に居る堀越公方こと足利政知を奉じて古河公方を討伐して欲しいとの内容だ。

本当は幕府として敵対関係にある古河公方を討伐する為に兵を挙げようとしていたけど、応仁の乱の発生やら長尾景春の乱など諸々あり頓挫し関東に入る事が出来ず伊豆に留まり続けざるえないと言った所だ。

その堀越公方を自分に担がせて古河公方を討伐させたうえで関東と周辺国の12か国を統治する鎌倉府を再興して欲しいという事だ。

ただし、鎌倉府を再興させて足利政知を鎌倉公方にしても権限は与えず傀儡状態にし、幕府から派遣された盛時が幕府と取次をして関東を管理するらしく、その手伝いをしろと言ったところだ。

そしてわざわざ、今川家に居る盛時が来たのかと言うと、今川家としても足利政知が鬱陶しいらしく幕府から派遣されてきたのなら堀越公方の件もどうにかしろと言った感じで来たみたいだ。


「それで古河公方を討伐したとしても自分には旨味無いですよね? しかも鎌倉公方にしたら権威が失墜した幕府が関東に口出しして来るだけでむしろウチとしては面倒事が増えるだけじゃないですか? しかも血を流すのもウチの兵だし」

「確かに、しかしながら幕府より古河公方を討伐した暁には武蔵の領有を認めるとの事」


「いや、幕府に認めて貰わなくても既に武蔵領有してるし、さらに言うと相模も三浦氏、上杉氏が家臣になっているから半分近く領有してる感じだし、それを認めてやる的な感じで言われてもね…、しかも今鎌倉を領有してるのは三浦家だし、そこを取り上げるんだから相応の見返りが無いと話にならなくない?」

「では、どのような条件ならよろしいので?」


「う~ん、とりあえず、堀越公方を鎌倉に住まわせ鎌倉府再興する見返りに、武蔵、相模、伊豆の領有を認めるぐらいはして欲しいよね。 ただ堀越公方に相応の所領を持たせたら暴走しそうだから、所領は鎌倉のみという事でどう?」

「武蔵に加え相模、伊豆でございますか…、相模はまだしも伊豆までとは少し強欲では?」


「いや、強欲では無いでしょ? どうせ堀越公方を鎌倉移動させたら伊豆は空白地帯になるんだし、それを貰うだけだから」

「では、古河公方を討伐された暁に既に領有されている武蔵に加え相模、伊豆を…」


「いや、邪魔な大森家を滅ぼして相模を統一したらすぐに足利政知を鎌倉に動座させるのでそれと同時に貰わないと、反故にされそうだし。 実際の所、他者が掠め取ったら幕府にそれを咎めて追い出す力ないでしょ? だから鎌倉に動座させるのと同時に相模、伊豆を貰う」


うん、流石の盛時も沈黙してしまった…。

幾ら全権を持ってるっぽい事を言っても流石に相模、伊豆の領有を認める権限までは持ってないようだ。

ただ伊豆は譲れない。


伊豆には金銀銅鉛が採れる鉱山が沢山あるからね。

安定した資金源を確保する為には交易だけじゃなく鉱山も必要なんだよ。

金があれば専業兵士をもっと雇えるし、欲しい物を大量に買い付け出来るし。


うん、伊豆は譲れない!!


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補足

後北条家の初代と言われる北条早雲ですが、実は生前北条氏を名乗ってはいなかったようです。

しかも早雲とも名乗っておらず、伊勢新九郎盛時と名乗っていたそうです。

尚、長氏、氏茂、氏盛、とも言われています。

そして出家後に宗瑞を名乗ったと言われています。

その時の号が早雲庵宗瑞だった為、後世に早雲と言う呼び方が広がったものと思われます。

因みにひと昔前は浪人だったと言われていましたが、近年では伊勢氏は幕臣だったという事が通説となっています。

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