第29話川越城と鉢形城

《川越城》


「急げ!!! 出来るだけ荷物を持って近隣の村へ避難しろ!!」

「持ち運べぬ食料は家の前に出しておけ!」

「足軽衆! 家の前に置いて行った食料を城内に運び込め!! 城下に食料を残すな!!」


川越城の城下は避難する人、それを誘導する足軽、持ち運べない食料を回収し城内に運び込む足軽でごった返している。


「道灌様、仰せの通り合戦に加わる農民達を使い入間川より拳より大きめの石を大量に運び込みましたがこんなにも石を集める必要あるのでしょうか?」

「宗麟様よりもたらされた投石器なる物は、一度に無数の石を飛ばす事も、大石を遠くに飛ばす事が出来るとの事だ、此度は守りの合戦、ならば大石を飛ばすより拳より大きめの石が無数に降り注げば敵軍も攻めにくいだろう」


川越城の主殿で家臣たちからの報告を受けこれまで何度も読み返した書状を読み返す。


「まさか宗麟様は6万の敵兵を相手に勝つおつもりとは…」

書状を折り畳み主殿から城下の様子を見ると、荷車に家財を乗せて避難していく町民、城の空堀を深く掘る足軽が慌ただしく動き回り、城の中の一角には商人から預かった家財や売り物などが山のように積まれている。


「兄上、近隣より加勢に来た国人衆を含めこちらの兵は5千、宗麟様が援軍として来られるとの事ですが豊嶋家の兵を合わせても精々5千、6万もの大軍を相手に出来るとは…」

「宗麟様よりの書状では2ヵ月、長くても3か月の間この川越城で持ちこたえさえすれば勝てるとある。 今はそれを信じて貝のように城に籠り耐えるのだ」


そう言い道灌は弟の資忠に書状を見せる。

「宗麟様は景春殿を救援しその後返す刀で川越城を攻める上杉定正を討つとありますがこのような事…」


書状を読み終え未だ納得できない顔の資忠に道灌が自信に満ちた顔を向ける。

「我らは宗麟様を信じて川越城を守り切るのみ、どんなに挑発されようとも城から一歩も出ず守りに徹するのだ。 さすれば必ず勝てる!!」


そう言い主殿から城下を再度眺める。

「明日には上杉定正の兵が来て城を囲むだろう。 今夜は諸将を集め軍議を開き持ち場を決める。 資忠! 決して軍議の場で弱音を吐くな! 我らが堂々としていれば援軍に来た国人衆の士気も維持できる。 宗麟様は日ノ本を統べる方とお告げがあったのだ。 我らはそれを信じて付き従うのみ!!」


そう宣言すると、道灌は兵よりの報告を聞き、指示をだす。

「そう、我らは宗麟様を信じるのみ…」


川越城が籠城準備で慌ただしくなっている頃、鉢形城は既に関東管領上杉顕定率いる3万の兵が城下に火を放ち辺りを火の海に変えていくが、城に籠る兵は慌てるでもなく火の海を眺め、火の粉が城に飛んで来て燃えないように見回りをするにとどまった。


《鉢形城》


「殿、敵が城下に火を放ちました。 恐らく火の収まる明日にでも攻め寄せて来るかと」

家臣よりそう報告を受けた長尾景春は櫓に登り火の海のなった城下を眺め、その後城下から離れたところに陣を敷く関東管領上杉顕定の率いる軍に視線を移す。


「舐められたものだな…、俺が1万の兵で守るこの鉢形城を高々3万の兵で攻め落とそうとは…」

「確かに、城には入城しておりませんが周囲には我らに味方する国人もあまたおります、いっその事示し合わせてこちらから攻めて追い散らしては如何でしょう?」


「そうだな、本来ならそうするんだが今回は宗麟様より川越城を攻めている上杉定正が敗走するまで籠城して守りに徹しろとの事だ、何かお考えがあるんだろう。 我らが勝手に動けば宗麟様の策が無駄になる。 それに宗麟様の力量を見定める良い機会だ、ご指示に従おう」

「殿は宗麟様が上杉定正を討つと?」


「宗麟様は鉢形城を救援する為に上田が籠る松山城を攻めるだけでなく川越城の上杉定正を討つおつもりだ。 この事は他言無用ぞ!」

「はっ、では我らは宗麟様がどのように動こうとこの鉢形城に籠り機を伺っておりましょう」


「そうだな、どうせ上杉顕定も3万の兵でこの城を落とせるとは思ってはいないだろう。 明日からの合戦も激しくはなかろう」


そう言うと景春は話をしていた家臣と共に櫓を降り主殿に向かって歩き出す。

「それにしても豊嶋家の兵と国人衆合わせても5千程度でどのように戦うのか…。 この合戦の結果によっては身の振り方を考えなばな…」


景春の呟いたその言葉は誰の耳にも届く来なく喧噪の中に消えて行った。



補足-------------------------------------------------

当時の城は戦国時代後期の天守を備えた城では無く、本丸、二の丸、三の丸なども備えていなかったそうです。

山城もですがどちらかと言うと地形を生かした防衛能力のある館と言った感じだったようです。

尚、戦乱が激しくなるにつれ、防衛を意識した造りとなり様々な防衛う設備が出現しました。

※諸説あります。

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