トライアングルポップテンション

ふぐ実

序章 テッサロサへようこそ

第1話 レベル上げおっさん

 今日も今日とてレベル上げ。

  

 ここは最高の世界だ! 


 レベル上げが出来るんだぜ?


 現在のレベルは3。レベル上げを始めたばかりだから2しかレベルは上がっていない。

 ジョブは自宅警備員。武器は使わずに素手で攻撃をする。魔法は一応使える。生活魔法と呼ばれるやつで、薪に火を付ける時に使う『ファイア』、飲み水等を出せる『ウォータ』、明かりを灯せる『ライト』、この3種類の魔法が使えるだけだ。

 スキルは体術LV1、生活魔法LV1を初期設定として持っている。素手で戦闘をする理由は体術のスキルLVを上げたいからだ。


 レベル上げが大好きだ! 


 当然、スキルのレベルを上げるのも好きだ!


「今日も薪拾いをしながらスライムを倒すぞ!」


 そう声を掛けた相手は金髪碧眼の美少女エルフだ。レベル上げだけが好きなおっさんはあまり知らないのだが、この容姿は異世界ではテンプレらしい。この子が教えてくれた。


「はい。頑張ります……」


 美少女エルフが小さな声で俺に答えた。

 この子のジョブは白魔術師。回復魔法が得意なジョブだが……まだ魔法は使えない。


 俺達が居る世界は俺がハマっていたゲームの世界だ。だから俺は転生する前からこの世界の知識を持っていたんだ。

 俺は美少女エルフが言う転生の部屋でジョブを選ばなかった。この子はジョブを選んでしまったらしい。彼女は転生時に必ず行くという白い空間で何度もキャラクターメイクをやり直して、異世界テンプレスキルを習得したそうだ。

 初期設定で得られるスキルは通常は3個。ジョブ固有スキルが1個で、残りの2個はランダムだ。ランダムと言ってもキャラクターメイクの最終画面でリセットを選べばやり直せるので、頑張れば自分が欲しいスキルを選ぶ事が可能だ。彼女はかなりの長時間を費やしてスキルを選んで取得した。


 それは『鑑定』と『収納』のスキルだ。


 だからこの子は白魔術師なら必ず所持している『回復魔術』と合わせて3個のスキルを有している事になる。

 この子は読書家のようでライトノベルでは常識だという生き抜く為のスキルとして『鑑定』と『収納』を頑張って習得した。リセットマラソン、通称リセマラと呼ばれる手法を用いたのだ。

 キャラクターメイクを終わらせて全てを確定させる直前に現れるコマンド『リセット』を選ぶとランダムに割り振られるスキルが変化する。その仕様を逆手に取り自分の好きなスキルが現れるまで『リセット』を繰り返すのだ。

 スキルが固定な村人以外を選ぶ者はこのリセマラを行なうのが常識だ。


 勿論だが俺もゲームをやる時はリセマラをした。


 だがな……ここはライトノベルの世界ではなくゲームの世界なんだ。

 もし俺が白魔術師として始めるなら『体術』と『生活魔法』のスキルが現れるまでリセマラしていただろう。


 俺は迷わずにジョブを無職にした。そうすると無職の『村人』として生活を始めれると知っていたからだ。


 村人はプレイ開始時から『持ち家』がある。そんなに広くはないが農地として使える庭まで付いている家だ。その代わりにジョブ固有のスキルが無い。転生時に俺はスキルを2個しか所有していなった。村人のスキルは『体術』と『生活魔法』と決まっていて変更不可能だ。

 現在は『自宅警備員』というジョブをしている。


 ジョブ固有スキルは『パンイチ』。1日に1個だけパンを召喚出来るスキルだ。


 この『パンイチ』というスキルも超重要! 自宅の中でしか使えない特殊条件があるけど素晴らしいスキルだ。このスキルのおかげで俺達は飢えずに済んでいる。


 スライムを発見したら蹴っ飛ばして倒す。エルフの美少女は長い木の棒でベシベシと何度も叩いて倒す。頑張れば『棒術』というスキルが生えるが時間を要する。スキルを得ればあんなに何度も叩かずに倒せる。

 スライムは倒すと小さな魔石をドロップする。それを冒険者ギルドに売却するのが唯一の収入源だ。スライムの小さな魔石程度ではわずかな食料しか買えない。


 俺達の所持金は常にゼロ。


 1日の稼ぎは全て食料に消えていく。


 だから『パンイチ』が必要なんだ。エルフの美少女も自宅警備員になれればいいのだがそれは無理だ。転職は教会に行って神父さんかシスターさんに頼めば可能なのだが、自宅警備員は『無職』の状態からしか転職が出来ない。『無職』に転職するしかないのだがそれは出来ない。つまり初期設定で無職にしていないと自宅警備員にはなれないのだ。


 異世界での実生活はとても厳しい。衣食住をしっかり確保しないと生活出来ないのは当たり前なのだが……


 俺が前世で熱中していたゲーム。神ゲーオブザイヤーとクソゲーオブザイヤーを史上初のダブル受賞したロールプレイングゲーム『テッサロサ』。

 このゲームは1人の素人プログラマーにより作られた。昔、世界で2番目だったスパコン(スーパーコンピューター)を中古で購入し、ありとあらゆるファンタジーロールプレイングゲームをディープラーニングさせて導き出したというゲームだ。


 『テッサロサ』を初めてやった時、俺は超クソゲーだと思った。(俺の感想は正しく『テッサロサ』はクソゲーオブザイヤーを受賞した)

 キャラクターメイクで『勇者』のジョブを選択、チートなスキルは選び放題、装備は最初から最強装備、所持金は100万ゴールド。好き放題に敵を無双し、魔王を討伐してゲームクリア。


 簡単過ぎたのだ。更に深刻なバグが発生する事も多かったので大多数のゲーマーはプレイを止めただろう。しかしそのバグは修正され、徐々にバグの発生は無くなっていった。


 初回のクリアは簡単。だがこれは所謂チュートリアルだとコアなゲーマー達は言う。クリア後に現れる『ハードモード』こそがこのゲームの真の姿。


 『ハードモード』のキャラクターメイクで選べたのは名前、性別、年齢、ジョブだけ。勇者、賢者、剣聖、聖女なんでも選択可能なのはノーマルモードと変わらない。だが種族、容姿、スキルはランダムだ。ちなみにスキルは7個貰えた。装備品は初心者パックと呼ばれる物で護身用の短剣1個とリュックサック。リュックサックの中には黒パンが3個とポーションが1個。


 キツイのは所持金で1000ゴールドだけ。


 村に入るのに300ゴールド必要で、冒険者ギルドに登録するのに300ゴールド必要。残りは400ゴールドしかない。村にある最安の宿に素泊まりで泊まるには2000ゴールド必要だ。


 つまり野宿するしかないのだ。


 1ゴールドは日本の1円と同じ位の価値に設定されているらしい。

 ゲームの世界なら野宿なんて当たり前だけど、実生活では嫌だ。

 『テッサロサ』の初期はお金を稼ぐのがとても難しい。スライムの魔石は1個1ゴールドの買取価格だ。安宿に素泊まりするのにスライムを2000匹倒さないといけない。ノーマルモードのチート状態なら可能だがハードモードでは無理だ。

 しかもゲームキャラクターではなくリアルの自分が倒すとなると200匹も倒せばいい方だろう。


 ハードモードでも開始直後は大変なのにこの世界はおそらく『エクストラハードモード』だ。

 転生時に選べたのはジョブだけ。それもデフォルトの『無職』か『ランダム』だ。俺は無職から変更しなかったので知らなかったのだがエルフの美少女が教えてくれた。


 白い空間にポツンと置かれたタブレットPCの画面はこうだ。


 世界第2位のスーパーコンピューターが作り出した夢ファンタジー世界『テッサロサ』へようこそ!


 ☆キャラクターメイク☆


 名前  『設定不可』

 性別  『転生前の性別』

 種族  『設定不可』

 年齢  『設定不可』

 ジョブ 『無職』 or 『ランダム』

      ☆ 選択してね!

 スキル 『ジョブ固有スキル』

     『ランダム』

     『ランダム』

     (無職は『体術』『生活魔法』のみ)


 装備   無

 所持金  無


 容姿は気まぐれで決めるね♡


 これで転生しますか【はい】【やり直し】 

 


 画面をタップしてもジョブの項目以外反応しないので、これが『エクストラハードモード』である可能性を疑った。スキルも6個より少なく2個しかない。(ハードモードでは無職は6個、その他のジョブは7個)


 所持金がゼロも厳しい。初期装備も無しだ。最初の村で売っている最安値の鉄剣は1万ゴールド……初級魔法ファイアボール等のスクロールも1万ゴールド……剣、魔法より体術がいいな。生活魔法のスクロールは1個500ゴールドと格安だ。


 これ最初から詰んでないか?


 ジョブは『無職』で開始して村人になっておくのがベストにしか思えん。何より『持ち家』が大きい。画面には書かれて無いけどな。


 『エクストラハードモード』で生き抜く事を想定して俺は無職で転生した。


 異世界へと転生した時に俺は紙きれを握っていた。持ち物はそれだけだ。それに書かれていたのはこうだ。


 名前  タラオ

 性別  男

 種族  人

 年齢  20


 俺の名前はタラオかよ!!



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 ☆ VRMMOっぽいの始めました。今までとは違う感じの作品にしていくつもりですが、どうなるかは分かりません。


 

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