第31回 俺は変身せずとも強い

「いやあ助かりました獅子王さん、まさか今エルフの隠れ里でも有名なパーティ【菊一文字】を護衛に雇えるとは思いませんでしたよ!」

「そうなのか。」

「そうですとも!世界樹ダンジョンの制覇に加えて伝説の実を食し、セルゲイの街では島クジラのように巨大な魔物を撃破し海に大穴を開けてしまったと様々な武勇伝は聞き及んでおりますよ!」


いま俺の隣でやたら俺におべっかを使ってる小太りの彼はエルフの隠れ里マグラス出身の商人で名前は・・・なんだったかな。


「このタトル・タロスは誠にラッキーでしたな!炭鉱都市バッカスに着いたら是非ともお礼をさせてください!」


そうそう、タトルさんだった。


今回俺たちはエルフの隠れ里で困っていた彼ら商人親子の護衛依頼を受けて森を抜けて南にあるという炭鉱都市を目指していた。

彼の荷物は里の周囲で採集された薬草や魔物の素材を始めとした雑貨を中心としており、始めは俺の次元収納に全て入れてしまうことも提案したがゼロムキャリアーに一般人は耐えられないだろうとジオから却下されてしまった。加えて商人の荷物を他人の収納に入れてしまうことは商人の沽券に関わるとのことで彼から申し訳なさそうに断られている。。

なので仕方なく彼の馬車に俺とルリコが相乗りし、ミサキとリリィはキャリアーでゆっくりと着いてきてもらっている。


ちなみにパーティ名は今日初めて知った、ミサキがいつの間にか申請していたらしい。


「ハヤトは護衛任務は初めてだけどレーダーがあるから安心でいいぞおっちゃん!」と蜘蛛娘が荷台から顔を出した。


荷台ではルリコと彼の幼い娘であるプラムちゃんが遊んでいた。どうやらルリコと以前からの知り合いだったこともあり今回のクエスト依頼が成立したらしい。


「ルリコちゃんや、なんだいそれは?」

「レーダーとは探索魔法のようなものだ、魔物や盗賊の反応まで事前に察知できるぞ。」

「なんと!そのように便利な魔導具がおありなんですね。」

「ほらコレだ。」と彼に手渡したのはゼロムキャリアーの外部操作端末タブレットだ。


ある程度の遠隔操作は出来るしここ一帯の地形を映し出して周囲の様子を探ることも出来る他、車内のカメラとリンクしてその映像をワイプにして映すことも出来る。

現にマップ表示の右上ではミサキとリリィが手を振っているのが映っている。同時にこちらから撮った映像を向こうに映すことも可能だ。


「これは凄い技術ですな・・・これも稀人という獅子王どのの固有魔導具なんでしょうな。」


ちなみに彼は既に俺のビークルを見て完全に理解しようという考えは捨ててしまっている節がある、理不尽な。

ん?なにか反応があったな。マップには街道の両側、森の中に複数のビーコンが光っている。これは・・・人族だな。


「タトルさん、一旦停車だ。お客さんだぞ?」

「ま、まさか盗賊ですか?!」


馬車を止めたのに連動してキャリアーも停車させる。

すると数人の小汚い格好をした男達が俺たちの周りを囲むように姿を現したのだった。


「はっはぁ!!こっから先は通行料が必要だぜェ!?」

「もちろんお代はその荷物と馬車・・・馬車かアレ?」

「お頭は遅れてるなぁ、魔導馬車っつうお高いやつでさぁ。」

「とにかく男は要らねぇ!女は半殺しに抑えとけよ!」


「・・・なんとテンプレ通りな・・・タトルさん、盗賊の扱いってどんな感じだ?」

「あの同じバンダナはお尋ね者の黒傘団では!?ど、どうしたらいいんだ・・・!」

「おちつけ、まず盗賊の扱いを教えてくれ。」

「は、はい。襲ってくる分には魔物と対応は同じですが・・・。」


そう聞いた俺はさっさと御者台から飛び降りるとお頭っぽいやつを狙い、真っ先にアゴを打ち抜いて昏倒させる。

俺は正義の味方なんてやっていたが人間の味方ではない。そんな大層な聖人君子みたいな考え方はとうに捨てている。


「別にコイツらを倒してしまっても問題ないのだろう?」

「ハヤト、それ死亡フラグだから!!」


そこからは俺の独壇場だ、変身する必要すら無い。

ナイフで襲いかかってきたなら反転させ刺し返してやり、攻撃魔法を使おうとしてくれば先行して燃やしてやった。

こちらを明確に殺してこようする奴の気配には慣れきっているからな、敵意をむき出しにしてる奴から襲い戦闘不能にしてやった。



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この世界において盗賊というものの扱いは最底辺、最下ランクの冒険者より低いという犯罪者集団である。

中には何らかの抜け道を使って主の元から逃げ出した逃亡奴隷などもいるだろうが所詮行き着く先は殺生道、まともに生きるのは不可能であろう。

扱いとしてはタトルさんが言ったように魔物と同義。人を害してその命を奪おうという者は害されて当然なのだろう。

俺は人を直接殺すのは初めてだがかつて人間から改造されたアームズは倒していたのだ、特に忌避感なくトドメをさせた。

アームズとなってしまったものは人間に戻すことは出来ない、それは俺もミサキも同じだ。

それを倒すということは殺すことといっしょなのだから。


「なんとお強い・・・噂では魔人に変身して戦うとの事でしたがその必要すらないのですな。」

「ハヤトは強いぞー、しかも容赦ないからな。」


ルリコには息のある者を粘着性の糸で木に縛り付けてもらった、糸を発射して拘束するその姿は映画の蜘蛛男みたいだ。

あまりプラムちゃんの教育には良くないだろう、俺たちは襲撃現場からしばらく進んでその日の野営を張ることにした。

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