第58話 技能取引者セイン2
俺の復帰記念というわけではないけれど、今夜はパーティーを開いてくれるらしいので、何か手伝おうとしたのだが、ケガ人は休んでいろとみんなに部屋に追いやられてしまった。ベルがくれたポーションのおかげなのか、体の痛みも治まってきたのでだいぶ暇になったのでこっそりと食堂の方へと降りる事にする。
やはり話題は、アーサー様の事で持ちきりである。それとなく、他のお客さんにも話を振ってみる。
「ああ、女って言うのには驚いたが、カリバーンが認めたんだろ? だっだら問題ないだろ」
「継承の儀式での傷を負いながらも指揮をする姿かっこよかったよな」
「お供の二人も聖剣使いなんだろ。頼りになるじゃないか」
「あの凛々しい顔で、ゴミを見るような目で罵ってほしい」
宿のお客さん方には結構好評なようだ。罵ってほしいとか言っているやつは、頭の病気だろうから治癒してもらった方がいいだろう。でも、お供の聖剣使いって俺の事じゃないよな、エレインさんのことだよな? 俺がほっとしていると接客に出ていたベルと目が合ってしまった。
『戻れ』
「ひぇ」
お客に笑顔で接しつつ殺気に満ちた目をしたベルに睨まれて俺はすごすごと自分の部屋に戻る。後で絶対説教されるな……
コンコン
俺の憂鬱な思考をさえぎるようにノックの音が響いた。誰だろうか? ベルならノック何てしてないで説教をしてきそうだが……
「どうぞ」
「ああ、お邪魔するよ。聖剣の副作用は結構きついだろう? 私も最初は苦労したものさ」
そう言って入ってきたのはエレインさんだ。彼女の腰にはエクスカリバーが刺さっている。使わせてもらったが鞘といい剣本体といい改めて聖剣という武器のすごさがわかるというものだ。モードレットのクラレントもエクスカリバーがなければ相手にならなかっただろう。ていうか副作用あるなら言ってくれよ……
「そういえば……エレインさんが『聖剣の担い手』を売ってもその聖剣を手放さなかったのは、鞘で誰かが傷ついたときのためだったんですね」
「ん? ああ、それは少し違うよ。ただの感傷さ。スキルを恨んだこともあったけど、ヴィヴィアン姉さんたちに会えたのはスキルのおかげで、皆と色々な冒険をできたのはこのエクスカリバーのおかげだからね。それに、こいつのおかげでセイン君もアーサーも助ける事ができた……冒険者時代の経験や手に入れたものがあって、私がいるんだ。だから……これはその証明のようなものなんだ。あと、よかったらこれを食べてくれないかい?」
そう言うとエレインさんは俺に隠し持っていたお皿を渡した。ちょっとした軽食のフィッシュアンドチップスだ。出来立てのためかアツアツである。空腹だったのでありがたい。
「いただきます」
「どうぞ、火傷をしないようにね」
俺は、母親のように注意をするエレインさんにうなづいて、フィッシュアンドチップスを口にする。魚のうまみが口の中に広がる。簡単な料理だけど、シンプルだからこそ美味しくするのは中々大変なんだよな。多分俺が作るよりも上手になっている気がする。
「これは……エレインさんがつくったんですよね」
「ああ、やっぱりわかってしまうか……ベルほどうまくは作れないなぁ……」
「いえ……この短期間でここまでできるのはすごいと思いますよ。これなら素敵なお嫁さんにもなれますよ」
「フフ、君は本当にお世辞がうまいな」
そう言いながらも俺の言葉に彼女はまんざらでもなさそうに、はにかんだ。そして、窓をみながら言葉を紡ぐ。
「私が夢への一歩を踏み出せたのはセイン君のスキルと言葉のおかげなんだ。だからさ、これからも私やガレスちゃん、アーサーのように悩んでいるやつや、困っているやつがいたら手を貸してあげて欲しい。もちろん、私もできるかぎり君の助けをするからね……多分、君が望む望まないに関係なく依頼や厄介ごとが増えるだろう。だから、一緒にがんばろうね、英雄」
「英雄って……言いすぎですよ。俺はただスキルを取引できるだけの凡人です」
「フフフ、君はそう思っていても周りが放っておけないって事さ」
「そんなもんですかね……」
べた褒めされて照れているとドタドタという足音共にベルが入ってきた。彼女はなぜか顔を真っ青にしており、息を整えている。いったいどうしたというのだろうか。
「ちょっと……あんたにとんでもないお客さんがきているわよ」
「ほら、さっそく厄介ごとがやってきたね」
何やら困惑した顔をしているベルと、苦笑しているエレインさんの言葉に俺は嫌な予感を隠せないのであった。
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