片想い中の幼馴染が寝てたから、本音を言ったら……寝たふりだった!?【両片思い編完結・恋人編を更新中】

立川マナ

序章

プロローグ

 中学までは良かった。


「ずっと、好きだった。坂北さん、俺と付き合ってくれないかな?」


 そんなことを言ってくる奴は、たんまりと居たけど、


「ごめん。付き合えない」


 それだけ言えば、皆、「ああ、やっぱり」と言った顔であっさり退いていったから。

 当然よね。きっと、バレバレだったから。私に好きな人がいるなんて。公言したことはなかったけど、それでも、皆、相手が誰だかも分かっていたはず。

 小学校のときから、毎朝、そいつと登校して、堂々と下の名前で呼び合って、そいつの前ではあからさまに私の態度も変わっちゃって……。そりゃあ周りも勘付く。

 もはや、付き合うのも時間の問題……て、言われてた。

 それなのに――。


「また告られた、て……何人目だよ? 高校入って、まだ一ヶ月も経ってないのに。ペース早すぎだろ」


 隣で、そいつは微笑を浮かべて言うのだ。


「お前、中学んときから、フッてばっかだけどさ。好きな奴でもいんのか?」


 ソファに座ってスマホをいじりながら、まるでなんでもないかのようにそんなことを訊いてくる。

 無神経甚だしい。

 あんたよ、バカ! て、私は今にも心の底から叫びたかった。


 なんで……? なんで、気づかないわけ!?

 こうして、毎日のように、家に会いに来てるってのに。

 あー、もう……腹立つ!

 わなわなと怒りがこみ上げてきて、私はふいっと顔を逸らして冷たく言い放った。――いつものように。


「別に、あんたに関係ないでしょ」


 中学時代、『付き合うのも時間の問題』と学校中の誰もが信じて疑わなかった私たち。実は、もうすでに付き合っているんじゃないか、とまで噂されてたのに。中学を卒業し、高校に入ってもうすぐ一ヶ月。まだ……ただの幼馴染のままだった。


   * * *


 綺麗なバラには棘がある、なんてよく言うが……そんな甘っちょろいもんじゃない。


 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。しかし、口を開けば、トリカブト。――物心ついたときから一緒にいるそいつは、そういう女だ。

 確かに、見た目は可愛い。それは認めよう。

 胸まである、艶やかな長い黒髪。ふっくらとした頰に、くりっとした大きな目。どこか幼さの残る顔立ちは、愛くるしくて。じっと見つめられるだけで、庇護欲を駆り立てられる。守らなくては――そんな気がしてきて、虜になってしまうは後を絶たない。


 ――そう、全ては勘違いなのだ。


 純情可憐なその見た目に反して、口を開けば毒ばかり吐きやがる。可愛げなんてありゃしない。ちょっと俺が何か言っただけで、「はあ?」と反抗的な態度をむき出しにして突っかかってくる。しかも、俺にだけ――。

 なんとも腹立たしいことに、他の男の前では見事に猫をかぶって、そういう本性を一切見せない。だからこそ、勘違い野郎が次から次へと生まれ、こいつに告ってくるのだ。

 それは、高校に入ってからも相変わらずのようで……。


「また、告られた」


 リビングのソファでまったりしていたら、隣から突然、そんな爆弾を放り投げられた。

 スマホをいじっていた手が一瞬止まる。しかし、すぐに「ふうん」と気の無い返事をして、俺は動揺を悟られないよう、再び、スマホをいじりだした。

 テレビも点けず、しんと静まり返ったリビングに二人きり。ソファに並んで座って黙り込み、嫌な間があってから、「フッたけど」とぼそっと言う声が聞こえた。

 途端に、どっと肩から力が抜ける。緊張が解け、緩んだ口からふっと笑みがこぼれた。


「また、告られた、て……何人目だよ? 高校入って、まだ一ヶ月も経ってないのに。ペース早すぎだろ」


 茶化すようにそんなことを言いつつ……ほんっと、早すぎだろ!? と、内心では依然として動揺しまくりだった。

 確か、三人目だよな? たった数週間で三人って……どうなってんの!? 高校卒業するまでに、いったい何人から告られる気だよ!?

 

 いや、でも――と、ふいに、じわりと不快なものが胸の奥から滲んでくる。

 俺は。たとえ、何人から告られようと……こいつは、断り続けるんだろう。


「お前、中学んときから、フッてばっかだけどさ。好きな奴でもいんの?」


 気づけば、そんなことを意地悪く訊ねていた。

 訊く必要もないことなのに。嫌味……のつもりなのか。

 しかし、後悔も罪悪感も覚える暇もなく、


「別に、あんたに関係ないでしょ」


 いつものように、つっけんどんにそう一蹴された。


 関係なくねぇだろ、て言い返したくなる。お前が好きなの、俺の兄貴なんだから――て言ってやりたくなる。

 でも、言えるわけがない。それを言ったら、終わるんだ。こうして、こいつの隣にいることも、きっとできなくなる。それだけは、厭だった。


 ほんっとに、腹立つくらいに可愛げなんてない。バラどころか、トリカブトみたいな奴だ。でも、そんな奴の傍に、俺はずっといたから。きっと、身体の芯まで毒されてしまったんだろう。今じゃ、その毒が無いと生きていけない、と思えてしまうほどに。

 

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