第2話 技能取引<スキルトレーダー>の力

 さてどうするか……俺は暗い気分で冒険者ギルドを出た。羞恥のあまり声をかけてくれた冒険者には失礼な態度をとってしまった。今度会う時があったら謝るとしよう。

 それよりこれからの人生だ。俺のスキルは金食い虫である。そして俺自体にも金を必要な理由があるのだ。俺に残された道は三つほど候補がある。



 一つ目はこれまで通り冒険者として生きていくか。冒険者は命懸けだが当たればでかい。ダンジョンでの財宝や、高難易度のクエストに成功すれば大金持ちになれるだろう。モードレットたちとはちあわせるのは気まずいが、そこはまあ、あきらめるしかないだろう。戦力に関しても、もう、スキルは返してもらったからある程度は戦えるようになっているはずだ。

 二つ目は定職につくことだ。収入は低いが命の危険はない。就職先も幼馴染の彼女に頼めば雇ってくれるだろう。

 そして最後の三つ目が自分で店を出店することだ。これも冒険者としては別の意味で命懸けだが当たればでかい。今は亡き両親も商人だったこともあり、基礎的な知識もあるし、俺の技能取引<スキルトレーダー>を使えば場合によっては大当たりもするかもしれない。

 そもそも冒険者になったのも金が欲しかったからだ。そうなると選択肢は一か三になる。とりあえず彼女にも相談してみるか……などと思っていると声をかけられた。



「よぉ、セイン。しけた面だな」

「鼻血を出しているおまえにだけは言われたくないな、少ししか時間がたっていないのに、ずいぶん男前になったな」

「てめえ……」



 俺の言葉に声の主は表情を憤怒に染めながら唸る。そこに立っていたのは先ほど俺を追放したザインだった。さっきと違うのは彼の顔に誰かに殴られたあとがある事だろう。おおかたモードレットに「余計な事を言うな」とでも殴られたのだろう。




「で、何の用だ?」

「お前のせいでモードレットに殴られたからよ、治療費をもらおうと思ってな。金ならあるだろ」

「まさか……」



 そういっていやらしい笑みを浮かべながら俺がもらった退職金の入った袋を見るザイン。どうやら俺の予想通りだったようだ。というかこいつまじかこいつまじかーー、俺を追放しただけじゃなくて、退職金まで奪うつもりなのかよ。仮にもさっきまでパーティーを組んでいた相手なんだが……まあ、こんなクズだからこそ、俺も余計な事を考えないで打ち負かせる。俺が剣を構えるとザインは馬鹿にするように笑い、力任せに近くにある柵を引っこ抜いて構える。



「は、サポーターごときがやるつもりかよ、さっき、俺に倒されたのを忘れたのか」

「さっきまでお前らにスキルを貸していたし、今は金もあるからな」

「金、金本当にうるさいやつだな。その大事な金を奪ってやるよ」

「スキル発動」



 そう言って俺の方に向かってくるザインを見ながら俺はスキルを発動する。脳内にメニューのようなものが表示される。項目を戦闘に設定。


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『初級剣術        銀貨三枚』

『初級格闘術       銀貨三枚』

『振動』           銀貨三枚』

『高速詠唱        銀貨五枚』

『剣聖ソードマスター          売り切れ』

『妖魔殺し        銀貨三百枚』

『神速            金貨一枚』

『石化の魔眼ゴルゴーンアイ売りきれ』    

etc


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 これで俺のスキルにプールされているスキルが表示される。売り切れになっているのはショップにあり購入されたものだ。

 俺はとりあえずモードレットから回収した初級剣術とザインから回収した振動、最後に初級格闘術を購入する。俺の手にある剣が馴染むのを感じると同時に退職金の入った袋が少し軽くなったのを感じる。



「くらえ!!」



 俺は大ぶりなザインの一撃を受け流しそのままの流れでやつの鎧に守られた腹部に蹴りを入れると同時に「振動」のスキルを発動させる。それと同時にあいつのにやけた顔が歪みそのまま倒れた。鎧越しに振動が襲い体を揺らしたのだ。しばらくは立てないだろう。



「な……お前ごときがなんで……どんなスキルを……」

「初級剣術と振動、初級格闘術だよ。どれもお前が馬鹿にしていた基礎スキルだ」

「嘘だ……初級剣術で俺の攻撃がいなせるはずない……それに振動にも、初級格闘術にもここまでの威力は……」



 ただし、引退してた冒険者から買い取って練度を高められたスキルだ。それにザインは気づいているかわからないが、こいつ自体も弱体化している。こいつは攻撃ばかりに意識がいっていたので守備系のスキルを色々と貸していたのだ。その時に色々と説明をしたはずなのだが、どうやら記憶にないらしい。

 それにしても、スキルは組み合わせると強力だと聞いていたがここまでとは……さきほどの一撃も振動と初級格闘術を組み合わせることによって鎧を貫通するほどの衝撃をザインに与えることができたのだ。今までパーティーメンバーの事を強化することばかりを考えていたが自分で使ってみるのも悪くない。それに組み合わせてでスキルを売ればいい儲けにもなるかもしれない。



「あれって『白く輝く聖剣クラレント』のザインじゃないか?」

「勝ったのはセインか……あいつ強かったのか? でも、あいつはサポートじゃ……」



 ざわざわと周りがうるさくなる。人通りの少ない道だったが人が集まってきたようだ。警備兵にでも捕まったら面倒である。俺はザインをおいてさっさと逃げるのであった。







「いらっしゃーいって、なんだセインじゃないの」



 俺が宿屋に戻ると、元気一杯の挨拶を満面の笑顔の箒で室内を掃除をしている少女が出迎えてくれるが入ってきたのが俺だとわかると、途端に残念そうな顔をする。ひどくないか、俺も一応客なんだがな……



「なんだって、ひどくないか? お客様が帰ってきたんだぞ、おかえりなさいませご主人様だろ」

「何キモい事言ってるのよ。幼馴染のあんたに愛想使ったって意味ないじゃない。それより、ダンジョン攻略用に資料を調べるんじゃないの? あんたのために夜食も準備しといたんだから楽しみにしなさいよね」



 そういって勝気に笑う彼女の名前は俺の幼馴染のベルだ。真紅の髪を肩まで伸ばしており、つり目の可愛らしい少女である。俺が泊っている宿屋の看板娘であり、本性を知らないやつらは「赤髪の天使」なんて呼んでいるが幼馴染の俺からしたら、「赤髪の悪魔」である。というか心を許してるからか俺にだけやたらきついんだよな。まあ、笑顔が可愛いのは認めるが……それよりも言わなきゃいけないことがある。



「いやー、それがパーティーをクビになっちゃった」

「は?」



 俺が力のない笑みを浮かべていると、彼女は信じられないというように、間の抜けた顔をしていたが、眉毛をキッとひそめ冒険者ギルドの方を睨むと箒を持ったまま宿屋の外に出ようとしたので、俺はあわてて彼女を取り押さえる。



「お前どこいくんだよ!!」

「決まってるでしょ、文句を言いに行くのよ。あんなに頑張ってたあんたを追放するなんてふざけてるでしょ!!」

「落ち着け!! スキルも返してもらったし、もういいんだよ……」

「よくないでしょ、だって、あんたが必死に引退した冒険者にスキルを売ってもらったり、みんなの適性をとか考えてがんばってたから最速でBランクにあがったのよ。それなのに……それなのに……」



 俺の追放を自分の様に怒ってくれる彼女に感謝をしながらも、絶対離すまいと力を入れる。モードレットはともかくザインは女性にも平気で暴力を振るうからな。それにこんな風に俺の事を想ってくる彼女を危険な目には遭わせたくないからだ。



「失礼……その……お取込み中だったかな? 何なら出直すけど……」

「いえいえ、いらっしゃいませーー!! ちょっと離しなさいよ、エッチ」

「いってえな!! 理不尽の極みにもほどがあるだろ!!」



 いきなりベルに突き飛ばされた俺は抗議の声を上げながら、訪問者を見る。水の様に蒼い腰まであるさらさらの髪に、メリハリのある体つき、そして彫刻の様に美しい顔の少女だ。なにより特質すべきは腰に差している神秘的な剣だろう。見るだけでただの剣でないという事がわかる。

 その特徴的にな髪の毛と腰にある剣で俺は彼女の正体に気づいた。この大陸に5人しかいないSランク冒険者『蒼の剣姫エレイン』だ。酒場では動転していて気づかなかったが、間違いないだろう。

 彼女は巨力な力を持つ聖剣を自由に扱うことができる『聖剣の担い手』という超強力なスキルを持った冒険者だ。そんな有名人である彼女が何でここに……?



「私はエレインというしがない冒険者だよ。君がセインくんでいいかな?」 

「はいそうです。その……冒険者ギルドでは声をかけていただいたのに失礼な事をして申し訳ありませんでした」

「フフ気にしないでくれ、私も無神経だったからね。それよりだ。セイン君、君はスキルの売買ができるらしいね。よかったら、私の依頼を受けてくれないかい?」

「え……?」



 俺の怪訝な視線を受け流すかのようにエレインさんは微笑む。俺はどこかきな臭いものを感じつつもベルに個室に案内するように目でお願いをするとさすがは幼馴染というべきか、エレインさんを案内してくれる。でもさ、すれ違いざまに「何デレデレしてんのよ」って足を踏むのはおかしくない?

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