第6話チートが判明

「御一同、待たせた! お目覚めになられ、一息つかれたのでお越しいただいた。 こちらのお方がこれより我ら豊嶋一族が主君と仰ぐ鳳凰院 宗麟様だ」


広間には鎧を着用していないものの鎧下姿の人が20人程いて自分が部屋に入ると一斉に平伏する。

「えっっと、鳳凰院 宗麟です。 主君って言われてもよく分からないんですが、よろしくお願いします」


上座に座る様促され、その右斜め前に泰経さんが座る。

上座の一段高くなった所には、自分が着けていた鎧と陣羽織、大太刀に太刀、脇差そして鎧櫃が置かれているけど、なんかここって先祖伝来の鎧とか旗とか置く場所じゃない?

上座に座った状態で周囲を見回していると、泰経さんの言葉でと平伏していた人が顔を上げた。


「豊嶋 泰明にございます。兄共々お引き立てのほどを」

恐らく泰経さんの弟だろう泰明さんが挨拶をすると、それに続き皆さんが名乗っていく。

「赤塚 資茂にございます」

「志村 信頼と申します」 

「板橋 頼家と申す」

「滝野川 守胤にございます」

「小具 秀康と申す」

「平塚 基守にございます」

「白子 朝信でございます」

「庄 宗親でございます」

「宮城 政業と申す」


泰経さんが今名乗った人達が豊嶋家の一門衆だと教えてくれ、その後、豊嶋家の重臣さんが名乗ってくれたんだけど、大泉さんに保谷さん、豊中さん、和光さん、など、自分の実家周辺の地名そのまま家名になってる気がする。

この時代は在地を家名にするのが普通なんだろうな…。


挨拶が終わると、泰経さんが、出陣は明後日と全員に伝え軍議が始まる。

これが軍議というのか? ただ誰が先陣を務めるかを決めるだけの話合い、紛糾したものの白子朝信さんが先陣を務める事に決定したら解散になった。

いや、これって軍議と呼べるの?

もっと、戦略やら攻城方法とか議論する物だと思ってたのに…。


そんな軍議の後、泰経さんが自分用の部屋を用意したのでそこを使って貰いたいと言われ日当たりが良さそうな部屋を宛がわれ、また身の回りの世話を照姫さんがするので何でも申し付けてくれと言わた。

照姫さんが自分専属? 何でもって…何でも?

いや、その何でもじゃないはずだ!!


そしてなぜか部屋に居座っている泰経さんからは鎧櫃の中に見慣れない物が入っているので何なのか教えて欲しいと言われた。


鎧櫃の中身が何なのか自分も知らない為、用意された部屋に運び込まれ飾られていた鎧や大太刀、と共に置かれた鎧櫃の中を見ると、そこには出張帰り着てた衣服にキャリーバック、ビジネスバッグ、そして出張先で買って来た、傑作饅頭とのキャッチフレーズでお馴染みの福岡土産と、練馬駅を降りて買った照姫さんの名を冠した最中が入っていた。


泰経さんと照姫さんが、興味深々と言った感じで鎧櫃から出した物を見ているので、とりあえず福岡土産のまんじゅうと、練馬駅近くの和菓子屋さんで買った最中をを食べさせて、その間にキャリーバッグやビジネスバッグの中身を確認する。

本人は気が付いてないけど照姫さんが自分の名を冠した最中食べるって不思議な光景だ…。


キャリーバッグの中には着替えとアメニティグッズ、リュック型ビジネスバッグの中には電卓とパソコン、後はノートにボールペンや蛍光ペンが数本、そしてスマホなどが入っていた。

着替えは助かるけど、出張帰りだったから洗濯してからじゃないと着れないし、パソコンとスマホは電気が無いと使えない。

てか、室町時代にはネット環境もWi-Fiも無いから役に立たないんだよね…。

しかもタバコ吸いたいと思ってビジネスバッグを漁たけどジッポライター1個と100円ライター1個、そしてジッポオイルは出て来たけどタバコが無い!!

最後の1本を練馬駅近くの喫茶店で吸ってしまったから召喚時に所持して無いと言う悲劇。

コンビニで買っておけば良かった…。


そしてお土産のまんじゅうを食べ、その味に驚愕の顔を浮かべる2人にスマホとパソコンを起動しどういう物かの説明をする。

とは言え、頑張って説明をするも、恐らく今から500年以上先の物を理解できるわけもなく、首をひねっていたが、説明途中でネットに接続出来た事に今度は自分が首をひねり、そして驚愕した。


「いや、何でネットに繋がるの!!! メールは使えないけど、エクスプローラーは開くし先生で検索もできるのはなぜ!!! 電気もネット環境も無いのにパソコンとスマホの検索や付属してる機能が使える!!!」


ネット接続が出来た事に驚愕し一人で騒いでいると、説明をして欲しそうな2人がパソコンを覗き込み何で驚いているのか不思議そうな顔をしている。


「いや、ネット…、まあ分かりやすく言えば色んな情報が見れるんだけど、それがこの世界でも使えるんですよ。 電気も無いのに!! 超チート!!!」

「あの~、よく分からないのですが、ちょうち~ととは何でしょうか?」


照姫さんが不思議そうな顔で疑問を口にするので、ネット検索が出来る事で、膨大な知識を得れる事を教えると、泰経さんが身を乗り出し、どのような知識が得られるのか聞かれた。


簡単に説明する為、石神井城を検索し、石神井城について解説されているページを開く。

そしてそのページを泰経さんが画面に顔を近づけ内容を読み、驚愕している。


てか、文字読めるの?

昔の文字ってミミズが這ったような文字だし、ここ異世界だから、自分が居た日本で使用されている文字は読めなさそうなのに、何故か読めてる。

これも異世界だからか?


その後、泰経さんには江戸城攻めの前に作ってもらいたい物をお願いその後使い方などを説明する。

話が終わり、泰経さん名残り惜しそうにお土産の饅頭と最中を各3個程持って部屋を出て行き、照姫さんは何でもお申し付けくださいと言わんばかりの顔で部屋の隅に待機している。


「あの照姫さん、この服の洗濯をお願いしたいのと、石神井城を見て周りたいんだけど案内して貰える?」

「はい、かしこまりました。 では洗濯は下女に命じ、私が城内を案内させて頂きます」


そう言って一礼すると、下女にキャリーバッグから出した衣服の洗濯を指示した後、城内を案内してくれた。


小中学生だった頃、良く石神井公園のボート池とかで釣りをしたけど、この時代にはボート池は無く、自分の知っている地形と大分異なってる。

そして何より石神井川の水量が多いし、三宝寺池も自分が知っている物より大きい気がする。

城の守りも、石神井川と三宝寺池、そして空堀が掘られて、死傷者を無視して強引に攻めないと一押しでは落とせない造りに見える。

まあ実際はどうだか知らないけど、太田道灌が攻めても落とせなかったとも言われているだけあって、まさに天然の要害、いやそこまではいかないけど天然の準要害って感じだ。

3000人ぐらいで損害無視の力攻めしたら落城するだろうけど…。


因みに、照姫伝説で出て来る豊島家重代の家宝「金の乗鞍」と雪のごとき白馬ってあると聞いたら、照姫さんに、少し呆れた顔で「金で出来た乗鞍など何の役に立ちません」とキッパリと言われてしまった。

やっぱ伝説は伝説か…。

そして散策途中、厩に案内して貰ったけど、馬に関しては、やはり見慣れたサラブレッドと違い、背丈の低い馬が普通らしく、戦の時も騎乗して戦うのではなく、殆どの場合は馬から降りて戦うとの事だった。

自分が乗ってた青毛の巨馬は運ばれる自分について来たらしく、天より遣わされた自分の馬、天馬と認識されているようで、専属で世話をする人を用意してくれるらしい。

てかこの馬オスだよね?

この時代の馬と掛け合わせたらそこそこ体格の大きい馬が産まれるんじゃない?

あとで泰経さんに相談してみよう。


その後、雑談を交わしながら城内各所を案内してもらい、高台から見える城下町などを見て、意外と寂れているって印象呟いたら、これでも他の城などの城下町に比べれば栄えているって教えてくれた。

そして驚いたのは、照姫さん実は14歳で、お姉さんは現在16歳で既にお嫁に行っていて、本来なら照姫さんも近々お嫁に行く予定だったけど、お相手が道灌側、正確に言うと扇谷上杉家側に付いた為、婚姻の話が止まってるらしい。

因みにお姉さんの旭姫さんの旦那さんは、泰経さんが味方してる長尾景春さんに属する城主らしく夫婦仲は良好との事だった。


そして今回の戦の発端となった長尾景春さんになぜ泰経さんが味方したのか聞いたら、泰経さんの奥さんが景春さんの妹さんで、義理のお兄さんだからという事と、豊嶋家的にも義兄の景春さんが山内上杉家家宰になれば利益があるから、そして、太田道灌が江戸に城を築いた事で既得権益を脅かされる可能性が出て来たからと言うのも理由らしい。

実際既に太田道灌と敵対関係になった事で石神井川の水運を使った取引に支障が出ているとの事だった。


因みに泰経さんの義兄である景春さんさんは、山内上杉家に属していたけど、その山内上杉家の家宰を誰がするかで揉めて景春さんが家宰になれなかった事に怒り兵を挙げた事で、今回の争いに至ったらしい。

ただ、この争いが始まる以前より山内上杉家・扇谷上杉家と古河公方と呼ばれる足利成氏が長年争っていて現在はその延長線上のような様相を呈しているらしい。


うん、ややこしい。

そもそも太田道灌は山内上杉家の家臣じゃなく扇谷上杉家の家宰だし、話を聞く限り関東ではもう十数年以上争いが続いていて、敵味方が入り乱れ複雑な様相を呈しているらしく、話を聞いただけでは全く理解が出来ない。

この状態で天下統一しろとかもう無理じゃない?


泰経さんは今後、長尾景春さんとは友好関係を維持するように努めながら自分に従うって言ってるけど、先が思いやられる。


補足--------------------

※補足

石神井城を太田道灌が攻め落とせなかったと文中にありますが、一説によると城の守りの一部を破られ和議を結んだものの、和議の条件である城の破却をしなかった為に再度攻められ夜陰に紛れて豊嶋泰経が逃亡したとの説があります。


照姫伝説


落城の際、娘の照姫が城に蓄えられた金銀財宝とともに入水したとも、家宝である金の鞍を付けた雪のごとき白馬に跨り三宝寺池に入水したとの伝説です。

尚、明治時代か大正時代には伝説を確かめようと三宝寺池を調査したそうですが当然のごとく何も見つからなかったそうです。

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