第33話 家族ってなんだろう




 

 午後、乳児院のボランティアに行くかあさんに藍子もついて行った。

 すぐ近くに住んではいても、乳児院の内部に入るのは初めてだった。


 色紙のお花やぬいぐるみなどで飾られた玄関で靴を脱ぎ、職員室にあいさつしてからかあさんのあとをついて行くと、たちまち、にぎやかな泣き声に迎えられた。


 男の子と女の子が電車のおもちゃを取り合っている。

「カンカン、ぼくのだよ」

「だめ、あたちのっ!」

 どちらも譲らない。


「あらあら、いい子ちゃんたち、順番にね、順番よ」

 かあさんは手慣れた様子で、ひとりずつ抱き締めてやる。

 すると、さっき鳴いたカラスがもう笑っているのだった。


 藍子のまわりにも続々と赤ちゃんたちが集まって来る。

 懸命にハイハイして来る子、よちよち歩きの子、素早く駆け寄って来る子……。

 大勢の赤ちゃんにだっこやおんぶをせがまれて、藍子は目がまわりそうだった。


 乳児院の子どもたちはみな、いつもだれかを待っている。訪ねて来る人がいるとわれ先にまとわりつき、自分を愛してくれるかどうか、たしかめずにいられない。


 かあさんからそう聞かされていた。

 おばあちゃんや慎司の顔が重なる。


 おばあちゃんの家族、慎司の家族、藍子の家族、クロの家族。目の前の赤ちゃんたちの家族。白鳥の家族、山へ帰ったタヌキやキツネの家族。家族、家族……。


 家族ってなんだろう。

 血のつながりってなんだろう。


 藍子はもっとたくさんの本を読んで、いつかその答えを知りたいと思った。

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