ひょんなことから日本統一

ぎざ

第零章 コックリさんの言う通り

第1話 日本をひとつに

「入れ」


「コンコンコン」


「許可する」


 私はドアをノックせずに、口で「コンコンコン」と声たかだかに言い放った。


 これは、日本国局長室に秘密裏に入室する合言葉だ。普通にドアをノックすると、普通の局長室に入ることになる。


 入ると、そこには狐面の女性が佇み、窓の外を見ていた。おでこから鼻までの面のため、口元のみがこちらに見える。私の方を向くと、鼻筋にすーっと入った青い色が白い面に映えていた。

 白い長髪。細身。髪に負けない白い肌。とても戦う人には見えない。ブラウンに赤く波打つ、否、脈打つストライプのスーツに身を包み、私の方を見ると、にやりと笑う口元が見えた。彼女はソファに身を委ねた。私も少し緊張をほぐす。


 彼女が立っている時は、臨戦態勢である。

 もし何か間違ったことを言ってしまったが最後。言ってしまったが最期となる。


 空気が張りつめる。彼女が口を開いた。

「現状をどこまで理解していますか?」


「はい。佐賀がゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人に侵略され、『肥前さが国』として独立しました。それを皮切りに、日本全国で各都道府県が独立の動きを見せています」


「あなたも気付いていると思うけど、エイプリルフールじゃなくって、それって本当のことなのよ」


「はい」


「でもね、それをあなたに阻止して欲しいの。わかる?」


「はい」


 彼女の質問には、基本イエスだ。よっぽど命に関わることでもない限り首肯しないと命に関わる。


「やり方はあなたに任せるわ。でもヒントだけあげる。『四十七支刀』って知ってる? 知らないわよね」


「はい」


「四十七都道府県、各地に眠る謎の武器があってね。それらを全て集めると、日本をひとつにまとめあげる伝説の武器『四十七支刀』を得るって、伝承にあるのよ。それを手に入れる手伝いをして欲しいのよね。変なこと言っているって思ったでしょう?」


「はい」


「でもこの伝承は事実なの。ほら、私を怒らせると怖いって、前任者の遺言で言ってたでしょ? それって、私がその『四十七都道府県の各武器のひとつ』を所持しているからなのよ。さすがに見せてはあげられないけど。でも、これであなたも信じられるってもんでしょ?」


「はい」


「だからあなたには、とりあえず日本全国、津々浦々旅に出て欲しいんだけど、ノーヒントじゃ路頭に迷っちゃうと思うから、スタート地点だけは決めてあげる。鹿児島よ。鹿児島の『四十七都道府県の各武器』、私たちの敵対勢力が所持しているらしいのよね。だから、倒して奪っちゃおうって算段。話が早いでしょう?」


「はい」


「同じことを言うようだけど、やり方は任せるわ。じゃ、いい返事を期待してるから」


「はい」


「私のために命をかけて、ね」


「……はい」


「今の返事に、『嘘偽り』は無い? ハイかイイエで教えて?」


「…ハイ」


 少し、言い淀んだように口を動かしたが、最後には強くうなづいた。


「よろしい」

 彼女は微笑んだ。


「じゃあ、元気でね」


「いいえ。身に余るお言葉ありがとうございます。失礼します」

 お辞儀をして、私は局長室を出た。


 通称『雪キツネ』。吹雪ふぶき 刻裏こくり。日本国局長補佐外郭情報室参謀主任。この役職はデタラメだ。実質この日本を牛耳っているのは彼女である。


 私の名は、いつわ。本名ではない。

 ただひとつだけ言えるのは、私は雪キツネに命令され、命をかけて、この異常な非常事態を何とかしなければいけなくなったということ。


 ひょんなことから非常事態だ。

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