第5話

「マケール様、お久しぶりでございます」


慌てて立ち上がった私はマケール様に向かって挨拶をする。


「久しぶりだな、エリーズ。昨晩はうちの愚弟が申し訳ない事をした」

「い、いえ…」


苦笑いで返す。

王族三人から謝られてはどうしたら良いのか分からないのだ。


「さぁ、座ってくれ」

「ありがとうございます」


再び王妃様の隣に座り直そうとしたが何故か隣に座ったのはマケール様。王妃様は向かいに座る陛下の隣に移動していた。

いつの間に…。

目の前には楽しそうに笑う国王夫妻。

隣には優しく微笑む王太子。

この状況は何なのかしら…。


「エリーズ」

「は、はい…!」


マケール様に手を握られて吃驚する。驚いた顔を彼に向けると愉快に微笑むマケール様と目が合った。


「私はずっと君が好きだったんだ。どうか婚約の話を受けてはくれないだろうか?」


陛下達の前で何を言ってるのですか。

顔が真っ赤になる。


「あらあら脈なしかと思ったらそうでもなさそうね」

「みたいだな」


揶揄うように言ってくる陛下達を睨みたくなったのは私のせいじゃないと思いたい。依然として優しく笑ったままのマケール様の方を向く。


「わ、私は傷物ですよ?」


婚約が解消に終わったところで、婚約者を失った事には変わりない。私を傷物と呼ぶ人間は現れるだろう。そうなったらマケール様に迷惑がかかってしまう。


「私は君を傷物とは思わない。むしろ余計な憑き物がなくなりいっそう綺麗に見えるよ」


余計な憑き物ってモーリスの事でしょうか。

そういえば彼への処断を聞いていない。


「そ、そういえば、モーリス様はどうなりましたか?」


話題を変えたくてモーリスの事を口にするとマケール様の笑顔が固まる。陛下と王妃様はしまったという顔だ。


「あれの事はエリーズが気にする事じゃないよ」

「で、ですが…」

「大丈夫。あれは私が処分しておくから」

「処分ですか?」

「ああ…」


あ、マケール様の目が笑っていませんわ。

処分ってモーリスはどうなるのでしょうか。

そう思っていると陛下が答えてくれる。


「モーリスについては除籍を考えておる」

「え…」

「他国の王族の前で恥を晒したのだ。当然だろう」


まあ、そうですね。

それくらいしないと示しがつきませんから仕方ないのでしょう。


「むしろ除籍だけで済むのだから感謝してほしいわ」


頰に手を当てた王妃様が呆れたように笑う。

モーリスは昨日の事の他にも色々とやらかしていますからね。それを踏まえての事でしょう。


「あれの事はどうでも良いよ。それよりも私からのプロポーズを受けてくれるかい?」


誤魔化し切れなかったですね。

私はどうしたら良いのでしょうか。

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