第35話 アトリエ

 アトリエの中に入ると、私はこっそり深呼吸をした。そして、ぐるっと室内を見渡した。

 アンティークの作業机。きっと、イギリス製だ。今日はパソコンも書類も載っていない。机の上には、棒針がスタイリッシュなびんの中に無造作に、だけどおしゃれに収納されている。その隣には、編みかけの毛糸玉。あたたかそうな、ふんわりとしたグレイのウール。いつか、本場のシェットランドヤーンで、桐哉さんはフェアアイルのウェアを、私はシェットランドレースを編みながら紅茶をいただく……そんなささやかな夢を見ていた。

 いつも勧めてもらったソファ。シックな革張りのソファは、手入れがきちんと行き届いている。ここに座ってクロシェのレッスンをしていた日々は、もう遠い。

 カウンターキッチンの向こうには、紅茶の用意がされている。おしゃれなバラのティーセット。ティーコジーも、イギリス製らしい華やかなバラ柄だ。ウェッジウッドだといつか彼が教えてくれた。あこがれのブランドのカップでいただくハロッズの紅茶はとてもおいしかった。

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