第6話

婚約破棄を言い渡された舞踏会から一ヶ月が経ちました。

結局マケール様からのプロポーズは保留という形にしてもらっております。

そしてモーリスは除籍は免れなかった。

なんでも陛下達の前にフルール子爵令嬢を連れて行ったらしく教養がないフルール子爵令嬢は王妃様に対して無礼を働いたそうです。詳しくは聞かされていませんがそれはもう酷い光景だったらしいです。


「そろそろ諦めてくれた?」


私の隣で楽しそうに笑うのはマケール様。

この一ヶ月間、彼からは毎日のように花束と愛の言葉が書かれた手紙が贈られてきている。

そして逃げ道を塞ぐかのように王妃様からも呼び出しを受けて説得されているのだ。

周囲からはもう婚約しているのでは?と言われるほど、王家からのアピールが凄い。


「で、ですが、私のような傷物…」

「それは言わない約束でしょ?」

「でも、私のような人間がマケール様の婚約者だなんて…」

「私はエリーズが良いと何度も言ってるはずだ。いい加減諦めてくれないかな?」


にっこりと笑うマケール様。

彼の事は好きですし、流されても良いのかなと思っているのですけど…。

やっぱり世間の目を気にしてしまう。


「エリーズ、私は君の気持ちを聞きたいのだけど」


まるで私の気持ちを見透かしているかのように笑うマケール様。


「わ、私はマケール様を好ましく思っております。ですが、その婚約者になるのは…早いというか…」


私の婚約解消から一ヶ月しか経っていない。

それなのに婚約者を作るのはどうかと思うのも事実だ。

マケール様は指を顎に当てて何かを考える素振りを見せた。


「それなら婚約者にならなくても良い」

「え?」

「だから暫くの間は恋人でいよう」


にっこりと笑うマケール様。

恋人って婚約者よりハードル上がっていませんか?

私の手を取り、甲にキスを贈る彼の視線はまるで獣のように鋭く、逃す気はないと言われてる気分になる。


「どうかな、エリーズ」

「断らせる気ありますか?」

「ないね」


はは、と笑うマケール様。

もう白旗を上げるしかないのかもしれない。


「とりあえず、恋人からでお願いします…」

「分かった」


楽しそうに笑うマケール様は私のこめかみにキスをしてくる。

慣れない行為に驚き固まった。そして顔を赤く染める。


「エリーズは可愛いなぁ」

「か、揶揄うのはやめていただけますか…」

「口にしなかっただけ褒めて欲しいよ」


そう言って私の唇に指を這わせるマケール様は相変わらず獣の目をしている。


「出来るだけ早く好きだと言わせるからね」


あぁ、もう…。

本当に逃してくれる気ないじゃないですか。

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