口吸い女
下山 拓人(しもやま たくと:仮名)さんという男性が経験した話。
ある女性との出会いによって引き起こされた血の気の引くエピソード。
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下山さんの趣味はナンパ。休日の夜は繁華街に繰り出し、お眼鏡にかなう女性を見つけては声をかけていた。
成功率は決して高くなかったが、十数人に話しかければ1人くらいはナンパできていた。
3年ほど前。この日もナンパのために街を散策していた下山さん。
某駅の中で柱にもたれかかりながらスマホをいじっている、20代後半くらいの女性を発見。
黒くて長い髪。身長は165cm前後。一見すると清楚そうではあるが、黒のロングブーツが隠された過去を物語っている。学生時代は髪を明るい茶色か金色に染め、3〜4人の男を同時にたぶらかすくらいの遊びをしてきたという過去を。まさに下山さん好みの女性だった。
この日すでに10連敗以上していた下山さん。ダメ元で女性に声をかけたところ、見事に成功。そのまま居酒屋で飲むことになった。
お酒の勢いで一夜の関係に発展し、ホテルへ。こういう成功体験が積み重なると、ナンパはやめられなくなる。下山さんにとって、まるでギャンブルのようだった。
行為の最中、女性は執拗に下山さんの右首にキスをしてきた。キスというより吸い付くような感じだった。なぜ首に吸い付くのか、下山さんがそれとなく尋ねると女性は、
『私、関係を持った男の首にキスマークを残すことにしてるの。記念みたいなもの。』
と答えた。
自宅に帰った下山さんが鏡で確認したところ、右首にキスマークがくっきりついていた。と言っても、アニメやマンガでよく見るピンクの口紅の跡ではなく、内出血によってできた薄茶色のアザだった。
「面白いことをする女もいるものだ」と思った下山さん。女性はキスマークのことを記念と言っていたが、数多の女性と関係を持ってきた下山さんにとっても記憶に残る出会いとなった。
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アザは1週間ほどで消えた。それと同じくして、アザができていた場所に新しく小さな赤い点が出来ていることに気づいた。
最初は気にしていなかったが、赤い点は日に日に大きく、立体的になっていく。色はドス黒くなり、2〜3mmほどのイボになった。
2〜3mmと言うと小さく感じるが、実際には誰が見ても目立つくらい大きなイボだった。
こんなイボを首につけた状態でナンパなんてできない。ただでさえ成功率は低いのに、この異様なイボのせいでもっと難しくなってしまう。
イボが大きくなるにつれて、下山さんはナンパを楽しめなくなった。そして段々と元気を失っていった。 休日は一日中寝たきり。活発に声をかけていた数週間前の自分はどこへやら。まるでイボに元気が吸い取られているかのようだった。
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ある日の夜。下山さんが自宅でシャワーを浴びていると、お湯とは違う、何か生温かいものが体に沿って流れていくのを感じた。
自分の体に視線を向けると、胸から腹、足にかけて血の線ができていた。線の出発点は首。あのイボから出血していたのである。
これまでも多少出血することはあったが、血が滲む程度ですぐかさぶたになっていた。しかし今回は違う。火山が噴火したかのように血が流れ出ている。
体についた血を洗い流し、風呂場を出た下山さん。急いでリビングへ行き、ティッシュを数枚手に取りイボに当てた。数十秒前に洗い流したにもかかわらず、すでに右半身が血まみれになっていた。
白いティッシュは見る見る真紅に染まっていく。部屋中を探し回り、ようやく見つけた絆創膏を貼ることで、なんとか止血できた。
さすがにこのままではまずいと思い、下山さんは皮膚科に通った。液体窒素による数回の治療でイボは完治。イボが消えると、下山さんの元気も復活した。
こんな経験をしてもなお、下山さんはナンパをやめていない。少しでも成功してしまうとそれが快感となり、抜け出せなくなってしまうのだ。
「またあの女性に出会ったら…」と不安に思うこともたまにあるが、経験上、同じ女性と2回以上会うことはまずない。
しかしこの一件以来、下山さんはナンパした女性に、首にキスはさせないようにしている、と語ってくれた。
※ご本人や関係者に配慮し、内容を一部変更しています。
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