第36話 モードレットとルフェイ
大通りを外れた路地裏に一人の男がいた。その周りには何人ものガラの悪い男たちが、倒れており、一人だけ息を荒くして突っ立っている男がいた。身なりをきちんとすれば、色男なのだろう、精悍だった顔はこけており、無精髭によりみすぼらしさをより強調している。綺麗だった金髪は手入れがされていないようでぼさぼさな男だ。
そして、その男は倒れている男を蹴飛ばして、意識を取り戻させる。すると見下すように言った。
「これで終わりかザイン……さっきまでの威勢はどうしたんだ?」
「ごはぁっ……モードレット……お前が余計な事をしたから、俺は冒険者としての地位を失ったんだ……その剣は聖剣だろ? 使えないお前がもっていても意味はないだろ。それをよこせよ……金になるんだ」
「だから、俺を襲って聖剣をうばうつもりだったのか。大体セインを襲ったのは貴様も同意していただろう? 俺はもっとしかるべきタイミングであいつを追放するつもりだったんだ……なのに貴様が……誰だ、そこにいるのは、見世物ではないぞ」
ザインに文句を言って再度けりをいれたモードレットだったが、誰かの気配を感じて、睨みつける。すると観念したように、人影が現れる。
「久しぶりね、モードレット、ザインは……倒れているわね。まあ、元気そうで何よりね」
「ルフェイか……何の用だ? 落ちぶれた俺を笑いに来たのか?」
現れたのはローブに三角帽子という典型的な魔術師の恰好をした少女だった。おどけたように大仰なお辞儀にモードレットは不快そうに舌打ちをする。しかし、ルフェイはどこ吹く風とも言う感じで、モードレットを見つめ返す。
「そんな失礼な事はしないわよ。妾の子とはいえ王家の血を引くあなたにそんな事はできないわ」
「貴様……どこでそれを……」
ルフェイの言葉にモードレットは警戒の色を強めて剣を構えるが、彼女は笑みを浮かべたままさらに言葉を繋いだ。
「落ち着きなさいよ、私はあなたの味方よ、ずっとあなたを応援していたんですもの。それにしても惜しかったわね。冒険者Aランクになったらあなたも選定の剣を試させてもらえるはずだったんでしょう? そして、剣に触れた時にあなたのユニークスキルを使えば、あなたは王に成れたはずだったのに……」
ルフェイの言葉に、モードレットは驚きのあまり目を見開いた。その事実を知っているのは約束をした自分の父と、自分、あとは今は亡き母だけのはずだ。それをなぜこの女が知っている?
「イレギュラーな事にアーサーが聖剣を手に入れちゃったものね……一体どんな手品を使ったやら……でも、まだチャンスはあると思わない……? 継承の儀式までの日にあなたが王にふさわしいと認めさせればいいのよ。そこであなたが聖剣を使える事を証明すればアーサーより、あなたを支持するものもあらわれると思わない?」
「アーサーは正当な血筋で、俺は卑しい血だと追放された身だぞ。仮に聖剣を使えたとしても対等なはずが……」
「ところがそうでもないのよ。それに、アーサーがいきなり聖剣を使えるようになったのはおかしいと思わないかしら? まるで、誰かから聖剣を使う事ができるスキルを買ったりでもしたのかしらね」
ルフェイの言葉にモードレットは眉をひそめる。それでお俺は彼女の言いたいことがわかった。セインの近くにいるSランク冒険者のエレイン……彼女の『聖剣の担い手』をアーサーにセインが売ったのだろう。現にあの女は俺と戦った時に聖剣を抜くことは無かった。そして、それを口外させないためにセインをエレインが監視しているに違いない。結局セインのやつも俺と同じように国に人生を狂わされているのか、そう思うとあいつへの憎しみも少しは安らぐというものだ。
「それならもっと確実な方法がある。アーサーがスキルを失って、聖剣を使えなくなり俺がカリバーンを使いこなして見せればいいのだろう?」
「そうね……その方が確実ね。安心しなさい。私があなたがステージに立つチャンスを作ってあげるわ」
「それで……なぜ、貴様は俺をそんな風に助けようとする? なぜ、俺の目的を知っている?」
「わからないのも無理はないわね……私があなたを見たのはあなたが言葉も喋れなかったころだから……私はね、あなたのお母さんに魔術を習ったの。あなたをあやしたことだってあるのよ。泣き虫モードレット。まだその猫のぬいぐるみを抱いていないと眠れないのかしら」
その言葉で彼は過去を思い出す。今は亡き母に作ってもらったぬいぐるみの事を……城から出るときに決別のつもりで置いていって以来見てはいない。
目の前の彼女が本当に仲間かなんてわかりはしない。だがモードレットにはもう失うものなどないのだ。仲間たちに見限られ、冒険者としての資格も失った。全てを失った彼だが、それでもカリバーンさえ抜ければ何とかなる。そして、話を聞いてふと疑問に思ったことがある。
「話を聞くと俺より5才くらい上だよな……それにしてはなんというか……若いな……」
「年齢に関して言ったらぶっ殺すわよ。年くらい誤魔化す魔術はいくつでもあるのよ」
「ふん、まあいいさ。それよりも……俺の仲間をするつもりならなんで宿屋での襲撃に協力をしなかった?」
「あの状態でプライドの高いあなたが私の話を聞いてくれたかしら? そもそもエレイン相手に真っ向勝負でかてるはずがないでしょう? 疑わしければ、あとで色々話し合いましょう。なんでも答えるわよ」
その言葉と共に意識を失っていたチンピラ達を彼女がナイフで刺し殺す。モードレットが怪訝な顔をしていると彼女は妖しく笑ってこう言った。
「人手は多い方がいいでしょう? わたしなら死んでいても利用できるもの。まあ……ザインはさすがにパーティーを組んでたから生かしておいてあげましょう」
ルフェイの言葉に従うかのように、チンピラ達の死体が起き上がる。そして彼らは闇夜の街へと消えていくのであった。
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