第52話 輝かしい王アーサー7

 禍々しい光の一撃をエレインさんが鞘に入ったままの聖剣で逸らす。何らかの加護なのか、鞘が黒い光をはじくがそれでも完全には間に合わなかったのだろう。アーサー様も咄嗟に体を逸らしたおかげで、直撃は避けた者の左肩から血が飛び散った。



「邪魔だぁ!!」



 光線をはじき切ったエレインさんはそのままモードレットを蹴飛ばすと、彼がボールのようにふっとんでいく。いきなりの事態に、俺は何をできるか考える。治療系のスキルを買うべきか。それとも……



「セイン君、さっきの部屋へ行くぞ」

「え、でも……」

「いいからアーサーの指示だ!!」



 俺は叫びながら猛ダッシュでこちらへやってきたエレインさんについていく。質問しようにも彼女はあっという間にアーサー様をかかえたまま駆けていく。広場はもう、混乱に満ちており阿鼻叫喚としているそりゃあそうだよな。新しい王が何者かに襲われたのだ。

 エレインさんに遅れて到着した俺は、乱暴に開かれっぱなしの扉をしめる。そこには必死に血止めをしながら何かを押さえつけているエレインさんがいた。



「いやぁ……やらかしてしまいましたね……まさか、昔に宝物庫から奪われていたクラレントを持っていたとは……」

「アーサー様喋って大丈夫なんですか? その傷が……」



 彼女の体は胸から肩にかけて鮮血があふれ出ており、かなり凄惨な傷跡が見える。傷口をみるために服を破いたのだろう。胸元がみえてしまうが、白い肌と対照的な赤色が何とも痛々しい。あきらかに致命傷ではないだろうか。



「大丈夫だよ、私の持つ聖剣エクスカリバーは鞘を身に着けている人を即座に治癒するからね。このまま治療をすれば間になんとかなるさ。今の私は鞘から剣を抜くことはできないけど、鞘の効果は自動的だから問題はないんだ」

「あなたがいて本当に助かりました、エレイン……」



 だからエレインさんはずっと抜けもしない聖剣をずっと装備していたのか。しかし、状況は最悪だ。新しい王になるはずのアーサー様がモードレットに倒されるところをみられてしまった。人々の心は不安で一杯だろう。



「そこで、お願いがあるんですが、セインさん……『聖剣の担い手』を使って、エクスカリバーでモードレットを倒してもらえないでしょうか? クラレントは感情を力とする聖剣です。かつての王が凱旋したときに民の信頼を力にした強力な聖剣ですが、彼は自分の憎しみだけを力として使っています。その力はすぐに尽きるでしょう。ですが、民衆がその犠牲になるのを黙ってはいられません」

「え、でも……戦うならエレインさんの方がいいんじゃ……」

「いや、私は彼女を治療しないといけないんだ。万が一ここが襲撃された時に君は、アーサーを治療したまま戦えないだろう? 『聖剣の担い手』があれば鞘から剣を抜けるはずだ。聖剣の加護があれば君ならモードレットに勝てるさ。彼はクラレントに飲まれている。不意さえ打たれなければ君の敵ではないよ」

「セインさん、申し訳ありません。力を貸していただけないでしょうか?」



 いきなりの状況に俺は混乱しながもエレインさんとアーサーさまを見る。俺にできるのだろうか? アーサー様は平静を保っているふりをしているが、顔が真っ青だ。予断を許さない状況なのだろう。そして、エレインさんもアーサー様の治療で精一杯だ。

 広場の人たちの悲鳴が思い出される。モードレットや、ルフェイを筆頭に手段を選ばないやつらがこの国を支配したらどうなるだろうか? それにあの中にはベルや、ガレスちゃんだっている。もしも、彼女たちが巻き込まれたら……だったら俺は……



「わかりました。やってみます」



 俺は机の上に置いてある金貨の入った袋をもってスキルホルダーを使用する。ウインドウから『聖剣の担い手』を購入して、エクスカリバーの鞘から剣を抜く。エレインさんが俺を安心させるように微笑でくれた。そして、決戦の間へと向かうのであった。

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