ストーカーの末路

 ハンドルネーム「ペティグリーリャマ」さん(仮名)という女性から聞いた話。少し長い名前なので、以降は「リャマ」さんと記載する。


 リャマさん1年半ほど前から、ストーカー被害に悩まされていた。その当時から現在に至るまでのエピソードである。


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 リャマさんの趣味は、Twitterに自撮り写真をアップすることだった。どこかに出かけた際は、必ず自撮り写真を撮ってツイートする。


 かなり人気があり、1回のツイートで数十〜数百個「いいね!」がもらえていたとのこと。それだけ多くの反応があったことで、自撮りはリャマさんにとって最も楽しい娯楽となっていた。


 その一方、嫌な思いをすることも少なくなかったそう。多くの人にツイートが見られるということは、批判的な意見ももらいやすいということ。誹謗中傷のようなDMを送ってくるアカウントもいくつかあった。


 その中で、リャマさんが最も嫌悪感を覚えたのが『蠱賽某』(こさいぼう:仮名)というアカウント。アイコンは走っている競走馬の画像だった。


 リャマさんが自撮り写真をツイートすると、数分以内に

『今〇〇にいますよね30分ほどで行けるので会いませんか』

『〇〇にいるんですかあそこのアイスクリーム美味しいですよね今から合流しましょう』

といったDMを必ず送ってくる。


 しかも、どうやっているのかわからないが、リャマさんが写真を撮った場所を正確に当ててくる。


 最初は無視していたリャマさんだったが、だんだん気味が悪くなってきたため蠱賽某をブロックした。


 それから数日経ったある夜。仕事から帰宅したリャマさんは、マンションの自室の玄関に張り紙が貼ってあることに気づいた。 「隣人か階下の人からのクレームかもしれない」と思ったリャマさんは、内容を恐る恐る読んでみた。


『なぜTwitterをブロックしたのですか気に障ることがありましたら謝罪します腕でも足でも眼球でも差し出す覚悟です』


『リャマさんのお顔が見たいのでブロックを解除してくださいお願いしますどうかお願いします心よりお願いします一生のお願いですからお願いします』


『リャマさんの写真が見れないとボクの生活が破綻してしまうんです何もやる気が起きませんセミの抜け殻同然です』


『いつからかわかりませんがボクはリャマさんに恋をしていましたこんな感覚は中学2年生の時クラスで3番目に可愛かった女の子に「消しゴム貸して」と言ってもらった時以来です(ちなみにその子は少しリャマさんに似ていました)』


 といった旨の文章が、A4用紙にびっしりと赤い文字で書かれていた。しかも妙に達筆。


 リャマさんは、張り紙をしたのが蠱賽某だと分かった。Twitterで唯一ブロックしているのが蠱賽某だったからだ。


 しかし、まさか自宅まで特定されているとは思っていなかった。確かに部屋の中や家の近くで撮った写真をツイートしたこともあったが、住所がバレないよう背景をボカすなど加工してからアップしていたはずなのに。


 恐怖心を覚えたリャマさんは、友人に相談。すぐにTwitterのアカウントを削除し、引っ越し先を探した。


 その後リャマさんの友人がTwitterを確認したところ、蠱賽某はリャマさんが過去にツイートした自撮り写真を、復帰を求める文章と共に数十回投稿していたとのこと。


『リャマさんが復帰しないなら●んでやる』というような、脅迫じみたツイートもあったそう。蠱賽某はリャマさんの自撮り画像を全て保存していたのだろう。


 身の危険を感じたリャマさんは、すぐに次の部屋を見つけた。


 引っ越して数日経ったある日の夜。仕事から帰ってきたリャマさんは、ふと部屋の壁にかけてある時計を見た。しかし、あるはずの黄色い時計がない。動かした覚えはないし、落下したわけでもない。


 キョロキョロと部屋を見回すと、時計は別の壁にかけてあった。もしかして誰かが時計を移動させた…?リャマさんの脳内に『蠱賽某』の3文字と競走馬のアイコン画像が浮かんだ。


 まさか引っ越し先まで特定されてしまったのか。しかも部屋の中に入ってきている…?


 リャマさんは部屋の合鍵をマンションの集合ポストの中に入れていた。蠱賽某はそれを使って、リャマさんの部屋に入ったのかもしれない。


 時計が動かされていた以外に変わった様子はなかった。お金や下着などが盗まれた形跡もない。


 しかし自分が安らげる空間を侵食されたことで、リャマさんの恐怖は絶頂に達し、その日は全く寝付けなかった。


 翌晩、仕事から帰ってきたリャマさんは細心の注意を払いながら玄関のドアを開けた。もしかしたら中に蠱賽某が潜んでいるかもしれない。


 リャマさんが部屋に入ろうとした瞬間、背後からガバッと何かが両肩にのしかかってきた。筋肉質な男性の腕だと感じた。


『好きです!!リャマさん!!』


 背後から聞こえる男の低い声。いま自分の後ろにいるのが蠱賽某だと、リャマさんは確信した。


 一体どんな顔をしているのだろうか。その面を拝んで、今までの苦痛を全てぶつけてやろう。そして償わせ、警察に突き出そう。


 恐怖よりも怒りが優ったリャマさんは、勢いよく振り返って蠱賽某の顔を瞳にとらえた。


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「その蠱賽某がこの人です。」


 リャマさんは隣に座る男性を指差す。男性は照れ臭そうに笑いながら、アイスコーヒーを飲み干した。現在リャマさんは、蠱賽某さんと交際中である。


 リャマさん曰く、蠱賽某さんのルックスはどストライク。一目惚れしてしまったそう。


 蠱賽某さんの身長は180cmくらいあるだろうか、俳優の田中 圭さんを彷彿とさせる塩顔の高身長イケメンである。


 リャマさんと蠱賽某さんは、実際に話してみると好きな食べ物や映画、芸能人などがほとんど当てはまったと言う。


 実は、蠱賽某さんはリャマさんのTwitter投稿を全てさかのぼり、好みのタイプを分析。

リャマさんに好意を持ってもらえる男になろうと試行錯誤していたのだそう。


 現在の2人の関係は良好。蠱賽某さんは、リャマさんからLINEの返事が5分経ってもないと「大丈夫?」「今何してるの?」などのメッセージを50〜60件送ったり、男性がいる飲み会に参加するときは催涙スプレーを持たせたりと、いまだにちょっと過保護なところがある。今日はスタンガンを持ってきているそうだ。


 しかし、リャマさんは「これほど自分を気にかけてくれる人はいない」と愛情を感じているとのこと。近いうちに結婚を考えている、と語ってくれた。


 ちなみに、蠱賽某さんはリャマさんの部屋に入り時計の位置を変えていた。理由は、その方角に黄色いものを置くと金運がアップすると本で読んだから、だそうだ。


 部屋に入った方法については、『口が裂けても言えない。墓場まで持っていく。』と言っていた。


※ご本人や関係者に配慮し、内容を一部変更しています。

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