四谷軒牧場

四谷軒

リレー小説

イバラの城(木じゃないから!)


※本作は「【爆笑】都道府県オープン参加小説2:宇宙人侵略その後、各都道府県はどうなっている。」 https://kakuyomu.jp/works/16816452219500906547 に参加しています。






「ワレワレハ ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ セイジン ダ」


 そんな声が天空から響いてきた。

 あ、円盤だ。


 ここは茨城県。

 関東の東。

 なんかチームバチスタとか、ドラゴンとかを率いている、胸部心臓外科医が出てきそうな県庁舎の前にて。


 そこへ、のこのこと現地取材にやってきた、私・四谷軒。

 なんか四谷さんとかよく呼ばれるけど、「四谷軒」であって、「四谷 軒」ではないからね、とさりげなくアピールしつつ、天空を見上げた。


「あわわ」


「どどどどうする」


「この世の終わりじゃあ!」


「えーんえーん」


 同じく、周囲を見上げている茨城県の人たち。


「落ち着いてくださ~い! 早く、県庁舎の方へ~!」


 早速に、県庁舎から、ゆるふわって感じの県庁の職員のおねえさんが出てきて、逃げ惑う人たちを誘導する。

 おおお、あの県庁舎、なんかカッコよさそうだから、もしかして、巨大ロボとかに変わって……とか妄想を繰り広げながら、私もついていく。


 そうこうするうちに、天空の円盤の「ワレワレ」の声がまた響いた。


「コウフクセヨ ホカノ トドウフケン ハ、ワレワレガ モラッタ」


「ええ!? ここだけじゃなかったの!?」


 動揺する県民。


「この国は、終わったのか……」


 うなだれる県民。


 こころなしか、県庁舎も落ち込んでいるように見える。

 このままでは、最後の砦(たぶん)・茨城県も終わりか……。

 そう思っていると、また「ワレワレ」は、何か言い出しそうな空気になった。


 しかし。


 この次のセリフが「ワレワレ」の命取りになった。


「コウフク セヨ イバラ ノ モノドモヨ」


「…………」


 場が沈黙した。


 県民の方々のその黙りように、私はその意気消沈ぶりに思いをいたして、心が痛んだ……が、それは一瞬だった。

 ……乾いた声が、県庁舎の前の空に響く。


「……今、何つった?」


「……エ?」


 あれ、さっき県庁舎へ案内していた、ゆるふわな県職員のおねえさんの顔が……般若はんにゃだ。


「……オイ、あのねーちゃんが『何つった?』って聞いてんだろ? 答えろや」


「イヤ ダカラ イバラ ッテ……」


 あなた、さっきもう終わりだとか言って泣いていましたよね、おじいさん。


「……死ね」


「シネッテ イッタラ ダメダヨ オトモダチ ナイチャウヨ」


 げえええっ! さっき転んで泣いていた女の子の目が、殺し屋の目をしてらっしゃる!


「ともかくよ~……ここは、イバラなんだよ! 帰れ! そして死ね!」


 ゆるふわおねえさん……もう、ゆるふわのカケラも無いね……。


「あ~もしもし? 牛久のみなさん? そう、イバラのこと、イバラとか抜かす奴がいるんよ。ちょっくら大仏起動してくんね?」


 おじいさん、スマホで何か言ってらっしゃる……ウルトラなんとか隊の隊長みたいな感じになってますよ? 空気が。


れ! 大仏!」


 女の子ちゃん、ほとけさまになんてことを……あっ、なんかホントに光の巨人みたいな何かが飛んできた。


「エ? チョット? ナニ アノ ブロンズ ノ デカイノ ア……ジャパアーッ!」


 なんかでっかいブロンズ像が「天魔覆滅テンマフクメツ!」とか言って、目からビームを!

 火を噴く円盤。

 くるくる回り出す円盤。

 ジグザグに飛ぶ円盤。


「あ、落ちた……」


 円盤が県庁前に不時着したが、その瞬間、でっかいブロンズ像が踏んだ。

 プチッ……と。


「南無……三!」


 そんなことを言いながらブロンズ像がポージングして、それから「ヘワッ」と叫び、いずこかへと飛んで行った。

 そしてみんな、何事もなかったかのように、県職員のおねえさんはゆるふわに戻り、おじいさんは歩き出し、女の子はプリティでキュアキュアな歌を歌っていた。


 ……私はおもむろに取材メモを取り出し、ペンを持った。


「茨城県……イバラは禁句っと……」


「……今、何つった?」


「え!?」






【特に山もなく落ちもなく……終われ!】

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