第5話 召喚の目的

「それはどういう意味でしょうか」


「言葉通りだ。別の空間———言い方を変えよう、あなたが存在していた世界から、あなたを、こちらの世界へ召喚した」


 イケメンボーイは嚙み砕くように話した。


「それは、つまり―—」


「ああ、待ってくれ。まずはこちらの話を全て聞いてほしい。質問は最後に受け付ける。それと腰布姿であることを非難して悪かった。察するにこちらの不手際だろう」


「ええ、まぁ、はい」


 何とも曖昧な相槌を打つ。機先を制され、相手のペースであることは疑いようもない。しかもさらりと腰布の件について無かったことにされた。睨まれ損ではないか。


 兎にも角にもすべて説明してくれるらしい。聞きたいことはたくさんあるが、ひとまず拝聴しよう。



 イケメンボーイは今一度周囲を睥睨した後、ゆっくりと話し始めた。


「先述の通り、あなた方は異なる世界よりこの地へ召喚された。ここは黒魔族領。魔族が治める土地だ」


 動揺を見せたのは俺1人。他の3人は事前に聞いていたのだろう。


 魔族。恐らく漢字は間違っていないはず。外見的には人間と違わぬ彼らが魔族というのか。言葉通りならば魔法や魔術に秀でた者達のはずだが果たして。


 というか魔族て。この世界はどうなっているの。


「あなた方を召喚した理由は1つ。我らの土地を脅かす人間族を討伐してほしい」


 動揺を見せたのは俺1人。もちろん他の3人は微動だにしない。


 イケメンボーイが一言話す毎に疑問点が浮かび上がるのはどうすればいいのか。


「ここで言う人間族とは、他国の国民という意味ではなく。国民を先導し、我らの土地へ攻め入ろうとする意志を持つ者たちだ。端的に言えば、敵対国である神聖レニウス帝国の首脳を抹殺してほしい」


 抹殺とは文字通り殺せということだろう。


 そしてレニウス帝国。新出の単語だ。現代日本では聞き覚えがない。


「対価は2つ。1つは元の世界へ戻る権利。これはこの場にいる4名全員に与えられる。もう1つは可能な範囲で1つ願いが叶う権利だ。こちらは人間族討伐という依頼を達成した者のみに与えられる。可能な範囲とは、黒魔族領ないし私が叶えられる限界という意味だ。例えば国家予算を全てほしいという願いは叶えられないが、国家予算の五分の一が欲しいという願いは叶えることができる。つまり限界はあるということだ」


 元の世界へ戻る権利。こちら側の視点から見ると、とても魅力的に映る。だがイケメンボーイからすれば、元の世界へ戻すことは義務と呼べるかもしれない。


 少なくとも俺は自分の意志でこの場にいるわけではない。イケメンボーイの話が正しいと仮定すれば、訳も分からず召喚された惑い人だ。


 無理やりこの地へ召喚したのだから、召喚元へ帰すのも当たり前。道理に従えばこの論法となる。なにも不思議なことはない。


「………………」


 ただ。


 俺がイケメンボーイなら、序盤も序盤で日本帰還を確約するなど愚行でしかないと切り捨てる。もう少し上手い、というかいやらしい方法を取るだろう。帝国討伐に繋がるたくさんのミッションを用意して、1つ達成するごとに帰還方法に関する情報を小出しに伝えるとか。


 向こうは全て知っていて、こちらは何も知らないというアドバンテージが生かされていない。


 意図が全く読めないな。分からん。頭痛い。








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