妹に婚約者を譲ったら、年下の宮廷魔導師見習いがぐいぐい来るようになりました

春乃紅葉@コミック版配信中

第1話

 妹のアニスは誰がみても可愛いと思う。

 両親の顔色を窺うのも得意だし、姉である私のことも良く分かっているから、ここまでなら許されるなっていうギリギリのところまで甘えてくる。

 小さい頃から私の後ろについて、何でも真似して何でも欲しがってきたアニス。

 両親はどちらも平等に愛してくれて、アニスが欲張った時はちゃんと注意してくれたし、むしろそれぐらいで怒らないで欲しいなんて、私が頼んでしまうぐらい。

 私は妹が可愛くて可愛くて仕方がなかった。


 そんな可愛い妹は、ある時私に言ったのだ。


「アニスも婚約者様が欲しいわ。お姉様と同じオルフェオ様がいいの」


 当然両親に窘められた。アニスは可愛く唇を尖らせてごめんなさい。と謝ったけれど、その日からエミリアの婚約者に甘えるようになっていった。


 私の婚約者はコールマン公爵家嫡男オルフェオ様。

 金髪碧眼の完璧美青年で、商才にも長け優秀な方ではあるが、彼は女たらしだった。

 この婚約は随分前から決まっていた政略結婚で、領地も小さいブロウズ伯爵家には避けられない。


 オルフェオ様はいつもブロウズ邸に訪れる度に花や菓子、装飾品など、地方の領地視察へ行った土産品を私にプレゼントしてくれる。

 それも、その領地のご令嬢の話とセットで。


「サーマン侯爵令嬢お勧めの菓子だ。美しく高貴な彼女の口には合うそうだが、伯爵令嬢のエミリアにはどうだろうか?」

「これはストワール伯爵家の庭園の薔薇だ。深窓の令嬢と名高いレイア嬢自ら摘んでくれたのだよ。金色の髪と赤い薔薇がとても美しく見えたのだが、エミリアの飴色の髪とは合わないな」


 いつもそんな事を言われ、私は戸惑うばかりだった。

 綺麗なご令嬢方と比べ、オルフェオ様はいつも私を蔑んで微笑む。

 何をいただいても、自分には不釣り合いな気がして喜べない。

 困り果てる私に変わって、アニスがプレゼントを受け取ってくれていた。


「オルフェオ様。アニスはこのお菓子、大好きですわ」

「オルフェオ様。アニスの金髪なら、赤い薔薇も似合うとは思いませんか?」


 何を言われてもアニスは笑顔でオルフェオに言葉を返す。

 お姉様もそう思うでしょう?

 とこちらに笑顔を向けて、釣られて私まで笑顔になる。


 私は妹のように自分の気持ちを伝えたり、甘えたりすることは苦手だった。

 でも、アニスは違う。


「アニスは、オルフェオ様が大好きですわ」


 屋敷に来る度に、オルフェオはアニスと二人で過ごすようになっていった。


 私はある日、オルフェオ様にこう尋ねた。


「そんなに仲が良ろしいのでしたら、アニスと婚約してはいかがでしょうか?」


 二人でソファーに腰掛け、土産の菓子を楽しそうに食べていたけれど、オルフェオはその手を止めて私に鋭い視線を伸ばした。

 怒ったような、勝ち誇ったような顔で。


「エミリア。本気で言っているのか?」

「は、はい。二人はとてもお似合いですから」


 オルフェオ様は鼻で笑うと茶で喉を潤し、納得したように何度が頷くと、アニスの肩に手を伸ばし抱き寄せた。


「……そうか。ならばエミリア、君との婚約を解消してアニスと婚約するよ。アニスは素直で可愛くて、エミリアの様につまらない女じゃないからな」


 やっぱり、つまらないって思われてたんだ。

 もっと早く言えば良かった。

 オルフェオ様は、私の言葉をずっと待っていたかの様に、嬉しそうに微笑んでいた。


「…………はい。そうしてください。失礼致します」


 私が一礼すると、オルフェオ様はキツく私を睨み、そして隣に座るアニスに口づけをした。私に見せつけるように。

 止むことの無いその行為に戸惑い、私はその場から逃げるようにして部屋を出た。


 そしていつもより少し早い時間ではあったけれど、城で第二王女が開く茶会へ向けて、屋敷を飛び出していった。

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