第24話 ザインの末路
俺はとっさに動きそうになった体を落ち着かせる。別に冷静になったわけではない。自分の隣から比べ物にならないほどのすさまじい殺気を感じ取ったからだ。
「ひっ」
悲鳴を上げたのは誰だっただろう、俺かもしれないし、ガレスちゃんかもしれない。もしくは直接浴びたザインか……まあ、どうでもいいことだ。
「今すぐ離せ、殺すぞ」
その一言を発した殺気の主……エレインさんには一切表情が無く、その声も平坦だ。だからこそ恐ろしく、まるで別人のようだった。いつものようにちょっと抜けたお姉さんとしての姿でもなく、仕方ないなぁとモードレットと対峙をした柔らかい感じもない、この姿が敵を目の前にしたSランク冒険者としての彼女なのだろう。
「エレイン、私は大丈夫よ。セイン、あなたに助けてほしいんだけど……できるわよね」
「ああ、任せてくれ」
「ベル……だが……」
ベルの言葉でエレインさんの感情がわずかだが戻る。多分彼女が本気になれば、一瞬でザインからベルを救う事ができるだろう。でも、頭に血が上っている彼女がザインの命を奪わないという保証はない。それだけのすさまじい殺気だったのだ。
「エレイン、私はあなたに無駄な殺生をしてほしくないの。あなたの手はもう、家事をするためにあるのよ。持つのは包丁にしておきなさいな」
「わかった……セイン君お願いしてもいいかな?」
その一言で先ほどまでの殺気が消え、普段のエレインさんに戻る。ああ、よかった。あのままだったらエレインさんがエレインさんではなくなってしまう気がしたのだ。
「はっ、はははは。なんだかわからんが、そいつじゃなくてセインに任せるって本当かよ!? そいつになにができるっていうんだ」
ザインが震えながらも強がるように言った。こいつはよくこの状況でも吠えられるな。俺とベルの目が合う。ああ、お前の言いたいことはわかっている。安心しろって。エレインさんとベルにこれだけ信用されているんだここでやらなきゃ男じゃねえよ。『技能取引者<スキルトレーダー>』としての腕の見せ所だ。
「ザイン、お前が欲しいのは俺の持っているスキルだろう。何でも売るからベルを返してくれないか? もちろん、エレインさんも含めた全員は今日の事を誰にも言わないし、エレインさんにも手は出させない」
「は、話がわかるじゃねえか!! あとは売るんじゃない。ただでよこせ」
「……ああ、わかったよ」
「ふははは、これで俺はモードレットも越えられる!! さっさとこいセイン、お前が俺にスキルをよこすまで、この女は返さねえぞ」
この男はどこまでも、強欲なのだろうか……俺はある意味尊敬する。俺はザインに近づいて方に手を置く。その際にベルと目が合うが彼女は気丈にうなづく。だけど俺の視界には入ってしまった。彼女の手がふるえているのが……一瞬心の中に怒りが満たされそうになるが呼吸を整えて言葉を発する。
「スキルオープン。お前におすすめなスキルがある。ゴルゴーンの魔眼だ。これさえあればモードレット何て敵じゃなくなるぞ」
「はは、あの蛇女どものユニークスキルか!! いいな、もらってやるよ」
俺のスキルトレーダーから石化の狂眼が消えていくのがわかる。力に目がくらんだな。ああ、お前がろくに説明文もみないやつで助かったよ。
「はは、結構スキルをため込んでやがるじゃねーか、次はそうだな……ん、なんだ? 目が熱い…なんだよ、これぇぇぇぇl!!」
「ベル、大丈夫か」
絶叫と共にザインがベルを突き放して両目を抑える。そして徐々に石化が始まっていく。その速度はフロントさんの時とは比べ物にならない。元々ユニークスキルと一緒に育ったゴルゴーンですら制御できなかったのだ。当たり前の結果である。
「セイン……」
「わかっている、殺しはしないさ、死んだ方がましかもしれないけどな。スキルオープン」
俺は震えているベルを抱きしめながら、ザインに触れてスキルを発動させる。こいつ結構攻撃型スキルはいいのを持っているんだよな。特にユニークスキルの『剛力』は筋力が1.5倍になるすさまじいスキルだ。
「助けてくれぇぇぇ」
「ああ、助けるてやるよ、俺が問題のスキルをもらってやるよ」
「本当か!? 早くしてくれ、死にたくない……」
「ああ、でも、どのスキルが原因かわからないなぁ。だからさ、俺に全部くれよ」
「な……そんなのお前がさっき渡したスキルに決まって……え? なんで……」
俺はザインがこちらに譲ろうとしたスキルの取引を拒否をする。するとザインが絶望の表情で悲鳴を上げる。俺はそんな彼に淡々と言葉をかける。
「そうだな……じゃあ、とりあえず最初に入手したスキルから譲ってもらおうか」
「お前……くっそが……」
「早くしないと石像になるぞ、いいのか?」
「わかった、わかったよぉぉぉ」
そしてザインは悲鳴を上げながら俺にどんどんとスキルを譲り受ける。石化しているのでわからないがもしかしたら泣いているのかもしれない。そして、俺は最後に『石化の狂眼』を譲りうけてスキルを閉じる。
「これで終わりだ。あとは治療してもらうんだな」
「そう……じゃあ、もういいわね。死ね!!」
「ぎゃぁ」
「うわぁ……」
悲鳴と同時にザインの股間をベルが全力で蹴り上げる。悲鳴と同時に気を失ったようだ。俺はザインの痛みを想像して思わず股間を抑える。ベルは絶対怒らさないでおこう。
「セイン君、これはいったいどうなったんだい」
「この人両目が石化しているんですけど……」
「ああ、ちょっと色々な。でも、こいつはもうスキルもないちょっと力が強いだけの男だ。大したことはできないぞ」
ベルが救われたこともあり二人が寄ってくるが目が石化しているザインを見てぎょっとする。
「ふん、これくらいで済ませたんだから感謝してほしいわね。その……みんな心配させて悪かったわね」
「いや、ベル様が無事でよかったよ」
「そうです。本当にどうなるかとおもいましたもん、でもセインさんもすごかったです」
「いや、結構ギリギリだったよ。でも、『技能取引者<スキルトレーダー>』にはこういう使いかたもあるってことだな。さて、あとは警護の騎士たちを呼ぼう」
この後みんなで話した結果、迷惑料として、武器や防具をパクって、警護に突き出すことになった。戦意の無い相手に剣を向けたのだ。冒険者ギルドに話もいくだろうし下手したら冒険者の資格をはく奪されることになるかもしれない。だけど、それはもう俺とは関係のない事だ。
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ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
もしよかったらなのですが一度くらいランキングに入ってみたいと思っておりまして……
面白いな、続きが気になる、作者がんばれよって思ったら星をいただけるとうれしいです。
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