第35回 世界を脅かす魔王は・・・いない!?

「成程・・・ご主人様の魔人姿、仮面レイダーの力はナノマシンという物の為せる技だったのですね。」

「これも稀人の世界の技術なんだな、これはこの世界じゃあと100年は掛かりそうなもんだな・・・【超越技術オーバーテクノロジー】ってやつか。」


バッカスの街のギルド支部長、エンシェントドワーフのリュウガに案内され装備の点検をしてやると呼ばれた彼女の工房に俺たちはいた。

そこで変身した俺の姿に(技術的な意味で)

興奮した彼女にこうして色々と教えているところだ。

ちなみにミサキとルリコはついていけなくなったのか逃げてしまった、買い物にでも行ったのだろう。


「なんだそりゃ。」

「主に稀人の教えてくれた技術って奴よ、今じゃ普通にこの街でも使われてる蒸気機関にガラスの窓やコップだってそうだ。熱を圧縮することで普通じゃ溶かせないような金属を鋳溶かすことで質のいいインゴットを作れるようになったのだって稀人の知恵さ。」

「余程たたら製鉄に詳しい稀人が適材適所に現れたんだな・・・。」

「そうとも。元々もはただの炭鉱しか無かったこの場所を切り開いてこの街を作ったのがその稀人なんだからよ。」

「へえ・・・街に歴史ありとはこのことだな。」


彼女の指さした先にあった絵画には日本人の老人の姿が描かれていた、タイトルは・・・【建築王エニシ・ホンゴウ・バッカスの肖像画】か。


「建築王は伝承だと魔人サマと共に戦い、本人もエラい強さだったらしいぜ。」

「魔人さまに肩を並べるほどとは、ご主人様もうかうかしてはいれませんね!」

「リリィ、俺を何と戦わせる気だ?」

「これは失礼をば。」

「サーて、駄弁んのは終わりとして・・・お前さんの装備に手は出せねぇのがわかったからな、ならそっちのメイドさんにその分繕ってやろうじゃねぇか。」

「え、わたくしですか?!」と突然指名されたリリィ。


「アンタもそこそこやるんだろ?ただのメイドじゃねぇ凄みってのか、強さが伝わってくるぜ。」

「へぇ、審美眼ってやつか。」

「そいつは美術品に使う言葉じゃねぇか?」

「わかるものなのでしょうか・・・。」


と、リリィはメイド服を脱ぎ畳むとバトルスタイルのビキニアーマーと篭手・脚甲を装備する。

彼女の装備には見たことも無い青く美しい竜鱗が使われているようで、暇な時には修繕している様子が見られた。


「なるほどなァ、コイツは珍しい!青龍ブルードラゴンうろこか!」

「キャッ!」

「おっと悪ィ悪ィ、変なとこ触れたか。」

「ブルードラゴン?」

「そうだ、少なくともこの大陸にはいねぇ【幻獣種クリプティッド】よ。空飛ぶ天災とも言われてて何故か羽根もねぇのに浮かんでられるそうだ。」


幻獣種クリプティッドとはこの世界にときどき出現する、生態系から外れた身体的特徴を持つ獣である。魔物と定義づけられないのは必ずしも魔石を体内に持っている訳では無い為である。またの名を稀人から名を取って稀獣まれけもの

その中には目撃されているだけで必ず存在しているとはわからないものも複数いるんだとか。


「気になるんならこの街には魔物を研究してる奇特なやつもいるから尋ねてみな、俺の箱の鱗の方が気になるがね。」


いつの間にか篭手を取り外してまじまじと見つめながらリュウガはそう説いた。


「見れば見るほどいいウロコだコレは、どうやって手に入れたんだい?」

「それはその・・・多分私も生前いた世界から持ってきてしまったものだと思います。気がつけば一式収納魔法の中に入っておりました。」

「へぇルリコ以外は稀人とは大したパーティだ!この世界でも救うつもりかい!?」と、カラカラと笑うリュウガ


実は俺もそれを考えたことがある。

稀人とは世界規模の危機・困難が訪れた時に女神が対抗手段カウンターウェイトとして召喚しているんじゃないかと。

そうでなきゃ数十年に一人見つかるという存在が三人もこの大陸をウロウロしてる事に説明がつかないのだ。

それが現地人にも相当な使い手が稀にいるにもかかわらずだ。


「救うってなんだ、魔王がいるとでも言うのか?」

「ああいるぜ?この大陸と地続きの北欧大陸にな。」

「いるのかよ!!」



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亜人種について以前説明はしたと思う。

魔石を身体に内包する彼らを一概に亜人種と呼ぶならばその中でも魔族と呼ばれる高い魔力を持った亜人が彼らである。

魔王と呼ばれる存在は生まれながらにしてそんな魔族の中でも随一の極めて高い魔力を持つ存在なのである。


・・・まあ、そんな魔王も風の噂だと崩御し新たな世代に王位を譲ったのだとか。

俺たちが今いる西方大陸から北に存在する北欧大陸、その中央に位置するのが魔帝国クライシスであり魔王を頂点とする魔族の国だ。

もっともこの世界の魔族は【人族に牙向く恐ろしい種族】などではない。実は種族として分けられているだけであり、マグラスの里にだって彼らは住んでいるのだ。それは当然この街にだっており、その一人はリュウガ工房に雇われている善良なおじさんである。

それから魔族はどんなに強かろうと魔人と呼ばれることは無いそうだ、なんでさ。


「魔王って呼び名も本人は嫌ってたからな。普通に皇帝と呼ばれてたと思うぜ。」

「へえ知り合いだったのか。」

「ああ、俺さまが冒険者してた頃にな。だから本当に人族にとって危険な生物といえば・・・おっと、こんな時間か。おら仕事は終わりの時間だ!!てめぇら上がって飯でも食いに行きやがれ。」

「「へい親方!」」


ちょうど夕時の鐘が鳴ったようだ。


「話ばっか長くなってすまなかったな!次はちゃんといい装備をこしらえてやっからよ!」

「それはぜひ頼む。」

「いつかはお前さんが持つ以上の剣を打ちたいもんだ。」


そしてリリィと共に工房を後にするといいタイミングでミサキたちが戻ってきたようだ。

・・・今日こそどこか宿を取らなければ。

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