赤い髪のリリス

LLX

第1話 白い鳥の落とし物

 「あー!遅くなった!どうしよう、始業式早々遅刻なんてハジ!」


8時をとうにすぎた頃、近くにある中学の制服姿の女の子が小さなバック片手に走っている。

休み気分が抜けないで、目覚ましを止めてまた寝てしまった自分が腹立たしい。

あと数分で校門が閉まってしまう。

閉まった後の恥ずかしさったら、全校生徒の笑い者なのだ。

懸命に走っても、自宅から学校へは、最近出来た公園を回り込まなくてはならない。

これがどうも煩わしいのだが、彼女の通る道側はフェンスに遮られ、中を通り抜けることが出来ない。


「駄目!もう、えーい!パンツ見たい奴には大売り出しだい!」


ガシャンッ!ガチャ、ガチャ、ガチャ、


とうとうフェンスに飛びつき、革靴を金網に引っかけながら短い制服をヒラヒラさせてよじ登り、乗り越えると下まで降りない内にポーンと飛び降りた。


「着地成功!十点!なんて言ってる場合じゃ・・あれ?」


走りはじめた彼女の足下に、何かが光った。

それどころじゃないのだが、やっぱり光り物には弱い。

サッと拾ってみると、切れた金のチェーンの付いた親指ほどの大きさをした真珠のような輝きの石だ。


「おお、値打ち物かな?もーらい!」


ポケットに入れかけたとき、何か視線を感じて顔を上げた。

樹上に純白の鳥が留まって、こちらをじっと窺っている。


「わ!綺麗な鳥!鳩じゃないわねえ・・サギみたいにスリムだし、何の鳥だろう・・?

あっ!それどころじゃない!」


慌てて石をポケットに放り込み、学校へ向かって走り出す。

鳥はその姿をじっと見送り、そして見えなくなるとまた飛び立った。


風のように・・・


そしてハラリと落ちてきた羽根は、一陣の風を巻き起こして何処かへと消え去っていった。


 春のほんのり暖かな風が音を立てて吹き、辺りを美しい桜色に染める桜の木がざわめく。

宅地開発で緑をほとんど失ってしまった郊外では、美しい桜が見られるのも学校だけとなってしまった。

しかし、住宅の増加で学校にも、生徒が増えて活気が出たのは喜ばしいことに違いない。

新学期を迎えて、久しぶりに騒がしさを取り戻したこの中学校でも、元気な生徒総出で掃除が始まっていた。


 ザザーッ・・ザッ・・


校門近くをホウキ片手に掃いているらしいが、実は全然手は動かず口だけ動いている2年生が二人。

遠くで先生が睨んでいるのを横目に、まったく気にするわけもなく、しゃべり続けている。


「ねー、ヨーコ!聞いてよ!

吉井ったらマジむかつく!あいつさ、あたしと映画見ようって約束してたのに!

あたしすっぽかして、誰と見てたと思う?!」


「あー、知ってる。河原でしょ?

あたしが行こうって言ったら、吉井ともう見たってさっ!あいつら、マジホモじゃない?

馬鹿にしてるう!」


「もう、絶対誘ってやんない!

あーあ、他にいい男いないかなあ・・

白馬に乗った王子とまで行かなくてもさ、ジャニ系のかわゆい奴!」


「んー、美少年ってそういないよねえ・・」


と、まあ、男の敵のようなこの二人。

仲良し二人組のアイとヨーコだ。

金髪に近いバサバサ茶髪がヨーコ。

彼女はすらりとした長身で、モデル体型がアイには羨望の的だ。

よく似合うセーラー服の白いタイが風に揺れて、清々しさを一層引き立てる。

一方アイも校則にちょっぴり反抗して、ショートカットの髪もほんの少し色を抜いている。

ピアスの穴も開けようとしたけど、これはさすがに怖くて止めた。

身長普通、体重ちょっと多め。


二人はいつも一緒だ。

この学校は、小学校からエレベーター式に高校までという、私立の中学なのだ。

親の見栄もあるだろうが、この私立の学校は特に制服が無茶可愛い。

男子は紺系のブルーを織り込んだバーバリーチェックのジャケット。そして女子のセーラにもその生地のピンクバージョンがラインに使ってあり、普通のセーラーとはまったくイメージを変えている。


 「まったくさ、暇だ暇だと思っていたら、毎日今度は勉強じゃん、何か人生ピリッと来るものないかしらねえ・・

あーあ・・」


ヨーコが大きな溜息をつく。


「ちょっとー!あたし達の幸せな人生には、美少年が必要なのよー!神様あ!」


アイが青空に向かって、ホウキを振り回した。

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