第33話 蒼い髪のエレイン8

 エレインさんが用意したのは大きいブタの丸焼きに、エビなど海鮮の素材をたっぷりと使ったスープである。インパクト重視で、多少なら味を誤魔化しやすいものをベルが選んだのだ。そして、美味しそうな香りと見た目のインパクトもあり、無茶苦茶美味しそうに見える。



「ヴィヴィアン姉さん、冷めないうちどうぞ」

「わかった……もらうね……」



 なにやら無言で並べられていた料理を見つめていたヴィヴィアンさんだったが、エレインさんの言葉にフォークを動かす。俺はとっさにベルに視線を送ると彼女は自信ありげにうなづいた。ベルが問題ないというのなら味は大丈夫だという事だろう。俺も安心して、口をつけようとするとヴィヴィアンさんが口を押える。うっそだろ。こんなにうまそうなのに……



「あの……私の誕生日にって……味もついていないトカゲの丸焼きをだしていた……エレインが……」



 どうやらエレインさんの成長に感動しただけの様だ。よかった……俺も料理に口をつけてみるが確かに美味いな。スキルを使ったっていうのもあるけれど、努力をしていなければそれも意味はないのだ。冒険者を病めてこの店でひたすら頑張ってきたエレインさんの努力の結晶だろう



「エレイン……あなたね……」

「いや……違うんだ、以前ヴィヴィアン姉さんが作ってくれたから美味しいのかなって思って……」

「しかも、そのトカゲは……毒を持っていてお腹をこわした……私はちゃんと毒抜きもしてたのに……」

「あ、でも、あれですよね、昔の話ですよね、いつの話なんですか? 子供の時の話だったらしょうがないんじゃ……ね、エレインさん」

「いや、実は去年の話なんだ。喜んでもらいたいなっておもって……」

「つい、最近じゃねえかよ!!」



 ベルが呆れたように呻いて、ガレスちゃんがフォローするが、耐えきれずに俺もつっこんでしまった。その光景にエレインさんがいじけたように唇を尖らせた。

 そうして、乾杯して酒が入った俺達はエレインさんの昔話で盛り上がる。一人だけ素面のエレインさんが黒歴史をほじくり返されて顔を真赤にしているが、まあいいだろう。このまま終われば平和に行きそうだなっておもった矢先だった。ヴィヴィアンさんの一言で場が凍る。



「そういえば……二人は付き合ってるんだよね……証拠ってわけじゃないけど目の前でキスしてみてよ……」



 俺はどうしようとエレインさんを見つめるが、彼女は陸に上がった魚の様に口をパクパクとしているだけだった。ていうかベルとガレスちゃんが視線でどうするんだよって訴えてきてこわいんだけど、俺だってどうすりゃいいかわからねえよ。



「ヴィヴィアンさん、そういう事は人前でやるものではないと思うんですよ」

「おかしい……手紙ではラブラブだから……いつでもキスして愛を確かめあってるって書いてた……」

「エレインさん!?」



 この人何書いてんだよぉぉぉぉ。それじゃあ、ただのバカップルじゃねえか。やっべえ、ヴィヴィアンさんは不審そうに俺達をみているし、エレインさんは気まずそうに視線をそらしてるし、ガレスちゃんは飲み物が変な所に入ったのか咽てるし、ベルはなぜか殺意の籠った眼で俺を睨んでやがる。

 なにこの流れ、俺のファーストキスってここで奪われるの? 改めてエレインさんをみると、端正な顔に、艶々とした唇が目に入る。あれ? 別にいいんじゃないか? こんな美女とキスができるんだぜ。これはエレインさんを救うためなんだ仕方ないよな。



「なあ、エレイン……俺達のラブラブっぷりをみせてやろうぜ」

「え……乗り気なのかい? え……でも、こんなところで……でも、まあセイン君なら……ああ、でも……」

「ひゅーひゅー……二人とも……お熱いね……」

「は? 死ねば?」

「セインさん……最低です……」



 俺の言葉で一気にベルとガレスちゃんの好感度が下がった気がするんだが……肝心のエレインさんはというと俺は見て顔を真赤にしており、目が合ったら速攻逸らされた。やばい、調子に乗りすぎたか?



「そうだね……自分で蒔いた種だからね……さあセインいつものように私たちのラブラブっぷりを見せてあげようじゃないか!!」

「まあ、落ち着いてこれでも飲みなさいな」



 そう言ってエレインさんにベルがコップを渡す。怪訝な顔をしていたがエレインさんがコップを一気飲みすると、顔を真赤にしたまま俺にむけて言った。




「さあ、セイン君、私たちのラブラブっぷりを……」



 しゃべっている途中でなぜかテーブルに頭から突っ込んだ。幸いにも料理には顔を突っ込まなかったがテーブルにぶつけているので無茶苦茶痛そうである。え、何がおきたの?



「ああ、ごめんなさい、ベルに渡したのお酒だったわね……間違えちゃったわ。エレインさんは私が部屋まで運んでおくわ。まだ料理はあるし、ガレスちゃんとヴィヴィアンさんはこのまま続けててください。あと、セインも手伝いなさい。ちょっとお話もあるしね」

「はい……」



 笑顔だが、なぜか無茶苦茶こわいベルにと一緒に俺はエレインさんを運びに行くのであった。

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