無能サモナー池田

でぶ殿下

プロローグ

第1話 始まり


 鬱蒼とした森。左右どちらを見回しても景色は変わらない。ただし足元には作りがしっかりとした歩道がある。


 道をたどっていくと、眼前に広がるは荘厳な門とそれに連なる壁。高さはどれほどだろうか。10メートル、いや20メートルにまで及ぶかもしれない。


 大きな門と壁。ここから導き出されるのは城、あるいは砦だろうか。しかし門の外側からも知覚できる活気がある。大勢のヒトが生活している証拠だ。となると街や都市に分類されるかもしれない。


 門の前には2人の姿があった。恰好や立ち姿から察するに門の入出を監視する衛兵だろう。


 出入りする人数が少ないからか、2人は暇そうにしながら雑談に興じていた。


「……当然だが、今日は誰も来ないな」


「それはそうだろう。各市町村には事前に通達している。本日に限っては、誰も訪れないのが正しい」


「まぁ、そうだが。普段の激務と比べるとなぁ、暇すぎて。これで給金が発生すると思うと、なんだか申し訳ないな」


「いつも頑張っているご褒美だと思えばいいさ」


 いずれも表情に余裕がある。入出がないことが分かっているからか、もしくは普段から緊張を感じるような環境にないからか。


 内側の喧騒とは反比例して、外側はとても静かだった。鳥のさえずりさえ鮮明に聞こえる。


 その時、門の内側からボーンボーンという音がした。1人は不動、もう1人は振り返りつつも焦りはない。


「そろそろか」


「ああ。失敗はないと信じたいが……なにせ何百年ぶりかの大魔法だろう。いや、しかし、まぁ、大丈夫だろう。うん」


「そうだなぁ。成功してもらわないと困る。なにせ俺たちの未来がかかっているのだから。…………いるのだから、って語尾おかしくない?」


「おかしいよ。おかしいが、それは俺も同じだ。今日に限っては緊張を覚えない国民がいるとすれば、それは……………ん?」


 突然、1人が怪訝そうに目を凝らした。何事かともう1人も視線を追う。


 一見、舗装された道とその周囲に広がる木々ばかりで何もおかしなところはない。


「どうし…………え」


 しかしそれは、単純な見落としだと気づいた。何故なら道の向こうから、何者かが歩いてくるのが見えたからだ。


「ヒト、か?いやしかし、今日は誰も……どういうことだ」


 戸惑いを覚えつつ、いつでも剣を抜ける態勢を取る。勘違いならそれでいい。だがそうでなかった場合、事態は深刻だ。


 今日という日にここを訪れるということは、つまりそういうことになる。


「大魔法を……阻む派閥の者か?」


「分からん、分からないが……話の通じる相手であれば嬉しい」


 一気に緊張感が増した場に、何者かが近づいてくる。その歩みに焦りはない。どこにでもいるような旅人のようにも思えるが、それが逆に2人には怖かった。


「……………」


「…………………」


 ごくりとつばを飲み込む音が鮮明に聞こえた。


 近づいてくる。


 くる。


 きた。


 見えた。


 見え………………………


「「…………………え」」


 そこに立っていたのは。






 めちゃめちゃ全裸の貧弱もやしボーイだった。








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