第28話猫が来て1年が経つ

28,猫が来て1年が経った


そのころニャンコの方は猫本来のお仕事をしてくれた。


十二月十七日の事である。


朝、トイレに起きると居間に置いてあるファンヒーターの脇に


ネズミを二匹並んで置いてあった。


血も出ていない。


噛んだ後もない。


まるでショック死したかのようなネズミの死骸がきれいに二匹並んでいる。


ビックリした。


いっぺんに二匹も捕ってくれるとは思いもしなかった。


早速ニャンコちゃんを抱きしめてお礼を言うとまんざらでもない様子である。


今風の猫はネズミを捕らないと聞いてはいたが立派に猫をやっている。


見事なものである。


私の膝の上に乘っている時、天井が気になるのか上を向き耳を立てて


いかにもお仕事をしています風なパフォーマンスはあながち恰好だけではなかったようだ。


そうしているうちに十二月も終わり次の年が来た。


ニャンコちゃんがうちに来てから早くも一年が経つ。


あいかわらずニャンコはモモ子にじゃれつき時折、


邪魔にされながらも双方の均衡を保っている。


そして今ではニャンコはモモ子の後について散歩をし、一諸のベッドで眠っている。


私が間に立たなくても二匹は二匹なりの互いの間隔を保ち


互いの領分を侵さない事が出来てきたのは進歩したものである。


例の黒っぽい猫が新たに家族の一員に入りたそうにしているが


いま三角関係を保っている私とモモ子とニャンコの間が壊れそうな気がする。


オスであったらニャンコと交尾して新たな命を宿す心配もある。


メスであったらあのお腹のふくらみはもっと心配である。


見る度に大きくなっている気もする。


もし妊娠しているのだとしたらもっと穏やかな目つきをしているのだと思うが


あの目つきは険しすぎる。


一見、人に気を許していないという感じある。


それにしてはあの時この時モモ子の目を盗んで擦り寄って来る様子は


人間を信用していないという風ではない。


ニャンコの時は私から近づき心を許しあえるように努力もしたが今回はそうも出来ない。


その気持ちを知ってか知らずか黒っぽい猫は近寄ってきては足元に擦り寄り


ニャオニャオと鳴いてお愛想を振りまいている。


その声が私には「ここで子供を産ませてよ。ね、庭の隅で生んでもいいでしょう」と


おねだりする声に聞こえる。


後になって近所の人に聞いたらこの猫、ロシアンブルーという種類の猫だという。


ここいら辺は種類物の猫が捨てられる場所なのだろうか。


ニャンコもアメリカンショートヘアーという種類という。


ロシアンブルーの猫の腹はいつ生まれてもおかしくないほどの大きさに見えるので


抱き上げて触ってみると何も入っている様子はない。


ゴールデンレトリバーの場合しか経験がないが何回か産ませた経験がある。


その時の母親のお腹の感触とは程遠いように思う。


猫の妊娠期間は知らないが犬と同じなら二か月位だろう。


この猫の腹の大きいのに気が付いてから二か月ぐらいは経っている。


丁度この頃、テレビの番組で捨て猫を拾ってから命拾いをしたという話をしていた。


もしかしたらこの猫も私にとって何か良い事をもたらす神様の使いなのかもしれない。


欲をかいた私は猫にあらぬ期待をかけてしまった。


この猫を拾って育てれば良い事があるよとテレビ番組にささやかれているような気がする。


そんな頃、ニャンコちゃんがまたお仕事をしてくれた。


二階に上る階段の一番下の段にネズミを一匹置いてあった。


猫を飼っている甲斐があったというものだ。


伊達に無駄飯は食べていないよとでも言いたげである。






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