第45話帰りを待つ人の心

酒宴が終わり…と言うよりほぼ全員が酔いつぶれ主殿の広間に転がっている。

泰経さん、宗泰くん、白子さん、宮城さんは何とか部屋に戻ったようだけどこんなになるまで飲むとは…。

今敵が攻めてきたらどうするんだろう?


そんな事を考えながら広間を後にして自分用に建てられた家に向かう。

なんか白く濁ったお酒美味しくないし絶対に悪酔いしそうだったから実は少ししか飲んでなかったんだよね。

おかげでほぼしらふ状態で酒宴を乗り切ったから無駄に疲れた。

酔って一緒に騒げば時間も短く感じるんだろうけどしらふだと結構長く感じた。


家に戻り部屋の戸を開けると照姫さん、桔梗姫さん、椿姫さんが慎まし気に頭を下げる。

「「「おかえりなさいませ。 この度の戦勝お祝い申し上げます」」」

「ありがとう。 でもこんな時間まで起きて待っていてくれたの?」


「はい、本来でしたらお帰りになられて直ぐにお出迎えすべきところ皆様直ぐに大勝利の祝宴を始められましたのでお邪魔と思いお待ちしておりました」

照姫さんが代表してそう言いい頭を下げると桔梗姫さんと椿姫さんも同じく頭を下げる。


「なんか気を使わせてゴメンね。 もう遅いから今日はもう寝よう。 数日はバタバタしそうだけど暫くしたらゆっくり出来るだろうし」


そう言って3人を促すとどうやら既に布団の用意をしてくれていたようで用意してくれていた寝間着に着替え寝所へ…って何で3人ともついて来るの?

と思ったら寝所には布団が4つ並んでた。

出陣前に同じ部屋で寝たのがこれからも同じ部屋で寝ようって意味にとられたのかな?

まあ久々の女の子成分が充満した部屋だし今日の所は同じ部屋で寝よう。

今日は良い夢が見れそうだ。


と思って布団に入って眠ったと思ったらすぐ朝になった。

だよね。

祝宴から戻った時には深夜2時を回ってたし、この時代の朝は早いんだった…。

冬だから明るくなるのが遅いとはいえ6時頃には空が白みだすから起きる時間なんだよね。


眠った感じがしないものの3人共起きだして着替え終わってるから自分も起きて着替えをする。

朝食の用意が出来るまで暫くかかるとの事なので顔を洗い3人と雑談に興じる。


どうやら葛西城に古河公方の兵が集結した際は泰明さんから急使が着ていつでも非難が出来るようにと言われてたらしく城内は蜂の巣を突っついたような騒ぎだったらしい。

その上、椿姫さんの父である道灌さんも、桔梗姫さんの父である景春さんも籠城してる状態だった事もあり毎日のように石神井城の近くにある神社にお祈りをしていたと言っていたらしく、合戦が終わり自分が無事に帰って来ると聞いた時は安心したと同時に無事に帰って来てくれると嬉しくて3人で泣いたと言っていた。


出陣しててあまりっ気にしてなかったけど、家で帰りを待つ人は毎日送り出した人を心配して気が気じゃ無かったんだと聞くと気遣いの足りなさに気付く。

合戦の経過は伝わって来るものの怪我などしてないか、身体を壊してないかなど3人で毎日心配してくれていたと思うと手紙の一通も出さなかったのは本当に申し訳なく思う。

今度から待っている人の事も考えてこまめに手紙を書くなりして不安を和らげてあげよう。


そして4人で朝食を摂り主殿に向かうと二日酔いで青白い顔をした皆さんが集まっていた。

「う~ん、酒は飲んでも呑まれるなって言うから今度から程々にね。 新しいお酒もこれから造る予定だけど飲み過ぎは良くないから」


そう言って上座に座り、今後の方針を伝える。

と言っても特に何かして貰う訳でも無く各自所領に戻って英気を養う事、そして怪我をした人の生活が成り立つようにする為、今回の合戦で負傷し今後戦いの場に行く事の出来ない人の事に関してだ。


これは怪我をして合戦に行く事が出来なくなった武士を集めて他の仕事を与える事で食い扶持を稼げるようにする事で家臣を大事にする姿勢を見せる事を目的としている。

腕に怪我を負い手が思うように使えなくなった人は開墾や治水の監督者として、足に怪我を負い歩くのに不自由してる人は馬に乗せて検地や城で書類仕事などをして貰う。

ただ字が書けない人とかも居るのでそう言う人はこれから雇う専業足軽の訓練教官をして貰う事にした。


騎乗できる身分でない人でも足が不自由なら馬に乗せる事に異論は出たものの一気に拡大した領地の検地を速やかに終わらせる為に字が書ければ身分なんか関係ないとの事で押し切った。

そして身体が不自由になった人達専用の学校も作り読み書きや計算などを教えいずれは裏で自分を支える人材にするつもりだ。


実際問題として合戦があると殆どの人が従軍するからその間、内政を管理する人が少なくなるからそれを負傷者でカバーする。

それにこれから硝石作りや鉱山開発、農業改革などやる事は目白押しなので猫の手も借りたいぐらいだから。

これなら合戦に行っても内政が滞る事は無くなるし家臣を大事にすると言うアピールにもなるし。


方針を話し終えると一門衆を始め重臣の皆さんが退席し所領へ戻っていった。

「それにしても身体が不自由になった者に仕事を与えるとは流石です」

「泰経さん、これからもっと領地が増えるし検地や治水、硝石作り、それに兵糧や金銭管理とか人手はいくらあっても足りませんからね」


そんな会話をしつつ酒造りなどの話をしていると江戸城から泰明さんの使者がやって来た。

どうやら葛西城を攻め落とし居座っている三浦時高が面会を求めているとの事だ。


三浦時高は自分に臣従を誓った三浦高救さんの義父で三浦家の実質取り仕切っている人だ。

そんな人がわざわざ面会を求めて来たので承諾し江戸城で明後日と決めて使者を江戸城に走らせる。


今回の合戦で勝てたのは三浦時高、高救さん親子が古河公方の軍を追い散らし葛西城を落としてくれたからだから面会を断る理由は無いし、むしろ断ったら合戦になりかねないし。


面倒な要求をしてこなければ良いんだけど…。

そう思っていると泰経さんは何かしら要求してくると言い、要求によっては合戦もじさないと意気込んでる。


いや友好的に行こうよ。

合戦から帰って来たばかりだし、そもそも今回三浦時高、高救さん親子はある意味今回の合戦では一番の功労者と言っても過言じゃ無いし。


補足-------------------------------------------

無礼講

鎌倉時代末期に、茶会などで自分の地位に合わない衣服をあえて着ることで、互いの身分の上下の区別をわからなくして、純粋に才能のある者だけを集めて歓談を行った事が始まりとも言われています。

※諸説あります。

その後も国人領主や大名が主催する宴などでも無礼講が使われだしますが、酔った勢いで喧嘩になったり、宴会後も遺恨を引きずるなどもあったようで戦国大名の中には無礼講を禁止する人も居たり、また 酒の勢いで主君に対し何でもいいから、不満、 希望などを自由に言わせその人の腹の内を探ったりする大名なども居たそうです。

酒は飲んでも呑まれるな、口は禍の元と言ったところでしょうか…。

主君に対し不平不満を言った人のその後が気になります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る